キヴォトスの歯医者さん   作:ニシキ

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戦闘描写も手探りで書いてます。
続いて第4話です。


調月リオの歯科検診

 

 

 

近未来的なデザインの建物が並ぶミレニアムの風景。視線を遠くへ向ければ、何処かで爆発でも起こったのか黒煙が天へと昇っているのが見える。

爆発騒ぎはエンジニア部をはじめミレニアムでは色んな所で起きているが、これでもゲヘナよりはマシというのがキヴォトスの恐ろしい所である。

 

「まあ、その点ウチの所は無縁なのが幸いだな」

 

歯科学部では基本的に爆発騒ぎをはじめとしたトラブルは皆無と言っても良い。強いて言うなら治療を怖がる患者が暴れる時や、患者が治療の順番で揉める時くらいである。

前世の記憶があるとは言え、流石に16年間も生きていれば思考もキヴォトスに染まって行く訳で……私もキヴォトスの流儀に従って、診察の邪魔をするありとあらゆる障害には問答無用で鉄拳制裁を与える事にしている。

 

「くそっ、撃てー!撃って撃って撃ちまくれー!!」

「C&Cがいないって聞いたからミレニアムに来たのに、こんなヤツがいるなんて聞いてねーぞ!?」

 

私の眼前にいるのはフルフェイスヘルメットを被った女子生徒達、俗に言うヘルメット団だ。先生がキヴォトスにやって来てからも治安の悪さは相変わらずで、この様にミレニアム本校にまでやって来る始末である。

 

「悪いけど、これから大事な診察があるんだ。道を開けてくれるかな?」

「うるせー!その前にテメーをぶちのめしてやらぁ!!」

「相手はたかが1人だ!潰せー!!」

 

ヘルメット団がひっきりなしに撃ち続けているが、私は臆せず盾を構えてヘルメット団に突貫していく。

 

「ふんっ!」

「ごへぁっ!?」

 

近くにいた1人に向かってシールドバッシュを叩き込む。続けざまにもう1人も凪払い、慌てて銃口を向けようとしていたヘルメット団にショットガンを撃ち込む。

 

「聞こえなかったかな?道を開けてくれ」

「くそっ、コイツ本当にミレニアムのモヤシ共か!?」

「囲め囲め!四方から叩き潰すぞ!!」

 

ヘルメット団が囲もうとする前に私は突貫しシールドバッシュを叩き込む。怯んだ隙を狙ってすかさずショットガンを撃ち込む。

 

「ちくしょー!!これでもくらいやがぶぉっ!!?」

 

手榴弾を投げようとしたヘルメット団にショットガンを撃ち込み意識を刈り取る。手榴弾が爆発し、周囲にいたヘルメット団が爆発に巻き込まれる。

 

「て、撤退だー!!」

 

これ以上はマズイと悟ったのか、ヘルメット団は気絶した仲間を抱えながら撤退していく。私はその様子を見てようやく一息つく。

 

「人間、慣れというのは恐ろしいな」

 

私の武装はショットガンに盾、今回は使わなかったがハンドガン数丁という臨戦ホシノスタイルだ。前世で見た戦闘シーンが印象に残っていたので、自分なりに再現しようと努力はしたが、まだまだ本物には遠く及ばないだろう。

 

「よぉ、派手にやったな」

 

背後から声がしたので振り返ると、ミレニアムの制服を着た赤みの強いオレンジ色の髪の少女がいた。メイド部とも呼称されるC&Cの一員であり、最強のエージェントと名高い美甘ネル先輩だ。

 

「ええ、運悪く鉢合わせしてしまったもので。ネル先輩は任務帰りですか?」

「おう。暇潰しにブラブラしようと思ったらちょうどお前がいたんでな……少しはやるようになったじゃねぇか」

「ありがとうございます。けど、まだまだネル先輩には敵いませんよ」

「ハッ、当然だ。あたしに勝とうなんざ10年早え」

 

実はネル先輩には時々、模擬戦の相手をして貰っている。私の戦闘スタイルは臨戦ホシノを参考にした我流だが、流石に不良生徒相手では限界があると考えネル先輩直々に鍛えて貰ってるのだ。

キヴォトスに転生してから自分なりに身体を鍛えて少しは強くなったと自負していたつもりだったが、当初の私はネル先輩には手も足も出なかった。それでも諦めずにこれまで何度もネル先輩に挑んでおり、何時かは勝ちたいというのが私の密かな目標だ。そんなこんなでネル先輩とは模擬戦以外にもゲームセンターで遊んだり、モモトークでやり取りをしたりするくらいには親しい間柄となっている。

 

「で、お前今日は暇か?何なら久しぶりに相手してやるぜ?」

「申し出はありがたいのですが、今日はこれから大事な診察があるのでまたの機会にお願いします」

「ふーん、そうかよ」

 

ネル先輩は納得したのかあっさりと引き下がった。私は歯科学部の診察室へ向かおうとするが、ふと足を止める。

 

「時にネル先輩。前回もお休みになられた歯科検診の件、お忘れなく」

「げっ、わーったよ。今度はちゃんと受けるからそんなに睨むなって」

 

歯科検診をサボったネル先輩に釘を刺しておく。ネル先輩がC&Cの任務で忙しいのも理解出来るがそれはそれ。ミレニアムの生徒の歯の健康を守るのも、私の務めである。

歯科学部の部室へ向かおうとすると、入口の前に1人の人物が立っていた。

長い黒髪に大人びた容姿のその人物の名は調月リオ。ミレニアムの生徒会長だ。

 

「これはリオ会長、お待たせして申し訳ない」

「構わないわ。私も今来た所だから」

 

今回、私の診察を受けるのはリオ会長だ。実は、歯科学部を設立してから最初にやって来た患者がリオ会長だったのだ。

当時、親知らずの痛みを訴えていたリオ会長だったが、設立して間もない歯科学部にやって来た理由については本人曰く合理的な選択らしい。

場所も確かにミレニアム校内にあるし、序でに部の視察も出来るし言わんとしている事は理解出来るが、流石に何の実績もない所で治療を受けるのは如何なものかと当時の私は思った。

そこで私は思った事を口にしてみたのだが、リオ会長はこう答えた。

 

「貴方の人となりも能力も理解しているわ。その上で、私は合理的な選択をしただけよ」

 

その一言で、私の腹は決まった。初めての治療だろうが関係なかった。リオ会長は私を信頼してくれている。ならば、それに答えずして何が歯科医か。私は持てる力を尽くして治療に臨んだ。

結果は無事に完治し、その日以来リオ会長は私の元で定期的に歯科検診を受けるようになった。また、その影響なのか少しずつ治療の為に私の元を訪ねる生徒が増えて来て、今に至るのである。

 

「では、早速診察を始めますのでどうぞこちらへ」

「ええ、よろしく」

 

私はリオ会長を歯科学部の診察室へ案内する。少し前のヘルメット団との戦闘の疲れも、これからの診察の事を考えるだけで一気に吹っ飛ぶというものだ。私は逸る気持ちを抑えながら、いそいそと準備に取り掛かった。

「…………」

 

治療用チェアに座るリオ会長の顔は何処か落ち着かない。普段からあまり表情を変えないリオ会長だが、近くで見てきた私は彼女が緊張しているのが分かった。

 

「緊張しますか?」

「っ……ええ、少し」

「まあ、この椅子に座ると誰でも緊張しますよね。けど、今回は歯を削ったりする訳ではないのでそんなに固くならなくても大丈夫ですよ?尤も、重度の虫歯等が見つかった場合は話は別ですけどね」

「…………」

 

今回行うのは歯科検診だ。虫歯の有無と歯茎の状態の確認、歯のクリーニングを行い歯石や歯垢を除去、その後は口腔内に関する悩み事がないかカウンセリングを行い歯磨きの指導等もする。

面倒に感じる生徒も実際に多いが、こういう日々の細やかなケアこそが虫歯や歯周病の予防に繋がるのだ。コユキにユウカ、最近だとノアといったセミナーの面々が私の元を訪ねる様になった。私としては彼女達の美しい歯のメンテナンスに携われるので、実に嬉しい事である。

 

「では、早速診察を始めます。口を大きく開けて下さい」

「……ぁー」

 

リオ会長は恐る恐るといった感じでゆっくりと口を開ける。私はリオ会長の口の中を覗き込む。

 

人の口の中というのはその人の生活や人となりを映し出す鏡の様なモノ、というのが私の持論だが、リオ会長の口の中は彼女の人となりを体現したかのような素晴らしいモノだった。

私の眼前に広がるのは、28本の汚れ1つない真っ白な歯。上下の歯は前歯から奥歯まで1本も乱れもなく綺麗に生え揃っており、綺麗なアーチを描いている。そのアーチを支える歯茎はハリがあり歯肉炎の様子もなく血行の良い綺麗なピンク色。歯茎の向こう側に鎮座する舌はちょこんと可愛らしく収まっており、何本かの透明な糸が開口に合わせて伸び、ヌメヌメとした生命の息吹を感じさせる肉の色をした口腔内に張りついている。頬の内側の肉壁は全てを包み込む様な柔らかな触感を想起させ、蠱惑的な雰囲気を醸し出している。

 

「(うーん、流石はリオ会長。虫歯も歯肉炎もなく、磨き残しもない、几帳面さと美しさを兼ね備えた素晴らしい口内だ。そのまま記念撮影して飾っておきたい所だが、今は診察に集中せねば)」

 

内に秘めた邪な感情を抑えつつ、私は診察を進める。いくら見た目は綺麗でも、見えない所に虫歯や歯周病の恐れがあるのだ。私はデンタルミラーを手に持ち、リオ会長の口の中に挿入していく。

 

最初は前歯から。表面、隙間、裏側、デンタルミラーを動かしつぶさに観察していく。次に犬歯。先端は鋭く、根元の歯茎は力強く引き締まっている。最後に奥歯。特に虫歯になりやすい窪みや歯ブラシが届かない奥も1本ずつ細やかに観察していく。

次に私は先端に小型カメラが内蔵された器具……口腔内スキャナーを手に取る。口の中を数分間スキャンするだけで、複雑で一人ひとり違う口の状態を3D画像にする事が出来る優れものだ。360度確認出来る3D画像により口の状態を正確かつ緻密に把握して診察が出来、より精度の高い詰め物や被せ物を短時間で作れる様になった。高い買い物だったが、数日前に予算案の申請が通ったお陰で購入する事が出来た。リオ会長には本当に感謝である。

私はカメラをリオ会長の口の中に挿入し、口の中をスキャンしていく。数分後、モニターにリオ会長の口の中の3D画像が写し出され、1本1本の歯の形状を正確かつ緻密に再現したそれを確認する。どうやら、虫歯はない様だ。

 

「虫歯の心配はない様ですね。磨き残しもないし、毎日丁寧に歯を磨かれている様ですね」

「そう……けどそれは貴方の助言のお陰でもあるわ」

「いえいえ、私は飽くまでも助言をしただけです。私の助言を聞いて下さったのはリオ会長自身なのですから」

「……そう」

 

私は次にプローブとデンタルミラーを手に取り、歯茎の状態をチェックをする。

 

「ちょっとチクチクしますが、我慢して下さいね」

「んっ……」

 

私はプローブの先端を前歯の隙間、歯周ポケットに当てる。歯と歯茎を傷付けない様に慎重に動かして、細やかに確認していく。前歯が終われば、次に犬歯、奥歯と順に確認していく。一先ず炎症や出血もなく、歯茎のぐらつきも見当たらないので安心だ。

 

「では、これで歯の汚れを着色していきますね」

「んっ……」

 

私は歯垢染色液をリオ会長の歯に塗布していく。全ての歯に塗布し終えると、水の入った紙コップをリオ会長に渡して口を濯がせる。

 

「見えますか?歯にくっついた汚れが着色されて見えやすくなっているでしょう?」

「……ええ、そうね」

 

手鏡を使い、リオ会長に自分の歯を見せる。全体的に汚れは少ないものの、隙間や歯茎との境目には汚れが溜まっているのが分かる。

リオ会長は表情にこそ変化はないが、その声色から、歯にくっついた汚れを見て少し落ち込んでいる様だ。

 

「歯周ポケットの歯周病菌はおよそ3ヶ月前後で元の量に戻ると言われているので、こればかりは仕方ないです。ですから、次はこれを使って汚れを綺麗に洗い落としていきますよ」

 

幸い、歯石はそこまで多くないので今回は超音波スケーラーではなくジェット水流で歯の汚れを落とすエアフローを使う。微細なパウダーを高圧で吹き付ける事で歯の表面の着色汚れだけでなく、歯と歯の間や歯周ポケット内の細かい部分まで短時間で一気に除去する事が可能だ。

また、水と空気と微細なパウダーを高圧で噴射する為、歯と歯茎に与えるダメージが少なく痛みを感じにくいのだ。

私はエアフローの先端を前歯の根元付近に近付けて水流を噴射する。

 

「んっ……ん……っ」

 

歯と歯茎に伝わる刺激にリオ会長が身悶えする。シューッ、というジェット水流の音とリオ会長のくぐもった声に私は言い様のない快感を感じつつ、丁寧に1本ずつ歯の汚れを洗い落としていく。私の手によって美しい白い歯が露になっていく様は、何時見ても最高だ。数分後、全ての歯のクリーニングが完了し手鏡でリオ会長に自身の歯を見せる。

 

「これで歯のクリーニングは完了しました。お疲れ様です」

「ええ、ありがとう……」

 

リオ会長の白い歯は汚れが落ちて更に輝きを増していた。滑らかな歯の表面は大理石の白壁の様で、リオ会長の声色も嬉しそうだ。

 

「歯磨きの方は毎日欠かさずやっている様なので、引き続きお願いしますね。後、検診も引き続き定期的に行う事もオススメします」

「ええ、わかったわ」

 

一通りの行程が終わったら、カウンセリングを行う。リオ会長は几帳面な性格なのでケアも小まめにやってくれており、私としては大変喜ばしい。

他にも、虫歯以外の顎の痛みや見た目が気になる所等、悩みがないか確認する。歯の健康を守る為にはこういう細やかな気配りが大切なのだ。

 

「それから、これは検診とは関係ない事なのですが……予算案の申請の件、ありがとうございます」

 

私はリオ会長に頭を下げる。今回使った口腔内スキャナー等の器具は予算案の申請が通ったお陰で購入出来たものだ。だからこそ、申請を通してくれたリオ会長には感謝しかない。

 

「……礼は必要ないわ。貴方は成果を出し、私は必要と判断しただけの事よ」

 

私の言葉に少し目を見開くリオ会長。しかし私は更に言葉を重ねる。

 

「ですが、成果を出せたのもリオ会長のお陰です。私達が研究や開発に力を注げるのも、リオ会長やセミナーの皆さんのお陰です。それに、思った事を言葉でちゃんと伝える事は大切だと私は考えていますから……だからリオ会長、私達の為に何時もありがとうございます」

 

前世で私を育ててくれた両親からの受け売りだが、人は皆、誰もが互いを支え合って生きている。だからこそ、相手への敬いや感謝を忘れない。当たり前の事かもしれないが、だからこそ忘れてはならない事だと、私は自らに言い聞かせている。

現に私が歯科学部を設立する事が出来たのもネネコ先輩のお陰でもあるし、その後の必要な治療器具を揃えられたのもリオ会長のお陰だ。だからこそ、私は彼女達への感謝の念を忘れない。

 

「……そう。気持ちは受け取っておくわ」

 

私の言葉に返答を返すリオ会長。その表情は何処か嬉しそうであった。

 




言葉で伝えるって簡単に思えて実は難しいと感じてます。

ヒロインは複数人いてもOKか?

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