キヴォトスの歯医者さん   作:ニシキ

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ハモリ「歯の治療以外は興味ないのでサクッといくぞ」
という訳で第5話です。


梔子ユメの歯科健診

 

 

 

 

私は眼前にそびえ立つ真っ白なビル……シャーレの部室を見上げる。ミレニアムの部活動で使う部室もかなり広いが、ここはそもそも規模からして違う。初めて見た時はその大きさに面食らったが、一体どれだけの生徒が入部する事を想定して作られたのやら。

 

「連邦生徒会長は一体何処まで見通していたのだろうな……」

 

今はなき連邦生徒会長の事を考えながら、私は部室の中へ入っていく。今日はシャーレの当番の日なので、歯科学部の活動はお休みだ。留守はネネコ先輩と後輩達に任せている。

 

「おはようございます」

「おはよう、ハモリ」

「おはようハモリちゃん!待ってたよ~!」

 

私を出迎えてくれたのは2人の人物。1人は机で書類整理をしていた穏和な顔立ちの若い男性……シャーレの先生だ。

そしてもう1人は連邦生徒会の白い制服を見に纏った浅葱色の長い髪の女性……梔子ユメさんだ。

そう、ブルーアーカイブ本編をプレイした事のある先生達ならご存知であろう、アビドスの元生徒会長にして本編開始時には既に死亡していた彼女である。

何故彼女が生きていてシャーレにいるのか……話は数年前に遡る。

 

当時、私は歯科学部設立に向けて色々忙しくしており、気分転換も兼ねて柴関ラーメンへ行こうと思いアビドスの地を訪れていた。別に原作に介入しようと思った訳でなく、単にその時は無性にラーメンが食べたかったのだ。

ただ、場所が場所なので万が一に備えて軽トラックを借りて大量の水や携帯食等も用意してアビドスへ向かったのだが……その道中に、砂漠で遭難していたユメさんを発見した。

当時のユメさんは3日間飲まず食わずで砂漠の中を彷徨い続けており、私は急いで彼女を介抱した。幸い意識はあり水や携帯食を口に出来たので大事には至らなかったが、熱中症で身体が衰弱していたのでミレニアムの病院で見て貰う事にした。

その後、連絡を聞いて病院に駆け付けて来たホシノさんが物凄い剣幕でユメさんに怒鳴った後、大粒の涙を流して抱き付いたのは今でも記憶に残っている。

この一件をきっかけに彼女達との交流が始まり、今でもモモトークでやり取りをしたり、不良生徒を締め上げたり、一緒に食事をしたりしている。因みに噂の柴関ラーメンは旨かった。個人的には塩味が至高だ。

ユメさんはアビドスを卒業後、連邦生徒会の職員となり、現在は先生の補佐官兼護衛として先生の仕事をサポートしている。

なお、ホシノさんは原作通りにおじさん化している。曰く、後輩を怖がらせない為らしいが……その変貌ぶりを目の当たりにした時は思わず唖然とした程であった。

 

「では、早速ですが仕事をはじめましょうか」

「うん、よろしく頼むよ」

「一緒に頑張ろうね、ハモリちゃん!」

 

因みに今は任務でいないが……RABBIT小隊とFOX小隊の面々もシャーレに入部しており、既にカルバノグの兎編も終えてしまっている。

 

何故そうなってしまったのか……話はシャーレ設立直後にまで遡る。

私がシャーレに入部して間もない頃、気分転換と案内も兼ねて先生とユメさんの3人でD.U.シラトリ区を散歩していた。そこで子ウサギ公園でSRT閉鎖の件でデモの準備をしていたRABBIT小隊にたまたま出くわし、そのまま3人であれこれ説得してシャーレに入ったのだった。

先生はまずRABBIT小隊の皆に連邦生徒会を代表して謝罪、その後SRTの復校の為に連邦生徒会を招集し会議を開いた。私もユメさんと一緒に同席していたのだが、連邦生徒会を相手に大立ち回りをする先生の姿は本当に同一人物かと思える程に凄まじく、相対している連邦生徒会は顔を青くしており、見ているこっちが可哀想に思えてくる程だった。

そして最終的には何とSRT復校を勝ち取る事に成功したのであった。とはいえ閉鎖が決まった後ですぐにという訳には行かず、それまでの間SRTの生徒達はシャーレで面倒を見る事になった。そのお陰でシャーレの人員不足は解消されており、現在も多数のSRTの生徒達が実働部隊、事務方の両方の仕事を担ってくれている。

なお、RABBIT小隊が奪った装備や物資の件については、デモを起こす前だったので無事返還され、情状酌量の余地ありと見なされ放免となった。

また、同じSRTのFOX小隊もシャーレに入ったのだが、彼女達は防衛室のカヤさんの命令でシャーレへのスパイとしてやって来た事を自白し、その上でカヤさんとは縁を切り正式にシャーレに入部した。詳しくは不明だが、私が知らない所で先生と何かあったようだ。

その後、FOX小隊とRABBIT小隊、ヴァルキューレのカンナさんとの共同戦線によりカイザーとヴァルキューレの癒着の件、子ウサギタウン地下のサイロがカイザーによって軍事基地化されていて、それがカイザーと連邦生徒会防衛室の違法取引によるものである事が明らかとなり、クロノスによって大々的に報じられる事となった。

結果、カヤさんは逮捕され連邦矯正局に投獄、違法取引に関わっていたカイザーは関連会社を切り捨てる事で逃れようとしたが、未だに世間ではカイザーへの非難が殺到している。カンナさんは自分も罰せられる覚悟で告発を決意していたが、先生の尽力と告発の功績もあり公安局長のポストにはそのまま留任する事となった。

まさかの対策委員会編の前にカルバノグの兎編が終わった事に私は戦慄したが、既にユメさんの一件で原作は崩壊しているので、今後も出来る範囲で原作に介入していこうと思う。

 

そんなこんなでカルバノグの兎編を乗り越え、現在は平穏な日々を送っている。気になる対策委員会編については、まだアビドスからの救援要請は来ていない様だが、いずれ連絡が来る事だろう。それまでの間は何時も通りに過ごそうと思いつつ、私は書類にペンを走らせた。

「終わった~!もうお腹減ったよ~」

「お疲れ様、ユメ。ハモリもありがとう」

「いえいえ、これも仕事ですからね」

 

書類仕事が区切りの良い所まで終わり一息つく。人員不足が解消されたとはいえ、シャーレに舞い込む仕事は相変わらず多い。

 

「さて、このままお昼休みと言いたい所ですが……その前にやらなければならない事があります」

「ふぇ?何なに~?」

「あぁ、そういえば最後にやったのって大分前だっけ?」

 

私はポケットに入れていたデンタルミラーを取り出す。

 

「そう……歯科健診です」

 

私はシャーレに入部する際、先生と交渉してシャーレの福利厚生の一環として歯科健診を導入して貰っている。シャーレは学園間の垣根を超えて様々な学園の生徒が集まる場所であり、本来なら中々出会えない生徒と出会える場所だ。多くの生徒達の口の中を見たい私にとってシャーレの部員という立場はとても都合が良く、私はシャーレに入部した部員達の歯の健康を守るという名目で合法的に口の中を観察し、治療を行うチャンスを得る事に成功したのだ。

 

因みにSRTの生徒達にもシャーレに入部する際に歯科健診を行っており、様々な生徒達の口の中を診察し、治療を行う事が出来た。流石に数は多く診察の疲れこそあったが、それ以上にその時の私はやる気に満ち溢れ、まさに至福の時だった。そして先生には、定期的に診察を行っている。万が一、虫歯で戦闘指揮に集中出来ず倒れてしまったら目も当てられないからだ。虫歯、歯周病は万病に繋がる危険性がある以上、私がそれに対応しなければならないのだ。

 

「へぇ~。ハモリちゃんって歯医者さんみたいだね」

「みたい、というか私ミレニアムで歯科医やってるんですけどユメさん……それはさておき、今回は治療器具がないので見るだけですが、もしも異常があった場合は治療の手配をしておきますので」

「何時もありがとう。けど、ハモリは大丈夫?この前のSRTの皆の診察の時も大変だったでしょ?」

「ご心配には及びません。日頃ミレニアムで診察をしている自分にとっては日課の様なものですから」

 

先生は男性なので私の好みからは外れるがそれはそれ。歯科医としての仕事はキッチリやるのが私のポリシーだ。

 

「では、早速ですが診察を始めましょう」

 

そう言って私はデンタルミラーを手に診察を始めるのであった。

「ふむ……」

「……どうだった、ハモリ?」

「ええ、結果は文句無し。見本にしたい程に綺麗な歯でしたよ」

 

先生の歯は虫歯も歯肉炎もなく、健康そのものだった。加えて、私が歯磨き指導をしたお陰できちんと磨けており、磨き残しもない。

この毒気のない穏和な顔立ちに並びの良い白い歯の組み合わせはきっと多くの生徒を虜にするだろう。現に最近、ミヤコの先生に対する視線が妙に湿度が高い感じがしていたし、食われるのも時間の問題かもしれない。

 

「後は強いて言えば、食生活が改善されればなおのこと良いのですが……」

 

そう言って私は部屋の隅にあるコーヒーの空き缶や菓子パンの袋が入ったゴミ箱に視線を向ける。生徒の事になると凄まじい行動力を発揮する先生だが、私生活はかなりだらしない。加えて、給料の大半を玩具やゲームの課金に注ぎ込みユウカにしょっちゅう怒られている。

 

「えっと……うん……気を付けるよ」

「先生。目が泳いでいますよ」

 

先生の生活改善の道のりは険しそうである。

 

「では、次はユメさんの歯を診察しましょうか」

「ふぇっ!?わ、私も……?」

 

口元に手を添えてモジモジするユメさん。その初々しい反応が何ともそそられる。

 

「先生だけ、というのも不公平ですしユメさんはまだ歯科健診受けていないでしょう?せっかくの機会ですしここでやりましょう。ね、先生?」

「うん、そうだね。悪い所があったら大変だし、ユメもハモリに見て貰うと良いよ」

「ひぃん……わ、わかりましたよぅ……じゃあ、ハモリちゃん。よろしくお願いね?」

 

少々強引かと思ったが、ユメさんの口の中を見れる絶好のチャンス到来に私は心踊った。シャーレに入部してから中々ユメさんの口の中を見れる機会がなかったので、気にはなっていたのだ。

 

「では、ユメさん。口を大きく開けて下さい」

「う、うん……あーん」

 

ユメさんは恥ずかしそうにしながら、ゆっくりと口を開けた。艶のある唇が上下に開き、その口腔に収められた歯列が露になる。

 

「(おお……これは、素晴らしい)」

 

私は今、奇跡を目の当たりにしている。ユメさんの口腔に収められた純白に煌めく歯……その数は何と32本。全ての親知らずが完璧な状態で生え揃っているのだ。

一般的に親知らずは上顎の左右2本と下顎の左右2本の計4本あるが、遺伝によって生えてこない場合もあれば、顎の大きさによってスペースが確保出来ず生えてこない場合もある。私が今まで見てきた生徒達は顎が小さく、生えるのに必要なスペースを確保出来ず歯茎の中に埋まっていたり、斜めに生えてきたりするパターンが殆どだった。

それ故に、ユメさんの4本の親知らずは様々な要因が重なった結果起きた、まさに奇跡の体現と言えよう。

 

「(ひぃん……ハモリちゃんがじっと見てる。何処か悪いのかなぁ……)」

「(ハモリ、スゴい集中してるなぁ……)」

「(親知らずは勿論だが、見所はそれだけではない)」

 

私は改めてユメさんの口の中を覗き込む。口腔内の健康的なピンク色とコントラストをなしている32本の歯の表面は艶やかで真っ白に輝いている。奥歯の窪みは人の手が加えられていない自然な美しさがあり、噛み合わせも良好だ。歯列は1つのズレもなく綺麗なアーチを描きながら収められており、洗練された工芸品の様に美しい。土台となる歯茎は血行の良いピンク色で引き締まっており、真っ白な歯とのコントラストがその魅力を更に引き出している。歯茎の向こう側に小さく収められた舌はプルプルと震えており、唾液で濡れた表面は光を反射し生々しいエロスを醸し出している。頬の内側は柔らかな感触を想起させ、全てを優しく包み込んでくれそうだ。喉の奥ににぶら下がる真っ赤な口蓋垂は呼吸に合わせて小さく震えており、口の中を隅々まで見られて恥ずかしがるユメさんの心を表しているかの様だ。

 

「(うーん、本音を言えば隅々まで記録してクリーニングも行いたいが、今回は見るだけだ。集中せねば……)」

「(ひぃん……奥まで全部見られてるよぉ……む、虫歯なんてないよね……?)」

 

私はデンタルミラーをユメさんの口の中に挿入していく。手の向きを変え、様々な角度から1本ずつ異常がないか細やかにチェックしていく。ユメさんは恥ずかしさからギュッと目を閉じており、ミラーの冷たい感触が口腔内に触れる度にピクッと反応している。私は速やかに、されど一切の見落としもない様に32本の歯を隅々まで観察していった。

「よし、診察はこれで終わりです。虫歯は1本もありませんでしたよ」

「本当!?よかったぁ……」

「良かったね、ユメ」

 

診察が終わりホッとするユメさん。私は内心の興奮が冷めぬままに言葉を続ける。

 

「一先ず目視で確認する限りでは異常はありませんでした。ただ目視で確認出来ない所に異常がある可能性もあるので、より詳しく検査したい場合は改めて歯科学部の診察室で見る事も出来ますが、如何致しますか?」

「えっとぉ……何処か悪かったら嫌だし、お願いしても良いかな?」

「わかりました。ではユメさんの都合が良い日付と時間で予約しておきますね」

 

私の心は絶頂寸前だった。あの素晴らしい口腔を隅々まで診察し、記録し、より完璧なモノに仕上げられる……そう考えただけで胸が張り裂けそうだった。今回は目視による診察だけだったので、正直物足りなかったのだ。だからこそ、次の診察が待ち遠しい。気分はまるで恋に浮かれる若人の様だった。

 

「(ああ、そうか……あの日、ユメさんと出会ったのはきっと、運命だったんだな……)」

 

私はこの日、運命の巡り合わせに感謝した。もし原作通りなら、こうしてユメさんの奇跡の歯並びを目の当たりにする事はなかっただろう。ホンの気紛れに過ぎなかったあの時の私の選択は正しかったと、私は確信を持って言える。原作崩壊だろうが何だろうが、もうどうでも良かった。今はただ、ユメさんが生きていて、こうしてユメさんの素晴らしい歯と出会えた事の喜びを噛み締めていた。

 

「あれ?ハモリちゃんどうしたの?」

「……ああ、すみません。ちょっとボーッとしてました」

「大丈夫?何処か悪いなら休んだ方が良いよ?」

「そうだね。無理をすると身体に良くないし、仮眠室で良ければ使って良いよ」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えてちょっとだけ休ませていただきます……」

 

どうやら興奮の余り意識がトリップしかけてしまい、2人に心配をかけてしまった様だ。本当は至って健康体なのだが、私は2人の好意に甘えて仮眠室へ向かった。とはいえ、頭の中は先程見たユメさんの歯の事でいっぱいで恐らく眠れそうにないが。

私は仮眠室のベッドに横になり、次のユメさんの診察日に想いを馳せていた。

あのアビドスの奇跡を、私の手で護らなければならないと、そう心に誓いながら。

 




ハモリ「という訳でホシノさん。ユメさん(の歯)は必ず私が護ります」

ヒロインは複数人いてもOKか?

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