という訳で第6話です。
シャーレの仕事が終わり、私は歯科学部の部室へ足を運んでいた。
「はーい、では口を大きく開けて下さいねー」
視線の先には、赤紫色の髪をボブカットにした少女が生徒の歯の治療を行っていた。
彼女の名は萩埜コズエ。私の1つ下の後輩で、私が不在の時や忙しい時に代わりに治療を行ってくれている。その技術は本物で、今も手際よく歯の治療を進めている。
「では、治療はこれで終わりです。噛み合わせ等の違和感はないですか?」
「大丈夫、もう痛くないよ!ずっと歯が痛くて困ってたんだ……本当にありがとう!」
「はい、お大事になさって下さい」
無事に治療が終わった所で、私はコズエに声をかける。
「お疲れ様、コズエ。また腕を上げたね」
「ハモリ部長!お帰りなさい!シャーレのお仕事お疲れ様です!」
私に気付いたコズエが元気良く返事をする。見る者を安心させる無邪気な笑みと白い歯が眩しい。
「シャーレの仕事は相変わらず書類三昧だったよ。そっちは私が不在の間、何もなかった?」
「はい!ハモリ部長がシャーレのお仕事に行ってる間、特にトラブルもなく無事に終わりました」
彼女は私の元患者で、私の様な歯科医になりたいと言って歯科学部に入部した。私と同じ様に独学で歯科医の勉強をしており、入部後も私の下で技術を学んだ。私も彼女のひたむきさに応えようと思い私の歯科医としての知識と技術を叩き込んだ。今となっては彼女も立派な歯科医だ。
「お帰り~ハモリちゃん」
奥の部屋からネネコ先輩がやって来た。
「あ、ネネコ先輩!お疲れ様です!」
「只今戻りました、ネネコ先輩」
「シャーレのお仕事疲れたでしょ?お茶でも淹れるわよ。コズエちゃんも一緒にどうかしら?」
「ありがとうございます!その前に片付け終わらせておきますね」
いそいそと片付けを始めるコズエの背中を微笑ましく思いながら見つめる。自分の歯フェチ欲を満たす為に歯科医になった自分と比べると、彼女の在り方はあまりにも眩し過ぎる。私が卒業した後は、部長の座は彼女に譲ろうと本気で考える程に彼女は素晴らしい歯科医だ。だからこそ、私がいる間は彼女に色んな事を学ばせてあげようと心に誓った。
「……あの子、ハモリちゃんがいない間、私が歯科学部を守るんだって言ってスゴく張り切っていたわよ」
「そうですか……本当に、良い後輩に先輩に囲まれて、私は幸せ者です」
「ふふ。ハモリちゃんのそういう素直な所、私は好きよ?ほら、疲れてるでしょ。休憩室でゆっくりすると良いわ」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて……」
これも青春というものなのだろうなと思いながら、私は休憩室に足を運ぶ。何れにしても歯科学部は安泰である。
その後、一息入れた私はコズエと共に残りの診察を行った。シャーレの仕事と歯科学部の活動の二足草鞋は決して楽ではないが、それ以上に彼女達と共に過ごす日々はとても充実していた。
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「お疲れ様でした、ハモリ部長!」
「お疲れ様~。ハモリちゃんもきちんと休まないとダメよ~?」
「お疲れ様です。はい、無理しない程度に頑張りますよ」
時刻は夜の6時。診察が終わり、コズエとネネコ先輩、他の部員達が自宅へ帰って行くが、私は1人部室に残っている。
実は歯科学部では夜間診療も行っており、主に私が担当している。昼間と違い急患扱いなので予約は受け付けないようにしているが、忙しくて昼間に診察に行けなかった生徒が治療の為にやって来る。
とはいっても夜にやって来る患者はそう多くはなく、流石に部員の皆を縛り付ける訳には行かないので、基本的に私1人で対応している。
個人的にも、1人で気楽にやれる上に予約を取らないので好きな時に休めるこの時間は、私にとっては昼下がりのコーヒーブレイクの様なものだ。
「……さて」
私はパソコンの電源を入れて1つのファイルを開く。
「…………」
ファイルに保存されていたのは診察の際に記録した口腔内の画像データだ。多種多様な生徒の口腔内、歯の画像をひとつずつ、つぶさに見ていく。
誰にも邪魔をされず、可愛い生徒達の誰にも見せた事のない秘境を暴く背徳感、その生命感に満ちた口腔を思いのままに弄り回す優越感、その全てが私にのみ与えられた特権だ。
「ははっ。なんて格好付けてみたが、結局は私が見たいだけなのだがな」
そもそも私はその為に歯科医になった訳なので、今更な話である。また、この事を知っているのはネネコ先輩と同居人の"あの人"だけだ。まあ、バレたからといって別にどうこうする訳ではないのだが、あまり聞こえの良い話でもないので、積極的に自分から誰かに話す気はない。
「思えば自分から話したのはあの人が初めてか……」
この場にはいない同居人の事をぼんやりと考える。出会ったのは偶然で、それから色々あって同居する事になったが、果たしてそれで良かったのかと思う事がある。
「あのまま放っておく訳にもいかなかったし、かと言って今の状況が続くのも決して良いとは……うーん」
自分の行動が本当に正しかったのかと、今でも悩む事がある。元先生とはいえ、所詮それはゲームの話。心の何処かで、私は思い上がっていたのかもしれない。
「いや、これ以上はよそう。ユメさんの一件で既に腹は決まったんだ。今更弱気になってどうすると言うのだ」
一先ず、思考を切り替えた私は適当に暇を潰しながら患者が来るのを待ち続けていた。
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「……結局、今夜の患者は0か。まあ、ないに超した事はないか」
時刻は夜の9時。まだ明かりがついてる部屋もいくつかあるが、外はもう真っ暗だ。
夕食は既に済ませているのだが、少し小腹が空いてしまった。
「……夜食でも作るか」
私は休憩室の隣にあるキッチンスペースへ足を運んだ。
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「よし、こんな所か」
作ったのはお茶漬けだ。余ったご飯に、前に百鬼夜行を訪れた際に購入した緑茶、細かく刻んだ沢庵をたっぷりと乗せている。
「うん、悪くない」
茶碗を手に取り、沢庵と米を緑茶で一気に流し込む。噛む度に口の中にじんわりと広がる米の甘味と沢庵の塩味、コリコリとした歯応えが何とも心地よい。単品だと味が濃い沢庵も緑茶によって流され、スッキリとした後味が更に食欲を掻き立てる。
「次は焼鮭でも乗っけるか。ああ、でも塩昆布も捨てがたいし、どうするか……」
あっという間に一杯を平らげ、次に乗せる具材をどうしようか考えていると
「ハモリ、今いる?」
部屋の外から聞き覚えのある声がしたので、入口の方へ向かう。
「えへへっ。ごめんね、来ちゃった……」
入口の前に立っていたのは、プラチナブロンドの長い髪を太い三つ編みにした、紫の瞳にエルフ耳を持った少女。色々あって同居する事になったその少女の名は
「構わないですよ____アヤメさん」
七稜アヤメ。百鬼夜行の治安組織、百花繚乱紛争調停委員会の委員長だ。
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彼女との出会いは、私がシャーレに入部する半年前の事だ。
当時、私は観光がてら百鬼夜行に足を運んでいた。前世の観光地を彷彿とさせる街並みに懐かしさを覚えていた矢先、お面を被った和服の集団……魑魅一座と遭遇した。
彼女達は祭りの妨害工作を行っており、私は運悪く、その騒ぎに巻き込まれてしまった。そこで応戦しようとした所、駆け付けて来たアヤメさんが助けてくれた。
「大丈夫?怪我はない?」
彼女は瞬く間に魑魅一座を撃退し、私に声をかけた。見るものを安心させるその朗らかな笑みに、私は違和感を感じた。
「あの……変な事を聞くかもしれませんが_______もしかして、歯が痛いのではないのですか?」
「…………へっ?」
彼女が銃を撃つ瞬間、僅かに顔を歪めたのを私は見逃さなかった。そしてその顔を、私はこれまで何度も見てきた。
「えっと……確かに、右の奥歯が前から痛かったけど……どうしてわかったの?というか、貴方って何者?」
「おっと、自己紹介が遅れました。私はミレニアムサイエンススクール、歯科学部所属、白山ハモリと言います」
「歯科学部……それって、歯医者さんって事?」
「ええ、その認識で合ってますよ」
私がそう言うと、アヤメさんは困惑した様子で口を開いた。
「……どうして、私が歯が痛いってわかったの?」
「はい、銃を撃った時に僅かに顔を歪めていたので。後、歯が痛い人の顔をこれまで何人も見てきたから……もしかして、と思いました」
「ふーん……けど、もうそんなに痛くないし、大丈夫だよ」
「いいえ、それはいけません」
私の言葉にアヤメさんは眉をひそめる。
「何?貴方には関係ないでしょ?」
アヤメさんは不機嫌そうに言うが、私は構わず彼女の目を真っ直ぐに見据えながら答えた。
「歯の痛みは、自然には治りません。放っておけば、どんどん悪化してやがて歯を失う事になります。だから、早めの治療が必要なんです」
「…………」
「それに_____貴方が辛そうな顔をしていましたから、放っておけないんです」
「______っ」
私がそう告げると、アヤメさんは目を見開いた。やがて何かを考え込む様に目を閉じた後、ゆっくりと口を開いた。
「……じゃあ、私が治療して欲しいって言ったら、聞いてくれる?」
「勿論です。それが、私の仕事なので」
後日、アヤメさんは私の元を訪れ、歯の治療を受けた。因みに歯痛の原因は、親知らずの虫歯だった。歯を抜くと聞いた時に焦った彼女の顔は、今でも良く覚えている。
それ以来、彼女は私の元を訪ねる様になった。歯の検診と、ちょっとした雑談をして交流を重ねていく内に、そこそこ親しくなっていった。
そしてある日の夜、アヤメさんが私の元を訪れた。
「……ハモリってさ、何も言わないんだね」
「何がです?」
アヤメさんは何処か思い詰めた様子で口を開く。
「だってさ、歯の治療なら兎も角、理由もなくやって来る私の事が気にならないの?今日だって、こんな夜遅くに来たのに……」
「特に深い理由はないですよ。ただ、アヤメさんが辛そうにしていたから、放っておけないだけです」
「……それだけ、なの?」
「ええ。と言っても、私はただの歯科医ですし、出来る事も限られてますが……悩み事を聞いたり、一緒にいる事は出来ます」
「……でもそれって、歯医者の仕事じゃないでしょ?」
「まあ、どちらかと言えばカウンセラーの仕事ですね。けれど、痛みに苦しむ声を聞いて、それを助けるのが私の仕事です」
私はアヤメさんの目を真っ直ぐに見据えながら答えた。
「だからアヤメさん。辛いときや苦しい時は、助けてって言えば良いんです。その時は、私が力になります」
実を言うと、私がアヤメさんについて知っている事はそう多くない。前世の記憶では、彼女の名前と、彼女が何らかの事件に巻き込まれたという事しか知らず、彼女が何を考えて、何を思い悩んでいるのか私には分からない。
けれど、初めて出会った時から彼女は何処か無理をしている様に見えた。だから私は、そんな彼女を放っておけなかった。1人の人間として、彼女を助けたかった。
「……そっか。ハモリって、優しいんだね」
アヤメさんは今にも泣きそうな表情を浮かべ、私の胸に額を押し付けた。
「ごめん……少しだけ、少しだけで良いから……私っ、もうどうしたら良いか、わからなくて……っ」
「アヤメさん……泣きたい時は、泣いて良いんですよ」
「うん……うん……っ」
アヤメさんは、私の胸の中で嗚咽し、私はそっと彼女の背中を撫で続けた。
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「……私はさ、逃げ出したんだ。」
アヤメさんは、自嘲する様に口を開く。私は黙って彼女の話を聞く。
「何でも出来て、頼りがいのある、みんなが憧れる完璧な私。そうあり続ける事に疲れちゃった……はじめは、みんなが私を頼ってくれるのが嬉しかったし、そんな自分を誇らしく思っていた。けど、気が付いたら自分の事が分からなくなっちゃった……完璧な自分を演じ続ける事が嫌になったんだ」
そう告げるアヤメさんの声は、不安と迷いに満ちていた。
「それでさ、今の立場も全部捨てて、ハモリにも迷惑かけちゃって……ははっ、本当に……私って、何がしたいんだろうね」
力なく笑うアヤメさんのその表情は、今にも壊れそうで……まるで、助けを求める子供の様だった。
「アヤメさん、もし良ければウチに泊まりませんか?」
「えっ?」
「アヤメさんにはきっと、時間が必要なんだと思います。気持ちの整理をする意味でも、一旦嫌な事は全て忘れて、自分だけの時間を過ごしてみるのはどうですか?」
「そんな事を言われても……私、何をすれば良いのか分からないよ……」
アヤメさんは困惑した様子で呟く。
「在り来たりですけど、ゲームセンターで遊ぶとか、ショッピングをするとかどうです?美味しい物を食べに行くのも良いですし、よろしければ知人から貰った食べ歩きガイドでも見てみます?」
「……どうして、そこまでしてくれるの?私、ずっと迷惑ばかりかけているのに」
「迷惑ではないですよ。アヤメさんが辛そうにしていたから、助けたいと思った。ただ、それだけの事です。それに……」
私はアヤメさんの顔を真っ直ぐに見据えながら答えた。
「______アヤメさんの様な美人さんには、笑顔が一番ですから」
「えっ……?」
アヤメさんはポカンとした顔で私を見つめてくる。やがて肩を震わせて笑い出す。
「あははは!何それもしかして口説いてる!?あはは、おっかしー!」
自分なりに真面目に答えたつもりなのだが、何故かアヤメさんは腹を抱え大笑いしていた。
「ははっ、よーくわかったよ。ハモリはとんだお人好しだって事がね」
アヤメさんは先程までの沈んだ表情から一転して、穏やかな笑みを浮かべた。
「そこまで言うなら、お言葉に甘えようかな!言っとくけど、嘘ついたらただじゃおかないからね!?」
こうして、アヤメさんとの共同生活が始まった。私が歯科学部の活動をしている間は基本的に私の自宅にいて貰っているが、中にあるものは好きに使って良いと言っている。また、休みの日は一緒にゲームをしたり、買い物をしたりして楽しんでいる。はじめは遊ぶという事に戸惑っていた彼女だったが、今ではすっかりゲームに夢中だ。
それからアヤメさんは、自分に起こった事について全て話してくれた。まだこれからどうしたいのか明確な答えは出ていないが、私は何時か彼女が答えを出してくれると信じている。それまでの間は、私なりのやり方で彼女を助けていきたいと思う。
因みにその流れで私が歯フェチである事を話したのだが、アヤメさんは顔を引きつらせながら何とも言えない笑みを浮かべていた。完全に失敗したと、その時の私は思った。
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そして現在、自宅にいた筈のアヤメさんがやって来た。一応、帰りは遅くなると連絡はしたのだがどうしたのだろうか。
「えへへ、ハモリの顔が見たくなっちゃってね」
そう言うとアヤメさんは部屋の奥の空いた茶碗に視線を向けた。
「あーっ!何か食べてる!ヒドイよ私ずっとハモリの事待ってたのに!」
「すみません、小腹が空いてしまって……」
「言い訳無用!そんなに食べて、太っても知らないんだからね!」
アヤメさんがそう言った矢先、クゥゥという音が室内に響き渡る。私は余ったお茶漬けを一瞥した後、口を開く。
「……余り物で良ければ、如何ですか?」
「…………うん」
アヤメさんは、顔を赤くしながら小さく頷いた。因みに残っていた分は、全部彼女の胃の中に収まった。
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「はーっ、もうお腹一杯!」
「お粗末様です」
そう言いながら、私は空いた食器を片付けていた。アヤメさんは普段あまり食べない方だったが、珍しくおかわりもしていた。
「ねえ、ハモリはもう歯科学部の仕事は終わったの?」
「ええ、流石にもう人はこなさそうですし。戸締まりを済ませたら帰りますよ」
「そっか……じゃあさ、ちょっとお願いして良いかな?」
アヤメさんはそう言うと、いつの間にか手に持っていた歯ブラシを横に倒して、口元まで持ち上げた。
「私の歯、磨いて欲しいなー……なんて」
「是非」
私は即座に頷いた。アヤメさんは何故か顔を引きつらせていたが、私はいそいそと準備に取り掛かった。
「……冗談のつもりだったんだけどなー……まぁ、良いか」
後ろでアヤメさんが何か言っていた気がしたが、歯磨きの事で頭が一杯の私の耳には入ってこなかった。
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「どうですか?首は痛くないですか?」
「あ、うん……大丈夫。てか、思ってたより柔らかい……」
私はソファーに座り、アヤメさんは私の太ももを枕にする様に仰向けになり、横になった。所謂、膝枕というやつだ。ふんわりとした髪の匂いが鼻腔を擽り、私は滅多にないシチュエーションに胸を高鳴らせた。
「では、始めますよ」
「あ、うん。お願い……あー……」
アヤメさんは顔を赤くしながら、ゆっくりと口を開けた。私はじっと、アヤメさんの口の中を観察する。
完璧な自分を演じる事に疲れたと言う彼女だが、その口腔内は非の打ち所がない程に完璧だった。親知らずは前に抜歯済みなので、アヤメさんの歯は全部で28本。虫歯も処置歯もなく、歯並びは一切のズレもなく生え揃っていた。唾液に濡れた舌はグネグネと蠢き蠱惑的な印象を与え、赤い口蓋垂のぶら下がった喉の奥は全てを呑み込んでしまいそうな妖しさを孕んでいた。
私は歯ブラシを握りしめ、アヤメさんの口の中へ挿入する。上顎の前歯に毛先を当てると、優しく動かして行く。
「ん……」
2人だけの静寂に満ちた空間の中で、歯ブラシの擦れる音が響き渡る。歯の表面、裏側を歯の溝に沿って擦り上げ、歯茎に接触しない様に1本ずつ丁寧に磨いていく。特に虫歯になりやすい奥歯は念入りに行い、口腔内を擽る感覚にアヤメさんはピクリと反応し、身体を震わせている。
「ほんはひはほひー?(そんなに楽しい?)」
「ええ、とても……」
上顎が終われば、次は下顎の歯列だ。前歯から順に手を小刻みに動かしながら、1本ずつ丁寧に磨いていく。裏側を磨いていると、磨いている歯列から舌をどかそうとしている仕草が何とも微笑ましい。
「ん……あ……(やだ……何、これ……変な感じ……)」
アヤメさんがトロンとした目で私を見つめる。私は口の端から溢れた唾液をタオルで拭き取り、残る奥歯を隅々まで磨いていく。
やがて全ての歯を磨き終えると、近くの洗面所で口を濯がせた。
「如何でした、アヤメさん?」
「…………よかった」
アヤメさんは顔を真っ赤にしながら小さく呟いた。
「……ハモリ」
「どうしました?」
「……また、お願いしても良いかな?」
「ええ、勿論」
この日以来、アヤメさんは私に歯を磨いて欲しいとお願いする様になった。
彼女との共同生活は、まだしばらく続きそうである。
ハモリ「そういえば、アヤメさんに関わる事で何か忘れている様な気がするが……何だったか?」
???「うぅ……アヤメ……何処にいるの……?」
ヒロインは複数人いてもOKか?
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YES
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NO