艦底のBAR「どん底」は、改装から数日が経ち、相変わらずのホラー仕様のまま営業を続けていた。赤黒い照明、歪んだ鏡、壁に貼られた不気味な絵。どれも学生たちの間で「ちょっと怖いけどクセになる」と妙な評判を呼んでいた。
そんなある日の午後、フリントがいつものようにカウンターで新聞紙を丸めて剣術の練習をしていると、ムラカミが店に入ってきた。手には一枚のプリント。
「これ、見た? 農業科から回ってきた通報なんだけど……“キュウリが動いた”って」
「キュウリ? 動いた? 野菜が!? ははっ、それキラーキュウリじゃん! 私のジョークが現実になったとか?」
フリントが大笑いしながら新聞を投げた。
「笑いごとじゃないわよ。動き方が“のたうつ”ようだったって、しかも他の野菜を押しのけて温室の隅に集まってるって。まるで……巣を作るように」
カトラスが眉をひそめた。
「ギーコ、ちょっと見てきてくれる? 何かあったら、すぐ引き返して」
ギーコはコクンと頷くと、副腕でそっと紙を受け取り、金属の足をカツカツと鳴らして店を出ていった。
⸻
農業科の温室は薄曇りの光の中、不気味な静けさに包まれていた。
ガラス越しに覗いたギーコは、思わず目を細めた。
土の上には、規格外の大きさに成長したキュウリが幾本も転がっており、その一本がゆっくりと“身をよじらせて”いた。
ギーコはそっと近づき、副腕で一本を持ち上げようとした。
だがその瞬間──。
ブチィ!
キュウリのトゲのような先端がギーコの装甲に食い込み、鮮やかな緑色の液体が飛び散った。
ギーコの背中のチューブが音を立てて蒸気を噴き上げたかと思うと、突如として挙動が一変。
「キュイイィィィーーー!!」
(※音は出てない)
槍状の手足がギュンと突き出され、地面をえぐる。
突如始まる無言のキュウリ憤怒ダンス。
跳ねる。踊る。回転する。止まらない!
「ギーコ暴走モード入ったあああああ!!」
後を追ってきたフリントの絶叫が温室に響き渡った。
⸻
BAR「どん底」にギーコが戻ってきた時には、すっかり疲れきった様子で、背中のチューブからはシューッと細い蒸気が出続けていた。
「で、何があったの?」
カトラスが氷入りのグラスを差し出す。
ギーコは副腕で震える手元に筆記用具を構え、「動く…キュウリ…刺された…おどった…」とだけ書いた。
「え、まさか本当に“キラーキュウリ”だったの?」
フリントがびっくりして言うと、お銀がプリントをめくって裏面を見せた。
「ここに小さく“使用品種:メキシコ産キュウリ・デル・マル(試験導入中)”って書いてあるわ。品種改良で耐病性を上げた品種……らしいけど、動くのは想定外ね」
「うーん、あれだな。生きてるってことは、キュウリにも意思があるってことじゃねーの?」
「それ言い出したら、野菜食べづらくなるからやめて」
カトラスがじと目でフリントをにらんだ。
ギーコは黙って(いつも通り)、「たぶん、もう一回刺されたらマジで踊り死ぬ」と書いたメモを静かに差し出した。
⸻
結局、その後農業科は温室を一時封鎖し、キュウリ・デル・マルの取り扱いを厳重化することに。
BAR「どん底」ではその日から「キュウリの浅漬け」がメニューから姿を消した。
「で、次は何の映画にする? “シャークネード”とか?」
「やめて、今度は空からサメでも降ってきそうだから」
次の番外編ではどの映画にしますか?
-
ジュラシック・シリーズ
-
ゾンビランド
-
アナコンダ
-
シャーク・トルネード
-
トレマーズシリーズ