ある日の午後3時頃、新エリー都のとある場所にあるカフェ「Luna Cofffee」にて
「ねえねえ凛、クラスのほかの女子が噂してたイケメン店員さんってあの蒼い髪の店員さんのこと?」
「そうだよモナ!あの人だよあの人!ミステリアスな雰囲気がたまんなく癖に刺さるよね~!」
「あ、今一瞬目合っちゃった!やばすぎめっちゃ心臓バクバクするんだけどエレンも来ればよかったのに!」
店内の端の方の座席から聞こえてきた女子高生三人の会話の内容にため息をつく。僕、
「ウフフ。理ちゃん今日もモテモテじゃない。アタイ嫉妬しちゃうわあ。」
カウンター席に座っている女性がモンブランを食べながら話しかけてくる。この人はジェーン・ドゥ。この店の常連客だ。
「...どうでもいい。」
自分に会うことを楽しみにしている人がいるのは普通の人からすればうれしいことなのかもしれないが、僕からすると意味が分からない。こんな不愛想で暗い空気を纏ったやつなんて誰が会いたいのか。
「もう!照れ隠ししちゃって可愛い!あ、そだ。理ちゃんスマホ見て」
彼女の言葉通りスマホを見ると彼女からDMが届いていた。内容は『お店のバイトが終わったら情報を渡したいからいつもの場所にきて!』とのことだ。
「...了解。」
他の人に聞こえないように小さい声で返事をするとジェーンは妖艶に微笑みこちらを見つめた。
数時間後、本日のバイトのシフトが終わったのでジェーンが指定した場所に移動する。ちなみにジェーンが言っていたいつもの場所とは、僕が住んでいるマンションの屋上のことだ。
「あ、来た来た。今日も一日お疲れ様理ちゃん!」
「で、情報は?」
僕はあのカフェで働く裏でホロウレイダーとして、インターネットに転がっていたりジェーンから提供される色々な依頼をこなし報酬を得て生計を立てている。そしてジェーンはこの新エリー都における警察組織・治安局の特務捜査班に所属し、様々な組織にスパイとしてもぐりこむ役目を負っており時々僕は捜査に協力するという名目で彼女から依頼を提供してもらっているのだ。
「んーとね、今アタイが潜り込んでる最近勢力を拡大してるマフィア『ネメシスの怒り』が一週間後に別の組織と大きな取引を行うんだけど、そこで取引される品が手に入ったら捜査が大きく前進するの!だから理ちゃんには三日後にこの場所にある拠点に潜入してその品を盗み出して欲しいの!」
簡単に言うと、マフィアの拠点に侵入して物を盗んで来いというわけだ。
「それ、僕にできる?僕があまり隠密行動が得意じゃないの知ってるでしょ?」
「それは大丈夫!当日はアタイの協力者が外部からハッキングして監視カメラの映像をすり替えたり通信機器を使えなくしてくれたりしてくれるし、ネメシスの怒りはメディアに圧をかけて自分たちの組織絡みのニュースは絶対に報道させないようにしてるから割と荒っぽくなってもオッケーよ~!」
ハッカーにも伝手があるとはこの人はどれだけの人間とつながりを持てば気が済むのやら。
「一応聞くけど報酬は?」
「よく聞いてくれたわね!報酬は...アタイとデート「あ?」嘘嘘!最低でも理ちゃんのカフェでのお給料の20倍はあげるわ!」
依頼の内容が内容なだけに額が今までの比ではない。まあ僕は生活に余裕がある方ではないので仕事を選んでいる場合ではないから受けるしかないのだが。
「わかった。やろう。」
「お!今回もしっかりお願いね!“
「...何それ。」
「あら知らないの?理ちゃんネットではそう呼ばれてるのよ?噂だとあの伝説のプロキシ、パエトーンをも凌駕する実力の持ち主って言われてるの!」
たいそうな噂話だ。誇っていいのやら良くないのやら...
「誇るべきなんじゃない?」
「心を読むのはやめて。」
ミッション当日。バイトが終わったその足でルミナスクエアにあるネメシスの怒りの拠点のうちの一つにジェーンが確保してくれていた侵入ルートで拠点内に入り込む。
「まあ、これはわかりにくいだろうね。」
今回侵入している拠点の場所はホテルの最上階にある。ここは表向きは高級ホテルとして運営され、組織の構成員たちは時間によってはホテルの従業員として働いている。ジェーン曰くネメシスの怒りは似たような場所を他にも所有しており、巧妙な隠れ方と確かな資金源がこの組織が裏社会で存在感を強めた理由だという。
「確か、取引される品は奥の金庫部屋にあるんだったな。僕が金庫についたタイミングでジェーンの手下のハッカーが外部から扉を開けてくれる。」
この先はマフィアがうようよいるはずだ。用心していかなければ。
「...なんか拍子抜けだな。」
現在地はもう金庫の扉の前。侵入した場所からここまで一回もネメシスの怒りの構成員と出会わなかった。十中八九罠と考えるべきだろう。
「ま、入るしかないか。」
得物の剣を片手にゆっくりと中へ足を踏み入れる。中は金庫にしてはかなり広い。
「あれだな。」
中心にある大きなガラスケースの中に真っ赤なアタッシュケースが入っている。あれが取引される品と見てよいだろう。近づいてガラスを剣で破壊しアタッシュケースを持とうとした瞬間、サブマシンガンで武装したネメシスの怒りの構成員たちが金庫の中に雪崩れ込んできた。
「おら入れ入れ!のこのこと引っかかりやがったなネズミが!」
「やっと出てきてくれたね、侵入者に怯えて何もできないマフィアなんてダサすぎるもんね。」
「はっ。安い挑発を!お前状況わかってんのか?絶望的にもほどがあるだろ?」
「正直僕としてはこうなってくれた方がやりやすいな。だって...君たちを一掃できるからね。」
僕は腰のホルスターから銃型の召喚器を取り出し、こめかみに当て引き金を引きながらいつもの言葉を呟く。
「ペルソナ」
僕の背後にもう一人の自分、竪琴を背負った幽玄の奏者『オルフェウス』が顕現する。生き物ともホロウのエーテリアスとも違うその見た目にマフィア達は腰を抜かしてしまう。
「くそっ!ひるむなやっちまえ!」
「無駄だよ。マハラギダイン!」
オルフェウスが竪琴から音を奏でるとマフィア達の足元から火柱がいくつも立ち上がりマフィア達を次々と焼き払う。
「ぎゃああああああ」
「まだいるのか。」ペルソナチェンジ
7割ほどは倒しただろうが、まとめ役と思われる男の周りに人がかなり固まっている。あとはこいつらだけのようだ。
「タナトス!」
もう一度引き金を引くと、八つの棺桶を鎖でつないだオブジェをマントのように背負い、飾り気のない一振りの直刀を構え頭には獣の頭蓋骨のような仮面をつけた処刑人のような出で立ちのギリシャ神話の死神『タナトス』が現れ、咆哮を上げる。
「やれ。ブレイブザッパー!!」
「うわああああやめろ!?まだ、死にたく...!」
タナトスの放った強力な斬撃をまともに食らい、マフィア達は全員倒れた。
「うん。しっかりあるわね。お疲れ様理ちゃん!バッチリ依頼達成ね!これで捜査が進む…!」
ホテルを出るとジェーンが待っていたのでそのままアタッシュケースを渡すと、彼女は僕を労う言葉をかけながらまるでペットを可愛がるようにケースに頬をこすり付ける。
「なら良かったよ、じゃあ僕は帰る。久しぶりにペルソナを使って疲れてるんだ。」
「あ、待って理ちゃん!ちょっと時間をちょうだい!」
「ん?何?」
「ほら、目閉じて!」
「わかった。...!?」
目を閉じると、唇に湿った生暖かい感触が伝わり僕はびっくりして目をすぐに開けてしまう。
「...は?」
「ふふふ。今回頑張ってくれたご褒美!これでもアタイ、理ちゃんのことすごく気に入ってるんだよ?また会いましょ!」
そう言ってジェーンは僕に向かって手を振りながら歩き出し夜の街へ消えていく。今日のことをどうでもいいということは出来なかった。