コックピット開けたら中身ガキだったとき気まずい   作:九条空

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好きなアーティストPoor Man's Poisonにメール送ってFeed the Machine使っていいよって言われたので公開されている、自作PVです
https://x.gd/nvk0G


コックピット開けたら中身ガキだったとき気まずい

 想像していたよりずっと、幼い声だとヴォルフは思った。

 

 スクラップの通信機から聞こえた声はノイズがひどすぎて、年齢を判断するのが難しかった。

 アッシュと名乗ったことは間違いなく聞き取れたが――まさか、スクラップは我々が想像しているよりずっと幼いのではないか。

 ヴォルフは腹の底が冷えるような心地がした。

 

 彼らの会話からわかることは、どうやらスクラップは怪我を負っているらしいということだ。

 たしかに、無線越しに聞こえるアッシュの声は、ひどく疲れ切っていた。

 

「もうたたかいたくない」

 

 そのあとのわずかな吐息は、自嘲にも聞こえた。

 しかし、戦いたくないから、傭兵団には入らない、とは続かなかった。

 生きるためには金が必要だ。働かなければならない。

 リサがそんな日は長くは続かないと聞くと、アッシュはやはり、笑いにも聞こえる吐息を漏らした。

 

「そんなひがくるなら、しんでもいい」

 

 死を救いだと思っているように聞こえ、ヴォルフは顔面を蒼白にした。

 この発言は忘れてくれと言った後、スクラップの声は聞こえなくなった。

 

 ――意識を失ったのかもしれない。

 いや、それならまだマシで、今この瞬間こと切れてしまったのやも――そう思うと、ヴォルフはなにかを考えている余裕はなかった。

 

 無線機を投げ出し、コックピットをこじ開けて中に入る。

 そこには、想像していたよりずっと凄惨な光景が広がっていた。

 

 鉄と油と、人の体液が混ざったような臭いがする。

 

 リサが近くに立つ、そこは操縦席などと呼べる代物ではなかった。

 むき出しの配線、剥きかけの断熱材、朽ちた操作パネルの間に——小さな、あまりにも痩せた人影がいた。

 

 スクラップの正体は少年だった。

 骨ばった肩が機体の壁にもたれ、太く黒ずんだケーブルが腹部を貫通している。

 まるで体の一部のように、あるいはそこから電力を吸い取って生きながらえていたかのように。

 

 ヴォルフはゾッとした。まるで、生きたまま機械に埋め込まれたみたいだ。

 この数日、いやもっと長い間、この状態で操縦していたのか?

 食料も水も——睡眠は? どうやって意識を維持していた?

 

 化け物。その言葉が脳裏をよぎる。

 だが、その少年の身体は、ただの飢えた子供だった。

 裸に近い上半身、浮き出た肋骨、皮膚は土と油にまみれ、細い腕に残る注射痕のような傷が生々しかった。

 自分がずっと相手にしていたのは、遠隔操作の無人機だと、ずっと思い込んできた。

 それが——こんな小さな、機械に縛りつけられた人間だったなんて。

 

 ヴォルフを視界に収めた瞬間、アッシュはリサを突き飛ばした。

 同時に、目にもとまらぬスピードで機体を操作する。

 振り向いたヴォルフは、コックピットを貫かんと、鉄屑の指が迫ってくるのを見た。

 この軌道なら、アッシュごとヴォルフを貫くだろう。リサを突き飛ばしたのはそれに巻き込まぬためだ。

 

「大丈夫よ、兄さん! 彼、きっといい人だわ。騙されやすいのが心配だけど」

 

 制止したのはリサだった。

 最後のは余計だったと思ったのか、リサは自分の口を押えた。

 

「……あら、ごめんなさい。でも私が兄に本当に注射を打ったか確認できない状況だったでしょう? 音声通信だけでなく、映像通信も必要だったと思うわ。私が正直者で良かったですね」

 

 自白剤は、正しく効いているようだった。

 リサの気の抜けた態度に、アッシュは操縦桿から手を放した。

 望まぬ心中をする羽目には、ならなかったようである。

 

「泣いている暇があるのなら医者を呼んでください。見ての通り、兄は死にかけです」

「……そうだな、わかった」

 

 医者ならまだ近くにいるはずだ。ヴォルフは無線で連絡を取った。

 

 少年は言葉を発さず、まぶたの下からのぞく瞳が、ヴォルフの様子を注意深く観察している。

 虚ろで、感情のない目だった。汗と油と血と埃にまみれた顔。

 髪はいつ切ったのかも分からないほど伸び、汚れた布のように垂れていた。

 

 呼吸は、細い。けれど、確かに生きている。

 

 

 ……

 

 

 遠くからマルコのテレパシーが飛んできて、俺は頭が揺さぶられるかのような衝撃を感じた。

 

 それがなければ、俺はヴォルフごと心中していただろう。

 俺の操作ははやいので――この場合、マルコがいてくれてよかった。

 俺が死のうとしているのを察知して、俺を止めようとしてくれたのだ。

 

 そのおかげで、リサの制止が間に合った。

 だらりと手を下ろし、一旦敵意をしまう。ヴォルフに確認する。

 

「ころしにきたわけじゃない?」

「……ああ」

 

 軽く鼻をすすったヴォルフ団長は、それでも冷静にそう言った。

 さっきまでめちゃ泣いてたわりには鼻声じゃない。涙の理由を聞いて良いのかな。

 マジで気まずい。おずおず口を開く。

 

「……なんでないてる?」

「すまない。今まで君にした仕打ちを思うと」

「……なにもされてない、よ?」

「うっ……なにもできなかった……」

 

 ヴォルフが腕で目元を隠し、再び男泣きし始めたので、なんのこっちゃわからない。

 助けを求めてリサに目をやると、肩をすくめてこう言った。

 

「兄さん。どうやら機体というのは、中に人は乗らないみたい」

「……え?」

 

 その言葉を咀嚼するのに、ずいぶん時間がかかった。

 中に、人、乗ってない、え? 常識がガラガラと崩れていく。

 ……え!? ロボットvsロボットやってる世界線で、パイロットいないことあるかよ!?

 そ、そんなこと言い始めたらなんでロボットが人っぽい形に進化してるんだ、もっと戦いやすい形あるだろとかそういう話になってくるじゃん!?

 

 ――よく思い返せば、人型ではないロボットは割と見かけたし、なんならジャンクで組み立てた機体を使っている俺はその代表のようなもんであった。

 

「じゃあどうやってる?」

「遠隔操作」

「……ジャンクじゃむずかしいな。でんぱがとどかない。つうしんきでさえ、さいきんつんだのに」

 

 焦った。俺の工作技術が雑魚だったせいかと。

 まだAIで無人機つくるほうができそうだ。

 それか有線のラジコンみたいなのなら……いやそれでもきついな。

 コードの強度が……それから近くで操作する俺が無防備になる。

 巨大ロボの傍にリモコン持って立ってんだったら、直接乗り込んだほうがまだ安全だ。

 

 俺は納得して頷いた。

 

「かねのあるようへいだんはすごいね」

「兄さん。A07でも、そうらしいわ」

「……うそだろ」

 

 てっきり潤沢な資金のあるヴォルフ傭兵団だからそうなのかと思った。

 え、うちの地区でもそうなんですか? みんなどっから金を?

 

「A07で機体のパイロットはエリートだから、私たちでも会ったことがない。その事情を知ることができなかったのは当然よ。むしろ、私が調べきれなくてごめんなさい」

「いや、リサはなにもわるくない。あと……おれもわるくないよな?」

「どうかしら。死にかけてるから悪いかもね」

 

 眉を下げて落ち込むと、リサが慌ててフォローをいれてくれた。

 

「兄さんじゃなかったら初戦で死んでたわ、間違いなく。そうなったら私たちも死んでた、間違いなく」

 

 ――それってフォローになってるだろうか。

 きょうだいたちの命を預かっているにも関わらず、俺は軽率だったかもしれない。

 でも一番金稼ぎの効率が良くて……。

 

 きょうだいを食わすだけならジャンクを売り歩くのでもよかったかもしれないが、それだと俺の痛み止めが買えねえんだよな。

 そして痛み止めがなければ、俺が動けなくなるまでもっとはやかっただろう。

 

 やや目を充血させているヴォルフを見て、尋ねる。

 

「じゃあ、おれをおいだしにきた?」

「なぜそうなるんだ」

「おれがこのなかに、いないとおもっていたなら、おれはこのきちにはいるきょかを、えていない、ことになる」

 

 俺が思っていたのとは違う形だが――これはいわゆる、トロイの木馬みたいになってやしないだろうか。

 傭兵団に機体を持ち込む際、爆発物の確認、エネルギーコアの取り外しなどが行われた。

 危険がないと思ったから、この機体をここに置いてくれたのだろう。

 

 だが俺は非常電源を隠し持って、さっきみたいに()()くらいならできるよう準備していた。

 そりゃあ翻意ありと思われて、追放処分でもおかしくはない。

 しかし、ヴォルフは俺に手を差し伸べた。

 

「ヴォルフ傭兵団は君を歓迎しよう。君さえ良ければ、正式に仲間になってくれ」

「……いいの?」

 

 マルコがいてくれたら、ヴォルフがなにを考えているか正確にわかるのだが。

 いや、これまでマルコがなにも反対しなかったということは、ここで彼の手を取っても問題がないということだ。

 俺は弟を信じている。妹も。

 

「仲間でなくとも――君を助けたいと思う、アッシュ。これまでよく頑張ったな」

 

 それを聞いて、俺はぱちぱちと大きく瞬きをした。

 もしかしたら、うっかり泣いてしまうかもしれないと思ったからだ。

 だが俺の涙腺は枯れ果てていた。妹の前で情けないところを見せずに済んだらしい。

 

「よろしく」

 

 俺はそれだけ言って、ヴォルフの手を取った。




ヴォルフのイメージです https://privatter.me/page/68b2b977f0d2b?p=8#contents
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