FAIRY TAIL 七年間のゼーラ   作:もちごめさん

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第三話

「……つまりウォーロッドとプレヒトとユーリは青い髑髏(ブルースカル)じゃなくて風精の迷宮(シルフラビリンス)ってとこに所属してて、風精の迷宮(シルフラビリンス)は魔導士ギルドですらないってこと……?」

 

「ああそうとも。(ワッシ)たちはトレジャーハンター、宝の地図を片手に隠された遺跡を探し、貴重なお宝を求めて日々冒険するのが生業だ」

 

「危険な仕事だからこそ多少の武術は修めているが、私たちの誰も魔法は使わない。……改めて、誓って言うが、この島を襲ったという青い髑髏(ブルースカル)とは無関係だ」

 

「なるほど……!」

 

 

 ウォーロッドに間を取り持たれ、対面して腰を下ろしたボクたちとプレヒトたち。そうして交わされたいくつかの問答は、ボクたちが彼らへ抱いた警戒心の尽くを吹き飛ばしてしまった。

 

 全部ボクたちの勘違いだったのだ。彼らは三人とも青い髑髏(ブルースカル)なんかではなく、ボクたちを襲いに来たわけじゃない。彼らが口にしたその言葉に嘘偽りはなかった。

 

 どうしてそう信じられるのかといえば……やっぱり、今のこの状況だ。

 お互いに顔を突き合わせて床に腰を下ろしている今、プレヒトやユーリがその気になればあっという間にボクたちを殺せてしまうだろう。なのにそうせず大人しく座している。それはつまり、そういうことである証拠に他ならない。

 

 それに何より、プレヒトのこと。

 話し合いの段階になっても彼はまだ変態呼ばわりされたことを気にしているのか、ずっとイライラした様子でボクとは眼を合わせてくれないのだけど……しかしそれでも、着ていたマントをボクに貸してくれたのだ。

 彼が回収してきてくれていた元の服はまだ乾いていなかったけれど、これにくるまっていればもうくしゃみは出てこない。こんな親切にしてくれる人が、あの非道な青い髑髏(ブルースカル)であるわけがないだろう。

 

 

「そっか、プレヒトもユーリも青い髑髏(ブルースカル)じゃなかったのか。……今思えば、そりゃあそうだよね。だって二人とも金髪だし」

 

「き、金髪?」

 

「うん。ボク、金髪がお気に入りなんだ! 二人とも、初めて見た時からいいなぁって思ってたんだよ!」

 

 

 親切で、しかもきれいな金髪ともなればなおのこと。もはや疑う余地もなかった。

 プレヒトの時もユーリの時も、どうして真っ先に青い髑髏(ブルースカル)を思い浮かべてしまったんだろうか。我ながら不思議だ。二人とも実にボク好みの髪をしているというのに。

 

 ……まあもちろん、メイビスののあの綿雲のようなもふもふ髪には敵いはしないのだけれど。

 

 

「……金髪がなんで無害だってことに繋がるんだ……?」

 

「……謎だな」

 

「わっはっは! まあいいじゃないか! しかしそれは……黒髪の(ワッシ)はあまり信用されていないということかな?」

 

「わっ……! そ、そんなことないよ! ウォーロッドもいい人だってわかってるからさ!」

 

 

 ユーリとプレヒトがわけがわからないというような顔をして、それにウォーロッドが元気に笑う。

 そこに続けて放たれた一言がボクを慌てさせたけど……ああよかった。曰く「冗談だよ」らしい。危うく騙されるところだった。

 

 ともあれ、ボクの感謝が伝わっているならば何よりだ。なにせ本当に、ウォーロッドはこの事態を収束させてくれた大恩人。彼がいなかったらボクとプレヒトたちとの間の誤解は解けず、きっとこんなふうにはなっていなかっただろう。

 

 

「プレヒトともユーリとも……本当に、三人と仲良しになれてよかったよ……!」

 

 

 おかげで、みんな納得して矛を収め、こうして笑いあうことができているのだから。

 

 ――と思いきや、

 

 

「よかった――じゃないですよ全く!」

 

「ふぇっ」

 

 

 ボクの隣でぷんすかと、メイビスが肩を怒らせていた。

 かわいらしいふくれっ面だ。つい頬が緩んでしまいそうになるけれど……残念ながらその不満は、まっすぐボクへと向けられてしまっている。

 

 ……ニマニマしていたら、それこそ本気で雷が落ちちゃいそうだ。必死で口角を抑え込んで、その間にメイビスが眉間にしわを寄せた。

 

 

「つまりこの騒動って、一から十までゼーラのせいってことでしょう? ……おかげで私もプレヒトに……と、とんでもないことを……っ! 反省してください!」

 

「は、反省してるよ……。でもメイビス、ボク、プレヒトのことは青い髑髏(ブルースカル)って言っちゃったけど、変態ロリコンとかは一言も――」

 

「ゼーラ!!」

 

「はい。ごめんなさい……」

 

 

 そこのところはボクのせいじゃないと思うのだけど……いま口答えするのはさすがにちょっと恐ろしい。仕方なく、渋々に頭を下げる。

 

 

「いいさいいさ! 誤解が解けたならそれで十分だ。なあ、プレヒト」

 

「……不名誉な呼び方が是正されたのなら、私はもうそれでいい」

 

「ウム! 出会いは散々だったが互いに水に流して、改めて良い関係を気付いて行こうじゃあないか!」

 

 

 と、頭を下げたボクに対してそう応じるユーリたち。ほらやっぱり、まだうじうじと引きずっているのはメイビスだけだ。……少なくとも、表に出しているのは。

 

 実際にそれを目の当たりにしてしまえば、さすがのメイビスももう文句のつけようがないみたいだ。ただ、ほっぺたはそれでも不服で膨れたまま。

 仕方ないので両手でむにゅっと挟んで押し出し、長々続くため息へと変えてあげてから――さてととボクは切り出した。

 

 

「それで……三人はどうしてこの天狼島に来たの? トレジャーハンターって、お宝を探してる人たちなんだよね?」

 

 

 そう。彼らが青い髑髏(ブルースカル)ではなくお宝を探し求めるとレジャーハンターだと知った時から、ずっとここが疑問だった。天狼島に、いったい何を求めてやってきたのだろうかと。

 

 この島のお宝といえばかつての住人たちの僅かに残った遺品の数々か、あるいは広がる大自然くらいなもの。宝の地図とか遺跡とか、そんなものは聞いたこともない。

 

 

「む? そうとも! (ワッシ)たちはこの島に眠るという伝説のお宝、天狼玉を求めてはるばるやってきたのよ!」

 

「てんろうぎょく? うーん……?」

 

 

 そうしてウォーロッドの口から出てきた天狼玉なる伝説のお宝とやらも、やっぱり全くピンとこなかった。

 もしかしたら、ウォーロッドたちの方も何か勘違いをしてるんじゃ? そう一瞬考えて、ボクはメイビスの方へと意見を求めて眼をやって――

 

 

「……ゼーラ、もしかしてわからないんですか? 天狼玉。私たち天狼の民が代々守ってきた聖なる証……大切な宝石ですよ」

 

「え?」

 

 

 途端、そんなふうに返された。

 さっきボクにムスッと顔を矯正されたメイビスは、今度は呆れ顔をボクへと向けている。目を瞬かせるボクに対して零れた息は、さっき押し出したため息の余韻だろうか。

 

 ……いや、全然そんな感じじゃないな。

 

 

「あー……いや、うん。わかるよ、天狼玉。知ってる知ってる。ピカピカしててきれいだよね」

 

「わからないんですね」

 

 

 やっぱり心当たりがないのはボクだけみたい。知ったかぶりも速攻でバレて、じとーっと冷ややかな視線が返ってくる。

 そんなふうに見つめられるのも悪くはないのだけれど――とにかく、どうやらボクが知らないだけで天狼玉とやらはこの島に実在しているらしい。ただのアクセサリーや宝石なんかではない、伝説だなんて修飾語がつくほどの、知っていて当然なお宝が。

 

 ……ただ、正直それでも信じ難い。だって七年で島はもう探検し尽くしたはずなのだ。そんなもの、いったいどこにあるんだか。

 

 

「……けど、要するに大事なものなんでしょ? 代々守ってきたくらいの。ならウォーロッドたちには悪いけど、あげるわけにはいかないよね」

 

 

 所在も何もわからないけれど、とにかくメイビスが言うのならばそういうものがあったのだろう。であるなら、ボクはこう応じるしかない。

 なにせボクは天狼の民であるゼーラなのだから、一族の宝をあっさり譲り渡すわけにはいかない。メイビスと共に、ウォーロッドたちとの対立を選ぶ他なかった。

 

 

「まあ、そうなるな。(ワッシ)たちとしては天狼島に住人がいるとは知らずでね、この状況は想定外ではあるんだが……」

 

「それでも、天狼玉はS級の秘宝だ。この場所を特定するだけでも既にかなりの労力を費やしている。そう易々と諦められない」

 

 

 ウォーロッドとプレヒトの反応もまた、まあそうなるかという感じだ。お互い仲良しのままお別れする、という結末はこれで潰えてしまった。

 

 それはとても残念だけれど……それでもボクたちも引くわけにはいかない。

 じゃらりと、身じろぎしたプレヒトの袖口から覗く武器の輝きには腰が引けてしまうも、それでも決死の覚悟を決めて、ボクは二人に立ち向かった。

 

 ――のだけれど。

 

 

「そのことなんだが……」

 

 

 と、そこに一つ。ジリジリ増していく緊迫感の中で、ユーリが気まずそうに手を上げた。

 おずおずと割って入ってきた彼は、しかし口にしたのはそれまでで、喉の奥で言葉が詰まったようにもにょりと口元を曲げてしまう。

 

 

「……どうした。何か問題でも?」

 

「いや、その……だな。なんていうか……問題ってほど問題でもないんだが……」

 

 

 プレヒトに急かされても続きが出てくる様子はない。代わりにちらりと、メイビスの方へと眼が向いた。

 

 ……いったい何なのだろう。そりゃあこんな状況で彼らが気まずくないわけもないけれど、それでもユーリの顔に浮かんだそれはプレヒトたちのそれとはちょっと違う気がする。

 なんというか、盤上遊戯でものの見事にやり込められた時みたいな表情だ。打つ手がもうなくなって、降参宣言しなくてはいけなくなった時のような。ボクも鏡の中に似たような表情を見ることがあるからよくわかる。

 

 で。彼がそんな眼を向けている当のメイビスはというと――ユーリとは正反対に得意げな顔だった。さっきまでの不機嫌とは打って変わって、むふーっとかわいく鼻を鳴らして満足気。

 撫でまわして頬擦りしたくなるほどの愛らしさを振りまくその姿は、しかしボクには目もくれず(・・・・・)、ユーリたちへと堂々と口にした。

 

 

「ご心配なく! 天狼玉は確かに私たちにとって重要なものですが……差し上げます! ユーリとそう、約束してしまいましたから!」

 

「……えぇっ!?」

 

 

 なんで!? という声は驚きすぎて一周回ってどこかに消えた。

 

 またつい聞き間違いを疑ってしまうけれど、もちろんそんなわけもない。プレヒトとウォーロッドも、キョトンと目を瞬いた。

 

 

「約束……? 彼女とうまく取引できた、ということか?」

 

「いいことじゃないか。お手柄だぞ、ユーリ。……なのに、どうしてそうも気まずそうな顔をする?」

 

「い、いや……その、だなぁ……」

 

 

 二人の、感心しつつも訝しげなその視線に、やはりユーリはしどろもどろに眼を泳がせている。

 あっちはあっちで色々と疑問が絶えないようだけど、しかし当然、大問題なのはこっちの方だ。

 

 

「そ、そうだよメイビス! 天狼玉、あげちゃうの!? なんで!?」

 

 

 天狼の民にとって大切なものだと、他でもないメイビス本人が言った言葉だ。だからボクもプレヒトたちと仲違いする覚悟を決めたのに、どうして当の本人が?

 

 ……なんだかからかわれているみたいな心地だ。おかげで思わず飛び出た困惑の言葉は批難染みた声色になって、メイビスへと向けられていた。

 けれども、そんなボクを前にしても尚、メイビスの態度は変わらなかった。

 

 

「事後報告になっちゃったのは悪いと思っています。でも、別によくないですか? 大切な宝石とはいえ、ゼーラだって覚えていなかったくらいのものですし」

 

「そ、それはそうかもだけど……」

 

 

 ボク(・・)的にもあんまり執着もないんだけれど……それでもやっぱり、なんだか癪だ。

 

 

「……だって、もったいなくない? よくわからないけど、S級の秘宝なんでしょ? そんなのをタダであげちゃうなんてさぁ……親切にしても大盤振る舞いしすぎだよ、メイビス」

 

 

 まあそういう無欲な所もメイビスの美点ではあるけれど、今回はさすがに度が過ぎていると思う。いくらなんでもこのままじゃ、損した気分がすさまじい。

 それに、メイビスは一応とはいえ謝ってくれたけれども、それでもやっぱり嫌なのだ。事後報告――ボクのことなんてお構いなしに約束してしまったという、その行為が。

 

 きっとメイビスにそんな気はないのだろうけど、除け者にされている気分。普段、メイビスの笑顔一つで大抵のことは許してしまうのに、どうにもこれだけは見過ごせない。

 

 だからせめて天狼玉と釣り合うくらいの、納得できる理由が欲しい(・・・・・・)

 ドロリと暗い、とても口になんてできないそんな想いを、せめてボクは視線に載せてメイビスへと差し向けて――そして、

 

 メイビスは、ワクワクと期待に満ち満ちた笑顔をユーリへ向けた。

 

 

「もちろん、タダというわけではないのですよ! なにせ私とユーリの間で結ばれたのは、一方的な搾取ではなく互いに平等な取引ですから。ね、ユーリ!」

 

「うっ……あ、ああ……」

 

 

 そして一方のユーリはギクリと身体を跳ねさせた。さっきからその眼に滲む気まずさの理由がその“平等な取引”にあるのは明らかで、プレヒトとウォーロッドもメイビスに注目を向ける、その最中。

 

 

「天狼玉を差し上げる代わりに、この方々が私たちを妖精に会わせてくれるんです! 私たちにとってこんなにいいことはないでしょう!?」

 

 

 集まる視線を指し示し、メイビスはそう口にした。

 

 妖精。物語なんかによく出てくる、空想上の生物だ。

 そんなものに会わせてくれるなんて約束を結んでしまった肩身の狭いユーリに対し、プレヒトとウォーロッドは怒りよりも唖然が先に来てしまったらしい。今度はポカンと呆けている。

 

 そしてボクの方なのだけど……幸いなことに納得できた。妖精を見てみたいというのは、メイビスの幼いころからの夢なのだ。

 それをよく口にしていたのは昔のことで、今ではあまり聞かなくなっていたけれど、それでもずっと心の内で夢を募らせていたんだろう。それが叶うチャンスであるなら、それは確かに天狼玉を差し出すに値する。

 

 

「そっか……妖精に会えるなら、いいかもね」

 

「うん……!」

 

 

 まあ何はともあれ、メイビスがそうしたいのならばそうするのが一番だ。

 そう、ボクは納得できたのだけど……一方見やれば案の定、ユーリのほうは大揉めだった。

 

 

「妖精だと……? ユーリお前、本気でそんなことを言ったのか?」

 

(ワッシ)たちが言うことではないかもしれねーが、年端もいかぬ少女を誑かすのはどうかと思うぞ」

 

「た、誑かしてなんかいねぇよ! ただこう……そういう流れになっちまったっていうか……」

 

 

 言い訳すらをももごもごと口ごもるユーリに対し、我に返ったプレヒトとウォーロッドはすっかり呆れ顔だ。

 

 無理もない。妖精なんて実在するのかもわからない、ほとんど空想上の存在だ。それに会わせてやるだなんて、普通に考えれば世迷言。口から出まかせに決まっているのだ。

 そして実際、口ごもっていることから察するに、ユーリも別に当てがあったわけでもないんだろう。なのにそんな約束を交わしてしまったことは、二人から失望されるには十分な失態らしかった。

 

 

「私たちは詐欺師ではなく、トレジャーハンターだ。払う気のないツケで買い物はしない。……全く、天狼玉を手にする前でよかった」

 

「S級のお宝を譲り受けるという話は魅力的だが……嬢ちゃん、その対価は(ワッシ)たちには重すぎる。悪いがユーリと交わした約束とやらは、この場で取り消させてもらう」

 

 

 と、二人がそう話を閉じてしまうのも、また当たり前のことだろう。悪い人ならばこんなおバカな小娘二人、適当に言いくるめてしまえばいいだろうと考えるかもしれないけれど、プレヒトもウォーロッドもこの上なくいい人なのだ。

 となれば、だ。

 

 

「い、いやぁ……取り消すってのはなんていうか……俺も、できればそうした方がいいよなって、思ってはいるんだがな……?」

 

 

 と、そんなふうに未だおずおずと約束を貫き通そうとしているユーリは、やっぱり悪人だったのだろうか。

 そういうことになってしまうけれど、しかしもちろん、そういうわけでもない。

 致し方のない理由。ユーリがその約束から逃れられない理由もまた、平らな胸をドヤァと張っているメイビスにこそあるわけで、

 

 

「取り消しはできませんよ! だって、そういう勝負(・・)でしたものね、ユーリ!」

 

「う……」

 

「勝負……? おい、どういう意味だ、ユーリ。……待てよ? まさか、お前……」

 

 

 眉をひそめて、その時ふと何かに気付いた様子のプレヒト。ダラダラ冷や汗をかき始めたユーリをじろりと鋭く睨め付け――そしてメイビスはそんな責められっぱなしのユーリのことなどお構いなしに、それを明かした。

 

 

「A級秘宝、ジャッジメント・フィールドの中で『相手の真実を当てるゲーム』をしたんです! その中では嘘は厳禁。敗北すれば、私はただユーリに天狼玉の情報を教えるしかなかった。……であれば対等に、私が勝利した場合も約束は守られなければいけませんよね!? 私たちを妖精に会わせてくれるという約束を!」

 

「そうか、あれを使ったのか……。それで、ユーリは負けてしまったと」

 

 

 深々ため息を吐くウォーロッド。その、なんたら・フィールドのことはともかくとして――つまりメイビスとユーリが交わした約束は、口約束なんかではなく立派な賭けであったわけだ。

 互いにリスクを背負ったうえでの勝負の結果。ならば勝負の後に、今更「やーめた」は通じない。

 

 

「その上、こちらは天狼玉も差し上げると譲歩しているんです。……あなたたちが真っ当な人間であるのなら、もう私たちを船に乗せる以外の選択肢はないはずでしょう?」

 

「……とまあ、そういうわけでな……」

 

「「………」」

 

 

 ユーリに対し、プレヒトとウォーロッドから「なにやってんだこいつ」みたいな視線が向けられる。ユーリはまた一際居心地が悪そうだ。

 でもしかし、そこに声高な反発がないというのが答えだ。

 プレヒトとウォーロッドも、もうこの約束を取り消すことなんてできないと悟ったことだろう。大勢は決し、そして理もメイビスにあるのだから、二人がどれだけ不服でももうこの流れは止められない。約束は遂行されることになる。

 ボクとメイビスは妖精探しの冒険へと旅立つことになるのだ。

 

 だから……そうか。ボクも一緒にこの島を出ることになるのか。

 

 うーん、全く実感が湧いてこない。メイビスはそれが夢だったのかもしれないけれど、ボクは島から出るだなんて全く考えたこともなかった。

 ずっとメイビスと二人、この島で暮らしていくのだとばかり思っていたせいで……なんというか、ちょっと不安が拭えない。

 

 そんなボクの心情を、メイビスはわかっていたんだろうか。途端にぐるんと彼女の顔が振り向いて、そのさっきとは一転して真剣そのものにきりっとした表情がボクへとずいっと身を寄せた。

 

 

「ゼーラ、これはいい機会だと思うんです」

 

「……? 機会って、妖精の?」

 

「そうですけど、それだけじゃなくって……島を出て、外の世界に触れるってことが大事なんですよ。島に閉じこもったままじゃ知れないことも、感じられないことも、世界にはたくさんあるんです」

 

 

 一瞬、言葉を呑み込むような間を開けてから、メイビスはそう言った。

 口ごもったその言葉は、なんとなく理解できる。妖精探しがメイビスの念願であることもまた然りだ。

 

 けれど……外の世界に触れられる? それの何が大事なのか、ボクにはよくわからない。今の島での生活だって、十分すぎるほどに楽しいじゃないか。

 

 

「……ゼーラったら、ずっとお勉強を嫌がってましたもんね。でも、あれだってそう。私はゼーラに、もっとこの島の外のことを知ってほしいんです。海の向こうにはここよりももっと広大な世界が広がっていて、色々な人がいて、色々な想いが巡っている。そんな世界を知ることは、きっとゼーラにとっていいことだって思うから」

 

「ボクにとっていいこと、かぁ……。そうかなぁ? ボクは他の誰かよりも、メイビスのことを知れた方が幸せだよ」

 

「あはは……でもそれは、きっとゼーラが何も知らないからです。知らないままじゃ、見えないままじゃ、何もわからない。……だから勇気を出して、世界を見に行くんですよ……!」

 

「むむ……」

 

 

 知らないままじゃ何もわからない。なるほど確かに、その通りなのかもしれない。めんどくさがっていては何も始まらないというわけだ。

 とはいえそれでも、何も知らないボクからすれば全く気乗りはしないのだけど、

 

 

「いずれにせよ、妖精に会うためにも私は行きます。けれど一人の冒険なんて寂しいし、やっぱり私としてもゼーラが一緒にいてくれた方が嬉しいんですけど……それでも、ダメ……?」

 

「ダメじゃない! 行く行く! メイビスと一緒に行くよ、妖精探しの冒険!」

 

 

 そんなかわいく「ダメ?」なんて見つめられたら、そりゃあもう嫌だなんて言えるわけがないじゃないか!

 

 というかそもそも、メイビスが行くと決めた時点でボクについて行かない選択肢があるわけがないのだ。

 一人島に置いて行かれるなんて悪夢でしかない。湖での一人ぼっちの釣りのように、それならお勉強の頭痛に耐える方が遥かにマシと言えるだろう。

 

 それにまあ、メイビスと一緒ならなんであれ楽しいはずだ。……うん、想像したらちょっとワクワクしてきた。二人一緒に知らない森や山、あるいは町を探検するのはきっと楽しい。

 そこにプレヒトたちも加わるならば、世界を見て回るのも悪くないと思えた。

 

 

「『天狼玉と引き換えに妖精に会わせろ』、か。……なかなかの無理難題を吹っ掛けてきたものだな」

 

 

 と、そのプレヒトが、ふとため息交じりに声を向けてきた。

 お仕置きは一段落が付いたらしい。無言の非難は中々に聞いたようで、プレヒトの背後でユーリがしおしおになっている。

 

 そんな彼を憐れみつつも、しかしとにかく話の進展だ。苦い顔でボクたちに確認を取ってくるプレヒトに、メイビスは一つ頷いた。

 

 

「はい。もちろん一朝一夕で叶うお願いではないことは理解しています」

 

「……つまり、妖精に会うためのサポートをしろと? 我々の協力と引き換えに天狼玉を差し出すと。そういうことか?」

 

「はい」

 

「……わかった。それなら、私たちもそれを呑もう」

 

 

 いかにも渋々といったふうなため息をまたも吐きながら、プレヒトがとうとう折れる。

 メイビスの念願、その第一歩が結実し、喜びを抑え切れないというふうに震えるメイビスの様子を見やり、ボクもまたにっこり顔に笑みが浮いた。

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