FAIRY TAIL 七年間のゼーラ   作:もちごめさん

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第六話

 昏睡している間に、メイビスが男を連れ込んでた。

 

 ――というのはまたもボクの早とちりだったのだけれども、目を覚ましたら森の中、まっすぐ向こうの視界の先に黒髪で不思議な雰囲気の男の人がいて、びっくりしたのは本当だ。

 

 直前までの記憶も青い髑髏(ブルースカル)に追い立てられていたところで止まっていたし、そんなところに見知らぬ誰かが――どうしてか遠巻きだけれども――メイビスと親しげに話しているのを眼にすれば、混乱したって仕方ないだろう。

 ……それこそ、とうとうメイビスに春が来た!? なんて思ってしまうのも当然だ。

 

 という出会いの話はともかくとして、顔を真っ赤にしながら(ツガイ)説を否定してきたメイビス曰く、彼はものすごい力量の黒魔導士で、ボクたちは彼に魔法を教えてもらうことになった。

 

 青い髑髏(ブルースカル)と戦うためにはさらなる力が必要だ、というのがメイビスの言い分だ。

 確かにその通りだろうと思う。ジョフリーはそれほどの魔導士だったし、それは思い知らされた。もう一度話し合いに赴いたところで、きっと問答無用の攻撃が待っているだけだろう。

 戦う力は必要だった。それなしでも役に立つのだと意気込んでいたけれど、もうそうは言っていられない。お勉強アレルギーの頭痛を堪えて、ボクはみんなと一緒に黒魔導士さんの授業を受けることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、その結果がこれだ。

 

 

「――ふんっ! むむむむむ……!」

 

「気合いだ! ゼーラ、もっと気合を込めろ! 腹の底から絞り出すんだ!」

 

「うん! うおおぉぉぉっ! 魔法、出ろぉっ!」

 

「残念だけど、気合の問題じゃないと思うよ」

 

 

 いくらやっても、魔法は全然使えなかった。

 ユーリに傍で応援されながら必死の思いで頑張って、結果、何も起こらない。

 どれだけ頑張ってもかざした手のひらからは何も出ず、結局は踏ん張るボクの体力が先に尽き、やがてヘロヘロとへたり込むことになってしまった。

 

 うう……踏ん張り過ぎてクラクラする……。いったい何が悪かったんだろう。酸欠のせいで話す余裕もないくらいにゼエハアと言いながら、視線で黒魔導士さんに尋ねてみる。曰く気合の問題じゃないのなら、果たしてこんなことになった原因は何なのかと。

 ……いやまあ、正直、答えてもらわずともはっきりしていることなのだけど。

 

 

「……君は、エーテルナノを全く吸収できていない。魔力の源であるエーテルナノを身体に取り込むことができていないなら、体内の魔力を使用して発動させる魔法が使えないのも当然のことだ」

 

「う、うん……」

 

 

 そう、その通り。ボクは魔法がどうこう以前に、そもそも魔力を手にできていないのだ。

 

 大気中に漂うエーテルナノを身体に取り込む。それが魔導士の修行の第一歩だったのだけど、修行開始からそこそこ経った今となって尚、ボクだけがそれをできていない。

 例えばユーリなんかはとっくの昔に魔力で雷を放つことができるようになっているのに、ボクはその初歩の初歩、一歩目で躓いたままだった。

 

 

「エーテルナノを取り込むことはそう難しくないはずだけど……。不思議だね、どうしてそうも上手くいかないんだろう? 正直、僕にもさっぱりだ」

 

「う……そ、そうなんだ……」

 

 

 誰よりも魔法に詳しい黒魔導士さんにもお手上げならば、ボクももう言えることは何もない。

 黒魔導士さんはそんなボクへと申し訳なさそうに、考え込みながら口にする。

 

「……本当に不思議だ。これだけの時間をかけて少しもエーテルナノを吸収できないなんて、そんな症例は今まで一度も聞いたことがない」

 

「えっと……ボクのやり方が間違ってる、ってわけじゃないんだよね……?」

 

「……うん、そうだ。間違ってはいないはずなんだ。……だけど君の場合、呼吸と共に吸い込んだエーテルナノをそのまま呼吸で吐き出してしまっている。まるで、そもそもエーテルナノを吸収するための機能が備わっていないみたいに……。先天性の疾患か……? それとも何か外的要因によるものなのか……しかし、やはり……」

 

 

 と、しばらくうんうん唸っていた黒魔導士さんだけれど、結局やっぱりその顔色は変わらずだ。

 

 

「……ゴメンね。魔法を教えるなんて言ったけれど、君の問題は僕には手に負えそうにない。何かのきっかけか、あるいは根気強く修行を続けていればいつかは魔力を身に宿すこともできるかもしれないけれど……僕に言えるのは、それだけだ」

 

「そっか……黒魔導士さんがお手上げなら、仕方ないね……。ありがとう」

 

「……ゴメンね」

 

 

 伝えるべきアドバイスも、特に何も思いつけなかったらしい。結局黒魔導士さんは二度ボクに頭を下げて、そのまま木立を離れていった。

 

 いかにも気まずそうなその足が次に向く先は、同じく修行に励むプレヒトの方だ。青い髑髏(ブルースカル)に襲われた時の怪我で隻眼になってしまった彼は、しかしボクたちの中で一番の魔法の才能を持っていると、黒魔導士さんに太鼓判を押された逸材だった。

 

 ずるい、なんて僻みの気持ちが湧いてしまうのは避けられない。自分が嫌な奴になってしまったみたいでさらにショックだ。

 気分は落ち込んでいく一方。そしてその原因は、全てボクが魔法修行の落ちこぼれであることに起因する。

 

 ……本当に、どうしてボクだけこんなに魔法がへたくそなんだろう。それも黒魔導士さんの言葉から察するに前人未到なレベルに壊滅的だなんて、ショック以前に正直信じられない。

 だって……ボクのこの身体はゼーラのものだ。魔導士ギルド赤い蜥蜴(レッドリザード)のマスターの娘なのだから、普通に考えて平均以上には魔法の才能があって然るべきだろう。

 それとも、中身が“ボク”だから? ボクがある意味、魔導士さんの言う“疾患”であるなら――

 

 

「――はあぁぁ……」

 

 

 気分はますます盛り下がる。口からは長々続くため息が、瘴気みたいに漏れ出すこととなった。

 その時だ。

 

 

「ま、元気出せよ……っと!」

 

「ふぎゃあっ!?」

 

 

 ばしーん、と背中に衝撃。振動がお腹に巻いた包帯の下の傷に響いて、思わず声を上げてしまう。

 

 うぐぐ……痛い。ほんとに痛い。さっきまでボクを苛んでいたモヤモヤ気分が吹き飛ぶくらいの激痛だ。

 

 

「あー……悪い。ちょっときつかったか?」

 

「ちょっとどころじゃないよっ! うぐぐぐぐ……怪我人をひっぱたくなんて、ひどいよユーリ……」

 

 

 涙をこらえて代わりに恨みの眼をやれば、ボクの背中にきつい一発を放ってくれたユーリがバツが悪そうに頬をかいていた。

 ……まあ、あれがボクを元気づけるための一発であったことはわかってる。だから怒ったりはしないけれど……せめてもうちょっと手加減くらいしてほしいものだ。

 

 ユーリやプレヒトと違って、ボクは青い髑髏(ブルースカル)にやられた傷がまだ全然癒えていないのだから。

 

 

「……随分治りが悪いんだな。マグノリア(ここ)へ来るまでも色々あったし、体力が落ちてるのかね」

 

「そうだよ! だからまだカサブタもできてないんだから! ……痛くて夜も眠れないくらいなんだから、そこのところをもうちょっと理解してもらわないと」

 

「……でもお前、瞑想修行の時、何回か居眠りしてなかったか?」

 

「ね、寝てないよ! あれは、その……静かでポカポカ陽気だったし、つい気持ちよくなってうとうとしちゃっただけで……」

 

「………」

 

 

 じゃあつまり、夜も眠れないくらい痛いというのは嘘なんじゃ?

 

 ……まあ、はい。嘘です。そこまでの痛みじゃないです。

 けれどしかし、痛いのは本当なのだ。自分で自分の誇張を看破してしまうなんて醜態を晒しながら、そこだけは主張すべくユーリへと非難の眼を向け続ける。

 

 

「とにかく、ユーリのせいですごく痛かったんだからね! これでますます傷の治りが遅くなっちゃったらどうしてくれるのさ!」

 

「悪かったって。埋め合わせはするからさ」

 

「じゃあ、ボクを魔法が使えるようにして!」

 

「……拗ねるなって」

 

「拗ねてない!」

 

 

 ……うん、これも嘘だ。でも正直、もう八つ当たりでもしないとやっていられないような気分なのだ。

 

 そんな自分勝手だったのだけど、律儀なユーリはうんざりしつつも頭を捻ってくれたようだった。なんとかボクの無茶ぶりを叶えてやろうとうーんと唸って――しかしもちろん、ボクと同じく魔法素人なユーリに妙案なんて思いつくはずもない。

 

 

「……やっぱあいつ(黒魔導士)の言う通り、修行を続けるしかないんじゃねぇの? 覚えが悪いなら、その分時間をかけてやってくしかないだろうさ」

 

「でも、うまくいく気がしないんだよぅ……。瞑想は……ほら、どうしてもうとうとしちゃうし……」

 

 

 それに今日までずっと座禅を組んで我慢して、その結果がこの“ただの一歩も進歩無し”なのだ。同じことを続けていればいいとは、とてもじゃないけど思えない。

 そうじゃない、何か別のアプローチが欲しかった。だから、ユーリが絞り出した鼓舞の言葉には「そうじゃないんだよなー」と息が零れた。

 やっぱり瞑想(そう)するしかないのかなぁと、結局は諦めのため息となり――だがしかし。

 

 

「眠くなるんなら座禅じゃなくて、別のやり方でやればいいだろ」

 

「え……?」

 

 

 ユーリがさらっとそう言った。

 

 ごく自然に出てきたその提案。ユーリからしてみれば、たぶん問題解決には全く寄与しない、単なる気分転換程度の意味合いだったのかもしれない。

 けれどしかし、藁にも縋るくらいに行き詰ったボクにとって、それは正に天啓だった。

 

 

「精神統一になればそれでいいんだからさ。現に俺なんか、スクワットで魔力に目覚めたんだぜ?」

 

「スクワット……そうだったんだ!」

 

 

 確かに、瞑想は別に座禅である必要性はない。要はリラックスできて、集中できればそれでいいのだ。

 

 

「教えてくれてありがとう、ユーリ! ボクも早速やってみるよ!」

 

 

 手段は何であっても構わない。それを証明してくれていたユーリに感謝を示しつつ、立ち上がる。

 

 とはいえそのままスクワットを開始しても、きっと意味はないだろう。それはユーリがユーリだからこそうまくいった方法で、それが彼にとって精神統一に最も適した手段だったからなのだから。

 やるべきはマネっこではなく、ボクにとって最も適した手段を探して実行することだ。

 さてそれは何なのかと、しばし頭の中で考えて――すぐに思いついた。

 

 

「確か前、向こうにちっちゃな池があったって言ってたよね? ボク、ちょっと泳いでくる!」

 

 

 水面にぷかぷか浮きながらなら、きっとうまくいくに違いない。天狼島でもよくそうやってぼんやりしていたし、しかも水が冷たいからうっかり眠ってしまうこともない。

 

 うん、まさにこれだ。完璧だ。

 これなら魔力もすぐに身につくはず。ようやく見出した希望の光に、ボクは尋ねたユーリの返事も待たずに駆け出した。

 

 

「お、おう。迷わないように気をつけろよ」

 

「うん!」

 

 

 遅れて背中越しに追いかけて来た、ユーリからの“いらぬ心配”。大して聞かずに返事して、ボクは森の奥深くへと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてたどりついた池は、天狼島でよく水浴びをした湖と似た雰囲気の、美しい場所だった。

 

 苔むした古木に囲まれて澄んだ水と空気を湛えたそこは、どことなく神秘的。静かで穏やかで、まさにボクにとって理想的な環境だ。

 前までのように座禅を組むよりもずっといいことは間違いない。ここならばきっと、ボクも手から炎を生み出したりだとか、そういうことができるようになるはずだ。

 そうしてみんなと一緒に魔法使いに至り、今度こそ青い髑髏(ブルースカル)を打倒して、天狼玉を取り返す。そのための一員に、きっとなれる。

 なれるのだと、そんな希望で沸き立つ胸を押さえながら、ボクは服を脱ぎ捨てて修行へと臨んだのだった。

 

 ――と、そこまではよかったのだけれども。

 心ではなく身体の方が、無念にもその冷たい水に耐えることができなかったのだ。

 

 

「ぐうぅ……っ! い、痛いっ……!!」

 

 

 我慢していたけれど限界で、水に浮かべていた身体を起こして身をねじる。

 

 希望の光に目がくらみ、うっかり頭から抜けていた。そうだった、ボクは今、身体に大怪我を負っているのだ。

 それも、まだ表面に薄皮も張っていないような生傷が、脇腹の包帯の下に残っている。そんな傷のまま水の中へと飛び込んだなら……当然、傷に染みる。

 ユーリのあの一撃と違って耐えられないほど痛いわけではないけれど、それでもやっぱり、リラックスして集中なんてとてもじゃないけどできなかった。

 

 

「うぐぐ……せっかくうまくいきそうなのに!」

 

 

 この傷のせいで台無しだ。イライラ任せにペチンとひっぱたいて報復し、その報復の報復で「ふぎゃあっ!」とまた叫んでしまう。

 馬鹿馬鹿しいやら情けないやら無念やら、諸々混ざってただただ落ち込み気分にため息が出る。水につかったまま湖底の土を踏む足も、なんだかひどく頼りない感じがした。

 

 

「……やっぱり、もう諦めた方がいいのかなぁ……」

 

 

 押し退けたはずの弱気もが、また表に顔を出してくる。でも実際、再びの打つ手なし状態なのだ。ここでさらに座禅、水上浮揚に続く第三の修行方法が下りてくるなんて考えるのはあまりにも都合が良すぎる。

 もうボクが魔力に目覚められる見込みがないのなら、いっそのことすっぱり諦めてしまうのが利口だ。

 

 ……けれど、そんな事は座禅の時からずっとわかっていることで。そして今日までずっと諦められなかったその理由も、今だボクの内にはあるわけで。

 

 

「メイビス……」

 

 

 魔法を諦めてしまったら、ボクはメイビスの役に立てないのだ。力を手に入れられなければ、戦う力を求める彼女の隣に立つことはできない。

 だからボクは今日まで魔法を、戦うための力を諦められなかった。そしてそれは、今もそうだ。

 

 

「でも……はぁ。もうどうしたらいいのかわかんないよ……」

 

 

 だからボクは、もうため息を吐く以外に何もできなかった。

 

 ……もうこうなったら、いっそ剣とか槍とか持ってみようか。あんな重たいものは魔法以上に扱える気がしないけど、何もないよりはマシなのかも。

 あっという間に三回目のため息が長々零れた。

 その時だった。

 

 

「……わぁ! ゼーラ、またなんて格好してるんですか!」

 

「えっ……メイビス?」

 

 

 突然の声に顔を上げると、水際にいつの間にやらメイビスが立っていた。頬をほんのり赤くした眼がボクを見つめて、それから慌ててきょろきょろと辺りを見回した。

 

 

「こ、ここは私たちだけの天狼島島じゃないんですよ? というか、天狼島でもあんなことがあったんだから……少しは懲りるべきです!」

 

「懲りるって……何を?」

 

「な、何をって……は、ハダカになってることです! ユーリたちに見られたらどうするんですか!」

 

 

 「また誰かが変態呼ばわりされちゃいますよ!」と、アワアワしながら言うメイビス。……されちゃうも何も、あの時プレヒトを変態呼ばわりしていたのはメイビスじゃ?

 なんてツッコむ空気じゃないことくらいはわかるので、出かかった台詞はぐいっと呑み込む。

 

 

「でも……その誤解はもう解けたでしょ? なら、大丈夫じゃない? ウォーロッドだって冗談で言っただけだし、もう誰も変態だなんて言われて怒ったりしないよ」

 

「そ、そうですけどそうじゃなくって! 男の人にハダカを見られることが問題なんです!」

 

「……? なんで? 見られて困るとこなんてなんにもないよ?」

 

「ぐぅ……ゼーラのお勉強嫌いに甘い対応をしていたツケ、ですか……。せめて情操教育だけは、縛り上げてでも受けさせるべきでした……!」

 

 

 メイビスの言うことはちょっとよくわからない。裸でも服を着ていても、ゼーラはゼーラじゃないか。いったい何が違うというんだろう。

 自分の身体を隅々まで見回して、あちこちペタペタ触ってみても異常は特に見当たらない。なのにメイビスはますますアワアワと、顔の血の気も真っ赤に増やして、挙句に何やら不穏なことまで言い放った。

 

 縛られて無理矢理お勉強。まさに悪夢だ。そうならなかったことに安堵しつつ、そういえばと話題を変える。

 

 

「メイビス、どうしてここに? 特別な魔法の練習をしてるんじゃなかったっけ? 確か古代の……絶対心配魔法とかいう――」

 

「絶対審判魔法、【ロウ】です! ……はぁ。ええ、その修練の最中だったのですけど、ゼーラの悲鳴が聞こえてきたので。大丈夫だとわかってはいましたが、さすがに気になっちゃったので場所をユーリに聞いたんです」

 

「ああ、なるほど」

 

 

 きっとユーリに背中をひっぱたかれた時の声だろう。どうやら本当に心配させてしまったらしい。

 

 かっこいい魔法の修行の邪魔をしてしまってごめんなさい。謝るも、黒魔導士さん曰くそもそも完成までに十年はかかるという魔法なのでそこはどうでもいいんだとか。

 だから「それよりも」と、メイビスは首を振って水に入り、真剣の眼差しでボクの顔を覗き込んできた。

 

 

「ゼーラ、このところ元気がなかったでしょう? だから私、やっぱり心配だったんです。……こんな森の中の池に一人で行って、泣いているんじゃないかって」

 

「な、泣いてなんかいないけど……」

 

「落ち込んでるのは当たってた。でしょう?」

 

 

 それは……まあ、否定できない。

 ただ、メイビスはそんなボクを心配し、慰めに来てくれたのだろうけど……

 

 

「う、ううん。そんなことない。ボクは大丈夫だよ」

 

 

 その心の内を、メイビスに明かせるわけもない。他の皆ならまだしも、メイビスには知られたくなかった。

 メイビスを助けてあげられない、こんな無為なボクのことを。

 

 だからとぼけて隠したかったけれど、メイビスにはそんなボクのごまかしなどに騙されはしなかった。お見通しだと、視線がブレブレなことを指摘され、一歩ずいっと詰められて池の深みへと押し込まれた。

 

 

「嘘を言わないで。ゼーラが私のために頑張って魔法を覚えようとしてくれてることも、それができずに苦しんでいることも、ちゃんとわかってます。……ゼーラがどれだけ私のことを想ってくれているのかも、わかっているつもりです。だから……これだけは言わせて」

 

 

 メイビスの手が、ボクの背に回る。ぎゅっと強く抱きしめて、熱い頬が触れあった。

 そして耳元で、ささやくような彼女の声がそう言った。

 

 

「……私も、同じくらいゼーラのことを想っています。魔法が使えなくたって、あなたの笑顔に私はいつも救われているんです。だから――」

 

 

 いつまでも、一緒にいてね。そんな優しい言葉がボクの耳朶を打つ。

 けれど、でも――

 

 ――その想いは、本当にボク(・・)へと向いているの……?

 

 

「っ……」

 

 

 ぶるり、と頭を一振り。たちまち思考の兆しを振り払う。

 降り積もった劣等感諸共吹き飛ばし、空にした頭で、ボクもメイビスの細い身体を抱きしめた。

 

 

「……うん。妖精に会いに行くって、約束だもんね」

 

 

 ふわふわの金髪に顔をうずめる。そうすれば、思考の余韻もあっという間に遠ざかった。

 

 ――で、そのままメイビス成分を吸い込めば、あっという間に元気復活だ。顔がふにゃふにゃに解けるまでしっかりと堪能し、そんな頃にとうとうメイビスから「あの……そろそろ離してください」と遠慮がちに言われ、渋々抱きしめていた腕を解く。

 身体が離れた拍子に押し付けられた服を着て、水から上がって一息。

 

 

「じゃあ冒険のためにも、早く天狼玉を取り戻さないと! ……そういえば、作戦は思いついたの? 例えボクたちが魔法を身に着けても覚えて数日の付け焼刃じゃジョフリーには敵わないって、メイビス言ってたけど……」

 

「ええ、もちろん! 一案ですが、諸々の計算は済んでいるのですよ! 作戦通りにいけば誰も怪我せず天狼玉を取り戻して、その上マグノリアの街を青い髑髏(ブルースカル)から解放することも叶うはずです!」

 

「おお、すごい! さすがメイビス!」

 

「えっへん! ……ただ、計算上安全なはずですが……この作戦ではゼーラにはちょっと危険な役目を負ってもらうことになります。そこだけが心配なのですけど……」

 

「大丈夫、任せて! メイビスのこと信じてるから、ボク頑張るよ!」

 

「……わかりました。ではやはり、この作戦で行きましょう。……そうですね、ついでに簡単に内容の打ち合わせもしておきましょうか」

 

「うん!」

 

 

 頷いて、そしてボクは晴れやかな気持ちのまま、メイビス肝いりの天狼玉奪還作戦に耳を傾けることとなった。

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