突如として暴れ出し、街を破壊し始めた骨ドラゴンの正体は、ユーリだった。
どうしてそう言いきれてしまうのかといえば、目撃者がいたからだ。ユーリが天狼玉の邪悪な力に呑み込まれ、骨ドラゴンに乗り移るさまをその眼で目撃したのだそう。
その証言が
ボクたちの呼びかけにも反応を示さず、邪悪な意思が向くままにただただ破壊を振りまく異形。ユーリは、そんなものに変わってしまったのだった。
「ッ……!! おい、ジョフリー!! 貴様、今何と言った!? あれを……ユーリを、殺せだと……!?」
プレヒトが、縄と魔法を封じる手錠で拘束したジョフリーに掴みかかっていた。怒声と共に胸ぐらを締め上げて、そしてそんな扱いに顔を歪めながら、ジョフリーもまた叫び返した。
「そうだ!! それ以外に方法などあるまい!? さっさと始末をつけねば、奴はこの街を亡ぼすまで止まらんぞ!!」
「ふざけるなッ!! あいつは……ユーリはそんなことをするようなやつではない!! 意識さえ戻れば、きっと――」
「だから、どうやって意識を取り戻させるつもりなのだ!? 私は天狼玉の暴走を制御する方法など知らない!! そして天狼の民の末裔もまた、何も知らなかった!! どうしようもないのだ!! 貴様らのお仲間は、もはや誰にも助けられん!!」
あれはもはや、邪悪の化身だ。
その言葉にプレヒトも、そしてウォーロッドも、ぐっと喉を詰まらせた。
否定はできない。事実声は少しも届かず、視界の先の骨ドラゴンは今なお破壊の限りを尽くしている。
人も建物も見境なく、踏み潰し、焼き尽くしているのだ。それは災厄以外の何物でもなかった。
ボクも……そう思う。いや、それ以上に恐ろしい。
天狼島の図書館で本にジュースをぶちまけてしまって怒られた時や、島で一番大きな魔獣に一晩中追い掛け回された時。怖い思いをしたことはこれまでにも何度もあるけれど、そんなものは比にもならないだろう。
根源的な恐怖、とでもいいんだろうか。あの骨ドラゴンから発せられている、“邪悪”を極限まで煮詰めたような、おぞましいまでに
とにかくヤバい。ここまで漂ってくるそれがヤバすぎて、気を抜けば我を失ってしまいそうなほどに。
できることなら一刻も早くここから逃げ出してしまいたいくらいだ。……なのに、プレヒトたちはこのおぞましい瘴気に気が付いていないんだろうか。ボクからすれば、言い争う彼らの様子は
……いや、これほど恐ろしい気配を無視できるはずもない。きっと彼らも必死に耐えているのだ。恐慌状態になっていたっておかしくないはずなのに。
が、しかし。そんな二人の鋼の精神力を以ってしても、この状況をどうにかする手立ては思いつけない。あの骨ドラゴンを前に、そんなものが思いつけるはずもない。
結果、二人は歯を噛みながら拳を震わせた。
「……倒すしか、ないのか……ユーリを……」
「そうだ!! それしか道はない!! だから早く、私の拘束を解け!! 力を貸してやる!!」
「バカを言うな!! なぜお前を解放しなけりゃならん!? ……ユーリは
「貴様こそバカか!? あんな化け物を、貴様ら程度の魔法でどうやって殺すというのだ!! 下らんことに拘っていないで、早くしろッ!!」
ユーリを止める。そう決断したプレヒトたち。
けれどもちろん、ジョフリーの解放にはうんとは言えない。よしんば協力できたとしても、その後にまた敵対することは眼に見えているからだ。
とはいえジョフリーの言う通り、ボクたちだけでユーリをどうにかできるとは、正直全く思えない。あの邪気はきっと、生半可な攻撃じゃびくともしないだろう。
だから、プレヒトたちもわかっていながら一瞬迷ってしまったようだった。ジョフリーの声に一瞬だけ息を詰め、またギリリと歯を食いしばって――そしてその時。
「ジョフリーの手を借りる必要は必要ありません」
「なに……!?」
メイビスが言った。
メイビスは暴れる骨ドラゴンの方を、厳めしい顔でまっすぐに見つめていた。彼女もまたボクのように怯えることなく、堂々たる佇まい。そこから放たれる拒絶の言葉に、ジョフリーも勢いを挫かれたように返しの言葉を詰まらせた。
「な、何を言っているのだ小娘が……!! 私の力なしで、どうやってあの化け物を殺すというのだ!?」
「いいえ、殺したりなんてしません。私はユーリを諦めたりしない……必ず、助けます!!」
そして続いたメイビスの堂々たる宣言は、ジョフリーだけでなくプレヒトたちをも絶句させることとなった。
ボクとしても、その言葉はあまりに大きな衝撃だ。だって、いったいどうするというんだろう。あんなすさまじい邪気に囚われてしまったユーリを助けるなんて、ユーリを終わらせてあげるよりもはるかにずっと難しい。
いや、不可能だ。そんなことはできるはずがない。
「メイビス……だが、どうやって……!?」
「ッそ、そうだ!! 貴様の矮小な幻魔法で、いったいどうすればそんな芸当ができる!?」
「……私が使える魔法は、幻の魔法だけではないのですよ」
言い返すメイビスの眼は、まっすぐ骨ドラゴンへと向いたままだ。ただそこに滲む決意の固さは明らかで、故の説得力が言葉と合わさり、ボクもハッと気が付いた。
「まさか……【ロウ】を使う気なの!? メイビス!?」
「はい」
思わず震えてしまったボクの声に頷くメイビス。しかし周囲の三人には何のことやらわからないだろう。プレヒトもウォーロッドも、メイビスがそれを学んでいたことを知らないのだ。
【ロウ】。メイビスがあの黒魔導士さんから教わって、今日までずっと修行し続けている古代の超魔法だ。善悪を分け、悪だけを滅するというそれならば、確かにユーリをあの邪気から救い出すこともできるのかもしれない。
けれど――
「あ、あれってまだ未完成で、完成するまでは使っちゃいけないんでしょ!? どんな副作用があるかわからないって……!!」
「リスクは承知の上です。でも、ユーリを助けられる可能性があるとすれば、【ロウ】以外にないんです」
「それでも、危なすぎるよ!! 第一、どうやってユーリに【ロウ】を使うつもり!? あの邪悪な力がどれだけ危険なのか、わかんないの!? ……近づくだけで、殺されちゃう……!!」
ユーリを救うその可能性は、あまりにも希望がなさすぎるのだ。
メイビスはリスクは承知の上なんて言うけれど、確信がある。絶対に、そのリスクを正しく認識できていない。
仮に【ロウ】が有効で、その後の副作用がなかったとしても尚、無謀だ。【ロウ】を当てるためには幾らかユーリに近付かないといけないけれど、あの悪意の塊がメイビスの接近を許してくれるわけもない。すぐさまその邪悪な力を振りかざすに決まってる。
もしそうなってしまったら。――考えることすら恐ろしかった。
「ねえ、メイビス……一緒に、妖精に会いに行くんでしょ……? こんなところでもしものことがあったら、それができなくなっちゃうんだよ……? ね? だから、さ……」
「そうですね……いつか妖精に会いに行く。ずっと、私の夢でした」
「なら――」
と、一瞬わかってくれたのかと期待したけれど――変わらないメイビスの力強い眼差しに、それはたちまち打ち砕かれた。
「ずっと、冒険がしたかったんです。未知と危険を潜り抜けて、そしてかけがえのないものを手に入れる。そんな楽しい冒険が。……だから、私は手に入れたものを失いたくない。ユーリを失いたくないんです。みんな大切な、仲間という名の私の宝だから」
「っ……」
仲間。そりゃあそうだ。ユーリだけでなくプレヒトもウォーロッドも、メイビスと比べればはるかに短い付き合いだけれど、ボクにとっても大事な仲間に違いない。
見捨てられない気持ちその気持ちは当然だ。否定なんてできるわけもない。
――ただ、それでも。
「それでも……っ。ボク、イヤだよ……!! メイビスを死なせたくない……っ!!」
心の天秤は、どうしたってそっちに傾いてしまうのだ。
嫌だ。本当に嫌だ。メイビスを死なせてしまうことも、こうしてユーリを天秤の端に乗せてしまっていることも。
「もう、帰ろうよ……。天狼島で、今までそうしてきたみたいに……。メイビスと一緒に楽しく暮らせたら……ボクはそれだけでいいのに……」
「ゼーラ……」
こんなの、どうしたって弱気になってしまう。蝕まれる心から、船に乗るため奥にしまい込んだはずの思いまでもがこぼれ出てしまった。
メイビスは、そんなボクを抱きしめた。優しく、宥めるように僕の背中を撫でるその手。けれどその優しさが、メイビスの意志が変わりないことをありありと示していて、
「それでも、私はいかないと」
抱きしめ返そうとしたボクの手をすり抜けて、離れたその顔がはにかむように微笑んだ。
「これ以上甘えてたら、あなたに顔向けできなくなっちゃいますから」
ボクを見つめながら、同時にその向こうを見ているような、そんな顔。
それがボクの網膜に影を作って――その直後だった。
「――ッ!! 全員、伏せろッ―――――!!」
プレヒトが突然切迫の声を上げ、同時にメイビスがボクの身体を突き飛ばした。
轟音。ちょうど真上の頭上を謎の光線――もとい骨ドラゴンの
もうもうとたちこめる土煙。ゲホゲホ咳き込みながら一拍置いて、ようやく心臓がバクバク言い始めた。危うくぺちゃんこになるところだった!
周囲には屋根の破片やら壁の欠片やらが撒き散らされているけれど、幸いなことに身体に痛みはほとんどない。尻餅をついたお尻の肉が少し痛いくらいだ。
メイビスが突き飛ばしてたおかげで、どうやらボクは無傷で済んだみたい。ありがとう――を言おうとして、その瞬間に我に返った。
「ッ!! メイビス!?」
姿は見えた。瓦礫の向こう側、土埃のもや越しだけれども、彼女もまた怪我なく無事に済んだみたいだ。
が、メイビスの方はこっちの無事を認めるなり、背を向けて走り出してしまったのだ。
その眼に宿る決意の通り、ユーリを助けに行ったことは明白。しかしそれはボクからすれば自ら死にに行くようなものだ。
メイビスが死ぬ。守ってあげられない。
そう思考が繋がって、ボクの身体はたちまち突き動かされるようにしてメイビスを追いかけた。
「おい、皆無事か――ゼーラ!?」
背にかけられるプレヒトの声にも応えられず、瓦礫の山を苦労しながら乗り越えて、もやの向こうに消えてしまったメイビスを追い、ボクの身体は駆け出す。
「待って……!! 待ってよ、メイビス!!」
あれだけ必死に言ったのに、どうして聞き入れてくれないの――なんて恨み言染みた声はグッと呑み込む。ユーリを助けるメイビスの意志は本物で、そのリスクの大きさを認識できていない以上、もう何を言ったってメイビスが立ち止まってくれるような余地はないからだ。
故に、そんなメイビスのためにボクにできることがあるとすれば、彼女のその無謀に素直に手を貸してあげる以外ない。
もはやユーリをあの邪気から解き放たないと、メイビスは助けられないのだ。
けれど――
「……どうやって?」
結局話はそこにたどり着く。ボクを突き動かしていた強迫観念のような焦りも、そこに思い至って急速に萎んでいった。
プレヒトでもウォーロッドでもジョフリーでも、そしてメイビスでも太刀打ちできない、あの邪悪。それに対して、魔法もろくに使えないボクにいったい何ができるというんだろう。
戦えない。盾にもなれない。そんなボクじゃどうしたって、どうにもならない。
心までが押し潰されてとうとう足が完全に止まってしまった。
そして、だからこそ気が付いた。不意に聞こえた、たくさんの小さな鈴が鳴るような音。見上げた空から、輝く金貨が雨のように降り注いでいた。
トレジャーハンターのみんなが喜びそうな光景だけれど……すぐにわかった。これは幻だ。
手のひらや石畳をすり抜け消えてしまうその存在は、もちろん彼女と結びつく。ハッとな手辺りを見回し、そしてほどなくボクはその姿を見つけ出した。
「メイビス……!!」
建物の屋根の上だ。暴れる骨ドラゴンを見据えるメイビスが、周囲に幻の金貨を降らせている。
どうしてそんなことを……? 一瞬だけ疑問がよぎるも、そんな事は後回しだ。すぐに頭から吹き飛んで、また衝動のままに動いた身体が半ば瓦礫と化した建物を這い上る。
「メイビスっ!! もう……お願いだから、戻ってよ……!!」
すぐに屋根までたどり着き、メイビスの背にそう叫んだ。
……戻ってなんて、いくら言おうとメイビスが頷くことなどないことはわかってる。けど、それ以外に何を言えばいいんだろう。
わかっているからこそ、ボクはまた言い募るしかなかった。そして振り向いたメイビスが返す答えも、また同じようなものでしかない。
「ごめんなさい、ゼーラ。でもやらなきゃだめなんです。これまでの冒険を、そしてこれからの冒険を、楽しい思い出にしたいから……ううん、そうしないといけないんです……!」
「でも……ダメだよ、そんなの……!! だって、このままじゃ……」
メイビスが死んじゃう。ボクはそれを、助けてあげられない。
メイビスの役に立てない
メイビスにとって必要のない存在になってしまうのだ。
それが、ボクにとっては何よりも恐ろしいことだった。何ならあの、邪悪な瘴気なんかよりも。
「――ッ!! ゼーラッ!!」
「――ッあ」
深く深くから浮かび上がってきたその想いが、とうとう思考にまで届いてしまって――その時。不意にボクの身体を浮遊感が襲った。
骨ドラゴンだ。あの瘴気の塊が、ボクたちめがけて突っ込んできたのだ。
我に返って、肌を冷気で焼かれるような感覚にようやく気付いた。つまりあの幻の金貨も、骨ドラゴンと化したユーリを刺激しおびき寄せるためのものだったんだろう。
けれどそのせいで、立っていた崩れかけの屋根が今度こそ完全に吹き飛ばされてしまった。浮遊感はそのせいだ。成す術なく、ボクは崩れる屋根と共に遠い地面へと落ちて行って――
その前に、ボクの腕を捕まえてくれたメイビスの手に助けられた。
こんな時でもかわいいメイビスの必死な顔が、一生懸命にボクを引っ張り上げてくれる。地面が揺れて、その反動で一気に身体が持ち上がり、どうにか青色のでっぱりへと取り付くことが叶った。
……いや、ていうかコレ、骨ドラゴンの背中の上だ。
「………!!?」
パニックだ。当然、こんなおぞましい瘴気に乗ってしまったのならば、我を失わざるを得ない。気絶したっておかしくはなかっただろう。
けど、そうはならなかったのは――メイビスが、掴んだ腕を引き寄せて、そのままボクを抱きしめて言ったからだ。
「ゼーラ。森の池で、私、言ったでしょ? ゼーラがどれだけ私を想ってくれているのか、ちゃんとわかってるって」
「え……」
メイビスの声が鼓膜から頭に染み込んで、パニックが押し退けられる。そしてその言葉の言わんとすることも、思い出した。この街の近くの森でつい弱音を零してしまった、あの時のことだ。
あの時、耳元に告げられたその想い。それが、今度は
今度は、あの時みたいな疑念は浮かんでこなかった。
「あなたがこんなにも私を想ってくれるから、私はこんなにも頑張れる。私の力は、あなたの想いの力なの。ね? なら、敵無しじゃないですか」
あなたくらい私が大好きな人なんて、そうそういないでしょうし。そう言うメイビスの顔は、ちょっぴり呆れ気味に微笑んでいる。
確かに。さすがに自覚はある。普通の人は例え好きな相手だろうと、その困り顔を何時間も隠れて眺めたり、敵を目の前にしながら色々なコスプレをしてもらう妄想を爆発させたりはしないだろう。
「け、けど……それが何だっていうの!? ボクがメイビスのこと大大大好きだからって、そんなのはユーリを助ける力になんて――」
「なるんです」
なるはずがない。そう言おうとしたボクの口を、メイビスがばっさり切り捨てた。
“相手への想い”なんていうただの感情が、それでも
「魔法とは、想いの力。普通を越えた、超常の力。だから、信じてゼーラ。あなたの想いを……そして、私たちの想いを……!」
ずん、とその時、地面が揺れた。……いや、地面ではなく足元の骨ドラゴンか。ともかく急にがくりと傾いて、再び身体に浮遊感。
なんとか振り落とされないようにしがみついて、拍子に下を向いた視線がそれを捉える。プレヒトにウォーロッド、それに街の人たちが、何やらロープらしきもので骨ドラゴンの足を引っかけていた。
爆走する骨ドラゴンを、みんなが転ばせたのだ。そして視線を元に持ち上げれば、転んだ骨ドラゴンに合わせて自ら跳び、骨ドラゴンの身体から頭へと着地したメイビスの姿があった。
「ね?」
示して、そして今度こそ最後の一歩を踏み出したメイビス。死への一本道であるはずのその歩みに――しかし、もうボクの身体は『止めなければ』と、そう思うことはなかった。
それがもう間に合わないと悟ったからなのか、いつの間に企てたのかもわからないメイビスの作戦にあっけにとられたからなのか。それともその、“想いの力”を理解できたからなのかは――正直に言って、ボクにもよくわからない。
ただ、焦燥感はきれいさっぱり消えていた。相変わらず骨ドラゴンの瘴気は恐ろしいし、メイビスのことは不安で心配でならなけれど、それでもボクがなんとかしなければというような、身体を突き動かされるような焦りはまるでない。
骨ドラゴンの頭から、さらにその正面へ跳んだメイビスをも、ボクは平静のまま見届けていた。
だから、ということもあるだろうけれど――その代わり。
「――
どうやったのか拘束から逃れたジョフリーが、狂気的な眼で空へと展開した巨大な魔法陣。ボクの身体は、そっちの方へと向いていた。
高笑いするジョフリーと街を覆うほどの魔法陣から迸る魔力の圧は、もうすさまじいの一言だ。街全体を狙うそれが放たれたなら、きっと本当に街が滅んでしまうだろう。
ユーリもプレヒトもウォーロッドも、街の人たちもみんな死んでしまう。
メイビスもだ。ハッピーエンドまでもう少しなのに、これを許せばすべてがご破算。ここまで築き上げたみんなの想いが、全部無駄になってしまう。
そんな未来を見せつけられて……ああ、やっとわかった気がする。
ボクの想い。最初の想い。――ボクがメイビスを助けてあげたかったのは、メイビスに失望されたくなかったからじゃない。
ただ、メイビスを愛していたから。守りたいから、守りたかっただけなのだ。
――魔法の力は
「愚者ども共々、消え失せろォッッ!!!」
放たれ、降り注ぐ死の魔力を跳ね返すかのように――ボクの手の中に宿った光が、眩く光り輝いた。
「【
光の球体。そんな輝きが街を覆って、降り注ぐ魔法からみんなを守る。その守りに傷の一つも入れられないまま、やがてジョフリーの魔力も尽き果てて、彼は信じられないものを見るような眼で唖然と膝から崩れ落ちた。
そして、
「【ロウ】!!」
メイビスの古代魔法の光の波動が、骨ドラゴンの瘴気を吹き飛ばした。
眩く消える視界の中で、骨ドラゴンが元の石像へと戻って崩れ去る。視界が戻り、全てが終わったその場所には、生身のユーリと砕けた天狼玉が転がっていた。
【ロウ】でユーリを乗っ取った天狼玉の邪気だけを撃つ。できるわけがないと思ったその作戦は、成功したのだ。
よかった。安堵が身体をすうっと通り抜けていった。
と同時に、少しだけ背筋が冷えた。倒れ伏して動かないメイビスを見つけたからだ。
未完成なままの古代魔法を使った代償。思い至って慌ててその身体を抱きかかえると……幸い、息はしていた。代償に命を取られるなんていう、最悪の結末は免れたようで何よりだ。
とはいえ代償なんて何もなかった、なんて都合のいいことはそうそう起こりえないわけで。さらに言えば失神だって立派にお医者さん案件だ。早く病院なりなんなりに連れて行ってあげた方がいいに決まってる。
けれど……ちょっとボクには、その時間がないかもしれない。
どんどん力が抜けていく身体に気力を込めて、無理矢理に持ち上げる。ユーリ共々、せめて安全な所に移してあげようと試みて――おお、ナイスタイミングだ。プレヒトとウォーロッドが来てくれた。
「ユーリ!! メイビス!! ゼーラ、二人は無事、か……」
「立て続けに何やらすごかったぞ!! いったい何が……?」
と、走ってくるなりそこまで行って、二人ともボクを見つめるなり声が急に萎んでいってしまう。特にプレヒトのほうは、“違和感を感じる”どころではないふうな反応だ。
プレヒトは魔法の才能があるらしいし、きっと気付いてしまうんだろう。ボクのこの手の、
……答えるべきなんだろう。でもしかし、それよりこっちのことが優先だ。
「プレヒト、ウォーロッド」
ちょっともう、限界みたいだから。
「メイビスのこと、よろしくね」
返事を聞くまでの余裕はなく、それだけなんとか口にして、ボクの意識は闇に溶けた。