「――オレは、お前たちに救われたこの命、お前たちのために使いてぇ。……心から信じられるお前たちを、この先ずっと守り抜く。それがオレの、今の夢だ」
「ユーリ……」
「一緒に妖精を探す冒険に出よう。メイビス」
「……はい!」
まっすぐにその決意を伝えるユーリに対し、メイビスは差し出されたその手を、泣き笑いのような笑顔と共に固く握った。
天狼玉を巡る事件に幕が引かれてから数日の後の今。ようやく目覚めたユーリは元々、先に目覚めていたメイビスに対し、懺悔と償いをするためにこの場に立ったはずだった。
天狼玉の邪悪な力に取り込まれてしまったユーリを助けるためにメイビスが使った古代魔法、【ロウ】。その代償で――メイビスは今以上に成長できない身体になってしまったからだ。
ユーリのせいで、メイビスは今後生涯にわたって十三歳の少女の姿のまま、生きねばならなくなってしまった。
治ることはなく、故にそれは到底償うことも叶わない。だからこそユーリは罵倒されることを覚悟しながら、それでも謝るためにこの湖のほとりでメイビスと対面し――それを許された。
すべては自分が選んだ道だから、と。
そう微笑んだメイビスに、ユーリは罪悪感と、そして信じるに足る仲間の存在を得ることになったのだった。
だからこそユーリは彼女を生涯守ると心に誓った。恩人であり、己の罪の証であり、そして何より大切な仲間となった少女への誓いの言葉。受け入れられたことは、ユーリにとって喜びには違いない。
ただし、
「……ゼーラも、許してくれるかな。オレのこと」
もう一人の新たな仲間。ゼーラは、この場にいない。彼女もまた、先の事件によって意識を失い、未だ目覚めていないからだ。
【ロウ】の代償を受けたメイビスと天狼玉の邪悪な力に晒されたユーリに対し、ゼーラが目覚めない原因はあまりはっきりとはしていない。
故にこそ、ユーリとしては未だ街の宿屋の一室で目を閉ざしたままであるゼーラのことが心配だった。
のだが一方、メイビスはそんなユーリとは正反対。再び表情が影ったユーリに対し、メイビスは安心させるように明るく言った。
「大丈夫です。ゼーラとは、ユーリよりもずっと先に、一緒に妖精探しの冒険に出る約束をしていますからね。……どんな理由があろうとも、彼女が私との約束をすっぽかすなんてあり得ません」
「……確かに。そうだな」
ユーリの喉から苦笑が漏れ出る。傍から見てもメイビスのことが好きすぎる少女の姿を思い出し、そしてメイビスもまた、頭の中のゼーラの像を動かした。
「そうですよ。それにこの“代償”のことも。きっと『メイビスはずっとかわいいままって保証されたってこと!? それって最高じゃん!』とかなんとか言うんでしょうし」
「ハハハ! ……さあ、どうだろうな。なんなら本人に聞いてみるか?」
「え……?」
言葉の途中、ふとユーリが思わせぶりに視線を動かし、安堵と共にニヤリと笑った。メイビスは意図がわからず首をかしげて――その直後。
「メイビス! 身体が成長しなくなっちゃったって、本当!?」
「ゼーラ――ふぎゅっ!」
声に反応して背後を振り返ったメイビスの目の前に、すぐそこまで迫ったゼーラの顔。
ベッドの上から復活を果たした大事な友達が、自分めがけて飛び込んできたのだ。メイビスの中で驚きと喜びが瞬間的に混線し、結果それを受け止めることも叶わない。
押し倒されるようにして、二人纏めて地面の上に転がった。
そしてメイビスの上にのしかかる形となったゼーラは、どうやらそこから退く気がないらしい。身体には力が入っておらず、メイビスを押し潰すままだった。
少々激しすぎるスキンシップはメイビスとしてもまあ嫌いではなかったが、しかし息苦しいままなのは耐えられず、なんとかごろりと転がって互いの上下を入れ替えた。
上になって、息を吐く。すると下になったゼーラもまた呼吸を求めて息を吐き、そして寝転がったまま、じっと見上げたメイビスへと、少しばかり沈んだ顔をしたのちに、それを吹き飛ばすような眩く輝く笑顔を放った。
「……大人になれなくてもメイビスはすっごくかわいいから、きっと大丈夫だよ! ある意味ずっとかわいいまんまなのが保証されたってことなんだから、むしろお得まであるんじゃない!?」
「……まあ、大体合ってたな」
ユーリが笑う。つられてメイビスもむず痒さに口角を上げながら、ゼーラの身体を引き上げた。
されるがまま、ゼーラも身を起こす。しかしメイビスの思い通りにいったのはそこまでで――次いで放たれた一言が、持ち上がったメイビスの口角を破壊した。
「それでさ! もしメイビスに赤ちゃんができたりしたら、双子の姉妹みたいになるんだよ、きっと! かわいいんだろうなぁ……!」
「あかっ……!!?」
「あっははははは! さすがはゼーラ! オレたちの想像力じゃとても追いつけねぇみたいだな!」
腹を抱えて笑い出すユーリに、ゼーラはキョトンと首を傾げた。当人からしてみれば、笑えることを言ったつもりなど欠片もないのだ。
それは冗談ではなく、悪気もなく、どこまでも本心だ。
情操教育が足りなかった弊害でそういうことへの慎みがまるで存在しないゼーラは、だからこそ実に簡単にその類の話を持ち出して、こうして気軽にメイビスの横腹を突いてくる。以前の天狼島での悶着や、森の中で出会った黒魔導士と引き合わせた時と同じように。
故にもう、メイビスは怒る気も起きなかった。
ゼーラのこれはメイビスへの行き過ぎた愛と同様に、ほとんど持病のようなもの。そう呑み込んで、しかしこれ以上付き合うのも勘弁願いたいメイビスは、若干強引にではあるものの咳払いをし、誤魔化して、無理矢理に話題を変えた。
「ところで……ゼーラ。あなたが眠っている間に、私、話したいことができたんです」
「え? なになに? 話したいこと?」
「はい。……私たち、この街に魔導士ギルドを作りませんか?」
一転して興味津々にメイビスに顔を寄せたゼーラが、また表情を一転させて目を瞬かせた。
そしてユーリにとっても、メイビスのその言葉は思いもよらぬものだった。ゼーラよりも僅かに早く我に返った彼は困惑を浮かべ、どういうことだとメイビスに詰め寄った。
「いや、メイビスお前、ギルドって……妖精探しの冒険はどうするんだよ?」
「もちろん、冒険をやめる気はありません。けれど……冒険には、帰る場所が必要だと思うんです。長い旅路で迷った時に、支えてくれる仲間たちとの家が。信じて頼れる、『和』の存在が」
メイビスは、この旅の一件ではっきりと理解した。いかに賢かろうと、力があろうと、一人では己が真に欲するものを手に入れることはできないのだと。
仲間の存在こそが、何よりも尊いものだったのだ。何があろうと自分を信じてくれる、心の奥底でつながった仲間の存在。それこそがメイビスの“夢”に必要不可欠なものであり――そしてある意味“夢”そのものでもある宝物だ。
大事な親友が――無条件で信じられる仲間がそう教えてくれなければ、メイビスは本当に、
「それに……マグノリアの街には、
そしてそんな個人的な心情の他に、目の前に広がる現実的な問題もあった。
街は弱り切り、このままでは再びの発展は難しい。故に、天狼島ではなくこの街にギルドを作ろう、という話なのだ。
「それで……どう、ですか……?」
そういう大義名分を以ってして、メイビスはゼーラにおずおずとそう訊いた。
受け入れられるだろうという自信が、あまり強くなかったからだ。なにせゼーラは、度々天狼島への郷愁を零している。ギルドを設立することはまだしも、マグノリアの街の救済のためにという一点がノイズになってしまうだろうことは、容易に想像がついていた。
だから慎重に言葉を選び、メイビスはゼーラを伺い見たのだが、
「メイビス……それって、すっごくいいと思う! うん。作るべきだよ、新しい
ゼーラはメイビスの想像に反し、諸手を上げて賛成を示した。
予想外の勢いに、メイビスも少しばかり気圧される。その間にうんうん頷いたゼーラは、実にすんなりと話を先に進めていった。
「ユーリとプレヒトとウォーロッドも一緒なんでしょ!? 街の人たちも巻き込んでさ! きっと賑やかになるよね!」
「え、ええ、まあ……ユーリたちには、まだ話していないんですけど……」
「……オレはお前たちについていくよ。そう言ったろ? それにプレヒトとウォーロッドも、嫌だなんて言わないさ」
「そうこなくっちゃ! 天狼島みたいに静かなのもいいけど、みんなが一緒ならきっと楽しいギルドになるよ! ……ちょっとうるさいくらいになっても、それはきっと、冒険の力になるはずだから」
プレヒトたちの思いを代弁したユーリに満足げな顔をしたゼーラは、次いでどこか遠くを見るような眼で続けた。
「それで……ギルドは、なんて名前にするの?」
それはどこか儚げで、そんな彼女らしくない雰囲気にメイビスも遅れて我に返った。ともかく乗り気であることは喜ばしい限りだと、気を取り直して咳払いを一つする。
「……ギルドの名前は、
「いいね。うん、きっと素敵なギルドになるよ」
「ええ……! ユーリとプレヒトとウォーロッドと、それにゼーラがいてくれれば、きっと家族のような、そんなギルドに――」
と、調子を取り戻し、ギルドの未来を夢想したメイビスが、その期待のままに言葉を綴った――その時。
「ボクは……ちょっと難しいかなぁ」
「え……?」
ゼーラが、少し寂しげに微笑んだ。
メイビスの内で再点火した灯が、また吹き消える。ゼーラのそれはいったいどういう意味なのか。
問いただそうとして、ちょうどその寸前に森の奥から足音がやって来た。
「ゼーラ! ……ああ、やっぱりここだったか!」
「……メイビスとユーリのことが心配だったのはわかるが、勝手にベッドを抜け出すんじゃない。宿屋の人間も大騒ぎしていたぞ」
ウォーロッドとプレヒトだった。二人はメイビスと見つめ合うゼーラを見つけ、ため息交じりの息を吐いた。
そしてそんな二人にも、ゼーラは儚げな笑みを向けた。
「うん、ごめん。……でも、ちょっともう、時間がなさそうだったからさ」
「時間?」
「何の話だ?」
ユーリとウォーロッドが首を傾げる。プレヒトは黙って眉間にしわを寄せ、そしてメイビスは、どこからともなく込み上げてきた不安感に身を震わせた。
直感的な悪寒。何を知らずとも、メイビスの心には伝わってくる。
今日までずっと共に生きてきたゼーラが見せた、その頬笑み。それが、感じる悪寒を気のせいだと打ち捨てることを許してくれず――その結果。
「ボクの身体、もうすぐ死んじゃうんだよね」
メイビスは、なす術なく絶望へと叩き落とされることになったのだった。
「――な、なに言ってんだよ……? 死ぬ? お前が? ……メイビスの【ロウ】みたいに、お前が使ったっていうよくわからん魔法にも代償があったってことなのか……!?」
すごくたっぷりの呆然とした間が開いて、やっぱりこういう場面で切り替えの早いユーリがまず、我に返った。
けれど詰め寄ってくるその顔は、まだ何が何だか分からないという感じだ。……まあ、そりゃそうだよね。いきなりこんなこと言われても、「ああそうなんだ」なんて感じで呑み込めるわけもない。
けれど、呑み込んでもらわないと困る。だって事実なのだ。
「代償ってわけじゃないけど……あの魔法でボク、結構“力”を使っちゃったみたいでさ。その反動がこう……ね?」
「なら、一刻も早く医者にかかるべきだ! メイビスの時に呼んだ隣町の魔導士ギルドの専門家にまた来てもらってもいい! ……そう易々と命を諦めるな、ゼーラ! まだ助かる道はある!」
「ううん、どうにもならないよ。わかるんだ、ボク」
ユーリに続いてウォーロッドも、必死にボクを助けようとしてくれている。でも、その気持ちは嬉しいけれど、ボクはそれにも首を横に振らざるを得なかった。
「だって……元々、限界が近くなってたんだ。頭が痛くなったり、船ですごく酔っちゃったり……あとはほら、
ワンピースの上からお腹を撫でる。包帯の下は、未だにカサブタもできていない生傷のままだ。
つまりボクの身体は元からそれくらい弱っていて、そんな状態で
もう気力でどうこうできるような状態じゃない。ボロボロだった身体がさらに酷使され、現に今はメイビスの胸に飛び込んで、それきりろくに身体が動かせないくらいになってしまっていた。
ぶっちゃけもう、メイビスに支えてもらっていないとただ座っていることさえ難しい。こんな身体は、もうどうやったって死に行くのみだ。
「だが……まだ可能性はあるだろう!? もう決して助からないと言われた重病者が奇跡的に回復するというのもままある話だ!」
「ゼーラ、お前は自分のことは自分が一番よくわかるって言いたいんだろうが、今回ばかりは見誤ってる! 人間の身体ってのは、お前が思ってる以上に頑丈なもんなんだよ!」
「それは……そうなんだけどね」
人間は強い。爪も牙もないけれど、生きる彼らが生み出す熱は、他の動物たち優に超えるほどのものだった。
けれど……それは
……言わないといけない。メイビスに、みんなにそれを言うために、ボクは今ここにいるのだから。
でも、同時に言いたくなんてないという気持ちが、やっぱりボクの邪魔をしてくる。だって言ってしまえば、全部が幻になって消えてしまう。何もなくなってしまうかもしれないのだ。
でも――それでも、言わないと。思い出してしまったから、どれだけ苦しくても、ボクはやがてゆっくりと口を開いた。
「……メイビス。七年前の、あの時のこと……覚えてる……?」
メイビスは何も応えなかった。俯き、隠れた顔は何を思っているのかよくわからない。
それは、むしろよかった。そのかわいい顔が見えていたら、ボクもまた躊躇っちゃったかもしれないから。
故に訥々と、遠回りではあったけれど――ボクはそれを、七年間ずっと隠し続けた秘密と浅ましさを、告白した。
「あの時……“ゼーラ”は死んだんだ」
「は……なんだって……?」
ユーリの声。けれど振り向けば言葉まで止まってしまいそうで、応えずにそのまま続ける。
「ボクは七年間、死んだ身体を動かしてたんだ。一緒に生きて、成長して……でもそれって、自然の摂理に反することでしょ……? だから、負荷がかかる。どんどん身体はボロボロになって、そしてそれは治せない。……死者が
だからボクはもう、これ以上は生きられない。
そして――つまり。そうやって死んだゼーラの身体を動かしてきたボクは、
「ボクは……ゼーラじゃないんだ」
……ああ、とうとう言っちゃった。
けれどその確信に気付いてしまったのなら、黙っているのはメイビスへの裏切りだ。
だから、伝える。ここで終わってしまうのだから、これ以上
だって、所詮、ボクはゼーラではなくて――七年前のあの時、メイビスが友達になった女の子じゃないんだから――
「知ってます……」
「――え……?」
メイビスの、声だ。顔が上がって、その眼が、涙を湛えてまっすぐ
「知ってました……あなたが、私の初めての友達になってくれた、ずっと私に意地悪だったあのゼーラじゃないことくらい」
「………」
知っていた……? 言葉だけが、意味が理解できないままにボクの頭になだれ込んでくる。
メイビスがボクにくれた愛は、
最初はただメイビスに笑顔でいてほしくて、だからこそゼーラになったはずなのに、いつの間にか
けれどあの魔法と共に全部を思い出して、ボクはただメイビスのことが大切だったあの時を取り戻した。はずなのに――
「……知ってた、の……?」
「当たり前じゃないですか……! ゼーラは自分のことをボクなんて言わないし、お勉強から逃げたりしなかったし、外での遊びはお洋服が汚れるからって嫌がってたし……! それに! あなたみたいにおバカな子じゃありませんでした……!」
この七年間の愛は、幻じゃなかった……? メイビスは最初から、ずっと
「あなたは私にとって二人目の、大切な親友です……! ずっとゼーラの代わりに傍にいてくれたことも、ちゃんとわかっていますから……っ!」
「……そう、だったんだ……」
ボクは、ちゃんとメイビスの友達だったんだ。
「よかったぁ……」
ボクのこれまでの煩悶は、全部ボクの独り相撲だったわけだ。
そう思うと力が抜けてしまうけれど、そんな事より知れたその事実がずっと嬉しい。ボクは誰に憚ることなく、メイビスの友達になれていたのだ。
なら――もう思い残すことも何もない。
「えへへ……メイビス、ありがと……。ボク、嬉しいよ……。最後になっちゃったけど、メイビスに友達って、呼んでもらえて……」
「『最後』だなんて……! そんなことを言わないでくださいっ! ゼーラはおバカさんなんだから、きっとそれは勘違いか何かなんですッ!」
「だったら、良かったんだけどね……」
緊張と一緒に、身体の力もどんどん抜け出てしまっている現状。勘違いについては多分に前科があるボクだけど、今回ばかりは間違えようがなかった。
きっとたぶん、メイビスもわかっているだろう。だからその眼からは次から次へと大粒の涙が零れ落ち、そしてすっかりメイビスに身体を預けるしかなくなってしまったボクの頬を伝って濡らしているのだ。
ボクも、できることならずっとこのまま一緒にいたい。一緒に遊んで、冒険して、水浴びもしたい。けれど――ボクはもう、そうしてあげることができない。
「でも……ボクが居なくても、メイビスにはみんながいる……。プレヒトも、ユーリも、ウォーロッドも……みんな、ボクの代わりにメイビスを守ってくれる……。ボクの役目は、みんなが引き継いでくれる。だから……大丈夫、だよ」
三人がいれば、きっとメイビスはあの時の――ゼーラを失った時のような絶望を、再び味わうことはないだろう。ボクの代わりに、今度は三人がメイビスを癒してくれるはずだ。
もう随分かすれてきた視界をどうにか動かして彼らの姿を収めれば、厳めしい顔のプレヒトが眉を寄せたまま重々しく頷いてくれた。ユーリとウォーロッドも、信じられないなりにボクの想いを信じてくれたのか、硬い表情で同じく頷く。
……ほらね。ボクがゼーラになってメイビスを守ったように、彼らもメイビスを守ってくれる。……また友達がいなくなっても、メイビスは前に進むことができる。
「でも、そんなの関係ない! 私はゼーラとお別れしたくありません……! ゼラ……っ、死んじゃ、やだよぅ……っ!」
「……死なないよ」
息も辛くなってきた。押し出した言葉は吐息みたいにか細いものだったけれど、メイビスにはちゃんと聞こえたみたい。ボクを抱きしめるその身体が、一瞬ぴくりと強張りを見せる。
ゆっくりと身体が離れ、再びお互いの顔が見えた。
「……知ってる? 妖精って、死なないんだよ。ずっとみんなを、見守ってるんだから……」
「……ずっと……?」
「うん……。メイビスは、妖精探しの冒険をするんでしょ……? なら……きっと、また会えるよ」
「また会える……本当に……? 嘘だったらひどいですよ……っ」
「メイビスに、嘘なんてつかないって……」
大好きなメイビスを悲しませる嘘なら、尚のことだ。
鉄の塊みたいに重たくなった腕を動かして、メイビスの頬に触れる。どんどん薄れていく意識の中で一緒にふわふわの金髪にも触れながら、流れ滴るその涙を伝い、赤く染まった目尻を拭った。
「……ねえ、メイビス」
涙でぐちゃぐちゃになった顔が、ボクを見て、
「……笑って?」
ボクの最後の頼みを、聞き届けてくれた。
溢れそうな言葉を呑み込んで、口角が持ち上がる。……うん、それでこそだ。メイビスは笑顔でいるのが一番かわいい。
ユーリが、プレヒトが、ウォーロッドが、その助けになってくれていた。メイビスの背中から優しく見守ってくれている彼らは、やっぱりボクの見込んだ通り。
やっぱり、メイビスは帰るべき家を手に入れることができたのだ。
冒険の旅路は、もしかしたら困難も多いのかもしれない。辛いことはあるかもしれない。
けれど、仲間がいれば乗りこえられる。必ず前に進むことができる、
メイビスが作るギルドが、仲間が、きっとみんなを支えてくれることだろう。
……ああ、もう声も聞こえなくなってきた。暗く溶けていく視界の中で、もうメイビスの腕の感触も、零れる言葉も聞こえない。
でも不安も心配も後悔も、ボクにはもう何もない。安心して眼を閉じる。
――願わくば。
メイビスを幸せにしてくれる
「――ありがとう、ゼーラ。私の代わりにメイビスを守ってくれて――」
本編はこれでおしまい。
結局原作同様メイビスとゼーラがお別れする終わり方になってしまいましたが、うまいこと別味に仕上げられたと思うので感想くださいお願いします。
ついでに次話におまけもあるのでそっちもよろしくお願いします。