ポケモン小説ネタ集   作:じゅに

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新米ジュンサー初☆出☆勤

 

 

 

 

 寝付きも寝起きも悪い私にしては珍しく、その日はすっきりと目が覚めた。

 

 枕元の目覚まし時計を見やる。

 朝5時59分。

 アラームが鳴る1分前だ。

 

「んふふふふ」

 

 ほくそ笑みながらアラームのスイッチをオフにした。

 いそいそと布団から抜け出す。

 

 もう何ヶ月もお日様に当てていない万年床も、今日ばかりは丁寧にメイキングしてから洗面所に向かった。

 

 手早く洗顔を済ませ、くたびれたパジャマを脱ぎ捨てる。

 

 パンツ一丁の勇ましい姿で部屋に戻り、壁にかけた制服を眺めた。

 

 バリッバリにノリの利いたブルーのシャツの胸元には、昨日授与されたばかりの警察バッジがきらりと光っている。

 

「んふふふふふ」

 

 ニヤニヤが止まらない。

 早朝でなければ寮のみんなのことなど気にせず歌い出したいくらいだ。

 

 長かった。

 この日をどんなに待ち望んだことだろう。

 

 幼稚園の交通安全教室で凛々しいジュンサーさんに一目惚れしたときから警察官になることを夢見てきた。

 

 高倍率のテストをパスし、理不尽な警察学校のしごきにも耐え──本日めでたく、念願の勤務初日を迎えることが出来た。

 

 ああっ朝日が眩しいっ! 

 くくうっ朝の風も爽やかねっ! 

 

 ハンガーからうやうやしく制服を取り、ゆっくりと身につけていく。

 

 すでに配属部署は知らされている。

 御百度参りするほど願った交通課の安全担当官だ。

 警察犬とタッグを組んで、横断歩道の見守りだの危険運転の取り締まりだのが主な仕事である。

 

 同期たちには哀れまれた。

 交通課は出世コースから外れている。

 どれだけ仕事を頑張っても“上”に行くことのできないハズレ部署だ、残念だったなと、壮行会の最中にほんのり上から目線で慰められた。

 

 私はジョッキを傾けながら、内心で嘲笑っていた。

 

 バカがよぉ。

 花形部署の何がいいんだ。

 刑事課なんてグロくて面倒な事件ばっかり回されるじゃないの。

 

 その点交通課は神よ。

 毎日警察犬と触れ合えるんだから。

 

 こちとらね、警察犬と合法的に毎日一緒にいたいが為に、走りたくもないグラウンド走ったり剣道だの柔道だのの練習を超えてきてんのよ。

 

「あははーみんなはガンガン出世してね♡」なんて心にもない返事を返せたのも、ひとえに警察犬というラブリーチャーミーな存在がいるからに他ならない。

 

 そうでなかったら警察学校になど入るものか。

 金積まれたってお断りである。

 

 最後に帽子を被り、後れ毛をピンで止めて、腰だめに拳を握った。

 

「……うしっ。行くわよ!」

 

 部屋の扉を開ける。

 こうして私──アニスは、警察官への第一歩を踏み出した! 

 

 

 〇〇〇

 

 

「アニスくん!」

「はいっ!」

 

 あらん限りの声を張上げ、気をつけの姿勢をとった。

 

 交通課の先輩方に挨拶を終えた私は、いよいよこれから相棒(バディ)となるポケモンを貸与される。

 

 あ〜〜〜〜誰かなあ、誰かなあ!? 

 

 命令に忠実なガーディ? 

 賢くて目端の利くデルビル? 

 犬界で最も鋭い嗅覚を持つポチエナ? 

 どんな相手にも果敢に挑むイワンコかも? 

 

 ファ〜〜〜〜多すぎて選べませんが!?!?! 

 緊張と興奮で心臓がバクハツしそう! 

 

 ニヤけそうになるのをほっぺの内側を噛んで堪えていると、ヒゲの生えたメタボのおじさんもとい課長が勿体ぶった咳をした。

 

「君に渡すポケモンは未だかつて公的機関に登用されたことのないポケモンだ。

 色々と難しいこともあるだろうが、警察学校で優秀な成績を修めた君ならばきっと扱いこなせると期待しているよ」

 

 登用されたことが──ない? 

 

 私はふと眉をひそめた。

 ということは、少なくとも上記の4種ではないということだ。

 

 なら、どの子だろう? 

 

 脳内に様々な犬型ポケモンを思い描き、そして、感電したように立ち竦んだ。

 

 まさか……まさか、まさかっ。

 

 格闘タイプのリオル!??!? 

 

 どどどどうしよう! 

 そうだったらどうしよう!?! 

 

 そんなの可愛すぎる! 

 毎秒写真撮っちゃうよ!!! 

 仕事なんかどうだってええわい! 

 あらゆる場所がコンテストステージだし毎日がエブリディじゃ! 

 

 鼻息の荒くなってきた私からやや仰け反りつつ、課長はようやく手の中のボールを渡してくれた。

 

 世の中にこんなに愛しいモンボがあるだろうか。

 いやないっ! 

 

 赤い曲面に頬ずりしたいのを必死こいて堪えながら、開閉スイッチを押した。

 

「出ておいでっ私のパートナー!」

 

 ポン! と弾ける音と共にその子は現れ。

 私は、絶句した。

 

 

 ぷるぷると揺れる瞳! 

 顔より大きな二つの耳! 

 あまりにも短い手足! 

 ぷにぷにぽよぽよしたお腹! 

 そしてなによりもっ! 

 パン屋さんのような(かぐわ)しすぎるかほりっ! 

 

 

「あ…………あぁあああ……っ」

 

 膝から崩れ落ちる私から、課長が気の毒そうに目を逸らす。

 

「今年はガーディもデルビルもブリーダーからの供与が少なくてね……

 すまないが君にはこのパピモッチを世話してもらうよ。なに、少々マイペースな個体だが訓練次第では」

 

「課長ォオッ!」

 

 なにかぶつぶつ言っているオッサンの手を鷲掴み、私は泣きながら叫んだ。

 

「ここにっ! 

 ここにパピモッチ神殿を建てましょうっ!

 今日がパピモッチ記念日ですっ!

 全国民の祝日だっ!」

 

 私の頭にはもうそれしかなかった。

 

 ダメですよこんなの。

 可愛すぎるでしょ。

 

 警察の仕事?

 いけませんよ! 

 そんな地道で汚くて面倒なものはね、人間がやりゃいいんです。

 どうしても警察犬が欲しいなら人間が四つん這いになればいいじゃない。

 自分やりますよ。四つん這い得意なんで。

 ガーディもデルビルもみーんなドッグランで遊ばせましょう。そしてこのパピモッチには美味しいおやつをあげるのです。

 神がそうせよと言っているっ!!

 

 私の演説は至極まっとうで、この上ない正論だった筈だ。

 しかし何故か、職員の誰からも返事はなく。

 

「ぺちっ」

 

 パピモッチが小さくくしゃみする音だけが返ってきた。

 

 

 


 

 

 ■アニス──主人公。ポケモンが好き。特に犬。

 ■課長──主人公の上司。ヒゲぽっちゃり系。

 ■パピモッチ──この世の幸を具現化した存在。

 

 




シャワー中に思いついた小ネタ。
ワンパチといいパピモッチといい近年の序盤犬は可愛すぎるんじゃ。
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