一番星に手を伸ばして   作:苦闘点

2 / 5

 原作より少しだけ時系列が早まってます。



第02話 少しは楽しませろ

 

 

 サルーム王国王都、地下。

 迷路のようになったそこは、暗殺者ギルドのアジトだ。

 

 誰にも見つからないその場所で、六人と一匹が話していた。

 ジェイドを除いた暗殺者ギルドの五人。そして、サルーム王国の第七王子、ロイド・ディ・サルーム。と、最近使い魔になった『禁書の魔人』グリモワール、通称グリモだ。

 

 アジトへの侵入者であるロイドを倒そうとし、返り討ちにあった五人。ノロワレの異能もロイドにより制御され、今やすっかり打ち解けていた。

 

 

「結局、ロイド君はどうやってここの場所をつきとめたワケ? 誰か着けたの?」

 

「いーや? この場所を教えてくれた奴がいてさ〜。暗殺者ギルドが居るなんて知らなかったよ」

 

「教えてくれたって、誰がですかい?」

 

「ロイド様の双子の妹だよ。ステラ・ディ・サルーム。あの人がどうやって知ったのかは、俺達も知らねぇな」

 

 

 

 サルーム王国第七王女、ステラ・ディ・サルーム。

 ロイドと同じ胎から産まれた、ロイドの双子の妹。サルーム王国王族の真の末っ子である。

 

 

 グリモの回答に、訝しむ暗殺者ギルドの面々。冒険者ギルドにもバレていないこのアジトを、ロイドの妹……つまり第七王女であるステラがどうやって知り得るのか…………

 

 

(いや、この人と双子だもんな〜〜)

 

 

 先程自分たちを完封したロイドを思い出し、勝手に納得する五人。確かにこのバケモノ王子の妹なら納得もできる。納得しかできない。

 

 

「『ロイドが好きそうな連中がいるよ』って言われて……思い返せば、俺をお前たちと引き合せるのが目的だったのかもな。アイツ、裏でコソコソするの好きだし。ま、それでお前たちの異能も見れたし、結果オーライだけどな!」

 

「俺はやめとけって言ったんですけどねぇ。俺の所に来たのもステラ様の入れ知恵だったんでしょ?」

 

「そうそう。ホントどこから仕入れてくるんだろうな〜」

 

「第七王女……ほとんど噂になってないな。私も名前すら知らなかった」

 

「俺も、全然知らない」

 

「ボクも全く聞いた事ない……ねぇロイド、そのステラさんって、どんな人なの?」

 

 

 レンの問いにロイドとグリモは暫し悩んだ後、各々答えを述べた。

 

 

「俺と同類、かな」

 

「星バカ。ロイド様バカ。ほぼ興味の対象が星とロイド様になったロイド様って思ってくれりゃいい。要はヤベー人だ」

 

「これ以上なく分かった」

 

「大体最後のに集約されてるわよね」

 

「ロイド様とほぼ同じ人がもう一人か……クク、逆に笑えてくるな」

 

「絶対ヤバい。会わなくても分かる」

 

「ろ、ロイドバカ……いやでも双子だし、そういう意味ではないはず……ゴニョゴニョ

 

「お前達は俺を何だと思ってるんだー?」

 

 

 ロイドのヤバさの一端を見せつけられた五人と、ヤバさをよく知るグリモは同時に、「こっちのセリフだよ」とツッコんだ。

 

 結局、どうやってステラがアジトを突き止めたのかは謎だった。

 

 

「本人に聞くのが一番早いな。ちょっと探知するから待っててくれ」

 

「こっからでも分かるんですかい?」

 

「ロイド様だぞ? 」

 

「あっ、そっか」

 

「お前ら順応早ぇな。まぁステラ様がいりゃ、嫌でも分かるだろうけどよ」

 

 

「…………なぁ、さっき話してくれた暗殺者ギルドのリーダー……ジェイドの話だけど。確か、ロードストに行ったんだよな?」

 

「え? うん、ジェイドはロードストで戦を止める為に……」

 

 

 

「ステラは、そのロードストにいる。しかもデカイ魔力が二つある。多分誰かと戦ってるな」

 

 

 そのロイドの言葉に、六人は目を見開いて驚いた。

 ジェイドがロードストへ行ってから数ヶ月。何の音沙汰も無かったのに、何故かそこで第七王女と何者かが戦っている。

 

 暗殺者ギルドの五人に同時に浮かんだ予感は、まずジェイドへの心配。

 まず口火を切ったのはレンだった。

 

 

「お願いロイド! ボクたちをロードストに連れて行って!」

 

「おい、レン!」

 

「だって! ジェイドが危ないかもしれないんだよ!?」

 

「でもロイド様だってそんな……」

 

 

「よーし、 ロードストに向けてレッツゴー!」

 

 

(((((ノリノリだ!!??)))))

 

 

 五人の予想外に、ロイドはノリノリで出発の準備をしていた。城から来るであろうメイドの為に置き手紙まで書いていた。

 

 

「勿論そのジェイドの瞬間転移体質にも興味はあるが……フフフ、ステラもバンバン魔術撃ってるな〜。これはヤバイぞ〜、フフフ〜」

 

「嫌な予感しかしないんだけど……」

 

「でも、行くしかないだろ」

 

 

 各々準備を進める中、ロイドは思惑の知れない半身へと思いをはせる。

 

 

(今度は何をしようとしているんだ? ……ステラ)

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 ギザルムは今、不快の絶頂にいた。

 

 自身の器となるジェイドの魂の消滅がすぐに迫っていたにも関わらず、根城を崩され、駒を殺され。

 しかもそれをやった下等種族である人間は、自分を見下しているときた。

 

 さてどう殺してやろうか……そう考えていると、星空に浮かぶ少女……ステラは口を開いた。

 

 

「それで、ジェイドは生きてるのかな? まだ魔力は残ってるみたいだけど」

 

「……答えてやる義理は無いが、教えてやろうか。ジェイドは夜が明ければ死ぬ。そうなればこの肉体は完全に俺の物となる。……はずだったのに、何なんだお前は? 最悪の気分だ。───疾く、『死ね』

 

「へぇ?」

 

 

 『呪言』。本来は暗殺者ギルドのクロウの持つ異能だが、ジェイドの記憶を見たギザルムが再現し、その強制力はオリジナルをゆうに超える。

 当たれば言葉通り死ぬ。そんな音速の魔力を前に、ステラは掌を向け魔術を展開する。

 

 

───星系統魔術───

星雲障壁(せいうんしょうへき)

 

 

 水に絵の具を垂らしたような雲が現れ、致死の魔力はその暗雲に呑み込まれた。

 

 

「……ほお?」

 

「この魔術は魔力を飲み込み、分析し、自らの魔力に還元する……『吸魔』と似てるよね。こっちは術式じゃなくて魔力そのものも吸収できるけど。にしても、凄い魔力量。まぁでもロイドには全然劣るね」

 

「一々俺の神経を逆撫でするなぁ、お前は。だが興味が湧いたぞ。俺の技を受けるとはな」

 

「君のじゃないでしょ。パクった技でイキるとか、後で恥ずかしくなるよ」

 

「……もう一度聞こうか。何なんだ? お前は」

 

 

 

「───ただの第七王女だよ。……今は、少し違うかもだけど」

 

 

 

 第七という単語に、ギザルムの中のジェイドが反応した。

 ほぼ仮死状態のはずだが、存外まだ元気が残っていそうだ。

 

 ……このガキを殺せば、トドメの足しにはなろうか。

 

 

「……まぁいいか。やる事は変わらん。もうこの体を手に入れたも同然だし……お前でこの力の試運転と洒落こもうか」

 

 

 ギザルムは手に魔力で実体化させた布切れを顕現させ、それを指を捻ってこよりを作る。

 ティッシュで作った棒のようになったそれを、手始めに一本。

 

 

「さて、これは受けれるか?」

 

 

 弾いた。

 音速を超える速度で撃ち出されたこよりは、ステラの星雲を突き破って魔力障壁に着弾した。

 

 

(星雲障壁で威力と速度を減衰してなければ、障壁と諸共に上半身が吹き飛んでたな。けど要領はグリモの黒閃砲と似たようなもんか…………つまんない。ロイドが見たらガッカリしそう)

 

「受けれるよな。それじゃあ……お代りだ。いつまで持つかな? 第七王女」

 

 

 そう言ってギザルムは腕を左右に振り、大量の魔力のこより、『魔槍』を生み出す。50本は下らない魔槍の黒翼は、ミサイルのようにステラに降り注いだ。

 

 

「……使わないんだ、瞬間転移」

 

 

 喰らえば即死の魔槍に囲まれても、ステラの表情に動きは無い。淡々と『疾走』×『飛翔』で避け続け、避けられないものは『星雲障壁』と『魔力障壁』を使い捨てて耐え忍ぶ。

 

 全ての魔槍を消費しきったと思えば、ステラの頭上に黒い円で形成された転移門が出現し、ギザルムが瞬間転移する。 

 既にジェイドの異能を我がものとしたギザルムは、ノロワレの力も直感とセンスで使いこなしていた。

 

 

「よくできたな。そら、ご褒美だ」

 

 

 振り上げられたギザルムの脚を見て、ステラは反射的に回避を選択した。初めて瞬間転移を使ったのもそうだが、()()()ジェイドの脚力のヤバさは知っていたから。

 

 ただギザルムがその蹴りを使うのはなんかムカつくので、ステラは魔術を起動させる。

 

 

───星系統上位魔術───

旋烈天球(せんれつてんきゅう)

 

 

 魔術により顕現した直径2m程の土球が、ステラの周囲を円を描いて回る。

 

 その土球の土系統魔術との決定的な違いは───質量。

 

 星系統魔術により生み出されるのは、小規模なれど星の質量。超質量の限定顕現は、ただ適当に高速でぶん回すだけでも強力な一撃になる。

 

 

 それによりギザルムの魔槍をさらにより合わせた大魔槍を迎え撃ち、相打ちとなった。

 一連の攻防も終わり、今度は見下されたステラはつまらなそうにギザルムを見上げる。

 

 

「ねぇ、何で瞬間転移を出し渋るの? 知ってる技の焼き直しばかりで欠伸が出そう」

 

「一度血相を変えて回避したクセによくほざく。俺の技を避けることしか出来ない分際で」

 

「だから、君のじゃないでしょ? いい加減イライラしてきたんだけど」

 

「いいや、俺のさ。まだ不完全だが、俺は既にジェイドの瞬間転移能力を自在に使える。ジェイドが操れなかった『力』を、俺が操れるようにしてやった。むしろ感謝して然るべきだろう?」

 

「操れなかった……ね。本当にそう?」

 

「? 何を……」

 

 

「君には聞いてない。ねぇジェイド、本当に、()()()から何も変わってないの?」

 

 

 

 ステラが問い掛けるのは、ギザルムではなくその中にいる微かな魔力。

 ほとんど破綻寸前のジェイドの魂は、ギザルムの魂を押し退ける程の力はもう残っていない。

 返答など返ってくるはずも無い……が、ギザルムからすれば、下等種族が自分を眼中にすら入れない事実が、堪らなく不愉快だった。

 

 

「……もぅいい。お前がジェイドの何かは知らんが、今すぐ殺してやろう」

 

「また魔槍?」

 

「フフ……瞬間転移を見たいのだろう? ならば見せやろう、完成されし()()力」

 

 

 そう言ってギザルムは、瞬間転移の前動作である指を鳴らす手をステラに向ける。

 

 

「お前はどう動く? また受けるか? また避けるか? それとも……尻尾を巻いて逃げ出すか……」

 

 

 

パチン

 

 

 

「お前に、そんな選択肢は無い」

 

 

 

 瞬間転移は、元々その場所にあった物質を押し退けて転移する。本来は使用者が転移しても、その場所には空気しかないから意識することは無いが……。

 

 これを、転移先を『他の物質の中』にし、何か物を転移させるとどうなるか。

 その転移した物は、その場所にあった他の物の中に『無理やりねじ込まれる』。

 

 移動に使う瞬間転移と違う、言うなれば『攻めの瞬間転移』。

 転移された魔槍は、ステラの額、心臓、腹といった急所に的確にねじ込まれた。

 

 攻撃の過程を吹き飛ばし、回避も防御も関係なく齎される……正しく、『死の転送』。

 

 

 

「フフフ……! やはり素晴らしいな……! この力は! ……そうだ、改めて名前を付けようか……。フフ……何と名付けようか」

 

 

「じゃあ、私が良い名前をあげるよ」

 

 

 

 瞬間転移の力に興奮していたギザルムの背後から、もう耳に障ることの無いはずだった声がした。

 反射的その場から転移して離脱する。ステラの串刺しがあった場所には……

 

 

「……なるほど、幻か」

 

「半分正解。でも幻想系統魔術じゃないんだよね、コレが」

 

 

───星系統魔術───

星間幻塵(せいかんげんじん)

 

 

 使用者の魔力と姿を模した幻像を生み出す魔術。

 幻想系統魔術とラングリス流縮地術の要素も取り入れ、ロイドレベルの魔力探知精度が無ければ見分けることは出来ない。

 ギザルムの前にいた時から幻影だったのか、それとも瞬間転移の『出始め』を感知して発動したのか……魔術に明るくないギザルムには分からなかった。

 

 

「貴様……」

 

「そうだね……『影狼』なんてどう? 二つ名を冠した、ジェイドにピッタリの名前だと思わな───

 

 

 ステラの言葉が終わるのを待たず、ギザルムは瞬間転移で魔槍を飛ばす。だがそれも、星間幻塵による幻影だった。

 

 

「あぁ……本当にお前は……心の底から俺をイラつかせてくれるなぁ……」

 

「うん……ホント君ってさ……私の琴線に触れないっていうか……」

 

 

「なぁ」「ねぇ」

 

 

 

「「───少しは楽しませろッ!!」」

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 ……もう大袈裟に驚く程の元気なんて無いと思ってたけど、本当にビックリした時は死ぬ直前だろうと関係無いらしい。

 

 ギザルムの視界に映る、『第七王女』と名乗った少女を見ながら、ジェイドはそう思った。

 

 数ヶ月前自分がこのギザルムに挑んだ時は、ただ痛ぶられ嬲られるだけだった。さらに言えば、あの時ギザルムは此方を殺すつもりはなく、自分で遊んでいただけ。

 対して、この少女には悪意と殺意を迸らせている。

 この傲慢な魔族が人間に本気を出すわけも無いが……それでも、自分の時よりはるかに強い。

 

 しかも、今のギザルムは瞬間転移能力も使うことができる。それを考慮すれば、この少女がどれほど出鱈目か、想像も出来ない。

 

 

 ギザルムの魔槍を受け、避け、致死の呪言さえ怯まず対処する……攻めの瞬間転移を見た時なんて、本気で絶望しかけたのに……彼女はなんて事無いように生還して、さらに瞬間転移の名付けまでする始末。

 

 あと何故か、この少女は自分の名前を知っていた。

 何で知っているのか? そもそも何で第七王女がこんな所に? ていうか何で第七王女なんて人が此処にいて、ギザルムという化け物と互角に戦えているのか……驚きと疑問の連続で、ジェイドは暫し呆然としていた。

 

 

 だが、そんな呆けていたのも、その少女により吹き飛ばされた。

 

 

「操れなかった……ね。本当にそう?」

 

(……え?)

 

 

 

「───ねぇジェイド、本当に、()()()から何も変わってないの?」

 

『次会う時は───』

 

 

(───っ!!)

 

 

 

 その言葉で、ジェイドの目に光が宿る。

 

 

(……そうだ。今はボーッとしてる時じゃない)

 

 

 託すんだ。この少女に。悪夢を打ち払う術を。

 

 約束したじゃないか。家族と……姉さんと。

 

 

 

『ロードストを……ノロワレが笑って暮らせる領地にする……! そこで皆と一緒に暮らしたいんだ!』

 

『ここが、姉さんが帰ってくる場所にしたいんだ!』

 

 

(諦めるな! 必ず……また皆と……!!)

 

 

 

 そうしてジェイドは沈む意識の中、最後の切り札を託す為に意識を集中させた。

 

 






 ステラ・ディ・サルーム

 サルーム王国第七王女。
 ロイドとは双子であり、取り上げられた順番から一応ロイドの妹ということになっている。扱いは対等。
 顔は瓜二つ。ただしロイドが青髪のくせっ毛なのに対し、ステラの髪はクセの無いストレートの黒髪。ロイドと区別して、おさげは二つ結び。
 基本的に仏頂面なので表情筋が死んでいると思われがちだが、星を見ている時とロイドと一緒にいる時は柔らかい表情になるので、感情が死んでいるわけでは無い。


 好きな物:ロイド(一番星)、星、ジェイド、魔術
 嫌いな物:魔術、自分以外にロイドの興味を惹く物

 個人としては嫌いじゃないし寧ろその人間性を好ましく思ってるけど、明らかにロイドに懸想しているので厳重警戒している要注意人物:シルファ、タオ(後にレン)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。