アラン・リザードンと巡るポケモン世界記   作:エイト

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第二章
第11話:記録の扉と揺れる視線


シンオウ地方、ナナマカド研究所。木の香りが漂う書庫に、一本の通信が入った。

 

「……ホウエン地方のアズナ村、封印の洞窟。ハンターによる潜入未遂の記録が上がりました」

 

行政職員の報告に、ナナマカド博士は眉をひそめる。

 

「危険の兆候ですね。調査を正式に依頼したい。現地での保護と解析、両方の目的で行動します」

 

「了解しました。準備を整えます」

 

そのやり取りを、廊下越しに聞いていたセキリュウがすかさず声を上げた。

 

「博士、俺も行かせてください。実地調査、やらせてもらえませんか?」

 

奥の部屋からは、白いローブを肩にかけたシロナが現れる。

 

「じゃあ、私も行く。レジの封印、ずっと興味あったんだ」

 

「二人だけ? ずるいなぁ。僕も参加しよう」

 

プラターヌが笑いながら手を挙げる。

 

ナナマカドはその三人を見渡し、小さく笑った。

 

「……よし、全員で行こう。私たちの目で、“封印”の真実を確かめよう」

 

 

 

 

 

 

アズナ村の朝。

屋外訓練場にて、アラン、ユウマ、ミナトの三人が、エイトの指導のもとで基礎訓練を受けていた。

 

「“このは”や“ひのこ”は、撃った瞬間が最も無防備だ。撃つよりも、その後を考えろ」

 

エイトのバシャーモが地面を跳ねながら模擬戦を展開する。

 

ニャオハとユウマは、指示に従ってタイミングを調整する。

アシマリとミナトは視線の誘導と動きのリズムを探っていた。

 

ヒトカゲとアランは、距離感と一歩目の反応速度を重視して繰り返す。

 

そのとき、訓練場の隅にある玄関が開いた。

 

「お客人がいらしたようだ」

 

村長・ハクオが静かに告げる。

 

 

 

現れたのは、ナナマカド博士と、三人の弟子たち――シロナ、プラターヌ、セキリュウ。

 

「初めまして。ナナマカドです。行政からの依頼で、封印遺跡の調査に参りました」

 

博士は深く頭を下げ、背筋を伸ばして立っていた。

 

ハクオが説明を補う。

 

「この三人は、それぞれ専門的な視点を持つ調査員じゃ。現地の君らとも、協力してもらえればと思う」

 

ナナマカド博士は、静かにユウマに目を向けた。

 

「……君が、ユウマくんだね。ハクオさんから聞いた。“洞窟の記録を独自にまとめている少年がいる”と」

 

ユウマは、少しだけ戸惑ったように瞬きし、それからカバンを開いてノートを取り出す。

 

博士はページをめくりながら、何度も頷いた。

 

「……見事だ。“構造”に注目しながら、“思考の意図”にまで触れている。特に、封印が“外に向かって施されている”という考察は素晴らしい」

 

ユウマは小さく答える。

 

「……見ることを拒んだ封印、だと思ったんです。中を“守る”より、“誰にも見られない”ことが大事だったのかなって」

 

「その発想が、次の鍵になるだろう」

 

博士の声には、本物の敬意が込められていた。

 

 

 

その様子を、少し離れた場所でミナトが見ていた。

 

(……外の人って、こんな感じなんだ)

 

シロナがユウマのノートをのぞきこみ、質問し、笑う。

ユウマは変わらず静かに応じていた。

 

見ていて、ただ少し、胸の奥がくすぐられるような感覚があった。

比べる気も、負けたくないとも思わない。ただ、知らない世界に触れたような、不思議な気持ち。

 

(ああいう人たちがいるんだ。外には)

 

 

 

 

 

 

午後。封印の洞窟へ向かう道。

 

セキリュウが歩きながら、小道に差す日差しを見て言った。

 

「この道、光の角度が古い。……古道の痕跡かもな」

 

プラターヌはその横で、地層の断面を確認しながらデータをスケッチする。

 

洞窟内。苔むした岩肌に、点字が整然と刻まれていた。

外周に並ぶのは「レジロック」「レジスチル」の名。そして中央には、何も記されていない石柱。

 

「中心部が空白か……逆に、何かを隠していると見た方が自然だな」

 

ナナマカド博士が呟き、一同の視線が集まる。

 

アランとヒトカゲは洞内の周囲を警戒するように歩き、

ミナトはプラターヌと記号の共通点を洗い出していた。

 

「この模様、うちの商品のラベルに似てる……もしかして、意味がある?」

 

「流通記号、あるいは分類記号だな。見落としがちな視点だ。良い着眼だよ」

 

プラターヌはメモに印を付けながら笑う。

 

 

 

少し奥では、ユウマとシロナが封印石の配列を図に写していた。

横顔を見つめていたミナトは、そっと目を伏せる。

 

(知ってることが、違うな……)

 

憧れ。興味。

その正体に名前はつかないけれど――自分が知らないものを持つ人々が、今この場所にいる。

 

 

 

 

 

 

その夜。ミユリが台所でお茶を淹れていると、ミナトがぽつりと話しかけた。

 

「ねえ、お母さん……外の世界って、どんな感じ?」

 

「ふふ、どうしたの? 今日、何かあった?」

 

「なんかね、話を聞いてて、思ったの。“まだ私、知らないこといっぱいあるな”って」

 

ミユリは少しだけ手を止め、優しく笑った。

 

「うん。世界は広いよ。だからこそ、外に出るのは面白いの。怖いこともあるけど、それ以上に“知りたい”って思えたら、それは大事な気持ちよ」

 

ミナトはゆっくり頷いた。

 

「そっか。……私、ちょっとだけ、外に出てみたくなった」

 

「うん。その気持ち、ずっと大切にして」

 

その夜、窓の外の風は、ほんの少しだけ違って聞こえた。

 

――世界の広さを、今、ほんの一歩、実感したような気がしていた。

 

 




次回「封印図と足音」

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