アラン・リザードンと巡るポケモン世界記 作:エイト
第11話:記録の扉と揺れる視線
シンオウ地方、ナナマカド研究所。木の香りが漂う書庫に、一本の通信が入った。
「……ホウエン地方のアズナ村、封印の洞窟。ハンターによる潜入未遂の記録が上がりました」
行政職員の報告に、ナナマカド博士は眉をひそめる。
「危険の兆候ですね。調査を正式に依頼したい。現地での保護と解析、両方の目的で行動します」
「了解しました。準備を整えます」
そのやり取りを、廊下越しに聞いていたセキリュウがすかさず声を上げた。
「博士、俺も行かせてください。実地調査、やらせてもらえませんか?」
奥の部屋からは、白いローブを肩にかけたシロナが現れる。
「じゃあ、私も行く。レジの封印、ずっと興味あったんだ」
「二人だけ? ずるいなぁ。僕も参加しよう」
プラターヌが笑いながら手を挙げる。
ナナマカドはその三人を見渡し、小さく笑った。
「……よし、全員で行こう。私たちの目で、“封印”の真実を確かめよう」
*
アズナ村の朝。
屋外訓練場にて、アラン、ユウマ、ミナトの三人が、エイトの指導のもとで基礎訓練を受けていた。
「“このは”や“ひのこ”は、撃った瞬間が最も無防備だ。撃つよりも、その後を考えろ」
エイトのバシャーモが地面を跳ねながら模擬戦を展開する。
ニャオハとユウマは、指示に従ってタイミングを調整する。
アシマリとミナトは視線の誘導と動きのリズムを探っていた。
ヒトカゲとアランは、距離感と一歩目の反応速度を重視して繰り返す。
そのとき、訓練場の隅にある玄関が開いた。
「お客人がいらしたようだ」
村長・ハクオが静かに告げる。
現れたのは、ナナマカド博士と、三人の弟子たち――シロナ、プラターヌ、セキリュウ。
「初めまして。ナナマカドです。行政からの依頼で、封印遺跡の調査に参りました」
博士は深く頭を下げ、背筋を伸ばして立っていた。
ハクオが説明を補う。
「この三人は、それぞれ専門的な視点を持つ調査員じゃ。現地の君らとも、協力してもらえればと思う」
ナナマカド博士は、静かにユウマに目を向けた。
「……君が、ユウマくんだね。ハクオさんから聞いた。“洞窟の記録を独自にまとめている少年がいる”と」
ユウマは、少しだけ戸惑ったように瞬きし、それからカバンを開いてノートを取り出す。
博士はページをめくりながら、何度も頷いた。
「……見事だ。“構造”に注目しながら、“思考の意図”にまで触れている。特に、封印が“外に向かって施されている”という考察は素晴らしい」
ユウマは小さく答える。
「……見ることを拒んだ封印、だと思ったんです。中を“守る”より、“誰にも見られない”ことが大事だったのかなって」
「その発想が、次の鍵になるだろう」
博士の声には、本物の敬意が込められていた。
その様子を、少し離れた場所でミナトが見ていた。
(……外の人って、こんな感じなんだ)
シロナがユウマのノートをのぞきこみ、質問し、笑う。
ユウマは変わらず静かに応じていた。
見ていて、ただ少し、胸の奥がくすぐられるような感覚があった。
比べる気も、負けたくないとも思わない。ただ、知らない世界に触れたような、不思議な気持ち。
(ああいう人たちがいるんだ。外には)
*
午後。封印の洞窟へ向かう道。
セキリュウが歩きながら、小道に差す日差しを見て言った。
「この道、光の角度が古い。……古道の痕跡かもな」
プラターヌはその横で、地層の断面を確認しながらデータをスケッチする。
洞窟内。苔むした岩肌に、点字が整然と刻まれていた。
外周に並ぶのは「レジロック」「レジスチル」の名。そして中央には、何も記されていない石柱。
「中心部が空白か……逆に、何かを隠していると見た方が自然だな」
ナナマカド博士が呟き、一同の視線が集まる。
アランとヒトカゲは洞内の周囲を警戒するように歩き、
ミナトはプラターヌと記号の共通点を洗い出していた。
「この模様、うちの商品のラベルに似てる……もしかして、意味がある?」
「流通記号、あるいは分類記号だな。見落としがちな視点だ。良い着眼だよ」
プラターヌはメモに印を付けながら笑う。
少し奥では、ユウマとシロナが封印石の配列を図に写していた。
横顔を見つめていたミナトは、そっと目を伏せる。
(知ってることが、違うな……)
憧れ。興味。
その正体に名前はつかないけれど――自分が知らないものを持つ人々が、今この場所にいる。
*
その夜。ミユリが台所でお茶を淹れていると、ミナトがぽつりと話しかけた。
「ねえ、お母さん……外の世界って、どんな感じ?」
「ふふ、どうしたの? 今日、何かあった?」
「なんかね、話を聞いてて、思ったの。“まだ私、知らないこといっぱいあるな”って」
ミユリは少しだけ手を止め、優しく笑った。
「うん。世界は広いよ。だからこそ、外に出るのは面白いの。怖いこともあるけど、それ以上に“知りたい”って思えたら、それは大事な気持ちよ」
ミナトはゆっくり頷いた。
「そっか。……私、ちょっとだけ、外に出てみたくなった」
「うん。その気持ち、ずっと大切にして」
その夜、窓の外の風は、ほんの少しだけ違って聞こえた。
――世界の広さを、今、ほんの一歩、実感したような気がしていた。
次回「封印図と足音」
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