アラン・リザードンと巡るポケモン世界記   作:エイト

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第18話「眠る巨人」

 午前十時。封印の洞窟の入口に、ナナマカド博士と三人の弟子たちが立っていた。

 

 その前には、準備を終えた四人の子どもたち――アラン、ユウマ、ミナト、シロナ。

 それぞれのパートナーであるヒトカゲ、ニャオハ、アシマリ、リオルも、足元に並ぶ。

 

 博士は手元の記録端末を閉じ、静かに言った。

 

「今日の調査は“扉の先”の確認までに限定する。進入は慎重に。無理はしないでくれ」

 

「外部との通信は継続接続状態にしておく。異常を感じたら、迷わず引き返すんだ」

 

 セキリュウが簡潔に言い、通信機を子どもたちのベルトにもう一度確認して取りつけた。

 

 その直後、彼はシロナにだけ目を向けて、声を少しだけ低くした。

 

「シロナ、くれぐれも……あまり集中しすぎるな。全体を見る意識を忘れないで」

 

 シロナは少し驚いた顔で彼を見返し、やがて柔らかく笑った。

 

「ありがとう。……でも、ちゃんと見えてるよ、今回は」

 

 リオルが小さく鳴いて、それに応えるように頷いた。

 

 

 

 子どもたちは、昨日開いた通路の先――第一層奥の裂け目に足を踏み入れた。

 

 そこから先は、石板の螺旋構造を抜ける狭い通路。

 身をかがめなければ通れない天井と、薄く湿った岩壁。

 

「……天井、低いね」

 

 ミナトが小さく声を漏らす。アシマリが足元をぴょこぴょこと歩くたび、水気のある音が響いた。

 

「この空気の流れ……昨日より少し乾いてる?」

 

 アランが指先をかざしながら呟くと、ユウマが頷いた。

 

「密閉空間じゃない。“どこかへ通じている”構造。空気が少しずつ抜けてる」

 

 リオルの波導が通路を照らし、先の地形を淡く照らす。

 

 やがて――通路の先に、ゆるやかな傾斜と、高さのある空間が見えてくる。

 

 

 

「……あった。昨日の“扉”だ」

 

 開けた空間の中央に、それはあった。

 

 高さ約三メートルの巨大な石造の扉。

 六つの円が並び、装飾された柱に挟まれて建っている。

 

 表面には点字のような文様と、古代の螺旋模様。

 それらはまるで、何かの“順序”を示しているように見えた。

 

「扉の左右に、昨日の石板と同じ構造がある」

 

 ユウマがメモを開き、昨日の点字資料と照らし合わせる。

 

「北・南・西・東・中央・外周……この順番に押していけばいいはず」

 

 アランが手袋を締め直す。

 

「じゃあ、いくよ。順番通りに、慎重に」

 

 六つの円の表面に、順に手を当てていく。

 

 ――ゴッ。ギギィ……。

 

 鈍い音が内部で響き、扉の中央がわずかに振動した。

 やがて、長い静寂のあとに――石扉が、ゆっくりと開き始めた。

 

 

 

 中には、広間が広がっていた。

 

 天井は高く、外部の構造とは明らかに異なる。

 岩ではなく、なめらかに削られた石材で作られた空間。

 

 部屋の中心には、一段高くなった台座がある。

 そこに、巨体のポケモンが静かに座っていた。

 

「……あれは……」

 

 ミナトが、思わず足を止める。

 

「ゴルーグだ。……図鑑で見たことある。地面・ゴーストタイプ」

 

 アランの声が震える。

 ユウマがスケッチをとりつつ、呟く。

 

「ただの“石像”じゃない。……波導が反応してる。微弱だけど、“生きてる”」

 

 リオルが身を低くし、軽く唸った。

 

 その瞬間――ゴルーグの目が、淡い光を帯びた。

 

 

 

 洞窟の外。セキリュウの受信機に、低い反応が走る。

 

「来たか……反応レベルが上がった」

 

「動いたな。封印……解除と連動してたんだ」

 

 ナナマカド博士がつぶやいた。

 

 プラターヌが通信を確認しながら言う。

 

「でも、子どもたちからの異常信号はない。落ち着いてるみたいだ」

 

「……エイトの“観測役”が中に入ってる。それがある限り、すぐ対応はできる」

 

 博士の言葉に、セキリュウがわずかに頷く。

 

 

 

 洞窟内。

 

 ゴルーグの目が完全に開き、胸部の紋章が微かに光を帯びた。

 

「……くる。起動した!」

 

 ユウマの声に、全員が即座に陣形をとる。

 

「待って! 攻撃の気配はない。たぶん、“試してる”」

 

 シロナがリオルを前に出しながら言った。

 

「この反応……戦闘というより、意志の確認。誰が来たのかを“見てる”だけ」

 

「じゃあ……こちらも、応えるしかない」

 

 アランがヒトカゲに目をやる。

 

 ヒトカゲは一歩前へ出た。

 同時に、ニャオハ、アシマリ、リオルがそれぞれ構える。

 

 敵意ではなく、“試練”としての対話――

 この洞窟が、未来の子どもたちに託した、最初の問い。

 

 そして、ゴルーグの右腕が――ゆっくりと、動いた。

 

 




次回「巨像の試練、光の先へ」

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