アラン・リザードンと巡るポケモン世界記 作:エイト
午前十時。封印の洞窟の入口に、ナナマカド博士と三人の弟子たちが立っていた。
その前には、準備を終えた四人の子どもたち――アラン、ユウマ、ミナト、シロナ。
それぞれのパートナーであるヒトカゲ、ニャオハ、アシマリ、リオルも、足元に並ぶ。
博士は手元の記録端末を閉じ、静かに言った。
「今日の調査は“扉の先”の確認までに限定する。進入は慎重に。無理はしないでくれ」
「外部との通信は継続接続状態にしておく。異常を感じたら、迷わず引き返すんだ」
セキリュウが簡潔に言い、通信機を子どもたちのベルトにもう一度確認して取りつけた。
その直後、彼はシロナにだけ目を向けて、声を少しだけ低くした。
「シロナ、くれぐれも……あまり集中しすぎるな。全体を見る意識を忘れないで」
シロナは少し驚いた顔で彼を見返し、やがて柔らかく笑った。
「ありがとう。……でも、ちゃんと見えてるよ、今回は」
リオルが小さく鳴いて、それに応えるように頷いた。
子どもたちは、昨日開いた通路の先――第一層奥の裂け目に足を踏み入れた。
そこから先は、石板の螺旋構造を抜ける狭い通路。
身をかがめなければ通れない天井と、薄く湿った岩壁。
「……天井、低いね」
ミナトが小さく声を漏らす。アシマリが足元をぴょこぴょこと歩くたび、水気のある音が響いた。
「この空気の流れ……昨日より少し乾いてる?」
アランが指先をかざしながら呟くと、ユウマが頷いた。
「密閉空間じゃない。“どこかへ通じている”構造。空気が少しずつ抜けてる」
リオルの波導が通路を照らし、先の地形を淡く照らす。
やがて――通路の先に、ゆるやかな傾斜と、高さのある空間が見えてくる。
「……あった。昨日の“扉”だ」
開けた空間の中央に、それはあった。
高さ約三メートルの巨大な石造の扉。
六つの円が並び、装飾された柱に挟まれて建っている。
表面には点字のような文様と、古代の螺旋模様。
それらはまるで、何かの“順序”を示しているように見えた。
「扉の左右に、昨日の石板と同じ構造がある」
ユウマがメモを開き、昨日の点字資料と照らし合わせる。
「北・南・西・東・中央・外周……この順番に押していけばいいはず」
アランが手袋を締め直す。
「じゃあ、いくよ。順番通りに、慎重に」
六つの円の表面に、順に手を当てていく。
――ゴッ。ギギィ……。
鈍い音が内部で響き、扉の中央がわずかに振動した。
やがて、長い静寂のあとに――石扉が、ゆっくりと開き始めた。
中には、広間が広がっていた。
天井は高く、外部の構造とは明らかに異なる。
岩ではなく、なめらかに削られた石材で作られた空間。
部屋の中心には、一段高くなった台座がある。
そこに、巨体のポケモンが静かに座っていた。
「……あれは……」
ミナトが、思わず足を止める。
「ゴルーグだ。……図鑑で見たことある。地面・ゴーストタイプ」
アランの声が震える。
ユウマがスケッチをとりつつ、呟く。
「ただの“石像”じゃない。……波導が反応してる。微弱だけど、“生きてる”」
リオルが身を低くし、軽く唸った。
その瞬間――ゴルーグの目が、淡い光を帯びた。
洞窟の外。セキリュウの受信機に、低い反応が走る。
「来たか……反応レベルが上がった」
「動いたな。封印……解除と連動してたんだ」
ナナマカド博士がつぶやいた。
プラターヌが通信を確認しながら言う。
「でも、子どもたちからの異常信号はない。落ち着いてるみたいだ」
「……エイトの“観測役”が中に入ってる。それがある限り、すぐ対応はできる」
博士の言葉に、セキリュウがわずかに頷く。
洞窟内。
ゴルーグの目が完全に開き、胸部の紋章が微かに光を帯びた。
「……くる。起動した!」
ユウマの声に、全員が即座に陣形をとる。
「待って! 攻撃の気配はない。たぶん、“試してる”」
シロナがリオルを前に出しながら言った。
「この反応……戦闘というより、意志の確認。誰が来たのかを“見てる”だけ」
「じゃあ……こちらも、応えるしかない」
アランがヒトカゲに目をやる。
ヒトカゲは一歩前へ出た。
同時に、ニャオハ、アシマリ、リオルがそれぞれ構える。
敵意ではなく、“試練”としての対話――
この洞窟が、未来の子どもたちに託した、最初の問い。
そして、ゴルーグの右腕が――ゆっくりと、動いた。
次回「巨像の試練、光の先へ」
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