アラン・リザードンと巡るポケモン世界記 作:エイト
空気が、一瞬にして張り詰めた。
ゴルーグの腕が静かに動き、金属と石が擦れる鈍い音が洞窟内に響いた。
全身のパーツがゆっくりと噛み合い、歯車のような関節が回転を始める。目が、ぼんやりと淡い光を帯びたその瞬間、アランの心臓が強く脈打った。
(来る……!)
「――ヒトカゲ、“えんまく”!」
叫びと同時に、足元から白煙が弾ける。
煙は一瞬で視界を覆い、ゴルーグの巨体を包み込む。濃い霧のように拡がるそれは、一見すると有利な状況を作るようにも思えたが――。
その奥から、重い音とともに、大地が軋んだ。
ゴルーグの巨体が煙を切り裂いて前進する。足元を乱さない、重厚かつ安定した動き。まるで“視覚”に頼っていないかのような、無駄のない歩行。
「ミナト、“みずでっぽう”で左右から!」
「了解! アシマリ、分散射撃!」
アシマリの口から放たれた二条の水弾が、左右の壁を跳ねながらゴルーグへと迫る。
ゴルーグはそれを見据えるように、右腕をゆっくりと構えた。
その拳が、真横から迫る水弾に触れた瞬間――
石の腕が一閃し、水の飛沫が空中に散った。
(……見えてないはずなのに、反応した!?)
アランが息を飲む。
――音か、熱か。それとも、波導のような何かを感じ取っているのか。
理由は分からないが、視界を封じただけではゴルーグの反応を止めることはできなかった。
「“マジカルリーフ”を斜め軌道で! 牽制しながら距離を取って!」
ユウマの声が鋭く響く。
ニャオハが地を蹴り、しなやかに身を翻しながら葉の刃を放つ。
緑色のリーフブレードが螺旋を描くように飛び、煙の中へと突っ込む。だが、その刹那。
――ゴンッ!
重い音とともに、何か硬質なものが跳ね返された音がした。
すぐに煙の向こうから、飛び散った葉が地面に落ちる音。
「防がれた……正面からの攻撃、通じない!」
「アラン、あれ!」
ミナトの声に視線を向けると、煙の切れ目に微かに覗いた光。
――ゴルーグの胸部、そこに刻まれた“傷”。
「……あそこ、光ってる。傷口……?」
「なにかの“鍵”かもしれない」
ユウマが壁の点字を見つめながら呟いた。
その時、ゴルーグの左手が天井近くを軽く叩いた。
直後、周囲の空気が振動する。
「……シロナ、避けて!」
波打つような空間の歪み――“ヘビーボンバー”だ!
リオルが空気を裂いて跳び上がり、横へ跳ねる。その衝撃で煙が晴れ、ようやく全容が現れる。
高さ3メートルを超す巨体。頑強な構造と均整の取れたフォルム。ゴルーグは、まさに“試練”として造られた戦闘体そのものだった。
「シロナ、“しんくうは”で高所を狙って!」
「リオル、お願い!」
リオルが波導を練り、両手を前に突き出す。
空間にひびが入るように放たれた気弾が、まっすぐにゴルーグの胸部へ――
――だが。
ゴルーグは右腕を一回転させ、まるで空を裂くようにその気弾を叩き落とす。
「……見えてる? いや、違う……“読んでる”!?」
(このままだと、消耗戦になる……何か突破口を……!)
アランは深く息を吸う。
「ミナト、“跳躍射撃”試す!」
「了解! アシマリ、“みずでっぽう”、ヒトカゲの足元!」
アシマリが放った水流が地面に弾き、ヒトカゲの足元へ命中。
その勢いでヒトカゲが高く跳ね――
「“ひのこ”!」
アランが叫ぶ。
ヒトカゲの口から放たれた火花が、弧を描いてゴルーグの胸部へ!
――だが、またしてもわずかにズレ、肩口へと当たって弾けた。
「惜しい……あと数十センチ下……!」
「次は角度を変える!」
「でもチャンスが少ない……連携しかない!」
「リオル、ニャオハで左右挟撃!」
四人の指示が交錯する。混乱ではない。精密な“協調”だ。
リオルが鋭い蹴りを繰り出し、足元へ注意を引く。
ニャオハが反対から“マジカルリーフ”を斜め下段から放つ。
「アラン、跳ばす!」
「うん、ヒトカゲ、“えんまく”!」
煙と同時に“ひのこ”の連撃。ゴルーグの動きがわずかに鈍る。
(いける……このリズムのなかで、突破する……!)
だが、まだ“答え”には足りない。
その時だった。壁の一角に視線を向けたユウマが、目を見開く。
「……文字がある。“傷口に、衝撃を、連ねよ”。封印はそれに応える――」
「連続攻撃で、“共鳴”させるってことか!?」
「やってみる価値はある!」
「全員、準備して!」
シロナの声に、リオルが力を溜める。
アランもまた、ヒトカゲの顔を見つめ、静かに頷いた。
「いくよ、ヒトカゲ」
ヒトカゲが力強く尻尾を揺らす。
同時に、全員が動いた。
「“しんくうは”!」
「“ひのこ”!」
「“アクアジェット”!」
「“マジカルリーフ”!」
波導、火花、水流、葉刃。
それぞれが違う性質を持ちながらも、狙いはただ一点。
――ゴルーグの胸部、傷跡の中心へ!
連続する攻撃が一瞬のうちに重なり、衝撃が幾重にも積み重なる。
ゴルーグの目が、一瞬だけ震えた。
内部から微かな共鳴音が鳴り、胸部の傷が――
――閃光を放った。
眩い光が広がり、空間が震えたかと思うと……
静寂が戻っていた。
ゴルーグは、もう動かない。
その目にはまだ光が宿っているが、敵意はない。
ただ――見守っている。通過を許された者たちを、黙して迎えるように。
「……通った。僕たちの、“答え”が」
ユウマの声が洞窟に響く。
そして、ゴルーグの背後――
重い石扉が、静かに開き始めていた。
その先にあるのは、何かの記憶。
そして、未来。
次回「封印の奥、記録と宝の間へ」
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