アラン・リザードンと巡るポケモン世界記   作:エイト

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第19話「巨像の試練、光の先へ」

 空気が、一瞬にして張り詰めた。

 

 ゴルーグの腕が静かに動き、金属と石が擦れる鈍い音が洞窟内に響いた。

 

 全身のパーツがゆっくりと噛み合い、歯車のような関節が回転を始める。目が、ぼんやりと淡い光を帯びたその瞬間、アランの心臓が強く脈打った。

 

(来る……!)

 

「――ヒトカゲ、“えんまく”!」

 

 叫びと同時に、足元から白煙が弾ける。

 

 煙は一瞬で視界を覆い、ゴルーグの巨体を包み込む。濃い霧のように拡がるそれは、一見すると有利な状況を作るようにも思えたが――。

 

 その奥から、重い音とともに、大地が軋んだ。

 

 ゴルーグの巨体が煙を切り裂いて前進する。足元を乱さない、重厚かつ安定した動き。まるで“視覚”に頼っていないかのような、無駄のない歩行。

 

「ミナト、“みずでっぽう”で左右から!」

 

「了解! アシマリ、分散射撃!」

 

 アシマリの口から放たれた二条の水弾が、左右の壁を跳ねながらゴルーグへと迫る。

 

 ゴルーグはそれを見据えるように、右腕をゆっくりと構えた。

 

 その拳が、真横から迫る水弾に触れた瞬間――

 

 石の腕が一閃し、水の飛沫が空中に散った。

 

(……見えてないはずなのに、反応した!?)

 

 アランが息を飲む。

 

 ――音か、熱か。それとも、波導のような何かを感じ取っているのか。

 

 理由は分からないが、視界を封じただけではゴルーグの反応を止めることはできなかった。

 

「“マジカルリーフ”を斜め軌道で! 牽制しながら距離を取って!」

 

 ユウマの声が鋭く響く。

 

 ニャオハが地を蹴り、しなやかに身を翻しながら葉の刃を放つ。

 

 緑色のリーフブレードが螺旋を描くように飛び、煙の中へと突っ込む。だが、その刹那。

 

 ――ゴンッ!

 

 重い音とともに、何か硬質なものが跳ね返された音がした。

 

 すぐに煙の向こうから、飛び散った葉が地面に落ちる音。

 

「防がれた……正面からの攻撃、通じない!」

 

「アラン、あれ!」

 

 ミナトの声に視線を向けると、煙の切れ目に微かに覗いた光。

 

 ――ゴルーグの胸部、そこに刻まれた“傷”。

 

「……あそこ、光ってる。傷口……?」

 

「なにかの“鍵”かもしれない」

 

 ユウマが壁の点字を見つめながら呟いた。

 

 その時、ゴルーグの左手が天井近くを軽く叩いた。

 

 直後、周囲の空気が振動する。

 

「……シロナ、避けて!」

 

 波打つような空間の歪み――“ヘビーボンバー”だ!

 

 リオルが空気を裂いて跳び上がり、横へ跳ねる。その衝撃で煙が晴れ、ようやく全容が現れる。

 

 高さ3メートルを超す巨体。頑強な構造と均整の取れたフォルム。ゴルーグは、まさに“試練”として造られた戦闘体そのものだった。

 

「シロナ、“しんくうは”で高所を狙って!」

 

「リオル、お願い!」

 

 リオルが波導を練り、両手を前に突き出す。

 

 空間にひびが入るように放たれた気弾が、まっすぐにゴルーグの胸部へ――

 

 ――だが。

 

 ゴルーグは右腕を一回転させ、まるで空を裂くようにその気弾を叩き落とす。

 

「……見えてる? いや、違う……“読んでる”!?」

 

(このままだと、消耗戦になる……何か突破口を……!)

 

 アランは深く息を吸う。

 

「ミナト、“跳躍射撃”試す!」

 

「了解! アシマリ、“みずでっぽう”、ヒトカゲの足元!」

 

 アシマリが放った水流が地面に弾き、ヒトカゲの足元へ命中。

 

 その勢いでヒトカゲが高く跳ね――

 

「“ひのこ”!」

 

 アランが叫ぶ。

 

 ヒトカゲの口から放たれた火花が、弧を描いてゴルーグの胸部へ!

 

 ――だが、またしてもわずかにズレ、肩口へと当たって弾けた。

 

「惜しい……あと数十センチ下……!」

 

「次は角度を変える!」

 

「でもチャンスが少ない……連携しかない!」

 

「リオル、ニャオハで左右挟撃!」

 

 四人の指示が交錯する。混乱ではない。精密な“協調”だ。

 

 リオルが鋭い蹴りを繰り出し、足元へ注意を引く。

 

 ニャオハが反対から“マジカルリーフ”を斜め下段から放つ。

 

「アラン、跳ばす!」

 

「うん、ヒトカゲ、“えんまく”!」

 

 煙と同時に“ひのこ”の連撃。ゴルーグの動きがわずかに鈍る。

 

(いける……このリズムのなかで、突破する……!)

 

 だが、まだ“答え”には足りない。

 

 その時だった。壁の一角に視線を向けたユウマが、目を見開く。

 

「……文字がある。“傷口に、衝撃を、連ねよ”。封印はそれに応える――」

 

「連続攻撃で、“共鳴”させるってことか!?」

 

「やってみる価値はある!」

 

「全員、準備して!」

 

 シロナの声に、リオルが力を溜める。

 

 アランもまた、ヒトカゲの顔を見つめ、静かに頷いた。

 

「いくよ、ヒトカゲ」

 

 ヒトカゲが力強く尻尾を揺らす。

 

 

 

 同時に、全員が動いた。

 

 

 

「“しんくうは”!」

 

「“ひのこ”!」

 

「“アクアジェット”!」

 

「“マジカルリーフ”!」

 

 波導、火花、水流、葉刃。

 

 それぞれが違う性質を持ちながらも、狙いはただ一点。

 

 ――ゴルーグの胸部、傷跡の中心へ!

 

 連続する攻撃が一瞬のうちに重なり、衝撃が幾重にも積み重なる。

 

 ゴルーグの目が、一瞬だけ震えた。

 

 内部から微かな共鳴音が鳴り、胸部の傷が――

 

 ――閃光を放った。

 

 眩い光が広がり、空間が震えたかと思うと……

 

 

 

 静寂が戻っていた。

 

 

 

 ゴルーグは、もう動かない。

 

 その目にはまだ光が宿っているが、敵意はない。

 

 ただ――見守っている。通過を許された者たちを、黙して迎えるように。

 

「……通った。僕たちの、“答え”が」

 

 ユウマの声が洞窟に響く。

 

 

 

 そして、ゴルーグの背後――

 

 重い石扉が、静かに開き始めていた。

 

 

 

 その先にあるのは、何かの記憶。

 

 そして、未来。

 

 




次回「封印の奥、記録と宝の間へ」

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