アラン・リザードンと巡るポケモン世界記   作:エイト

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第22話「それぞれの灯火の下で」

報告会が終わり、囲炉裏の火が穏やかに落ち着く頃。

会場だった集会所の引き戸が開かれ、冷たい夜気がわずかに入り込んできた。

 

「……今日は、よくやってくれた。ゆっくり休みなさい」

 

ハクオの穏やかな声に背を押されるように、子どもたちは静かに席を立ち、それぞれの家へと歩き出す。

 

 

 

アランが家へ戻るころ、山のふもとは既に夜の帳に包まれていた。

風が木々の葉を揺らし、ほんのわずかに肌寒さを運ぶ。

 

玄関を開けると、母ヒナの用意してくれた灯りと夕食の匂いが迎えてくれた。

台所の奥で、彼女はスープ鍋に火をかけながら振り返る。

 

「おかえり、アラン」

 

「……ただいま。ちょっと遅くなった」

 

ヒナは椅子を引きながら、ふっと微笑んだ。

 

「温めておいたわよ。座って、身体をあっためなさい」

 

アランは静かに頷き、椅子に腰かけた。

食卓に並べられたのは、根菜のスープと焼き魚、そして少しのパン。ヒトカゲ用のフードも、小皿に添えられている。

 

ヒトカゲは火鉢のそばに座り、ちらりとこちらを見てから目を閉じた。どこか安心したような、落ち着いた表情。

 

「……無事に終わって、よかった」

 

ヒナの声に、アランも小さく笑みを見せた。

 

「……バレた?」

 

「うん。顔がね、すごく“頑張った”って言ってる」

 

「……ヒトカゲが、応えてくれたんだ。ちょっとずつ、通じるようになってきた気がする。前より……うん、もっとちゃんと」

 

その言葉に、ヒナは頷いて言った。

 

「“伝わる”って、あなたが本気で“伝えたい”って思ってるからよ。気持ちは、ちゃんと届くの」

 

アランは、スープをひと口飲んで、ぽつりとつぶやいた。

 

「……もっと上手くなりたい。言葉も、行動も、全部」

 

「それなら、大丈夫よ」

 

ヒナはそう言って、アランの頭にそっと手を置いた。

 

「あなたは、自分の足でちゃんと進もうとしてる。それだけで、十分に強いわ」

 

アランは何も返さず、けれどその手の温もりに、心の奥がふっとほどけていくのを感じていた。

 

 

 

同じ頃。ミナトの家――ミナト商店では、店の灯りを落とし終えたあとだった。

 

「おかえり、ミナト。どうだった?」

 

母ミユリが声をかける。いつも通りの調子なのに、心なしか声に張りがある。

 

「疲れた……けど、ちょっと気持ちよかったかも」

 

ミナトはぽすんとソファに座り込んだ。アシマリも、足元で身体を丸めている。

 

「お客さんがたくさんいた?」

 

「うん。大人ばっかで、ちょっと緊張した。でもね――アシマリも、すごく頑張ったんだよ」

 

「そっか、それはいいことだねぇ。よしよし、アシマリちゃんも偉かったねぇ」

 

ミユリが手を伸ばしてアシマリの頭を撫でると、ぷしゅっと小さな声を立てて喜んだ。

 

そこへ、セイジも顔を出す。

 

「ミナト、ユウマとアランとはうまくやれてるのかい?」

 

「うん。……たぶん。いろいろあるけど」

 

ミナトは、そう言って曖昧に笑う。

 

アランの真っ直ぐさも、ユウマの静かな距離感も、どちらも気になる。けれど、それが嫌というわけではなく、むしろ少し羨ましい。

 

だからこそ、自分もちゃんと、ちゃんと――

 

「……あたし、もっとできるようになりたいな」

 

「うん、できるよ。ミナトは、ちゃんと考えてる。そういうの、大事だよ」

 

父の言葉に、ミナトは口を噤んで、それからそっと笑った。

 

 

 

一方、ユウマの家。

 

エイトとアヤネが食器を片づける中、ユウマは小さなノートに黙々と記録を取っていた。

 

「書いてるのは、今日のこと?」

 

アヤネの声に、ユウマは軽く頷く。

 

「はい。洞窟の構造と反応、記録資料の整理……あとは、点字の転写も」

 

「ずいぶん丁寧だね。……他の子たちのことも、書いてる?」

 

「……うん。全体の動きがわからないと、記録にならないから」

 

エイトが微かに笑う。

 

「君の記録は、君の目を通した“真実”だ。誰かに合わせなくても、君が見たことをちゃんと残せばいい」

 

ユウマは少しだけペンを止めると、ノートの隅にそっと一言を付け加えた。

 

「……“連携に成功した”と明記しておきます。今回は、個ではなく“チーム”だったから」

 

その言葉に、アヤネはそっとユウマの背を撫でた。

 

「えらいね」

 

ユウマは頷き、再びペンを走らせた。

 

 

 

村長宅。夜も深まったころ、風呂上がりのシロナは縁側に腰掛けて、髪をタオルで拭いていた。セキリュウがその隣に湯上がりのハーブティーを差し出す。

 

「ありがと……はあ、疲れた」

 

「緊張してた?」

 

「少し……かな。ああいう場で話すのは、まだ慣れない」

 

セキリュウは縁側に腰を下ろし、月を見上げる。

 

「でも、伝えたいことは伝わってたよ」

 

「……そう、だといいけど」

 

しばし、虫の声と風の音だけが耳を満たす。

 

「ねえ、セキリュウ。私、あの場所の“意図”が……すごく、優しかったと思うの」

 

「封印の洞窟のこと?」

 

「うん。仕掛けも、点字も、宝物も……全部、“ちゃんと誰かが辿り着くため”に作られてた。守ってるんじゃなくて、“未来に渡すために残した”って感じた」

 

セキリュウは静かに頷く。

 

「そう思えるのは、君が真剣に見たからだ。……だから、記録する意味があるんだよ」

 

シロナは、ふっと笑ってうなずいた。

 

「じゃあ、しっかり残していこう。“今ここにいた私たち”のことも」

 

その言葉に、セキリュウも目を細めて笑った。

 

「うん。全部、残そう」

 

 

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