アラン・リザードンと巡るポケモン世界記 作:エイト
村の広場には、午後の日差しが差し込んでいた。
石畳の上に子どもたちの影が並び、周囲には大人や仲間たちが集まり始めている。今日は――シロナたち先輩組が村を発つ日だった。
「……その前に、最後に記念を残さないか」
静かに提案したのはユウマだった。彼の白い髪が陽光に透けて、淡い水色がきらめく。
「記念?」とアランが首を傾げる。
「調査も終わった。けれど、彼らはただの客じゃない。僕たちに“刺激”をくれた先輩だ。なら――実戦で確かめたい」
その言葉に、シロナは少し驚いたように瞬きをした。だがすぐに柔らかく笑みを浮かべる。
「いいわね。お別れの前に、一戦交えてみましょうか」
セキリュウは腕を組み、短く「いい判断だ」と言った。プラターヌも「研究対象としても面白い」と笑い、すでにメモを取る準備をしている。
「やるなら全員で! アラン、ミナト、ユウマでチームだ!」
ミナトが声を上げると、広場の空気がわっと熱を帯びた。
観客の輪が作られる。
ヒナは両手を胸に組み、ゴチルゼルと並んで息をのむ。
エイトは腕を組んで、真剣な眼差しで息子の姿を見つめる。
エプロン姿のミユリは、「頑張れ!」と声を張り上げて手を振る。
小さな子どもたちも集まってきて、まるで祭りのような賑やかさになった。
「ヒトカゲ!」
「アシマリ!」
「ニャオハ!」
アラン、ミナト、ユウマが同時にボールを放つ。
小さな体が広場の中央に跳び出し、やる気に満ちた鳴き声を上げる。
対する先輩組は――
「ガバイト、お願い」シロナが放つ。
「ハクリュー」セキリュウが静かに呼ぶ。
「アブリー、頼むよ」プラターヌが軽快に投げる。
地面に爪を突き立てるガバイト。空を舞うハクリュー。光の粉を散らすアブリー。
その存在感は、圧倒的だった。観客の間にざわめきが広がる。
「三対三の……同時バトルだな」ナオヤが低く呟く。
「うわぁ……こっちが飲み込まれそう」ヒナが思わず息をのむ。
「――始め!」
セキリュウの合図で戦いが動き出した。
ガバイトが地面を蹴り、一直線にヒトカゲへ突進する。
ハクリューは空を舞いながらしなやかに体をくねらせ、アシマリに冷気を吹きかける。
アブリーはすでに光の幕を張り、仲間を覆っていた。
「速いっ!」アランが息をのむ。
だが彼も負けてはいなかった。
「ヒトカゲ、“えんまく”!」
白煙が広場に立ちこめ、視界を遮る。
その一瞬の猶予で、ユウマがすかさず声を上げる。
「ニャオハ、“かげぶんしん”!」
煙の中に、いくつもの緑の影が飛び散った。
ミナトも負けじと叫ぶ。
「アシマリ、“こごえるかぜ”!」
冷気が煙と混じり、渦を巻いて敵陣へ吹き込む。
観客からは「おおっ!」とどよめきが起こった。
「見事な連携だ……」エイトが感心したように目を細める。
ヒナは「やった……!」と小さく拍手をする。
だが、先輩たちも容赦はしない。
「ガバイト、“ドラゴンクロー”!」
煙を裂いて現れた爪が、ヒトカゲの影をまとめて切り裂く。
「ハクリュー、“しんぴのまもり”」淡い光が仲間を包み、凍気をはじく。
「アブリー、“しびれごな”!」粉が舞い、分身のいくつかを消し飛ばす。
「……っ!」アランが歯を食いしばる。
一気に形勢は逆転。観客席のミユリが思わず声を上げる。
「危ない!」
だがその時、ユウマの冷静な声が響いた。
「アシマリ、もう一度“こごえるかぜ”。ヒトカゲ、今だ、“ほのおのキバ”!」
凍気がガバイトの足を鈍らせ、その隙にヒトカゲが突進する。
赤い牙が閃き、ガバイトの鱗に火花が散った。
「やった!」ミナトが思わず声を弾ませる。
ヒナは手をぎゅっと握り、隣のナオヤも小さく頷いた。
戦いは激しさを増す。
ニャオハは俊敏に舞い、影分身を繰り返しながらアブリーを翻弄する。
アシマリは水弾を飛ばし、味方の退路を作る。
ヒトカゲは小さな体で必死にガバイトへ挑み続ける。
「……すごい。短期間で、ここまで連携ができるなんて」アヤネが呟く。
だが同時に、彼女の目は冷静だった。
「ただし……持久力がないわね」
その言葉どおり、子ども組の息は荒くなり始めていた。
一方、先輩組の三匹は――まだ余力を残している。
「決めよう。ガバイト、“ドラゴンダイブ”」シロナが声を上げる。
「ハクリュー、“りゅうのいぶき”」セキリュウが続ける。
「アブリー、“おまじない”」プラターヌの声が重なる。
巨大な影が空から落ち、雷鳴のような息吹が地を裂いた。光が走り、粉が舞い――
爆風が広場を包み込む。
砂煙が晴れたとき、子どもたちのポケモンは地に伏していた。
ヒトカゲは必死に体を起こそうとしたが、力尽きて倒れ込む。
アシマリとニャオハも同じように限界に達していた。
「……ここまでか」アランが唇をかむ。
けれど、その顔に涙はなかった。
隣でミナトとユウマも同じように立ち、ポケモンを抱き上げる。
広場に、拍手が広がった。
最初に両手を打ったのはミユリだ。
「すごかった! 本当に、よく頑張ったよ!」
子どもたちの仲間が声を上げ、大人たちも惜しみない拍手を送る。
シロナが一歩前に出る。
「あなたたちの戦い方は、まだ荒削り。でも……すごく光ってた。仲間を信じて動く力がある」
セキリュウも頷く。
「経験が足りないのは当然だ。それより、よくここまで互角に持ち込んだ」
プラターヌは笑みを浮かべながら、手帳を閉じた。
「学び続ければ、次はきっと勝てるよ。その目と心を忘れないで」
アランはヒトカゲを抱き締め、まっすぐに言った。
「次は――負けない」
ミナトはアシマリを撫でながら、目を輝かせる。
「もっと上手く支えられるようになる!」
ユウマはニャオハを抱え、静かに頷いた。
「僕たちは、今日を基準に進む。必ず」
その言葉に、シロナたちは微笑んだ。
そして――別れの時は、静かに訪れる。
広場の出口で、シロナたちは荷を背負い、村の人々に頭を下げた。
子どもたちはその背を見送りながら、それぞれの胸に新しい決意を抱く。
旅立ちは、別れではない。
それは――次の成長への始まりだった。
次回「設定集(11話~25話まで)」
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