アラン・リザードンと巡るポケモン世界記   作:エイト

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第3話:森の泉にて

 森の木々がふっと途切れ、ぱっと視界が開けた。

 その先に広がっていたのは、静かで澄んだ泉だった。

 

 水は透き通り、底の白い砂まで見える。丸く並べられた石たちが、水辺を穏やかに囲い、風に揺れる背の低い花が彩りを添えていた。

 木漏れ日が水面に反射し、きらきらと葉の影が揺れて踊っている。

 

「……すごい」

 

 先に声をもらしたのはミナトだった。思わず息を呑んで立ち尽くす。

 

 その声に呼応するように――

 泉の真ん中で、小さな青い頭がぴょこりと現れた。

 

「ミズゴロウ……?」

 

 オレンジ色のほっぺ。つぶらな瞳。どこかで見た、懐かしい姿。

 ミズゴロウは静かにこちらを見つめたあと、小さく頭を振り、水中にすっと戻っていった。

 

「……逃げないね」

 

 ユウマがつぶやく。

 

「ここって、ポケモンたちの“お休み場所”なのかもね」

 

 ミナトはそっと腰を下ろし、辺りを見渡す。

 石の上には、小さなキノココが丸まってうたた寝していた。

 反対側の幹には、ツチニンが影と一体になって静かに張りついている。

 

 そして、アランが見上げたその先――

 木のてっぺんで、ナマケロがぶら下がるようにして枝に寝そべっていた。

 

「……なんか、全部ゆっくりしてる」

 

「だね。戦うってより、暮らしてるって感じ」

 

 アランの胸に、ふと浮かんだのは前の世界で見てきた“ポケモン”の姿だった。

 対戦、バトル、育成――そういう言葉ばかりが先に浮かんでいた。

 

 でも、今――この泉で見ている彼らはただ、静かに“生きている”。

 

(……そうだ。戦うだけが、すべてじゃない)

 

 風がそよぎ、草が揺れる。

 遠くから、小さな鳥ポケモンの鳴き声が聞こえた。

 

 三人は並んで泉の縁に腰を下ろした。

 ミズゴロウの背びれが、時おり水面をすべっていく。

 

 しばらくの静けさのあと、ミナトがぽつりと口を開いた。

 

「ねぇ……お父さんとかお母さんって、どんな人?」

 

 アランとユウマが、同時に顔を上げた。

 

「突然どうしたの?」

 

「いや……せっかくこうして一緒に来たから、話してみるのもいいかなって思って」

 

 そう言って、ミナトは自分のことから話し始めた。

 

「うちのお母さん、明るくて優しいけど、ほんとにおしゃべりでさ。朝から晩まで村の噂とか話してて、たまにうるさいなって思う」

 

「……わかる気がする」

 

「お父さんも、店のことばっかり。私が話しかけても、在庫とか取引とか数字の話ばっかりだし」

 

 ミナトは笑った。けれど、その目には少しだけ寂しさもにじんでいた。

 

 ユウマが続けるように、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「……うちの父さん、強い人。でも、話が難しい」

 

「難しい?」

 

「“波導とは自己との対話”とか、“情報は信じるものじゃなく、見抜くもの”って。……僕、まだ5歳なんだけどな」

 

「わかるけど、分かんない!」

 

 ミナトが吹き出して笑い、アランもつられて笑った。

 

「母さんもね……“チルタリスの羽の流れを読むのよ”って言う。でも、意味わかんない時ある」

 

「それ、ますます分かんない!」

 

「……でも、好きだよ。ふたりとも。優しいし、ちゃんと見てくれてる」

 

 そう言って、ユウマは泉の水面を見つめた。

 

 アランは言葉に詰まった。

 前の世界の両親の記憶も残っている。でも、今の“ヒナ”と“ナオヤ”のことは――?

 

 昨日の夜に見た写真。

 優しく笑う“今の自分”と、彼ら二人の姿。

 

 ヒナは、少し抜けてるけど、笑ってくれるし、手も握ってくれる。

 ナオヤは無口だけど、目を見て、行動で示してくれる。

 

「……俺のお母さんは、ちょっと抜けてる」

 

「抜けてる?」

 

「パンを焦がすし、お茶こぼすし……クッション踏んで転んで転ぶし」

 

「やば……!」

 

 ミナトが笑う。アランも、ふっと笑った。

 

「でも、俺が熱出したとき、ずっと手を握っててくれた」

 

「……優しいね」

 

「お父さんはあんまり喋らない。でも、落ち葉集めてくれたり、転んだらすぐ来てくれる」

 

 ぽつりぽつりと紡がれる言葉の中で、“家族”という輪郭がゆっくりと形をなしていく。

 

 気づけば、三人とも黙って、ただ泉を見つめていた。

 

 水面にまた、ミズゴロウがふわっと姿を見せた。

 さざ波が広がり、三人の影を柔らかく揺らす。

 

「……ねえ」

 

 ミナトが静かに言った。

 

「家族ってさ、うるさかったり、変だったりするけど……でも、いいよね」

 

「……うん」

 

「わかる」

 

 三人の言葉が、ゆっくりと重なった。

 

 その時――頭上の枝から、ナマケロが「ぐぅ」と眠たそうに鳴いた。

 

 その間の抜けた声に、三人は思わず吹き出した。

 

 風がそよぎ、葉が揺れ、水がきらめく。

 子どもたちの笑い声が、森の静けさにそっと溶けていった。

 

 




次回「森の中で出会った“危険”」

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