アラン・リザードンと巡るポケモン世界記 作:エイト
泉のほとりで、三人は思い思いに遊んでいた。
アランは丸い石を並べて“ポケモンの家”を作っていたが、ミナトはそれを見て、腕を組んで首を傾げた。
「うーん、地震で倒れそう」
容赦のない評価にアランが口をとがらせる一方、ユウマは少し離れた木の下に座り、静かに周囲のポケモンたちを観察していた。
木陰でツチニンが静止し、ナマケロは枝にぶら下がって眠っている。ミズゴロウは水辺ではしゃぎ、キノココは小さな花の間で微かに揺れていた。
風は暖かく、葉の隙間から陽光がちらちらと差し込んでくる。
「そろそろ、帰ろっか」
ミナトが声をかけたのは午後四時前。伸びた影が地面に伸び、草の間に細長い模様を描いていた。
「……うん、そうだね」
アランが立ち上がり、ユウマも後に続く。だが、歩き出してすぐ、アランの足がぴたりと止まった。
「……あれ?」
振り返った泉には、ナマケロが寝ていて、ツチニンもそのまま。
しかし――
「……キノココがいない」
ミナトが言った。
アランの胸に、ひやりと冷たいものが走る。
「たしか、さっきあの花のところにいたのに……」
「……違う。何か、変だ」
ユウマの声が低くなる。
彼はミズゴロウの動きを見ていた。
普段なら仲間の不在に敏感に反応するはず。警戒の鳴き声、視線の動き。
けれど今のミズゴロウは、水面をぼんやりと見つめたまま、まるで何も起きていないかのようだった。
「……“何も起きていないことにされている”静かさだ」
その言葉とともに、空気がわずかに冷たくなる。
アランが周囲を見回すと、草が不自然に倒れた跡があった。
ユウマがしゃがみ込み、地面に指を走らせる。
「……細くて長い足跡……しかも、人間の靴跡が混ざってる」
「この森、人は入ってこないんじゃなかった?」
「エイトが言ってた。“ここに入る人間がいたら要注意”って」
ユウマは迷いなくリュックから通信端末を取り出し、短く入力する。
『森の泉。野生ポケモン1体不明。人間の痕跡あり。調査中。』
送信完了。
「……追おう。放っておいたら、間に合わなくなる」
三人は顔を見合わせ、頷き合い、足跡の先へ走り出した。
草が顔をかすめ、枝が腕にひっかかる。森の音が急に遠のいていくようだった。
葉の裂け目、折れた枝、深く踏み込まれた地面――わずかな痕跡を頼りに進んでいくと、やがて奥に、朽ちかけた木の小屋が現れた。
「……ここ、誰かがいた形跡があるね」
アランが小声でつぶやいた。玄関は施錠されているが、土の上には新しい靴跡が残っている。
「完全に“隠れ家”だ……」
「開ける」
ミナトは躊躇せず、小さなポシェットから工具を取り出す。
「非常時用。ママに教わったの」
カチリ――。錠が外れ、ゆっくりと扉が開く。
薄暗い室内には、薬品のにおいがこもっていた。
檻の中で震えているキノココ。その周囲にはコノハナ、ラクライ、アメタマなど、複数の野生ポケモンが押し込められていた。
「……ひどい」
ミナトが息を呑む。
机の上には捕獲メモ、餌の容器、そして――村の地図があった。泉も、封印の洞窟も、赤で囲われている。
「確定だね。ハンター……」
その瞬間――軋むような床の音が背後から。
「……誰だ」
黒いジャケット、ゴーグルの男が立っていた。腰には複数のモンスターボール。
(いつの間に!? 気配がまるでなかった)
だがそれもそのはず――男の肩には、メガヤンマが止まっていた。目が紅く光り、わずかに羽音を響かせている。
(……催眠波! だから、ミズゴロウは……)
「キノココ、いま! しびれごな!」
アランが叫ぶ。檻の隙間からふわりと胞子が広がった。
「っ、くそッ……!」
ハンターが顔を覆う。
「逃げるよ!」
三人は扉を飛び出し、森を駆ける。
葉をかき分け、獣道を曲がり、乾いた地面を蹴る。
「後ろから来てる!」
「右から回るぞ!」
(誘導されてる……!?)
「違う! 左に逃げて!」
アランの勘が働いた。三人は左へ飛び込む。
だが追ってくる影が、今度は上から――!
「メガヤンマ!? 空から!」
羽音とともに催眠波が襲う。ユウマがすかさず叫ぶ。
「目を閉じて! 意識を逸らして!」
風を切って走りながら、目をそらし、振り返らずに走り抜ける。
ぬかるんだ地面に差し掛かったとき、アランが叫ぶ。
「ミズゴロウ! 地面に“みずでっぽう”!」
泥水が跳ね、足元を滑らせた羽音が遠ざかる。
けれど――目の前には断崖。
「……行き止まり!?」
崖は四メートル以上。飛び降りられる高さじゃない。
「アラン、ミナト……下がって。俺が止める」
「ユウマ……!」
立ちはだかるユウマの前に、再びハンターが現れる。今度は、ナッシーとメガヤンマを同時に繰り出した。
「……なんでボールを使わない?」
「……ああ?」
「管理データが残るから。正規の流通に乗せられないからでしょ?」
ユウマが鋭く言い放つ。
「“捕獲時の記録、位置データ、識別ID”。それが足がつく原因になる」
「……チッ、ガキのくせに生意気だ」
「この村の伝承を狙って、ポケモンを攫って、何もかも……」
「それ以上は……させない」
その声とともに、空が裂けた。
「バシャーモ、“ブレイズキック”!」
火の閃光が空を駆け、メガヤンマをはじき飛ばす。
「ユウマ、下がれ」
エイトが現れ、ルカリオのボールを構えた。
「ナッシー、テッカニン!」
「行くぞ、バシャーモ、ルカリオ!」
――バトルが始まる。
テッカニンが超高速で翻弄するが、バシャーモがニトロチャージで機動力を上げて追撃。
ルカリオは冷静に波導を読み、ナッシーの「しびれごな」を“はどうだん”で相殺。さらに追撃――
「“しんそく”、続けて“インファイト”!」
テッカニンが高速移動を見せるが、ルカリオの一閃が追い付き、拳が叩き込まれる。
バシャーモの“かえんほうしゃ”が放たれ、ナッシーは避けきれず直撃。
そのまま、戦闘不能。
「ぐあっ……!」
ハンターが地面に倒れる。
すぐさま村の警察隊が現れ、拘束を実行。
檻のポケモンたちは保護され、再調査が進められた。
帰路につく途中、エイトがふいに立ち止まり、アランたちを見た。
「……何やってるんだ。勝手に動くなと言っただろう」
鋭い言葉。
でもそのあと、ほんの少しだけ口元が緩んだ。
「……だが、よくやった」
三人は目を見合わせて、息をついた。
夜。玄関を開けたアランに、ヒナが飛びつくように抱きついた。
「アラン……無事でよかった……!」
その腕の中で、アランはぽつりと返す。
「……ただいま」
次回「覚悟のはじまり」
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