アラン・リザードンと巡るポケモン世界記   作:エイト

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第4話:森の中で出会った“危険”

 泉のほとりで、三人は思い思いに遊んでいた。

 

 アランは丸い石を並べて“ポケモンの家”を作っていたが、ミナトはそれを見て、腕を組んで首を傾げた。

 

「うーん、地震で倒れそう」

 

 容赦のない評価にアランが口をとがらせる一方、ユウマは少し離れた木の下に座り、静かに周囲のポケモンたちを観察していた。

 

 木陰でツチニンが静止し、ナマケロは枝にぶら下がって眠っている。ミズゴロウは水辺ではしゃぎ、キノココは小さな花の間で微かに揺れていた。

 

 風は暖かく、葉の隙間から陽光がちらちらと差し込んでくる。

 

「そろそろ、帰ろっか」

 

 ミナトが声をかけたのは午後四時前。伸びた影が地面に伸び、草の間に細長い模様を描いていた。

 

「……うん、そうだね」

 

 アランが立ち上がり、ユウマも後に続く。だが、歩き出してすぐ、アランの足がぴたりと止まった。

 

「……あれ?」

 

 振り返った泉には、ナマケロが寝ていて、ツチニンもそのまま。

 しかし――

 

「……キノココがいない」

 

 ミナトが言った。

 アランの胸に、ひやりと冷たいものが走る。

 

「たしか、さっきあの花のところにいたのに……」

 

「……違う。何か、変だ」

 

 ユウマの声が低くなる。

 

 彼はミズゴロウの動きを見ていた。

 普段なら仲間の不在に敏感に反応するはず。警戒の鳴き声、視線の動き。

 けれど今のミズゴロウは、水面をぼんやりと見つめたまま、まるで何も起きていないかのようだった。

 

「……“何も起きていないことにされている”静かさだ」

 

 その言葉とともに、空気がわずかに冷たくなる。

 

 アランが周囲を見回すと、草が不自然に倒れた跡があった。

 ユウマがしゃがみ込み、地面に指を走らせる。

 

「……細くて長い足跡……しかも、人間の靴跡が混ざってる」

 

「この森、人は入ってこないんじゃなかった?」

 

「エイトが言ってた。“ここに入る人間がいたら要注意”って」

 

 ユウマは迷いなくリュックから通信端末を取り出し、短く入力する。

 

『森の泉。野生ポケモン1体不明。人間の痕跡あり。調査中。』

 

 送信完了。

 

「……追おう。放っておいたら、間に合わなくなる」

 

 三人は顔を見合わせ、頷き合い、足跡の先へ走り出した。

 

 草が顔をかすめ、枝が腕にひっかかる。森の音が急に遠のいていくようだった。

 

 葉の裂け目、折れた枝、深く踏み込まれた地面――わずかな痕跡を頼りに進んでいくと、やがて奥に、朽ちかけた木の小屋が現れた。

 

「……ここ、誰かがいた形跡があるね」

 

 アランが小声でつぶやいた。玄関は施錠されているが、土の上には新しい靴跡が残っている。

 

「完全に“隠れ家”だ……」

 

「開ける」

 

 ミナトは躊躇せず、小さなポシェットから工具を取り出す。

 

「非常時用。ママに教わったの」

 

 カチリ――。錠が外れ、ゆっくりと扉が開く。

 

 薄暗い室内には、薬品のにおいがこもっていた。

 檻の中で震えているキノココ。その周囲にはコノハナ、ラクライ、アメタマなど、複数の野生ポケモンが押し込められていた。

 

「……ひどい」

 

 ミナトが息を呑む。

 机の上には捕獲メモ、餌の容器、そして――村の地図があった。泉も、封印の洞窟も、赤で囲われている。

 

「確定だね。ハンター……」

 

 その瞬間――軋むような床の音が背後から。

 

「……誰だ」

 

 黒いジャケット、ゴーグルの男が立っていた。腰には複数のモンスターボール。

 

(いつの間に!? 気配がまるでなかった)

 

 だがそれもそのはず――男の肩には、メガヤンマが止まっていた。目が紅く光り、わずかに羽音を響かせている。

 

(……催眠波! だから、ミズゴロウは……)

 

「キノココ、いま! しびれごな!」

 

 アランが叫ぶ。檻の隙間からふわりと胞子が広がった。

 

「っ、くそッ……!」

 

 ハンターが顔を覆う。

 

「逃げるよ!」

 

 三人は扉を飛び出し、森を駆ける。

 葉をかき分け、獣道を曲がり、乾いた地面を蹴る。

 

「後ろから来てる!」

 

「右から回るぞ!」

 

(誘導されてる……!?)

 

「違う! 左に逃げて!」

 

 アランの勘が働いた。三人は左へ飛び込む。

 だが追ってくる影が、今度は上から――!

 

「メガヤンマ!? 空から!」

 

 羽音とともに催眠波が襲う。ユウマがすかさず叫ぶ。

 

「目を閉じて! 意識を逸らして!」

 

 風を切って走りながら、目をそらし、振り返らずに走り抜ける。

 

 ぬかるんだ地面に差し掛かったとき、アランが叫ぶ。

 

「ミズゴロウ! 地面に“みずでっぽう”!」

 

 泥水が跳ね、足元を滑らせた羽音が遠ざかる。

 

 けれど――目の前には断崖。

 

「……行き止まり!?」

 

 崖は四メートル以上。飛び降りられる高さじゃない。

 

「アラン、ミナト……下がって。俺が止める」

 

「ユウマ……!」

 

 立ちはだかるユウマの前に、再びハンターが現れる。今度は、ナッシーとメガヤンマを同時に繰り出した。

 

「……なんでボールを使わない?」

 

「……ああ?」

 

「管理データが残るから。正規の流通に乗せられないからでしょ?」

 

 ユウマが鋭く言い放つ。

 

「“捕獲時の記録、位置データ、識別ID”。それが足がつく原因になる」

 

「……チッ、ガキのくせに生意気だ」

 

「この村の伝承を狙って、ポケモンを攫って、何もかも……」

 

「それ以上は……させない」

 

 その声とともに、空が裂けた。

 

「バシャーモ、“ブレイズキック”!」

 

 火の閃光が空を駆け、メガヤンマをはじき飛ばす。

 

「ユウマ、下がれ」

 

 エイトが現れ、ルカリオのボールを構えた。

 

「ナッシー、テッカニン!」

 

「行くぞ、バシャーモ、ルカリオ!」

 

 ――バトルが始まる。

 

 テッカニンが超高速で翻弄するが、バシャーモがニトロチャージで機動力を上げて追撃。

 

 ルカリオは冷静に波導を読み、ナッシーの「しびれごな」を“はどうだん”で相殺。さらに追撃――

 

「“しんそく”、続けて“インファイト”!」

 

 テッカニンが高速移動を見せるが、ルカリオの一閃が追い付き、拳が叩き込まれる。

 

 バシャーモの“かえんほうしゃ”が放たれ、ナッシーは避けきれず直撃。

 そのまま、戦闘不能。

 

「ぐあっ……!」

 

 ハンターが地面に倒れる。

 

 すぐさま村の警察隊が現れ、拘束を実行。

 檻のポケモンたちは保護され、再調査が進められた。

 

 帰路につく途中、エイトがふいに立ち止まり、アランたちを見た。

 

「……何やってるんだ。勝手に動くなと言っただろう」

 

 鋭い言葉。

 

 でもそのあと、ほんの少しだけ口元が緩んだ。

 

「……だが、よくやった」

 

 三人は目を見合わせて、息をついた。

 

 夜。玄関を開けたアランに、ヒナが飛びつくように抱きついた。

 

「アラン……無事でよかった……!」

 

 その腕の中で、アランはぽつりと返す。

 

「……ただいま」

 

 




次回「覚悟のはじまり」

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