アラン・リザードンと巡るポケモン世界記   作:エイト

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第5話:覚悟のはじまり

焼きたてのパンとベーコン入りの野菜スープの香りが、部屋いっぱいに広がっていた。

アランは昨夜の疲れが少しだけ残った体を引きずりながら、キッチンに足を運んだ。

 

食卓では、エプロン姿のヒナが食器を丁寧に並べている。

その隣では、ナオヤが既にコーヒーを啜っていた。朝の静けさと共に、いつも通りの朝が始まるはずだった。

 

「おはよう、アラン。よく眠れた?」

 

「……うん」

 

ヒナは少し間を置いて、スプーンを静かにテーブルに置く。

 

「昨日のこと、ちゃんと話してくれる?」

 

アランは、ほんのわずかに目を伏せた。

そして、泉で感じた違和感。キノココがいなかったこと。ユウマが調査を始めたこと。小屋での発見と逃走、そしてエイトに助けられたこと――順を追い、言葉を選びながら丁寧に語っていった。

 

話し終えると、ヒナは深く息を吐き出した。

 

「……無事だったのは、本当に良かった。でも、勝手にそんな危ないことをして……!」

 

声がわずかに震えていた。怒っているわけではない。ただ、心配で仕方なかったのだ。

 

「……ごめん。でも、放っておけなかった」

 

アランの返答に、ヒナの目がかすかに潤んだ。

 

ナオヤは無言のまま、パンをひとつちぎると、それをアランの皿にそっと置いた。

 

「…………」

 

それが、彼なりの“理解と称賛”の仕草だった。

 

やがてヒナも、少しだけ表情を緩めて微笑む。

 

「危ないことをしたのはダメ。でも……自分で考えて動いたことは、ちゃんと認めてあげる。えらかったね」

 

「……うん」

 

朝食を終えて、アランは外に出た。柔らかな朝の風に吹かれながら、通りの角でミナトと合流する。

 

「おはよう。……ちょっと寝坊した?」

 

「ちょっとだけ」

 

「ふふ、じゃあ同じくらいね」

 

ふたりは並んで、エイトの家へと向かって歩き出した。

通りにはもう数人の村人たちが顔を出していた。誰もが見知った顔で、彼らに声をかけてくる。

 

「アランくん、昨日の話聞いたよ……無事でよかったねぇ」

 

「ミナトちゃんも……本当にえらかった。お母さん、誇りに思ってたわよ」

 

少し恥ずかしそうにしながらも、ふたりは丁寧に頭を下げる。

 

「ありがとう……」

 

「……うん。大丈夫だったよ」

 

“ただの子ども”ではない。そんな風に思われているような、不思議な重さが胸の奥に残っていた。

 

エイトの家に到着すると、木造のシンプルな家の中でエイトが低く声をかける。

 

「来たな」

 

三人が並んで座ると、エイトは手元の資料を取り出して、簡潔に告げた。

 

「昨夜の件……ポケモンたちはすでに保護施設に連絡済みだ。元いた場所が分かった個体は、今日中に帰される」

 

「……じゃあ、全員は……?」

 

エイトは頷いた。

 

「三体。記録がなく、地域データにも一致しなかった。ヒトカゲ、アシマリ、ニャオハ。いずれも、ホウエンでは本来見かけない種で、過去の保護記録にも存在しない」

 

「外来種……」

 

「簡単に言えば、他の地方から勝手に持ち込まれたポケモンだ。生態系への影響もあるから、野生には戻せない」

 

ユウマが静かに問いかけた。

 

「……じゃあ、その子たちはどうなるんですか」

 

「選択肢は二つ。保護施設に引き渡すか――」

 

エイトは一瞬だけ三人の目を見た。

 

「――お前たちが、引き取るかだ」

 

張り詰めた空気が、部屋の中に流れた。

 

「もちろん、親の許可が必要だ。今日は一度帰って聞いてこい。夜に決めるといい」

 

アランたちは、小さく頷いた。

 

夕食時、それぞれの家庭で、“覚悟”を問う会話が交わされた。

 

アランの家では、温かなシチューとパンがテーブルに並んでいた。

ヒナがスプーンを握ったまま、正面から問う。

 

「アラン……その子を、本当に引き取りたいの?」

 

アランは少しの間だけ黙り、ゆっくりと頷いた。

 

「助けたいと思った。あの子……檻の中で、震えてたんだ。ほっとけなかった。もう、見捨てたくない」

 

ヒナは静かに微笑んだ。

 

「……じゃあ、覚悟を持って育ててあげてね」

 

ナオヤは何も言わず、ただ静かにシチューをすくい口に運ぶ。それが彼なりの“承認”だった。

 

ミナトの家では、ミユリが少し呆れ顔で、わざとらしく言ってみせた。

 

「本気で言ってるの? あの子、水ポケモンよ? お風呂場、いつもびしゃびしゃになるわよ?」

 

「それでもいい。私がやる」

 

一瞬だけ黙ったミユリは、すぐに笑顔を見せる。

 

「じゃあ……“お店の手伝い、毎日ちゃんとしてね”。それが条件!」

 

「えっ!? ずるい!」

 

「ちゃっかりしとかなきゃね♪」

 

ユウマの家では、静かな時間が流れていた。

 

エイトが真っ直ぐにユウマの目を見つめ、アヤネが背後で微笑んでいる。

 

「ニャオハを……引き取る?」

 

ユウマは少しだけ息を吸い、はっきりと答えた。

 

「……助けるべきだった。だから助けた。それだけです」

 

エイトはわずかに笑みを浮かべた。

 

「それだけ、で十分だ。責任と向き合え」

 

「はい」

 

翌朝、再び三人はエイトの家に揃っていた。

 

アランの顔にはやや緊張の色が浮かんでいたが、それでも胸には確かな意志があった。

 

エイトは、三人を見渡して静かに問いかける。

 

「……決めたんだな?」

 

三人は同時に、真っ直ぐ頷いた。

 

「はい!」

 

 




次回「ともだち、にはまだ少し遠くて」

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