アラン・リザードンと巡るポケモン世界記 作:エイト
木造の広々とした一室に、朝の光が差し込んでいた。
アラン、ユウマ、ミナトの三人は静かに並び、正面に立つエイトを見つめている。
彼は寡黙なまま、三つのモンスターボールを机の上に並べた。
「これが、お前たちの“始まり”だ」
静かな言葉が、空気に重みを持って響いた。
「ユウマ」
呼ばれたユウマは、少しだけ間を置いてから歩み出た。
ボールを手に取る指先は僅かに震えている――けれど、彼の視線は真っすぐだった。
目の前にちょこんと座るニャオハと、そっと視線を交わす。
「……君が、僕のパートナーになってくれるなら」
ニャオハは一瞬だけ目を細め、前足をそっとボールに乗せた。
カチッ、と静かな音が響く。ボールが閉じられた。
「……ありがとう」
その声は、ユウマ自身が自分に言い聞かせるような、優しい響きだった。
「次、ミナト」
「うん……」
ミナトも一歩踏み出すと、アシマリの目線に合わせてしゃがみ込んだ。
「……大丈夫。無理にとは言わない。でも、私は君の味方でいたいって思ってる」
アシマリはためらうように鼻をひくひく動かしながら、ミナトの差し出す手をじっと見つめ――やがて小さく鼻をボールに触れさせた。
ゆっくりと、ボールが閉じた。
「よかった……」
ミナトの声には、安堵と決意の両方が込められていた。
「最後に、アラン」
アランは深く息を吸い、ヒトカゲの前に静かに腰を下ろす。
「……君のこと、助けたいって思ってる。あのとき、檻の中で震えてた君を見て、どうしても放っておけなかった」
ヒトカゲは無言のまま、アランの目を見つめ――ふいに視線を逸らした。そして、尾を揺らしながら、そっと背を向ける。
アランはそれ以上言わず、そっとボールを横に置いた。
「……無理にとは言わない。待つよ。俺、けっこうしつこいんだ」
それだけ言って、彼もヒトカゲの隣に腰を下ろした。
エイトは一同を見渡し、小さくうなずいた。
「今日は、スクールは使えない。在校生が授業中だ。代わりに、村長のもとで学んでもらう」
三人は、歩いて村長宅へ向かった。
玄関前に立っていたのは、白髪まじりの落ち着いた風貌の男――村長のハクオだった。
「よう来たな。……エイトから話は聞いておる」
案内されたのは、畳敷きの静かな和室。壁際の棚には、古びた本、薬草標本、タイプチャートなどが丁寧に並べられていた。
「今日から、ここで学んでもらう。“ポケモンを持つ”というのは、“責任”を持つということじゃ」
その声には、どこか重みと優しさが同居していた。
「この世界の社会は、ポケモンとの共存によって成り立っておる。故に、子どもであっても、その仕組みや倫理を理解せねばならん」
三人は神妙な顔つきで聞いていた。
「教えるのは、ポケモンの歴史、法律、野生との接し方。そして“心”を読む道徳じゃ」
ハクオは一枚のチャート板を広げた。タイプ相性、状態異常、技の種別――多くの情報が簡潔にまとめられている。
「わかるか?」
「……ちょっとだけ」「むずかしそう」「でも、やってみる」
三人の反応に、奥から現れたミヨが、エプロン姿で微笑んだ。
「難しいことは、少しずつでいいさ。まずはこの子たちと一緒に暮らしてごらん。今夜は泊まってもらうからね」
「え……泊まり?」
アランが驚くと、ハクオが頷いた。
「親御さんには話を通してある。“信頼関係が薄いまま帰すわけにはいかん”と伝えてな」
ヒトカゲは窓辺に座ったまま、外の景色を見ている。アランの言葉にも、まだ返事はない。
午後。自由時間を与えられた三人は、それぞれのポケモンと時間を過ごす。
ニャオハはユウマの膝の上で丸くなり、尻尾を小さく揺らす。アシマリはミナトの袖をちょんちょんと引き、身体をくっつけるように座っていた。
ヒトカゲだけが部屋の隅にいて、じっと外を見ている。
アランは何も言わず、少し離れた場所に座って、静かに彼を見守った。
(焦らない。急がない。……でも、見捨てたりもしない)
ヒトカゲの尾の炎が、わずかに揺れた。
夕暮れ。
風呂は男女別に分かれ、ポケモンたちも一緒に入ることになった。
アランたちの湯船の横で、ヒトカゲは壁にもたれて座っている。湯気が尾をふんわり包み、彼はじっと目を閉じていた。
「……今日も、近くに来てくれたんだな」
アランはそう呟きながら、そっとタオルをヒトカゲの前に置いた。
「ありがとな」
ミナトの浴室では、アシマリが浴槽で水遊びをしている。ミナトが微笑んでタオルを渡すと、ぷしゅ、と鳴いて飛びついた。
夜。布団が三つ並び、子どもたちとポケモンがそれぞれの場所に落ち着いていた。
アランの布団の端には、ヒトカゲがそっと尾を寄せていた。布団の布が、ほんの少しだけ火に照らされていた。
「……おやすみ」
アランが目を閉じようとしたとき――ユウマの声が穏やかに響いた。
「明日から、少しずつ変わるかもね。僕らも、ポケモンも」
ミナトも静かに答える。
「うん、きっと、少しずつ」
アランも小さく息を吐いた。
「……“ともだち”って、すぐにはなれないかもしれない。でも……ちゃんと、向き合っていけば、なれると思う」
その言葉に応えるように、ヒトカゲの尾の炎がふわりと揺れた。
その光は、誰にも見せない気持ちを、そっと照らしていた。
次回「学びと、すこしだけ近づいた気持ち」
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