アラン・リザードンと巡るポケモン世界記   作:エイト

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第6話:ともだち、にはまだ少し遠くて

木造の広々とした一室に、朝の光が差し込んでいた。

アラン、ユウマ、ミナトの三人は静かに並び、正面に立つエイトを見つめている。

 

彼は寡黙なまま、三つのモンスターボールを机の上に並べた。

 

「これが、お前たちの“始まり”だ」

 

静かな言葉が、空気に重みを持って響いた。

 

「ユウマ」

 

呼ばれたユウマは、少しだけ間を置いてから歩み出た。

ボールを手に取る指先は僅かに震えている――けれど、彼の視線は真っすぐだった。

 

目の前にちょこんと座るニャオハと、そっと視線を交わす。

 

「……君が、僕のパートナーになってくれるなら」

 

ニャオハは一瞬だけ目を細め、前足をそっとボールに乗せた。

 

カチッ、と静かな音が響く。ボールが閉じられた。

 

「……ありがとう」

 

その声は、ユウマ自身が自分に言い聞かせるような、優しい響きだった。

 

「次、ミナト」

 

「うん……」

 

ミナトも一歩踏み出すと、アシマリの目線に合わせてしゃがみ込んだ。

 

「……大丈夫。無理にとは言わない。でも、私は君の味方でいたいって思ってる」

 

アシマリはためらうように鼻をひくひく動かしながら、ミナトの差し出す手をじっと見つめ――やがて小さく鼻をボールに触れさせた。

 

ゆっくりと、ボールが閉じた。

 

「よかった……」

 

ミナトの声には、安堵と決意の両方が込められていた。

 

「最後に、アラン」

 

アランは深く息を吸い、ヒトカゲの前に静かに腰を下ろす。

 

「……君のこと、助けたいって思ってる。あのとき、檻の中で震えてた君を見て、どうしても放っておけなかった」

 

ヒトカゲは無言のまま、アランの目を見つめ――ふいに視線を逸らした。そして、尾を揺らしながら、そっと背を向ける。

 

アランはそれ以上言わず、そっとボールを横に置いた。

 

「……無理にとは言わない。待つよ。俺、けっこうしつこいんだ」

 

それだけ言って、彼もヒトカゲの隣に腰を下ろした。

 

エイトは一同を見渡し、小さくうなずいた。

 

「今日は、スクールは使えない。在校生が授業中だ。代わりに、村長のもとで学んでもらう」

 

三人は、歩いて村長宅へ向かった。

玄関前に立っていたのは、白髪まじりの落ち着いた風貌の男――村長のハクオだった。

 

「よう来たな。……エイトから話は聞いておる」

 

案内されたのは、畳敷きの静かな和室。壁際の棚には、古びた本、薬草標本、タイプチャートなどが丁寧に並べられていた。

 

「今日から、ここで学んでもらう。“ポケモンを持つ”というのは、“責任”を持つということじゃ」

 

その声には、どこか重みと優しさが同居していた。

 

「この世界の社会は、ポケモンとの共存によって成り立っておる。故に、子どもであっても、その仕組みや倫理を理解せねばならん」

 

三人は神妙な顔つきで聞いていた。

 

「教えるのは、ポケモンの歴史、法律、野生との接し方。そして“心”を読む道徳じゃ」

 

ハクオは一枚のチャート板を広げた。タイプ相性、状態異常、技の種別――多くの情報が簡潔にまとめられている。

 

「わかるか?」

 

「……ちょっとだけ」「むずかしそう」「でも、やってみる」

 

三人の反応に、奥から現れたミヨが、エプロン姿で微笑んだ。

 

「難しいことは、少しずつでいいさ。まずはこの子たちと一緒に暮らしてごらん。今夜は泊まってもらうからね」

 

「え……泊まり?」

 

アランが驚くと、ハクオが頷いた。

 

「親御さんには話を通してある。“信頼関係が薄いまま帰すわけにはいかん”と伝えてな」

 

ヒトカゲは窓辺に座ったまま、外の景色を見ている。アランの言葉にも、まだ返事はない。

 

午後。自由時間を与えられた三人は、それぞれのポケモンと時間を過ごす。

 

ニャオハはユウマの膝の上で丸くなり、尻尾を小さく揺らす。アシマリはミナトの袖をちょんちょんと引き、身体をくっつけるように座っていた。

 

ヒトカゲだけが部屋の隅にいて、じっと外を見ている。

 

アランは何も言わず、少し離れた場所に座って、静かに彼を見守った。

 

(焦らない。急がない。……でも、見捨てたりもしない)

 

ヒトカゲの尾の炎が、わずかに揺れた。

 

夕暮れ。

風呂は男女別に分かれ、ポケモンたちも一緒に入ることになった。

 

アランたちの湯船の横で、ヒトカゲは壁にもたれて座っている。湯気が尾をふんわり包み、彼はじっと目を閉じていた。

 

「……今日も、近くに来てくれたんだな」

 

アランはそう呟きながら、そっとタオルをヒトカゲの前に置いた。

 

「ありがとな」

 

ミナトの浴室では、アシマリが浴槽で水遊びをしている。ミナトが微笑んでタオルを渡すと、ぷしゅ、と鳴いて飛びついた。

 

夜。布団が三つ並び、子どもたちとポケモンがそれぞれの場所に落ち着いていた。

 

アランの布団の端には、ヒトカゲがそっと尾を寄せていた。布団の布が、ほんの少しだけ火に照らされていた。

 

「……おやすみ」

 

アランが目を閉じようとしたとき――ユウマの声が穏やかに響いた。

 

「明日から、少しずつ変わるかもね。僕らも、ポケモンも」

 

ミナトも静かに答える。

 

「うん、きっと、少しずつ」

 

アランも小さく息を吐いた。

 

「……“ともだち”って、すぐにはなれないかもしれない。でも……ちゃんと、向き合っていけば、なれると思う」

 

その言葉に応えるように、ヒトカゲの尾の炎がふわりと揺れた。

 

その光は、誰にも見せない気持ちを、そっと照らしていた。

 

 




次回「学びと、すこしだけ近づいた気持ち」

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