アラン・リザードンと巡るポケモン世界記   作:エイト

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第7話:学びと、すこしだけ近づいた気持ち

「わ、わぁ……髪、どうなってるの……?」

 

鏡の前で絶句するアランの髪は、見事な“くの字”に跳ね上がっていた。

 

「……ふふっ、それは見事だね」

 

ミナトが笑いながら髪を整える横で、ユウマは無言で霧吹きを差し出した。

 

「……ありがとう」

 

受け取ったアランは、自分の頭を撫でながら、ちらりとヒトカゲの方を見た。

 

窓辺で尾の炎を揺らしていた彼が、ほんの一瞬だけ視線をアランに向けたような気がした。

 

(……ちょっとだけ、こっちを見た)

 

それだけのことが、アランの胸を少しだけ温かくした。

 

ニャオハはユウマの布団の隅でまだ眠そうに丸まり、アシマリはミナトの足元で元気にぴょんぴょんと跳ねている。

 

それぞれの“朝”が、静かに動き出していた。

 

朝食の時間。

木の香りが漂う食卓に、焼きたてのパン、煮込まれた野菜、ふわふわの卵焼きが並んでいた。

ポケモンたちの器にも、それぞれ専用フードがきちんと用意されている。

 

「いただきます!」

 

三人と三匹の声が揃う。

 

そのとき、奥の部屋からどしんと音がして、キノガッサが姿を現した。

 

「ガッサー」

 

陽の光に照らされながら、どっかりと座り、もぐもぐと特製フードを食べ始める。

 

続いて、青白い炎を揺らしながら、ミヨのパートナー・シャンデラがふわりと浮かんできた。

 

「この子たちも、今日の学びの仲間みたいなもんさ」

 

ミヨが笑い、ハクオはコーヒーを啜りながら一言。

 

「キノガッサ、きみは三人前までじゃぞ。昨日も四人分食ったじゃろ」

 

「ガッサ……」

(もぐもぐ)

 

自然で、穏やかな朝の光景だった。

 

講義部屋に戻ると、ミヨがすでにホワイトボードの前に立っていた。

今日の授業は、「タイプ相性」だ。

 

「タイプ相性って、感覚じゃなくて、理由があるんだよ」

 

ミヨの声は穏やかだが、言葉には芯がある。

 

「“みず”が“ほのお”に強いのは、熱を冷ますから。“でんき”が“じめん”に届かないのは、電気が地面に吸い込まれてしまうから」

 

黒板に書かれた図はシンプルで分かりやすく、でも本質を突いていた。

 

「大事なのは、“どうして強いのか”を知ること。そして、それをどう使うか。……君たちが生きていく世界で、それはすごく大事になるからね」

 

そう言って、ミヨはシャンデラを手招きする。

 

炎を浮かべたシャンデラに向けて、アシマリが水を噴きかける。しゅっと一瞬で火が消えた。

 

「これが、“体で覚える”ってことさ。君たちはまだ5歳。頭より、身体のほうが覚えが早い」

 

その言葉に、三人は小さくうなずいた。

 

昼食は、きのこと野菜のリゾット。

シンプルだけれど、優しい味が口いっぱいに広がる。

 

「相性、けっこうむずかしいね……」

 

「でも、“でんき”と“じめん”の関係、おもしろかった」

 

「ニャオハは“くさ”だよね。アシマリは“みず”……ヒトカゲは“ほのお”」

 

アランはそっとヒトカゲを見やった。

彼は少し離れた場所で食べていたが、目だけはアランの方を見ていた。

 

(……さっきより近い)

 

それだけのことが、ほんの少し、嬉しかった。

 

午後は、村長・ハクオによる「ポケモンの歴史」の授業だ。

 

部屋の照明が落とされ、プロジェクターの光が壁に映し出された。

 

「ポケモンの歴史というのは、人と共に歩んできた歴史でもある」

 

古代、人々がポケモンを“神”として祀っていた時代。

その後、戦争の道具として使われた暗い時代。

やがてポケモンリーグとトレーナー制度が生まれ、今の“共に生きる”世界に繋がっていった。

 

“神と呼ばれたポケモンの時代”

“レジ系統の封印伝承”

“文明と戦争”

“リーグの成立と規範の誕生”

 

「この知識は、“過去の話”ではない。いま君たちがポケモンと共に生きていくうえで、大切な“道標”なんじゃ」

 

ハクオの声は静かだったが、その奥に強い信念があった。

 

「さて、ここでクイズじゃ」

 

場の空気がぱっと和らぐ。

 

「“最初のポケモンリーグ”が始まった地方はどこだったかな?」

 

「えっ!? えーっと……」

 

「正解者には、キノガッサの“きのこのほうし”を受ける権利があるぞ」

 

「い、いらない!!」

 

笑いが起きる。学びの中にある“遊び”が、自然と子どもたちの表情をほぐしていった。

 

(……楽しい。学ぶって、こういうことかも)

 

夕食は、ミヨが煮込んだシチューと香草入りのパン。

ほんのり湯気が立ちのぼる皿の向こう側で、ポケモンたちも静かに食事をしていた。

 

ヒトカゲはやはり少し距離を取っていたが、その位置は昨日よりも、すこしだけ近くなっていた。

 

夜の風呂。男女別に分かれた湯気の中で、それぞれの時間が流れる。

 

アランの問いかけに、ヒトカゲは何も言わず、湯船の端に手を添えて座った。

お湯には入らない。でも、今日はそこに“いる”ことを選んだ。

 

「……すこしだけ、近づいたね」

 

ユウマは静かにニャオハの毛を整えながら、ちらりと笑う。

 

ミナトの側では、アシマリが浴槽の中でぴょんと跳ね、水しぶきがきらめいた。

 

「昨日より元気になったね」

 

「ぷしゅっ!」

 

就寝の時間。布団が三枚、並べられている。

 

ニャオハはユウマの布団の端に、アシマリはミナトの膝元にまるまっていた。

ヒトカゲは今日も少し離れた位置――けれど、布団の端にそっと尾を寄せていた。

 

アランは言葉少なに、その尾の先を見つめてから、優しくつぶやく。

 

「……焦らなくていいよ。俺も……最初は誰にも頼れなかったから」

 

炎が、ふっと小さく揺れた。

 

それは、ことばのない返事のように――確かに、そこにあった。

 

 




次回「ともに戦った、その時から」

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