アラン・リザードンと巡るポケモン世界記 作:エイト
「うああぁ、また寝癖が……!」
アランの悲鳴が朝の空気を破った。
鏡の中の自分――髪の毛は、見事な“W”の形に跳ね上がっていた。
「……進化した寝癖だね」
ミナトが肩を震わせながら笑い、ユウマは無言で霧吹きを差し出す。
このやりとりも、すっかり日常の一部になっていた。
けれど今日は、その日常に小さな変化があった。
窓辺に座るヒトカゲが、ちらりとアランの寝癖を見て――
ほんのわずかに、口元が緩んだ気がした。
(……今、笑った?)
アランは驚きとともに、胸がじんわりと温かくなるのを感じた。
朝食のテーブルには、焼きたてのパンと野菜のスープ、卵焼き。
ポケモンたちには、栄養バランスを考えた専用フードが並んでいた。
「いただきます!」
三人と三匹が一斉に手を合わせる。
キノガッサとシャンデラも静かに食卓を囲み、
その様子をハクオがコーヒーを啜りながら見守っていた。
「今日の授業は、庭のバトルフィールドでやるぞ。支度が済んだら来なさい」
庭のフィールドには、赤・青・黄色の風船がそれぞれ10個ずつ並んでいた。
その横には、大きな砂時計が置かれている。
「今日は、“技を正確に指示して、目標を破壊する”。バトルの基本中の基本よ」
ミヨがホワイトボードの前で説明する。
「制限時間は60秒。風船の色は技の効果を確認しやすくするためのもの。しっかり狙ってね」
ふわりと浮いたシャンデラが「かえんほうしゃ」を放つ。
青い風船が、一瞬で焼き弾けた。
「アシマリ、“バブルこうせん”! 右の青!」
「ぷしゅっ!」
泡が一直線に飛び、見事に命中。
「ニャオハ、“このは”! 左奥の赤!」
シャッと放たれた葉が風を切り、風船を割る。
アランは一呼吸置いて、ヒトカゲに向き合った。
「ヒトカゲ、“ひのこ”……黄色の風船、お願い」
ヒトカゲは静かにアランを見つめ――口を開いた。
小さな火の粒が一直線に飛び、風船を焼き裂く。
「やった……!」
アランが自然と笑みをこぼすと、ヒトカゲも一瞬だけ目を合わせ――またそっぽを向いた。
(でも……今のは、ちゃんと応えてくれた)
昼食後、アランがふと思い出したように言った。
「ユウマ、昨日言ってた“ハンターがレジの噂を聞いて来た”って、詳しく知ってる?」
「うん。“封印の洞窟”が村の北にあって、古代ポケモンの伝承が残ってるって……」
ミナトが目を輝かせて身を乗り出す。
「それって、伝説のポケモンの話? この村に、ほんとにあるの?」
新聞を片づけていたハクオに、アランが問いかけた。
「村長さん……レジって、本当に?」
ハクオは頷いた。
「本当だ。“封印の地”には、点字のような記号で記された石板がある。記録によれば、三柱の“巨神”が封印されている」
「岩、氷、鋼……?」
ユウマがすぐに口にする。
「レジロック、レジアイス、レジスチル……伝承と一致してる」
「午後、案内しよう。だが、覚悟を持って臨め」
苔むした岩場を越えた先に、洞窟の入口があった。
空気は湿って冷たく、かすかに草と石の匂いが混じっている。
洞窟の奥には、点字がびっしりと刻まれた巨大な石板。
三人は息を呑む。
「これが……“封印”……」
その瞬間――
「……なんで、ガキどもがここに……?」
低く鋭い声が洞窟に響いた。
黒服にフードを被った二人組。腰にはボール。顔はゴーグルで覆われている。
「“鍵”の情報を探って来たら……子供に先を越されてるとはな!」
ハクオが立ち、キノガッサのボールを構える。
「後ろは任せた。わしは一人、相手をする」
ハンターBがリククラゲを繰り出す。
ぬるりと地面に現れるリククラゲ。その表皮はうっすらと緑を帯びている。
「ニャオハ、“このは”!」
葉が鋭く飛ぶが、リククラゲは体をひねって受け流す。
「……効きが薄い? “くさ”がいまひとつってことは……“どく”か、“くさ”か……あるいは複合かも」
ユウマが瞬時に判断する。
「アシマリ、“あわ”!」
泡が命中――しかし手応えが薄い。
「“みず”もいまひとつ? “くさ”なら、どっちも通りが悪いのは納得だけど……他の可能性も?」
「“アシッドボム”」
リククラゲの口からドロリと毒液が放たれ、ニャオハに直撃。
防御が一気に落ち、ユウマが歯を食いしばる。
「アラン!」
「……ヒトカゲ、行ってくれ!」
ヒトカゲが前へと跳び出し、口元から“ひのこ”を発射。
火の粒が飛び、リククラゲの体を焼くように弾ける。
「怯んだ……! “ほのお”が抜群!」
ユウマがすぐに応じる。
「“くさ”があるってことは、タイプは“くさ/どく”の可能性が高い!」
「もう一回、“ひのこ”!」
命中。リククラゲの動きが鈍る。
「アシマリ、“あわ”!」
「ニャオハ、“ひっかく”で!」
連携が決まり、リククラゲが倒れ込む。
その頃――
「ワルビー、“だましうち”!」
素早い影がハクオを狙う。
「キノガッサ、“マッハパンチ”連打!」
キノガッサの拳が閃き、ワルビーに連撃が叩き込まれる。
一撃、二撃、三撃――息もつかせぬ速度。
「ぐあっ……!」
ワルビーが気を失い、ハンターは地面に膝をついた。
警察が駆けつけ、ハンターたちは連行されていく。
封印は守られ、森の静寂がゆっくりと戻っていった。
そのとき――
ヒトカゲがアランの前に歩み出た。
ゆっくりと、自分の尻尾でモンスターボールをそっと押す。
赤い光が包み、ボールがカチッと音を立てて閉じる。
アランは、ぎゅっとボールを抱きしめた。
「……ありがとう。これからよろしくな、“俺のポケモン”」
次回「日常のはじまり、それぞれの朝」
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