アラン・リザードンと巡るポケモン世界記 作:エイト
朝の光が、静かに部屋のカーテンを透かしていた。
アランは布団の中でゆっくりとまぶたを開ける。目覚めは悪くない。
前世の名残なのか、早起きは得意だった。
まだぬくもりの残る布団を抜け出し、そっとヒトカゲの寝床に目を向ける。
「おはよう、ヒトカゲ」
「……カゲ」
窓の方をぼんやり見ていたヒトカゲが、アランの声に応えるようにまぶたを細めた。
尾の炎が静かに揺れ、朝の空気にあたたかな色を落とす。
洗面台で顔を洗い、寝癖を整えると、台所から出汁の香りが漂ってくる。
ヒナがエプロン姿で味噌汁の鍋をかき回していた。
「今日もお父さん、早かったの?」
「ええ。間伐作業の日だから、夜明け前に出たわ」
食卓には、味噌汁、卵焼き、漬物、ご飯。
ヒトカゲの前には、野菜と肉を混ぜた温かいフードが特製の陶器皿に盛られている。
「いただきます」
「カゲ」
ヒトカゲは炎を揺らしながら、静かに食事を始めた。
食後、ヒナがタブレットを手に差し出す。
「これ、先生からの課題。“ジム戦の読み合いと技指示”の動画。ヒトカゲと一緒に見てね」
「うん、ありがとう」
アランはヒトカゲの隣に座り、動画を再生する。
映し出されたのは、トクサネジムでの試合。“みず”タイプ使いのナギと挑戦者の一戦だった。
「ナマズン……電気が効かない……なるほど、地面入ってるからか」
画面の中でハリテヤマが“みずのはどう”を受け、それでも踏みとどまって“はたきおとす”を放つ。
激しい読み合い。細やかな指示と技の応酬が、戦術の大切さを教えてくれる。
「ヒトカゲ、こういうの……できそう?」
ヒトカゲは小さく「カゲ……」と鳴き、じっと画面を見つめた。
キッチンから再びヒナの声が届く。
「アラン、お昼……一緒に作らない?」
「うん、やるよ!」
今日のメニューは焼き魚と小松菜の煮びたし。
アランが包丁を握り、火の前で魚を焼いていると、ヒトカゲがじっと炎の揺らめきを見つめていた。
「火、好きなんだ?」
「……カゲ」
短い鳴き声の奥に、どこか親しみがにじむ。
昼食を終え、皿を洗い終えると、アランはヒトカゲと一緒に家を出た。
目指すは、村の広場。仲間たちとの再会の場だ。
ミナトは、布団の中でごろんと寝返りを打ち、目をこすりながら起き上がった。
アシマリが跳ねるように身を起こし、「ぷしゅっ」と鳴いた。
「おはよう、アシマリ。今日もがんばろっか」
朝の台所では、母・ミユリがパンと目玉焼きを焼いていた。
ピンクのエプロンと花柄のシャツ。その姿に、ミナトはなぜか安心する。
「おはよー。アシマリ、昨日も一緒だったの?」
「うん。布団の端っこで寝てたよ。かわいかった」
奥では父・セイジが新聞をめくりながらコーヒーをすする。
「昼までは店の手伝い頼むぞ。午後は取引があるからな」
「はーい」
“ミナト商店”は、アズナ村で唯一の雑貨屋。
掃除、棚の整理、ポスターの張り替え。アシマリは水の入ったバケツを器用に引きずってくる。
「ありがと、アシマリ。……よいしょ」
店頭では、レジ前で声を張る。
「いらっしゃいませー!」
「ぷしゅっ!」
隣のチリーンが「チリーン♪」と音を鳴らす。店内の空気がふわっと和らぐ。
「これ、値段シール貼り直しといて」
「了解ー!」
働くことで、“自分にできること”が増えていく。それが、ミナトにはうれしかった。
昼には、煮込みうどんとアシマリ用のフィッシュボールがテーブルに並ぶ。
「熱いから気をつけて食べてね」
アシマリはふうっと湯気を吹き飛ばしながら、うどんに鼻を寄せた。
食後、店の入口でミユリに手を振りながら、ミナトはアシマリと並んで歩き出す。
ユウマは目覚ましが鳴るより前に、自然に目を開けた。
胸の上に、ニャオハが静かに丸くなっている。
「……起きようか、ニャオハ」
「ニャ」
起き抜けに向かったのは、父・エイトのキッチンだった。
無言でフライパンを振り、卵を焼く姿は、ある種の儀式のようでもある。
「今日は、スクランブルエッグにバター少なめにしてみた」
母・アヤネが紅茶を注ぎながら笑う。
「パパ、料理の時が一番静かなんじゃない?」
ユウマは黙って食卓につき、ニャオハと並んで食事を取った。
食後、書庫へと足を運ぶ。
机には分厚い本が2冊。『レジ系統と伝承』と『シンオウ神話』。
本棚には、古代言語辞典、ポケモン生態学、戦史記録が並ぶ。
ページをめくる。
“レジ系統はかつての封印兵器であり、封印は力の象徴でもある”
“アルセウスが創造した世界において、封印は信仰と防衛の手段であった”
ユウマは手元のノートにキーワードを書き記していく。
「……封印、創造、共存。全部、繋がってる」
ニャオハが前足をそっとノートの端に置く。
「……大丈夫。君がいれば、俺は大丈夫だから」
昼には、簡単な野菜炒めとご飯を作った。
少し焦げたけど、ニャオハはくんくんと匂いを嗅いだあと、小さく「ニャ」と鳴いた。
午後、ノートと本を片づけて、ユウマは肩にニャオハを乗せて家を出た。
空は澄んでいて、風は涼しく、今日もまた一日が静かに続いていく。
次回「三対一の挑戦、そしてその答え」
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