やっぱり、『軟弱者』かもねぇ…   作:F覚醒ヅダ

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幕間 しあわせのために

 

 あの時、アタシは爆風に巻き込まれて命を落とした。

 

 その後に死んだはずなのに…沈んで座り込んだカイが目の前にいて、少しだけ話をした…ような気がする。

 ジル、ミリー。アタシの大事な大事な弟妹。カイに「大丈夫さ」なんて言ったけど、本当は心配でたまらなかった。ごめんね、姉ちゃんもう二人のところには帰れないんだ…ごめん、ごめんよ…

 

 

 でも、アタシは目を覚ました。

 

 

 どこだか分からない…赤黒く、例えるなら憎悪の塊のような…それでいて取って付けたかのようにキラキラとした場所でアタシは宙に浮くようにその空間にいた。

 

【ようこそ、ミハル・ラトキエ。後悔を抱いて死んだ貴女。】

 

「だ、誰…!?」

 

 頭の中に声が響く。その声は女性の声で…冷たく、恐ろしい声に感じた。

 

【その後悔は正しい。貴方が死んだその先を見せてあげましょう】

 

「ッ!?」

 

 途端、目の前に映し出されたのは弟と妹。が、平和とは程遠いものだった。

 

 ジルは強化人間とかいうものの実験台にされ命を失う。ミリーは誘拐され…その後は口に出すのはおぞましいことに。

 さらに恐ろしいのは、所々で「ねえちゃん!たすけて!」「いたい…いたいよぉ…」という悲鳴が聞こえるということ。

 

「やめて!やめておくれよ!!こんなハズないじゃないか!!ジルは…ミリーは…!!あの子たちは平和に…!幸せに…!」

 

 見たくなくて聞きたくなくて、目を耳を塞いでいるのに、なぜが止まらない。見たくないのに瞼の裏に映像が張り付くように、聞きたくないのに脳に直接音が響くように、逃れることが許されない。

 

【受け入れなさい、これが未来よ。貴女が守り切れなかった者の未来。】

 

「そんな……どうして、どうしてあの子たちがこんな目に合わなきゃいけないんだい!」

 

【聞きたいですか?聞かせてもいいですが私に協力してもらうことになりますよ?】

 

「協、力…?」

 

【そうです。私の成そうとしていることに協力してもらう。その交渉をするためにも貴女をここへと呼んだのですから】

 

「アタシに…何が出来るっていうのさ…死んじゃって…あの子たちを守れないで…!」

 

【案ずるな…貴女が協力に応じれば未来は変わる】

 

「…?ど、どういうこと…?」

 

【やり直すチャンスをやろうというのだよ。その代わりに私の野望に協力してもらおうというわけさ】

 

「それって…!ジルとミリーを助けられるっていう事かい!?」

 

【その可能性があるというだけだ。分かりやすく言えば貴女の努力次第だ】

 

 確実ではないけれど、アタシが頑張れば…ジルもミリーも助けられる…幸せにできるんだ…そう思って誰だか知らないこの声の提案を受けることにした。

 

「…やるよ、その代わりどこの誰があんな目に合わせたっていうのか聞かせてもらうよ」

 

【では契約は成立。何、簡単ですよ…地球連邦が勝利したのが全ての始まりなのですから】

 

「へ…?なん…でさ!地球連邦が勝ったから!?意味わかんないよ!!」

 

【戦争に勝利した地球連邦は増長し、腐敗し、ティターンズなる組織が生まれ…そして強化人間の実験が始まるのです】

 

「そんな…」

 

【貴女にしてもらいたいことはただ一つ。後に一年戦争と呼ばれるこの戦争をジオン公国軍の勝利で終わらせること…ただそれだけ】

 

「ア、アタシにそんなことが出来るわけないじゃないか!戦った事なんて…!」

 

【安心してください。ジオンの士官学校に入り、戦える体になればいい。そのための協力は行います】

 

「アンタ…一体何者なのさ…!アンタは何でジオンを勝たせたいんだい!」

 

【私ですか?私は――――――――――】

 

 

 それを聞いたアタシは「…だれ?」としか言葉が出なかった。ジオンを取り仕切ってるっていうザビ家でもないみたいだし…ジオンを勝たせたくはある人なんだろうけど…?

 

【私はまだこの時代では動くことが出来ない…ゆえに貴女を利用させてもらうということですよ】

 

「…利用…分かった…なんだっていいさ。あの子たちが幸せになれるんなら…!」

 

【では成立です…まずはジオン本国へ移住し、士官学校へと入学する手筈を整えるといい…その後貴女にはホワイトベース隊と戦っていただきます】

 

「ホワイト…ベース…!」

 

 ホワイトベース。その言葉を聞いてある人が頭に浮かぶ。そうさ…カイになんて言えばいいんだろう。ジオンの側に立つってことは…カイと…

 

【…安心なさい。カイ・シデンとやらにも貴女から戦いから遠のくようにと言えばいい…そうすれば彼もまた傷つかない】

 

「で、でも…アタシ…面と向かって言えないよ…それに…」

 

【…なるほど、未練…ね。いいでしょう。】

 

 急に手元に淡い光の玉が現れる…どこかひねくれていて、でも暖かくて…優しくて、思いやりのあるこの感じ…

 

「…これは……カイ…?」

 

【そう。それはあなたの知るカイ・シデン…そのすべてです。それを閉じ込めてしまえばいいのです…そうすればあなたの知る彼は傷つかない。どこへも行くことは無い。貴女がすべてを成し遂げた後で解放してあげれば元通りです】

 

「ほ、ホントに大丈夫なのかい!?カイも、ジルもミリーも!!」

 

【お約束します。さあ、そのカイ・シデンの全てをこの渦の中へ…】

 

 黒く底の見えない渦が目の前に広がる。一時の別れ、すぐにまた会える…そう思って、光を渦へと送り出した。

 

【…では、次は貴女を送り出しましょう…くれぐれもお気をつけて…】

 

「も、もう!?こ、心の準備が…!?」

 

 キラキラと赤黒い光が迫り、意識を失う。

 

 

◆◆◆

 

 

 次に目を覚ました時には…そこにはミハルが夢にまで見た世界が広がっていた。

 記憶よりも幼いジルとミリーが同じソファで三人一緒に1つのブランケットに包まって眠っていて、そして何より…

 

「おや、ミハル。ジルやミリーたちとずいぶん長いお昼寝だったねぇ?もうじきご飯が出来るよ。さ、皆で手を洗っていらっしゃい」

「ッ!!…母ちゃん!!」」

 

 そこにいたのはミハルの母だった。死んでしまって、弟と妹を託す言葉を最後に息絶えたはずの母が今目の前にこうしているのだ。

 

「お、おやおやミハルったら…姉ちゃんになったってのにどうしたんだい?怖い夢でも見たのかい?」

 

 涙を流しながら抱き着いたその感触は、記憶しているものと同じで、夢なんかじゃないと思わせる。

 

「…そう、そうさ…夢だったんだよ。あんな辛い思いは絶対に…!」

「うんうん、大丈夫さ。さあて、もうすぐ父ちゃんも仕事から帰ってくるからね。そしたら皆でご飯を食べようね」

「…うん!!」

 

 夢のような日々だった。帰ってきた父は家族のために甘いスイーツを買って帰ってきて、母の手料理はとても美味しく、ジルとミリーは笑顔で「あのえほんよんで!」「おみせやさんごっこするの!」と自分に甘えてくる。

 朝起きれば母と朝食を作り、お寝坊の大人一人と弟妹を起こす。洗濯物を干すときは「ぼくたちだってできるもん!」と手伝いに来るジルとミリー。

 ジルとミリーと3人でお使いに行って帰りに土砂降りの大雨が降って雨宿りしていれば、母が「朝のニュースで今日は雨だって言ってたじゃないの」笑いながらと傘を持ってきてくれて、皆で一緒に帰った。

 夜、疲れて帰ってきた父をねぎらって肩を揉めば、「おぉ!ミハル、力が強くなったな?昨日までお箸を握るのも大変なチビッ子だったのにな」と父が優しく笑いかけてくる。

 休日は家族みんなで山などに出かけて一緒に弁当を食べたり、くたくたになるまで遊んだりして帰りは外食で普段とは違う料理に舌鼓を打ったりした。

 

 ミハルが欲しかったすべてがそこにあった。

 

 しかし、それからしばらくしてミハルの記憶にないことが起こった。

 

「え…父ちゃんが?」

「そう…宇宙にあるサイド6の支部に転勤だって…父ちゃんは仕事は出来てもどうにも家事とかの生活できないだろうから着いて行こうと思うんだけど…」

「す、すまんミハル…役職は上がるんだが、現地で直接統括しなきゃならんくてなぁ…父ちゃんも会社に何度か言ったんだが覆らなくてな…」

「そっ…か。でも!アタシは皆がいればそれでいいさ!」

「ミハル…!ありがとうな…!父ちゃん、ミハルみたいな娘がいてほんとうによかったよ…!!」

 

 サイド6のとあるコロニーへ移住してから学校にも通った。それまでは弟と妹の世話で忙しかったり、地球住みと言えどあまり裕福ではなかったために学校に行かず自主学習程度であったが、父の役職があがり、少し贅沢をする余裕もできた。

 

 だが、運命の歯車はすでに回り始めていた。

 

 学校で授業を受けていると教師から「家から連絡があった。すぐに帰ってあげなさい」と言われ、嫌な予感がして急いで家に帰る。するとそこには泣き崩れる母親の姿があった。

 

「か、母ちゃん…?ど、どうしたのさ…」

「ミハル…!ミハル…!!父ちゃんが、父ちゃんが…!!」

「え…?」

 

 聞かされたのは「父が連邦軍の機密を漏らした」として捕まったという事だった。

 

「なんで…?父ちゃんの仕事って連邦軍と関りがないはずだろう!?それが何で…!」

「分からないよ…でもあの人はそんなことをする人じゃ…!何かの間違いなんだよ…!!」

「………そう、だよ…絶対…絶対に何かの間違いだよ…!」

 

 しかし数日後、連邦軍から届いた書簡に、家族は絶望する。

 

〈ラトキエ氏が自らの罪を認め、軍の施設内部の留置所の中で自殺した〉

 

 ありえない。そんなはずがない。胸の鼓動が早くなり、音が聞こえなくなる。

 泣き叫ぶ母の横で、ミハルはただ茫然と立ち尽くしていた。

 

 それから少ししてミハルの父が捕まって処刑されたという誤った情報が近所に流れるようになる。当然学校ではいじめの対象になり、ジルとミリーは公園で仲間外れにされたりした。

 最初に心が折れたのは母だった。精神を病み、鬱になって寝たきりで過ごすようになり…物言わぬ抜け殻のようになってしまった。

 

 父亡きあとは家族を支えるために学校を辞めてバイトをするようになった。多い稼ぎではないし、蓄える余裕もなく、ギリギリの生活だった。

 

 そんな時、1通の手紙と小包が届く。開けてみると、その手紙の主は何とミハルをこの世にやり直しをさせた人物と名乗り、サイド3への移民にするよう促す文言とそれに必要な書類や新しい住居の候補の情報、そして小包にはそれに必要な金が入っていた。

 

「…夢じゃ…なかったんだね」

 

 疲れた顔でその手紙を読んだ後、これから先どうするかを一人で一生懸命に考えた。父が亡くなった今、家計は困窮していて、母は放心状態。出かければ後ろ指をさされ、笑われる…実は最近ではバイトにもその支障が出始めていた。

 

「そうだね…環境を変えるためにも…サイド3のコロニーへ移住する方がいいのかもね…それに…」

 

 あの時あったことが夢でないのだとしたら、ジルとミリーが未来で酷い目に合う。それだけは避けたかった。そのためにも、やはりジオンの士官学校に入り、そのままジオン軍として連邦を打破しなければならないと考える。

 

「それに…父ちゃんは連邦に殺されたんだ…その敵討ちにもなる…!」

 

 そこからのミハルの行動は早く、すぐさま手紙にあったサイド3のあるコロニーへと移住申請を出し、手筈を整えていった。

 

「ジル、ミリー…お引越しだよ」

「母ちゃんは…?」

「大丈夫。母ちゃんも一緒さ…皆で平和な場所へ行こうな…」

「…とうちゃんは…?」

「………。お仕事が忙しいみたいでね!しばらくは会えないみたいさ…大丈夫。きっといつか会えるさ!姉ちゃん、ウソついたことないだろ?」

「うん…」

「わかった…」

 

 母にも説明したが、返事は無く、ただうわの空で目の焦点が合わないでいた。

 

 

 そうして、数週間のうちにミハルたちはサイド3のあるコロニーへと移住した。

 

 

 手紙で指示を受けたそのコロニーの名は「グローブ」というコロニーだった。

 

 

 マンションの一室が新たな住まいとなり、奇跡というべきか良い隣人にも恵まれた。

 

「あら…?ミハルちゃん?」

「あっ…お隣の奥さん。どうも…」

「今からアルバイト?弟さんや妹さん、それにお母さんは大丈夫?」

「え、えぇ…晩御飯までには帰ってきますので…」

「それなら…うちで弟さんや妹さんを見ておきましょうか?お母さんは私が見ておくし…」

「い、いいんですか…?」

「もちろんよ!うちのマリィがジル君とミリーちゃんと遊びたいってずっと楽しみにしちゃってて…」

「…!ありがとうございます!ジンネマンさん!」

「うふふ、硬くならなくていいわ。それに、フィーでいいわよ。あと、バイトが終わったらうちにいらっしゃい?晩御飯、一緒に食べましょう?」

「ありがとう…フィーさん…!」

 

 隣人のジンネマン夫妻には何度も助けられ、生活を送っていた。いざミハルが士官学校へと入学するときも、「大丈夫。うちの人にも言ってあるからお母さんやジル君やミリーちゃんのことは任せてね」と、申し出てくれた。

 

 士官学校へと入学してからは、同期に地球生まれを馬鹿にされ、いじめを受けたこともあったが、その悔しさを、ジルとミリーへの幸せを願うことで耐え抜いてきた。

 

 …しかし、卒業を間近にしたその時に、ミハルの母が流行り病に伏せり、ボロボロとなった精神と体では治しきることが出来ずにあっけなく亡くなってしまい、その訃報を受けたミハルはますます家族を失うことの恐怖が深くなっていった。

 

 卒業後はどんな任務でも耐え抜いてきた。家に帰れず、ただ毎日連邦軍を叩くことだけを考え邁進してきた。

 一年戦争が始まるころには、ルウムの戦いに参加した後、一時テストパイロットとしてツィマッド社のジャン・リュック・デュバルの元でザクとの開発競争に敗れた後のヅダの再開発を彼の指揮下で行っていた。

 ヅダの欠陥を陰謀だと喚くデュバルが憔悴とジオニック社への憤怒を見せる中、またもミハルに1通の手紙が届く。

 

〈どこかで適当に機体を手に入れ、ガデムの率いるパプア補給艦へ合流しろ。辞令はすぐに下る。〉

 

 ミハルはそのままデュバルのジオニック社に対する敵愾心を利用し、「ヅダを使って活躍すれば上も見直すはずだ。これから他の隊に合流しなければならないのでヅダ1機を任せてもらえないだろうか」と進言。怒りに身を任せていたデュバルは好機となるだろうと口車に乗せられて、ヅダの試験機のうち1機をミハルに託し、見送った。

 

 ガデム隊で待っていたのはモビルスーツパイロットとしてではなく、運搬に関する労働だった。毎日が力仕事の連続で、特に会話は無かった。

 ある時、シャア・アズナブル少佐への補給として、パプア補給艦が航行しているときに艦の中では初めて見る軍官から偵察の任務を与えられ、指定されたポイントへヅダで出撃した。

 

「…何も…無いようだけど……っ!?何!?」

 

 急にパプア補給艦からSOSのアラートが鳴り、急いで戻っているその時に隕石群の中にいる赤くキャノンを背負った機体を見つける。

 

 妙に胸がざわつき、嫌な予感がするミハルはザクマシンガンを向け、振り返ってきたその機体に連邦軍のマークを見つけ、弾丸を浴びせてやる。

 そのモビルスーツもやられまいと反撃をしてくるがまるでこちらに当たらない。

 

「…素人のパイロットかい…さっさと沈めてしまうよ!!」

 

 質のいいモビルスーツだが、パイロットの技量が伴っていない以上、ミハルは勝利を確信していた。ヒートホークで切り刻んでやったあと、慌てたのか相手から通信が入る。若い男の声だった。

 

 その声を聞くと、何故か心のざわつきが増した。

 

(…ふん…若い兵士なんだろうけどアタシはジルとミリーのために戦ってるんだ…こんな奴…連邦軍の奴なんて…!)

 

 ヤケを起こして殴りかかろうとしてくるのに対して、損傷した部分にマシンガンを当てて内部爆破をさせてやろうとしたミハルだったが、男のある一言に動揺する。

 

 

『俺はカイ・シデンなんだあぁぁぁぁッ!!』

 

 

 カイ・シデン。その名をその声を聞いて思い出す。その男のことを。

 

 隙が出来て鉄拳を一発メインカメラに喰らってしまい、去り際に何とか「軍なんかやめるように」と言葉を絞り出して戦場を後にしたミハルは動悸と過呼吸が止まらなかった。

 

「カハッ…ハァッ…!!ゲホッ!!」

 

 一つ間違えばカイを殺していた。これまでも、連邦軍の偵察機や、戦闘機、戦艦を倒してきたが、こんな気持ちにならなかった。

 

 つらい、くるしい、いきができない………こわい。

 

 近くの友軍のパトロール艦に回収されて、一時本国で機体の修理と療養をし始めたが、異変が起こる。

 

 あの時見せられた弟と妹の未来の惨状の光景が毎日毎日悪夢として現れるようになったのだ。更に気を抜けば助けを乞う悲鳴の幻聴が聞こえ、徐々に精神を摩耗させる。

 極めつけはその光景を見ていないはずの父の最後の姿。あざ笑う連邦兵に嬲り殺されるその様が何故か鮮明に幻覚として浮かび、いつも最後に母が衰弱し、散っていく。

 

「………」

 

 いつしか、ミハルの心が憔悴しきって塞ぎこみ始めた時、また手紙が届く。

 

〈地球に降りるランバ・ラル隊へ合流し、ホワイトベース隊を追え。案ずるな、あのカイ・シデンは貴女の知る『カイ・シデン』ではない。貴女が心を痛ませる必要はない。それよりも弟や妹を助けたくはないのか?貴女が見たあの未来の通りになってもいいというのか?〉

 

「ジルとミリーの…ために…」

 

 ふらふらと立ち上がり、久々に鏡越しで見た自分の姿は頬がこけていて、目の下にはクマがひどく出来ていた。

 

「……カイ…アタシ、間違ってないよね…?ジルとミリーを救うために…間違って…ないんだよね…?」

 

 そうポツリと呟いたあと、ミハルは再び軍服を身に纏い、新しい戦場へと歩いて行った。

 

 

 ランバ・ラル隊と合流するころにはあの悪夢や幻聴、幻覚は完全に消えたわけでないが落ち着きを見せていた。

 だが奇妙なことに、人と関りを持とうとすると、すぐに幻覚が現れる。まるで「そのようなことをしていていいのか?」と警告するように。

 

 ザンジバルが嵐を突っ切り、ホワイトベースを追う中、モビルスーツで降下して白兵戦を仕掛けると、ランバ・ラルから通達があり、つぎはぎに改装されたヅダへと乗り込む。この改装はミハルの意志でなく、この隊に合流する際にこのような姿へとなっていたのだ。

 

 ザンジバルから降下して狙うはホワイトベースと決めていたのだが、執拗にミハルを狙う弾幕があり、予定ポイントから少し離れた場所に降下する。

 

 そこに待っていたのはあの時の方に2つのキャノンを背負ったあの赤いモビルスーツだった。

 

『よぉ、この間はよくもやってくれたな…おかげでぐっすりした後に別世界が見えたぜ?えぇ?』

 

 やはりパイロットはカイだった。再び聞けた声に安堵する自分と、またこの場で戦わないといけないという葛藤が心を痛めていく。

 

「…まだ、軍を辞めてなかったんだね…」

『当たり前だ!俺はやらなきゃならないことがまだたくさんあるんだっての!』

「そう…じゃあもう一度だけ警告してあげるよ…軍を辞めて…どこか戦争の無い場所へ行くんだね」

『やなこったね!!さっきも言ったろ!やらなきゃならない事…助けなきゃいけない人がいるんだよ!』

 

 助けなきゃいけない人がいる。この世界ではまだカイはミハルたちと出会っていない。だからその対象は自分たちではないのだろう。だが、それでも目の前のカイは…『カイ・シデン』は誰かを助けるために、あの日と同じように戦っているんだろう。

 

『…やっぱりアンタって………いいさ、じゃあ再起不能にしてやる!今度は避けそこなえばその首が飛ぶと思うんだね!』

 

 ………斬り合い、撃ち合った後、ヅダはバランスを崩して倒れた。このチャンスを逃すカイではないだろう。

 

「…ッ…負け、かな…それなら、いっそ…」

 

 いっそミハル・ラトキエとして、死のう。そう思った。

 

(ごめんよ、ジル、ミリー。でも、あの時よりは確実に良い未来なはずさ。フィーさん…ジンネマンさん達の言うことをちゃんと聞くんだよ…)

 

 そうして、ミハルはコクピットのハッチを開けて倒れたヅダの上に立った。

 

(カイ…アンタにこんなことをさせて申し訳ないけど…討たれるなら、苦しみから解放してくれるならやっぱりアンタがいいよ…ごめんよ、カイ…)

 

 ヘルメットを外して感じた頬を撫でる久しぶりの地球の風は、少し冷たかった。

 

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