やっぱり、『軟弱者』かもねぇ… 作:F覚醒ヅダ
「…なんでだよ…どうして、こんな…!」
ガンキャノンのコクピットの中でカイは一人、突き付けられた現実に怯えていた。
ミハル・ラトキエ、『カイ・シデン』と敵対することのない人物。いや、敵対してはいけないはずの人物がそこにいるのである。
◆◆◆
どうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいい!!どうすればいい!!!どうすればいい!!!!
ミハルと戦うなんて聞いてない、こんなことガンダムの世界で無かったじゃないか、改竄を目論んでいるのは…ミハルだってことか…!?何のために………!まさか!!
「………っ、アンタ、さ。なんで…パイロットなんかやってんだよ」
ビビッて声が所々裏返る。呼吸も荒く、目の前がチカチカする。頭もふらふらする。どうにか、しないと…待て、でも、目の前のこの人は、ミハルじゃ、ないかも、しれない。
『………ジルとミリー…弟と妹を助けるためさ』
「っ…」
…ダメだ。ジルとミリーの名前すらも出てきちまってる。ここまでの偶然が重なったら…もう、確定だろう。この人はミハル・ラトキエだ。
もし仮にミハルが言う『弟と妹を助けるため』が自分と彼らのすべてを知った後なのだとしたら…改竄を望む事には十分な理由だろう。
が、こう言っちゃなんだが…ニュータイプですらないミハルに歴史の改竄を起こさせるほどの力や…何かしらの異能があるとは思えない。何かが変な気がする。
『信じてもらえないのは分かってるんだけどさ…アタシ、アンタに救われたんだよ…絶対に、覚えちゃいないだろけどさ…』
そう、時系列的にはミハルとカイが出会うのはまだ少し先…ゆえに『何も知らないカイ』を演じる必要がある。何か糸口があるはずだ…この機会に質問をしなければ…!
「地球訛りのその言葉…お前さんはスペースノイドじゃあ…ねぇな?」
『…そうさ、アタシは地球生まれさ』
「じゃあ何でジオンに!」
『さっきも言ったろう?弟と妹を助けるためだって…その、ジオンが優勢だから…!』
「………おかしいじゃねぇか」
『えっ…』
ここだ。『ジルとミリーを助けるためにジオンに入る、ジオンが優勢だから』これに違和感がある。
「確かに一年戦争が始まってからはジオンが優勢だった…が、それは『一年戦争が始まってから』だ。お前さんがジオンの高官の娘で何年も前から連邦に反旗を翻そうって…モビルスーツなんてシロモノを使おうっていう動きを知ってたんなら話は分かるが…地球生まれのお前さんにはそれはあり得ない」
『そ、それは…』
「一年戦争が始まってからじゃあジオンに入ることはできないだろうよ…スパイと思われかねないからな…だからお前さんは何年も前からジオンにいたんだろう…違うかい?」
『…っ…』
「『弟と妹を助けるため』…これは本当の事だろうさ。が、問題はここからだ…何を知ってるんだ?えぇ?」
…このミハルは確実に自らの…そして弟と妹の最後を知っている。故にどうにかしたくてこんなことになっているんだろう。
『ア、アタシは…!』
何かを打ち明けようとミハルが大きく口を開けた、その時だった。
「ッ!?うわっ!?」
突如眩しい光が側面から当てられて、視界が真っ白になる。
◆◆◆
側面から光を浴びせたのはザンジバルであった。
『中尉!ミハル中尉!聞こえているな!?撤退だ!敵戦力を把握した!今回は引き上げだ!!』
「っ…!」
『急げ!』
ミハルはグフのパイロットにそう言われて迷ってしまう。今ここでカイにすべてを打ち明けてしまうべきか。しかし言えば優しいカイの事だ、どうにか…なんとかしようとするかもしれない。でもそれは得体のしれないあの声の主にカイが目を付けられ、最悪の場合命を落とすことになるかもしれないと思うと、言い出すことは出来なかった。
「………!カイ!」
閃光で視界が不明瞭の中、彼がいるであろう方向にこのところ何年もずっとしていなかった笑顔を作ってこう言った。
「戯言と思われるけど…やっぱりアンタ軍に向いてないからさ、さっさと辞めて…ベルファストの街にでも行きなよ……大好きだよ、カイ」
『なっ…!?お、おい!!――――――――!!』
カイの驚く声の後に何か言葉が紡がれたが、ミハルはその言葉を耳にする前にヅダのコクピットへと戻り、起動させて素早く撤退をしていった。
その後ミハルの機体を乗せたザンジバルが撤退した後もカイのガンキャノンはその場に立ち尽くしていた。
『カイさん!帰還命令が出てますよ!……カイさん?』
アムロからの通信でやっと我に返ったカイはやっとの思いで操縦桿を握る。
「…あ、あぁ、わりぃわりぃ…へへっ…逃がしちまったよ」
『いえ、あの感じは向こうが見逃がしてくれたって言うか……青い機体はザクなんかと比べ物にならないパワーでしたよ』
「そうかい…敵さんの新型モビルスーツって感じかね…」
『帰ったらシュミレーションに入れるようにします』
「…おうよ」
『…?カイさん、大丈夫ですか?』
「ん!?あ、あぁ!大丈夫さ、にへへ…」
『………』
どこか元気のないカイの様子にアムロは違和感を覚えつつも、共に帰還する。そしてそのまま報告のために二人で上がったブリッジでは…
『―――否、始まりなのだ。地球連邦に比べ我がジオンの国力は30分の1以下である。にもかかわらず、今日まで戦い抜いてこられたのはなぜか?諸君、我がジオン公国の戦争目的が正しいからだ』
ジオン公国によるガルマ・ザビの国葬の中継にて、軍総帥であるギレン・ザビによる演説が声高に行われており、ブリッジにいた者すべてが釘付けとなっていた。
『―――ジオン公国の掲げる人類一人一人の自由の為の戦いを神が見捨てる訳はない。私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ。なぜだ?』
その瞬間、カイの頭の中にはサングラスをかけたシャアが「坊やだからさ」と言った光景が映し出されていて、つい、口遊んでしまいそうになっていた。
そして、映像から流れるジオン国民たちの「ジーク・ジオン!」の掛け声に圧倒されるアムロと、その映像に眉間にしわを寄せ、腕を組みながら見つめるブライトが大局的に見えた。
「…ザビ家の独裁を目論む男が何を言うのか…実の弟をこのようなプロパガンダに利用して…」
「ど、独裁…?」
「うむ…ギレン・ザビの父、ジオン公国公王デギン・ソド・ザビは…ジオン共和国時代にジオン・ズム・ダイクンを暗殺、その死を持って民衆を扇動し、操り、ザビ家の繁栄を目論んでいる。と…何度か連邦軍の中でも聞いたことがある」
ギレンの演説が終わり、ブリッジのモニターが有視界用の地形投影に変わってからも、空気は変わることはなかった。
「アレが俺達の敵なんだ」
「リュウさん?」
「ブライトが言ってた通り、弟の死すらも士気高揚に利用するような奴らに…俺たちは負けるわけにはいかんぞ、アムロ」
「…はい!」
その様子を見た後、カイはブライトに手早く報告を済ませ、自室に帰ろうと考えていた。
「…以上。あの赤錆のモビルスーツとドンパチやって倒せなかったのは申し訳なく思ってるよ」
「あ、あぁ…報告は了解した…顔が青いぞ?大丈夫か?」
ブライトにはミハルのことを告げずに、ただ「軍なんかやめちまえって諭されてむかついたから口喧嘩しちまってよ」とだけしか言っていなかった。それはこの時点では邂逅することのないミハル・ラトキエという人物をなぜ自分が知っているか、それをどう説明していいのかを迷っていたからだった。
「あー…実は最後のあのピカッとなるやつをモロに見たからよ…頭がくらくらするだけさ。念のため後で医務室に行くよ」
「分かった…無理はするなよ?では次、アムロの番だな、報告を―――」
◆◆◆
…俺は医務室に行かずに部屋に戻ってベッドに体を投げるように倒れ込む。
「……………」
身体に力が入らない。ただボーっとして、喪失感に似たようなそんな感覚。
俺が本物の『カイ・シデン』でないにしても、ショックを受けてるってことなんだろう。
「なんで…」
ジオン側で出てきたミハル・ラトキエ、これは何を意味するのか。
それでもってジルとミリーを助けるため。か…参ったもんだね…そうなってくるとミハル自身がどうなるかってのも知ってるんだろう。
「…『カイ』さん。俺…どうしたらいいですか…?どうするのが正解ですか…」
ポツリと今にも消えそうな声で呟いても答えは返って来な――――
「さぁてなぁ?何悩んでるか知らないけど、お前さん自身でしか解決できないんじゃないの?」
「!?」
返ってくるはずのない声に驚いてベッドから飛び起きると部屋のドアのところでスレッガーさんが「よぉ」と言いながら壁にもたれていた。
「ス、スレッガーさん!?び、びっくりしたぜ全く…ノックくらいくれてもいいじゃんかよ」
「おいおいノックならしたぜ?それでも返事がなかったからさァ…んで?なんか凹んでんなーと思って来てみれば…なーに悩んでんの、このスレッガーお兄さんが聞いてやろうじゃないの」
椅子をベッドの近くに持ってきてドカッと座ったスレッガーさんは「ホレ」と悩みを打ち明けるように促してくる……どう言ったものか…
「…例えば、その、スレッガーさんが戦場で戦いたくない相手に会った時…どうする?」
「あん?戦いたくない相手って…お前…まさか」
「ち、違うっての!ただ、なんて言うかほら…相手にも家族がいるんだーとか、考えたりしないのかなって…」
「あー、そっちか。びっくりしたぜ敵さんにホレちまったのかと思った」
スレッガーさんは「そうだなァ…」とポリポリ頬を掻いた後、サラリと「分かんね」と言った。
「だってよ、やらなきゃやられるんだぜ?アマちゃんな感覚でいたらすーぐドカンよ?分かる?」
「それは…そうだけど…」
「相手に家族がいようがいなかろうが戦場にいる以上ソイツは一人の兵士だ…もちろんオレもな。そんでもって最前線じゃどっちかがやられてどっちかが生き残る…ただそれだけよ」
淡々と答えるスレッガーさんはやっぱり軍人なんだなと思う。
一人の兵士。戦力の一部。たとえその一部が失われたとしても軍が勝てば問題はない。だからスレッガーさんはビグザムに特攻したのだろうか?…それとも、ミライさんのためを思って…?どっちなんだろう。
…なら…
「……相手が…」
「あん?」
「相手が親しい人の場合は?」
そう言った後に見たスレッガーさんの顔は少し困った顔をしていた。
「……………いつからだ?」
「え?」
「親族か知り合いかは知らねぇが、いつ敵にいるって分かった?」
「い、いや…その…」
あ、やべ。やらかしたわ…
「…安心しろ、誰にも言わねぇよ…ってよりもお前さんは軍人じゃないだろ?軍法会議にゃかけられないさ」
「ほっ…」
「ま、スパイ容疑で連れてかれて尋問された後もっとヤバいとこで裁かれるかもだが」
「え、マジ?」
「マジ」
あー…まぁ、シロー・アマダも審問会でいろいろ言われたもんな…んで、今の『カイ・シデン』はまだ階級もない一般人扱い…そりゃ、そうなるか…
…記憶の中のスレッガーさんは女にこそだらしがないが頼れるアニキ分のはずだ…俺が『カイ・シデン』じゃないってバレないレベルなら話せば頼りになるかもしれない
「……実は、さ…赤錆のモビルスーツのパイロット…知り合いだったんだ…いつ知ったかってのは、さっきの戦闘の時。コクピットから出てきて顔を見たら…ミハルだった」
「…フーン…なぁ、そのミハルちゃんってのはズバリ…コレか?」
ピン、と小指を立てるスレッガーさんに「ちげぇよ」と答えると「なんでィ」とつまらなそうな顔をする。
…もし正史でミハルが生き残っていたなら、『カイ』さんとそういう関係になっただろうな…
それから俺が『カイ』さんになったこと以外を喋った。ミハルについては地球に…ベルファストにいた時の幼馴染という設定にして喋り、ミハルには弟と妹がいるという嘘と本当のことを混ぜて伝えた。
「はー…なぁるほどねェ…しっかしカイが言う通りヘンだよなァ…『ジオンが優勢だから弟と妹を助けるためにジオンに入る』なんてよ」
「そう、そこに引っかかってるんだよ…」
「…優勢…戦争後に弟と妹に医療技術の供与ってスジか?いやぁ、違うな…なら借金返済…でもないか…それなら連邦でもいいもんな…あいや優勢ってキーワードが噛み合わねぇなァ…」
スレッガーさんはウンウン唸りながら、一緒に何故なのかを考えてくれた。やはり情に厚いアニキだった。
「カイよォ、とりあえずまだピースが足りねぇと思うわ、コレ。さすがのスレッガーお兄さんでも分かんねぇよ…だからよ、今度また戦場であったらとにかく話をしろ。1対1の状況を作るのを俺も手伝うからよ」
「スレッガーさん…!」
「うら若き青年の悩みを手伝ってやるのも大人ってもんよ、ま、しっかりしてるお前さんにもこんな一面があるって知れてよかったよ」
「…そう言われると気恥ずかしいけどさ…ありがとう」
肩をすくめて「いいってもんよ」と言った後、スレッガーさんは立ち上がり、部屋から出て行こうとする。
「いいか?とりあえずこのことは他の奴には黙っときな?ブライト艦長にはそれとなーく誤魔化して…思春期の悩みだって言っといてやるからよ」
「え…」
「ま、心配してんのはオレだけじゃないってコト、分かっといてよね」
「………」
そう言ってスレッガーさんは出て行った。
………。そうか…皆に心配かけてるんだなぁ…いかんね、こりゃ…精神年齢は皆より上だってのに…頼れるところは頼らないとな…でも頼りすぎて前世の上司みたいになって俺みたいなやつが激務に追われて、つるっと転んで死んじまうぜ…なぁカイ・シデン―――――あいや、俺…お…れ…????
………?
俺、あれ…?
俺って……名前、何だっけ。
大嵐で停泊するホワイトベースに味方のSOS信号が届く。
偵察に出たガンペリーとガンダムとガンキャノン、
そこで彼らが見たものは…
次回 嵐の島と軟弱者
『彼』は生き延びることができるか?