やっぱり、『軟弱者』かもねぇ… 作:F覚醒ヅダ
ランバ・ラル隊が地球へと降りる頃…月面都市グラナダ、会員制高級バーにて。
入り口には『本日貸切』の看板が下げられていたが、黒いコートに顔を隠す黒いベール付きの帽子を被ったある人物がその扉を開ける。
中にいたバトラースーツのバーテンダーがモノクルを光らせながらその『来客』に目を向ける。
「…申し訳ございません。本日は貸切でして」
「【月の国に乾杯を】」
「………。大変失礼いたしました。こちらへどうぞ」
深く拝礼したバーテンダーは『来客』を奥のVIPルームへと連れて行く。
黒く高級な樫の木のドアをノックすると、中から「…何用か?」と声がする。
「『来客』の方がお見えになりました」
「そうか、通せ」
「ハッ」
重々しくも軋むことなく開いた扉の先ではフォーマルなスーツ姿で赤毛の女性が一人、ワインが注がれたグラスを傾けながら座っていた。
「…どうぞ?まずは喉をお湿しになられますか?」
そう言われた『来客』は女性の対面にある革のソファに腰掛けそっと手をかざすように制し、こう言った。
「せっかくのお誘いですが遠慮いたしますわ……キシリア閣下」
キシリアは弄んでいたグラスをガラステーブルに置くと、ニヤリと笑う。
「警戒心がお強いことで…」
「いいえ…本日は私個人で車を運転してまして…グラナダでも飲酒運転は違法でございましょう?」
「フフフ…これは申し訳ありません……では早速お話を伺いましょうか?ああいや、その前に……こちらから質問をさせてもらおうか」
そう言って細めたキシリアの目はギラリと光った。
「お前は何が目的だ?」
その言葉に『来客』はベールの下の真っ赤なリップを塗った唇をニィッと引き上げて不気味に笑う。
「閣下の目指す場所…その方向に私の目指すものもあるのです」
「…読めんな。そして私に対するあの多額の献金は何だ?さすがの私も驚いた…あのような額をどこで…」
「フフッ…『いいツテ』があるのですよ…」
ベールで目の部分が見えない『来客』にキシリアは間合いを掴めていなかった。
『多額の献金』これがキシリアの元に届けられたのはつい先日の事。部下よりその報告とその額を聞いた時、キシリアは思わず部下に「読み違えていないか?」と確認するほどであった。その額、コロニーが3基ほど建設できるような途方もない、子供がふざけて書くような数字だった。
その献金を持って『キシリアに会わせろ』というのだ。当然直属の情報部にも探らせた…が、不思議なことに何も出なかった。幸いこの『来客』は敵対する意思を見せていないが、この多額の献金がもしも連邦軍に渡っていたらと思うとさすがのキシリアも背筋に冷たいものは走る。
「…閣下は今、ニュータイプの部隊を編成しようとなさっていますわね?フラナガン機関を使って…」
「…………」
さて、キシリアは返答に少し困った。
仮に一般人風情である(今となってはありえないが)のであれば知りえることのないこの情報を掴めるこの目の前の…おそらくであるが『女』は一体誰なのか。ここまでの情報を握っている以上どこかの高官かその妻か、あるいは愛人か。いや、そうであってもこの額の献金は用意出来まいからいずれでもないか。ハッキリとしないその正体に苛立ちすら覚え始めていた。
始末も考えたがこの『来客』を消すことでどのような影響があるかが不明のため手は出せない。ハラの探り合いをしようにもこちらから相手に叩きつけられる手札がそもそも存在していない。厄介な相手だと眉を顰める。
そんな状況をくみ取ったのか『来客』は「クスクス」と笑いだす。
「失礼…困らせてしまいましたわね…ですが、あくまでも私は閣下の味方です…先ほども言った通り閣下の目指す場所に私の目指すものがあるのですよ…通過点ではありますが、ね」
キシリアはこの『来客』は嘘は言っていない、そう直感で感じた。この『来客』が目指すものが自分を通過点にして…ある種踏み台にして手にするようなものであるということも、だ。
「…私に何をしろと?」
「ありがとうございます…実はある連邦の部隊を消していただきたく…」
「連邦の…?なんという部隊だ」
そう聞いてやると、『来客』はまたもニィッと唇を引き上げた。
「ホワイトベース隊です」
ホワイトベース隊、そう聞いてキシリアは「あぁ、木馬という奴か」と声を漏らす。しかし、木馬には現在ランバ・ラル隊が差し向けられていると部下から聞いていたはずだった。
「ランバ・ラルでは駄目なのです」
と、先手を取られて言われてしまい、今度は「ふむ」と声を漏らす。
ラル家自体には何ら信用は置いていないが、戦力という面だけではゲリラ屋であるが精鋭と言って信用してもいいだろう。さらに言えばザクだけでない、最新モビルスーツのグフも1機送られているはずなのにどういうことか。
「最新鋭の機体があっても信用できぬと?負けると?そう言いたいのか?」
「ええ」
「即答か。だがいまいちお前のいうことの方が信用できんな…ランバ・ラルが負けるなど…」
「でしたら……地図はありますか?もちろん地球の」
鈴を鳴らしてバーテンダーを呼び、地球の地図をテーブルに広げてやる。
すると『来客』は「ここです」とある群島の1つの島を指さした。
「ここを4日後にホワイトベース隊が通過します。ホワイトベース隊の戦力が信用ならないというならば閣下の兵をここに派遣されてみてはいかがでしょう?小耳にはさみましたが閣下は水陸両用機なるものの先行生産機体をいくつか地球にお持ちだそうで…」
「…こちらの手札ばかり見透かされるのは好かんな」
「あの献金が私の手札だと思っていただければ」
いまいち腑に落ちないキシリアだったが、地図を掴むとまたバーテンダーを呼び寄せた。
「この場所に部隊を派遣する。4日後までに向かわせ、木馬を沈める。詳しくは後ほど伝達する」
「ハッ!」
バーテンダー、もといキシリアの部下が去った後、部屋には再び2人となった。
キシリアは新品のグラスを戸棚から取り出し、ワインを注ぎ『来客』の前に置く。
「…やはりお前も飲め」
「しかし車が」
「泊ればいい。グラナダで一番いい宿を手配してやる」
「…では、閣下のお言葉に甘えて」
『来客』がグラスを口に着け、ワインを口に流し込む様をキシリアはただじっと眺めていた。
(堂々と私を踏み台にしようとするその心意気は褒めてやろう…お前の望むものが何か…見極めさせてもらうぞ…)