やっぱり、『軟弱者』かもねぇ…   作:F覚醒ヅダ

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第13話 大地に立つ……キャノンと軟弱者

 

 ハヤト・コバヤシはラウンジで1人自責に駆られていた。

 あの時自分がもっとうまく戦えていれば、カイのガンキャノンを潰さずに済んだかもしれない。そして自分はアムロやカイと同じくサイド7からここまで来たのに自分だけが役に立てていないのではないか?そう考えていたのだ。

 

「…おや…?失礼、隣…いいだろうか?」

「え、あ…はい…ってあなたは!」

 

 項垂れていたハヤトに声を掛けたのは、ドアンだった。元とはいえジオンの兵であるという証拠がないというホワイトベース乗組員の採決の結果、ドアンと彼が保護する子供たちは作戦区画を除いて比較的自由に過ごしていた。

 もちろんそれでは申し訳ないというドアンからの提案で、掃除や食事、医務室での簡単な応対などを子供たちと共に手伝っていた。

 

「驚かせてすまない…ただ、何か悩んでいるように見えてね」

「…あはは…べ、べつに、そんな…」

「………」

「………。すいません…その、実は…」

 

 少しの沈黙。だが、冷たいものではなく、なだめるような優しき沈黙にハヤトはポツリポツリと話し始める。

 

「…ふむ…なるほど」

「すいません…こんな…」

「いや、君の…ハヤト君の思うことは分からなくはない。だが…いいかね?君は元から軍人だったというわけではないだろう?」

「それは…そうですが…で、でも、アムロやカイさんだって…!」

 

 焦って声を荒らげるハヤトにドアンは「まぁ待ちたまえ」と優しく制する。

 

「ハヤト君、君はサイド7からここまで来たと言っていたね…ではそのサイド7では君は何をしていたかな?」

「え…?えっと…?」

「ふむ…君ぐらいの歳だと…学校に通っていたんじゃないのかな?違うか?」

「そ、それはそうですが…その…あとは…柔道とか」

「ほう!柔道か…!格闘術としてはこの上なく素晴らしい…そうだ!このホワイトベースには運動スぺースはあるのかな?」

「え、あ、はい…」

 

「よし…!ハヤト君、どうかね?俺と柔道をやってみないか?」

 

「………。え???」

 

 10分後、ハヤトとドアンはホワイトベース内のトレーニングルームでお互い柔道着姿で向かい合っていた。

 

「…おぉ、これが本物の柔道着か…!少しゴワゴワするが運動性に問題はなさそうだな!」

「あ、あの…ドアン、さん…本当にやるんですか?」

「む?あぁ大丈夫だ、子供たちはタムラ料理長が預かってくれるとのことだ…それにルールも多少理解しているし受け身もある程度出来るとも」

「そ、そうじゃなくって…!なんで柔道を…」

「はっはっはっは!!やってみればわかるさ!それとも、こんな大男相手には勝てないかね?あの時のジオンの水陸両用のモビルスーツのように…!」

「なっ…!?くっ…!!や、やります…!僕だって、僕だって!!」

 

 組み合いが始まると、ハヤトはその小さな身では考えられないような力でドアンを引っ張ろうとする

 

「む…!?」

 

 体格差、筋肉量、そのすべてがドアンよりも下回るはずのハヤトが今まさにククルス・ドアンという巨体を動かそうとしていた。

 

「やるな…!だが…!」

「うっ…!?」

 

 ハヤトの両足に素早く右脚を差し込んだドアンはハヤトが投げるために軸足にしようとしていた右脚…ではなく、左脚をひっかけ、バランスを崩させる。

 

「うわぁ!?」

「そこだ!」

 

 そのままドアンは片足立ちとなったハヤトの柔道着の襟をがっしりと掴み、床を踏みしめると、綺麗な背負い投げでハヤトを叩きつけた。

 

「ぐっ…!」

「ふむ…技量は申し分ないようだな…だが、想定していない動きにはまだまだだな」

「…くっ…!も、もう一回!!」

「よかろう!かかってこい!!」

「お願いします…!!…っ…でやあぁぁぁ!!」

 

 その後ドアンと組み合っては投げられ、払われ、固められ。負け続けた。

 負けても何度も立ち上がり、向かっていった…すると…

 

(…!…き、気のせいかな…ドアンさんが投げを狙う時は組んでいる両肩が一瞬引くような……!いや気のせいじゃない!足払いだって今のところ全て右足でしてくる!という事は!!)

 

 狙う目標を定めたハヤトはワザと投げやすいように力を抜いて見せる。そうすると、睨んだ通りドアンは両肩を引かせ、投げに移ろうとする。

 

「今だ!」

「なにっ!?」

 

 肩を引き、重心を傾けようとするドアンにハヤトは力を込めて押してみる。ドアンはとっさにバランスを取るために、投げの姿勢を崩した。しかし、

 

「でやあぁぁっ!!」

 

 ドアンがバランスを取り戻す前に素早く右腕を掴み、左の襟を硬く握りしめたハヤトは一本背負いでドアンを床に投げ打った。

 

「ぐおっ…!?」

「あ、あぁ!!す、すいません…!」

「ははは、構わんとも…さて、ハヤト君。どうやら今君は俺の動きを分析して隙をついたようだね?」

「な、何でそれを…」

「なぁに、単なる勘さ…だが、この勘は時として初めて戦う相手にも有効となりえるそれが君の武器になる」

「武器…」

 

 先ほどの感覚を確かめるように両手を握り締めるハヤトに、ドアンはさらに続けた。

 

「君は…いや、君たちは軍人じゃない。俺個人としては君たちにはもっと青春を楽しんでもらいたいが…だが、『今』はそうしなければならないのだろう。本当に酷な話だ…だから俺が送る言葉は『今』を生きる君に送ろう…ハヤト君、無理に急いでアムロ君たちに追いつこうと焦るな。君は今の組み合いのように敵を分析し、しっかりと活かすことが出来る才能がある。それを磨いて行けばきっと彼らに追いつくことも追い越すことだってできるはずだ…くれぐれも生き急ぐな。いいな?」

 

「…!はい!ありがとうございます!」

 

 そのハヤトの顔は晴れやかで、迷いや自責の念はもうそこにはなかった。

 ピシャリと顔を両手で叩き、気合を入れなおすと、ハヤトは再び立ち上がった。

 

「よぉし…!ドアンさん、もう一回お願いします!この感覚をもっと磨きたいんです!」

「いいだろう!そして君に人間としての格闘術だけでなく、モビルスーツでの格闘技も叩き込んでやろう!!覚悟はいいか!?」

「押忍!!!よろしくお願いします!!!」

 

 向かい合う二人の間にビリビリと張り詰めた空気が漂い始めたころ、トレーニングルームの扉からひょっこりとカイが顔を出した。

 

「あー…盛り上がりのところ本当に悪いんだけどよ…ちょぉっといいかなぁ…?えっとドアンさん」

「む?おぉ、君はカイ君だったね、どうした?」

「にへへ…ちょっとお耳を拝借…」

「?」

 

 手をすり合わせながらひょこひょことニヤニヤしながらドアンに近づいたカイはドアンの耳元でごにょごにょと『ある提案』をした。

 

「ほう…?構わんぞ?」

「いいんですか!?」

「あぁ、ただし使えるかは分からんぞ」

「いいですいいです!!ヒャッホゥ!!ありがとうございます!!おいハヤト後で格納庫見に来いよ!面白いもの見せてやるぜ!!じゃあな!」

「は、はぁ…」

 

 ドアンからの承諾を貰ったカイは大喜びで飛び跳ねながら嵐のように去って行った。

 

「…元気だな…カイ君は」

「そ、そう…みたいですね…?」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 ホワイトベース格納庫…今ここに3人の匠が集う…

 

 ガンキャノンパイロット!俺こと、カイ・シデン!!

 

 メカの事なら任せとけ!ガンダムパイロットのアムロ・レイ!!

 

 いつも整備でお世話になってます、巻き込んでおいたオムル・ハング!!

 

「…なんなんだ?これ…」

「さ、さぁ…?カイさんがこの位置で立てって…」

「やーやー!お二人とも!いいお天気でぇ!今日はホンットーに手伝いをありがとうございます!!」

「アムロ、年長者として言っておいてやる…こういうあからさまなヤツは絶対無茶を要求してくる」

「あ、あはは…」

 

 む、失礼な…俺はせいぜい『リアル・ガンダムブレイカー』しか考えてないってのに…ま、いいや、説明してやろう…!

 

「ごほん…!えー、ではまずこちらをご覧ください」

「なんだぁ…?この馬鹿デカい落書きは…って…」

「こ、これは…」

 

 ふふふ…!アムロもオムルも驚いてる…!さぁ聞かせてやるぜ!これが!!

 

「へへん…どうよ!これが俺作の――――!!!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 一時間後。ドアンとの修練を終えたハヤトが格納庫で目にしたものは…

 

「………ザ、ザク…?」

 

 頭と右腕がドアンのザクから移植されたガンキャノンだった。

 

「おぉ!来たかハヤトォ!見てくれ!これが俺のキャノンザクッ!!!だ!!!!!」

 

 整備服と顔面を油で真っ黒に汚れたカイが腕を組んでニカっと笑う…が、その後ろでは同じく整備服を着たアムロとオムルが椅子にぐったりと座っていた。

 

「えっと…その…アムロたちは…?」

「ん?あー…駆動系や接触部分の加工を急ピッチで手伝ってもらったのと、ザクの腕と頭部の簡易修復でだいぶ無理させちまったからなホレ、向こうにいるぜ……二人ともー!手伝ってくれてありがとな!!」

 

 カイが感謝の言葉を言うと「二度とやらねぇ…」や、「やっぱりカイさんはカイさんかもしれない…」といった声が絞り出されるように聞こえた気がした。

 

「で、でもキャノンザク…ですか…ガ、ガンキャノンの元の頭部と右腕は破棄したんですか?」

「いんや、あれは大事に保管してもらってる…あくまでこのキャノンザクはその場しのぎ。俺ってばやっぱりガンダムよりガンキャノンのがいいみたいでさ…あぁ!気にすんなよ!?戦場に出ればこんなことだってあるんだ、だから…えっとな…」

「…大丈夫です!」

「へ」

「大丈夫ですよカイさん…!僕は次は負けません!そのためにもドアンさんに色々と教えてもらうつもりです!」

「…!そうか、へへっ、そうか!よかったな!」

 

 グータッチをし、笑い合うカイとハヤトだったが、ブリッジからの通信が入る。

 

『…カイ、先ほどの件だが…どうなった?』

「おっ!ブライトさん!へっへへ…任せてくれよ!バッチリだぜ!このキャノンザクでガンペリーを護衛してやらぁ!」

『キャノン…ザク!?え、ザク!?』

「そいじゃガンペリーのあるカタパルトまで持ってくからよ!ガンペリー乗員の手配を頼みますよ、ブライトさん」

『お、おいカイ―――』

 

 通信も半ばにスキップしながらコクピットに乗り込んだカイはズシンズシンとキャノンザクの歩を進ませ、ガンペリーへの積み込みを行っていると、リュウと料理長のタムラがやってくる。

 そして、リュウの腕に巻かれていた包帯と固定器具は外されていた。

 

「よう!カイ!ガハハ!全く…ザクの腕と頭をつけるなんてなぁ!」

「あれ?そういうそっちは腕のケガ…えっと…もう、いいのかい?」

「あぁ!医局のサンマロ先生からの許可が下りてな。だから今回は俺がガンペリーを操舵するぞ!」

「あー…ははっ、そりゃあ…いいね!」

「そうだろう!時機にコアファイターなんかにも乗って戦場で援護してやるからな!…いや、この際モビルスーツなんかも良いかもなぁ」

 

 本来であれば大喜びで喜ぶべきところなのかもしれないが、カイにはある不安があった。

 

(…もうじきランバ・ラルとの戦いがある…本筋の話じゃ…リュウは…)

 

 リュウ・ホセイ。のちにクラウレ・ハモンからガンダムを守るためにコアファイターで特攻をかけることになる彼をカイは心のどこかで「腕が治らなければそんなことにはならないだろう」と思っていたのだ。

 だが、そのシーンが迫るこの時に治ってしまったのだ。そのことはカイの心の中に不安要素として湧き上がっていった。

 

「やぁやぁ…リュウさん、カイさん。申し訳ありませんね…そうだ!塩を補充できた暁にはとびきりの御馳走をご用意させていただきますよ!」

「おっ、そうだなぁたまには味の濃いものを腹いっぱいガッツリ食べたいもんだ…!なぁカイ!」

「そりゃまそうだがよ…パイロットだからと普段いいもん食わせてもらってるっていうのもあるし、俺としてはチビ達にもいいもの食わせてやりてぇから俺の分はチビ達に回してやってよね」

「よ、よろしいんですか…?でも…パイロットは一番…」

「大丈夫だっての!動きや士気に支障のない分は食わせてもらってるからさ!それにチビ達はこれから育ちざかりなんだからよ。頼むぜタムラさん」

「わ、分かりました…!」

 

 その言葉にステーキや揚げ物なんかをたいらげる想像していたリュウが動揺する。

 

「なっ…!?カ、カイィ…そんなこと言ったら俺が薄情者みたいじゃないか…」

「ニヒヒ…ま、リュウはいっぱい食って本調子にならなきゃいけねぇからいいんじゃねぇの?」

「ぐむむ…」

「さ、行こうぜ、いずれにせよ塩を取らなきゃこの話も無かったことになる。ホワイトベースの航行に支障が出ないようにさっさと済ませちまおう」

 

 そう言ってヘルメットをかぶるカイを横目にリュウはタムラに「俺の分も…その、半分は…」と分け与える算段を話しながらしょぼくれていた。

 

 

 リュウが操舵を務めるガンペリーがホワイトベースを飛び立ち、海の傍へと着陸する。その後ガンペリーの側面ハッチが開き、ガンキャノン……ではなく、キャノンザクが砂浜を踏みしめた。

 

「おーし!どこも不調は無し!まぁちっとばかしカメラがアレだが…感度はおおむね良好ってね!さぁて作業作業…おぉーい!リュウ!このポンプかい!?」

『そうだ!海に突っ込んでくれ!あとはこっちでスイッチを押す!』

「はいよー!」

 

 汲み上げ用のポンプを海に沈めながら、カイは物思いにふけっていた。

 

(…アニメ通りにリュウが特攻するとこは阻止したい…が。この世界がアニメ通りの世界じゃないってことはもうこれまでの流れで分かってる。だから止められるはずだ…止められる……はず、なんだ…)

 

 自分に言い聞かせ、なじませるように心の中で復唱するのだが、それでも不安の種は完全には消えなかった。

 

(もし、この先リュウの死亡が回避できたとしても…次はマチルダさん、ウッディ大尉、スレッガーさん…………そして…)

 

 そうして最後に思い浮かべるのはある一人の少女。

 

(ミハル・ラトキエ……『カイ・シデン』の大きな心の傷…)

 

 カイ自身はミハルが何故このようなことになっているのか未だ分かっていない。

 が、『カイ・シデン』が言っていた歴史の改竄に関わっていることは間違いないだろう。しかし、弟と妹の為と言うミハルを責める気にもなれないし、何よりミハルだけでここまで大きなことが出来るのか、ずっと考えていたのだ。

 

「…黒幕が…いるよな…歴史を変えたいとかそういったことを考えそうな奴っていえば……ダメだ、結構いるな。そもそも黒幕の候補はファーストだけじゃないだろうしな…」

 

 ゴウンゴウンと海水を汲み上げる音を聞きながらカイはふと、海の向こうへと視線を移した。

 

 

 

「…俺たちは……いや、俺は何と戦ってんのかね…」

 

 

 その答えを知る刻は少しずつ確実にカイに忍び寄っていた。

 

 

 






オデッサ・デイの報せを受けて進路を向けるホワイトベース。
だがそこへ青い巨星とミハルが立ちふさがる。…のだが…

次回 「捕虜とセイラと軟弱者」
『彼』…いや捕虜は生き延びることができるか?
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