やっぱり、『軟弱者』かもねぇ… 作:F覚醒ヅダ
「へへっ、驚かしてすまねぇな。でも中々出てこなかったからよ」
「あ、いや、ホントその…すいません」
湖の前のベンチに腰掛けながら、『カイ・シデン』は語る。
「ここいらで一回話しておきたかったのさ…ちょうどよく気絶したもんだからコッチに来てもらったってわけよ」
「き、『来てもらった』…?ここは…?」
「ここは【行き着いた果ての内の1つ】。その中でも俺の…【『カイ・シデン』の果て】さ」
「??????」
首をかしげると『カイ』は「あーっとな…」と頭を掻きながら湖に向かって杖を掲げる。すると、湖の水面に『カイ・シデン』がこれまで生きてきた足跡が映像のように映し出される。
「これは…!」
「ホレ、今セイラさんにぶたれた俺が睨んでやがるぜ?」
「ホントだ…あ、あっちではマチルダさんと写真を撮るってみんなが集まってるシーンが…」
「…そう、これは俺の生きてきた証さ、苦しいことや楽しいことなんかが全部が詰まってる…当然、あのことも…」
「っ…」
『カイ・シデン』にとっての大きな出来事、あのシーン…ミハル・ラトキエが死んでしまうシーンが映る。
「………あの」
「なんだい?」
「俺……いや、僕をここに呼んだ理由って?あと、どうして僕はカイさんに…?」
「あぁそうだな。ここに呼んだのは…最初は『よう、カイ・シデン!元気にやってるか?』って聞こうと思ってたんだが…どうにもおかしなことになってるみたいじゃねぇか」
おかしなこと。そう言われてハッとする。
「そ、そうだ!ヅダ!アレは一体…?」
「俺もジャーナリストとして一年戦争後にジオンの内情を探ってる時にそのヅダってのがあるのを知った…開発競争に負けたんだっけ?」
「ただ、試験用に数機作られて…その…上手く言いにくいんですが……」
『MS IGLOO』について、どう説明すればいいか。貴方たちは『機動戦士ガンダム』という物語でそれに連なる物語、 『機動戦士ガンダム MS IGLOO』に出てくるはずのヅダが出てるんです。などと言っていいものか迷っていた。
「…あぁ気にすんなって、俺たちが物語の人物だろうが何だろうが…俺たち自身は実在した。生きた本物の人間だって思えてるからよ」
「…!ありがとうございます」
その後、ヅダの話や『MS IGLOO』の、主にジオン公国軍の第603技術試験隊の話を『カイ』に話す。
「…なるほどな…そういう奴らがいたらしいのは知ってるが…」
「はい…」
「でも、赤錆のヅダはその物語にもいなかったんだろ?」
「そうです。だから困ってしまって…ヅダのパイロットの心当たりはさっき言った第603技術試験隊のモニク・キャディラックって人なら女性ですし、ヅダだし…可能性はあるんですが…」
「この時期にあそこにいるはずがない…か」
「はい…あと、あんなカラーリングでは無かったです…それに今思えば喋り方もあんなのじゃないし…」
気が付けば日が陰り、夕陽が湖をキラキラと輝かせていた。
「…ま、追々分かってくるかもしれねぇな…さて、どうしてお前が『カイ・シデン』になったかも聞かれていたな」
「あ、は、はい!何故なのでしょうか」
「ま、特別な理由はない、さ」
「え」
顎を撫でながら『カイ・シデン』はケラケラと笑って見せる。もう一人のカイは目を点にして固まってしまう。
「わりぃわりぃ、でもよ、本当さ。『俺』を知ってて、この世界を知ってる奴で…ある程度良識があれば誰でもよかったのさ…ま、お前さんは前世では死んでしまったみたいだから連れてきやすかったってのもある」
「そ、そう、ですか…」
特別な理由というものが無く少しはがっかりしたが、それとは別に、一度死んでしまったがゆえに、第二の生を与えられた感謝がないわけではなかった。
「…で、だ。本来ならお前さんを『カイ・シデン』にしなくても別に『俺』としての『果て』は良かったはずなんだけどよ…最近どうもヘンでな」
「ヘン…?」
「お前さんだってさっきも言ってたじゃないかいるはずのないヅダがいるってな」
「あ…」
それだけでない。忘れていたがあのプロトタイプガンダムもホワイトベースにあるはずがなかったのだ。
「今『カイ・シデン』として終わった俺が揺らぎつつある。あーお前さんが色々やらかしてるからじゃない。もっと『別の奴』だ。ともかくソイツのおかげで歴史が改竄されちまうようなところにまで発展しててな…それを止めて欲しい」
◆◆◆
急に壮大な話で驚いた…ララァとかのキラキラ空間ではなかったが、特殊な空間にいるらしい。【果て】ってなんだよ…説明されてもいまいち理解できない…今脚本にスタジオカラー絡んだりしてない?タイトルに「シン」って付いてない?
でもとにかくこのままだと歴史が改竄されて良くない…ということなんだろう。でも今も割と改竄してない…?
「あ、あの…『カイ』さん?今の僕も十分に改竄しちゃってるって言うか…ほら、ハヤトとガンタンクで出撃してないし…」
「ん?あぁそのぐらいならいいのさ。俺が言う歴史の改竄は歴史書に載るようなレベルの改竄さ」
「えーと…?」
歴史書レベル?頭を掻いていると同じように『カイ』さんが困ったように頭を掻きながら答える。
「簡単に言うとだな、一年戦争で連邦はジオンに勝つだろ?」
「そう………ですね?」
(GQuuuuuuXの件は黙っておくか…)
「それが覆っちゃったらまずいのよ」
(GQuuuuuuXの件は黙っておくか!)
「つまり、大きなこと以外ならある程度は大丈夫…ということですか?」
「早い話がそうだな」
「…じゃあリュウさんやマチルダさん、スレッガーさん……何より…ミハルの死亡を阻止するのは?」
「………………」
あ、杖に両手置いて考え込んでる…さすがに…ダメか…
「天才だな」
いいんかい!
「い、いやいやいや!自分で言っといて何ですがまずいんじゃないんですか!?」
「あん?構やしねぇよ、ソイツらが生きてたとして、連邦に敗北があるか?…ないだろ?むしろリュウやマチルダさんにスレッガーさんがいれば戦力が上がるだろうがよ。それにミハルが生きてりゃジルとミリーだってもっと幸せになれるかもしれないんだぜ?」
「そ、それは…」
「さっきも言った通り、歴史が変わらなければいいのさ…アムロとガンダムが健在なら普通は大丈夫だったんだがなぁ…」
「え、えぇ………?」
…あっさりと原作死亡キャラの救済が許可されてしまった。いいんだろうか…いいんですよね?『カイ・シデン』さん…?
…でも、それがいいのだとしたら…どうして『カイ』さんは…
「…でも、それなら『カイ』さんが行かないのは何でです?」
聞いた。考えずとも真っ先に浮かぶ疑問。自分みたいなやつがカイ・シデンとして戦い抜くより、『カイ』さんがもう一度『カイ・シデン』をやればいいのではないか、と。
その問いに『カイ』さんは「痛いとこをつくなぁ」と笑う。
「…詳しくは言えない。でももう俺は…『俺』には戻れない。それだけさ」
そう語るその目はどこか寂しそうで、
「だから、頼む。『カイ・シデン』」
どこか、すべてを悟っているかのような柔らかな表情で、
「『カイ・シデン』になって…歴史の改竄を止めてくれ」
…どこか、諦めたようにも見えた。
「………『カイ』さん…」
「頼む」
◆◆◆
帽子を取って頭を下げる『カイ・シデン』にカイ・シデンは
「分かりました」
そう、答えた。
「…ありがとよ、よぉし、それじゃあそろそろ戻ってもらおうかね」
「あ…そうでした…ちなみにガンキャノンってホワイトベースに回収されました?」
「ん、あぁ。あれからアムロの奴に回収されて今は…」
カイは宇宙空間に放り出されたんじゃないのだとホッとする。
が、しかし
「ホワイトベースは今から地球に降りるとこだな。ジオンの勢力圏に降りるアレだ」
「ルナツーは!!!???」
驚いて「ワッケイン!!」と叫びながら立ち上がったカイに『カイ』は驚いて「ま、まぁ落ち着けよ…」となだめる。
「い、いやぁちょっとばかしここは時間の流れが変わっててな?ルナツーからの脱出ならもうとっくに終わってるぜ」
「ちょっ!それを先に言ってくださいよ!」
「あ、ホレ、今アムロがガンダムで大気圏突入してるぜ」
「やばいやばいやばい!!地球に降りたら本格的ガンキャノンで戦わなきゃいけないのに!か、帰ります!どっから帰ればいいんですか!?」
「へへっ、そう焦るなって…ホレ、お迎えが来たぜ」
そう言うと、湖の中からゴボゴボと音を立てて傷だらけになったガンキャノンが姿を現す。
「ガンキャノン…」
「大事に扱ってくれよ?俺も思い入れが深いからよ…さ、そいつに乗れば戻れるさ。頼んだぜ」
「…はい!」
ガンキャノンから伸ばされた右手に登り、コクピットへと乗るカイ・シデンを『カイ・シデン』は見送った。
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―――――――――――――
―――――――
「何故彼にすべてを伝えなかった?」
パイロットを乗せたガンキャノンが『果て』からその姿を消した後、『カイ・シデン』の後ろから声がした。
「うおっと!?脅かすなよ…こっちはお前と違って天寿を全うした老体なんだからよ」
振り返ると青い制服に天然パーマの若い男が立っていた。
「…まだ不確定要素があるからだ。一流のジャーナリストとしては全てが分かってから正確な情報を話す方がいいと思ってな…そこいらのゴシップ記事とは違うのよ。俺は」
「だが…」
「もう少し泳がせる。そうすりゃ『アイツ』が何をしたいのかが分かると思うんだ…その前に『俺』に全部教えてもしもポロっと言っちゃったらどうすんのよ?相手が何してくるか分からねぇぜ?」
「…」
若い男は『カイ』の隣に座ると「はぁ…」とため息をつく。
「あなたは…全く…もう少し人を信じるべきだと思うが?」
「へっ、そっちこそ。大人になってすっかり可愛げが無くなったなぁ?えぇ?」
「そっちは年老いてますます意地が悪くなったみたいだ」
しばし夕陽を浴びながら二人で軽く笑いあう。その後カイは咳払いした後、杖を握り締める。
「…本当は俺が行きたかったさ」
「カイ…」
「でもしょうがねぇんだよ。気づいた時には『アイツ』が締め出した後だもんよ。それだけじゃなくてずっとこんなところに閉じ込められて…はぁ…それならそれでせめてゆっくり眠らせてくれっての」
「…そちらの状況に介入できなくてすまない」
「いいってことよ。そっちもなんか大変なんだろ?なんでもジオンが勝つ世界?があるらしいじゃねぇか……あ?いやまて、そういやお前どうやって『ここ』に入ってきた!?隔離されて『俺以外』は誰も助けに来れないって聞いたぞ!」
「ニュータイプだからかな」
「説明になるかよそんなこと!」
「全く…これだからニュータイプはよ…」と頭を抱えるカイ。だが、その顔は困惑ではなく、どこか嬉しそうに見えた。
「そっちの『カイ・シデン』が上手くやれるといいな」
「まぁ大丈夫だろ…イレギュラーが来ても…きっとな…後は自らたどり着いてくれりゃあ、な…」
「………。さて、そろそろ行くよ」
「…あぁ、そっちも頑張れよ……ニュータイプのアムロ君♪ってな」
◆◆◆
気が付くと目の前に広がる景色は知らない天井だった。どうやら個室らしく、外からは「子供が熱を…先生お薬をいただけませんか?」「膝が痛いんだがね。ここは医務室なんだろう?湿布くらいくれたって…」などの声が聞こえる。
「医務室?…てぇことは…」
周りを見渡すと病室特有の白いカーテンや眠らされているパイプ式ベッドの支柱
が目に入る。
「…ホワイトベース…か、戻ってこれたんだな…」
とりあえずホッとした。あのままガンキャノンのコクピットのシートに座ったらまた眠くなって意識が飛んだからね…もう一回…『果て』?に行ったらどうしようかと…
「ぐえっ!?」
急に体が重くなった!?あ、あぁそうか!このホワイトベースも大気圏を突破して地球に降下したのか…!うえっぷ…なんか気持ち悪い……
少しして地球の重力に体が慣れてきて、よろよろとだが立ち上がることが出来た。病院服みたいなのを着せられてたから横にあった洗濯された自分の制服に着替えて病室から出てみればどうやら医務室と直結してたらしく、医務兵の…誰だ…?あ、名札に「サンマロ」って書いてある。オーケー、サンマロさんねよろしく。
「起きたのかい?具合はどうかね」
「あぁ、重力に押しつぶされる夢を見てね。吐きそうになった以外は大丈夫さ」
まぁ実際はトンデモ空間で『自分』と喋ってました、なんて言ったら頭が逝っちゃってるって勘違いされるな…
「はっはっは…君の症状は戦場で若い兵士によくあるストレス性のモノだよ…まぁ、君は兵士ではなく民間人だそうじゃないか…」
「あぁ、まぁね。でも立場に関係なくやらなきゃいけない場面もあるってもんよ…そいじゃ!艦長サマに報告しなくちゃならないことがあるからサ」
「…分かった、ただ無茶せんようにな」
「ありがとさん!また改めて礼をいいにくるよ」
そうして一度ブリッジに顔を出してみると外はドンパチ、中は…ブライトが軍帽を被った士官と言い争いをしていた…たしか…リー…えーっと…
「リード中尉!ですから今ガンダムを!」
あ、そうそうリード中尉だ。
ブライトもリード中尉もこっちに気づく様子はないみたいだなぁ…と思っていると、セイラさんに「カイ!」と声を掛けられ、そこでブライトも気づいて、「もういいの?大丈夫?」とミライさんにも声を掛けられる。
「あぁ大丈夫さ、へへっ」
「こらぁ!君は操舵に集中したまえ!全くこれだから民間人は…!」
「…すいません」
おやまぁ…リード中尉は思ったよりピリピリしてんのね…おー怖い怖い…
「…カイ、あの時の報告を受けたいが…」
「分かってるって、今は色々立て込んでんでしょ?それで?今どんな状況よブライトさん、起きたら地球にいるっぽいんで驚いたよ」
「…ブライト君、この青年は?」
「彼はカイ・シデン。サイド7の民間人でしたが…一度実戦でガンキャノンにも乗ってもらいました」
「なに!?全く…また民間人か!!ブライト君!君は!!」
…大変だねぇブライトさんも。まぁリード中尉もご苦労さんってとこか。
「ですが、彼はいいところに帰ってきました。…カイ、今アムロがガンタンクからガンダムに乗り替えるために帰還途中なんだ。アムロの代わりにガンタンクの操縦を頼む」
「了解…ん?ガンタンクにはアムロ1人?」
「いや、ハヤトがガンタンクの砲座に乗っている」
「ハヤトも!!?へへっ、それを先に言ってちょうだいよ!行ってくるぜ!」
乗ったか…乗ってくれたかハヤト…!
「あ、あぁ、頼んだぞ」
「はいよ!頼まれて!」
俺はそのまま足早に格納庫へと駆けて行った。
ハヤトと共にガンタンクで出撃するカイ。
上手く話が進むことに安堵するカイにある機体が立ちはだかる。
次回 「包囲網と軟弱者」
『彼』は生き延びることができるか?