非日常が日常だったとある2人に救われた、どこかで元気に過ごしている少女のお話。

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【祝覿(しゅくてき)の鐘と少女】

 

 

私の住む街には展望台がある。

 

突き出た崖のように高い場所にあり、街が一望出来るためデートスポットやピクニックに適しているのでいつも賑わっていて、私も度々家族と訪れていた。

その展望台の隣には鳴らない西洋風の鐘があり、「鳴らすことの出来たカップルは永遠に結ばれる」といった噂話が広まっており恋人連れの観光客が年々増えていた。しかし鐘や柱の老朽化が進み危険だと判断され、ついに昨年多くの人に惜しまれながら取り壊されてしまった。

 

そんな場所へ私は六年前から、月に一度程度で通い続けるという習慣がある。

鐘のあった所へと足を運ぶ度に思い浮かぶのは己の幼さ故に起こった死の恐怖と、私を救ってくれたカップルへの感謝だった。

 

 

 

 

幼い頃のあの日、母とお出掛けの際に展望台へと訪れて毎度どうにか鐘を鳴らせないかと試していた。

母は鳴らないのに長蛇の列に並ぶのは面倒なのか「将来あなたが恋人さんと来た時に挑戦したら?」と私を宥めるが、この頃から既に好奇心旺盛だった私には諦める理由にはならなかった。

原因も考えた、紐の振る方向や角度は試した。隣には同程度の高さの屋根、お誂え向きにと登りやすく子供の私は自制心のラインを既に超えていた。

鐘が吊るされている箇所へ近づいた私は母の叫び声に気付き、無邪気に発見した秘密を伝えようとしたその時、暴風が吹き己の身を空へ投げ出されてしまった。

人は死の間際に走馬灯を見ると言うが私は光景がスローモーションに映るタイプだったらしく、母の唖然とした顔を見詰めながら後悔に支配された思考のまま身体は落ちていく。危ないことは分かっていたつもりで危機感が足りなかった。

私の瞳は、端に浮かんだ滴が流れてしまう直前、母の隣りの2人の人物が動くのを捉える。スローモーションの視界の中でも人間離れしていると分かる圧倒的なスピード。

その狼と氷のような瞳を、私は忘れないだろう。

 

抱きかかえられた私は湧き上がる安心感も束の間、アクション映画さながらの動きと視界の端に映るファンタジーに混乱し、いつの間にか母の元へと届けられた。

泣き私を抱き締める母に、人混みに囲まれ絶賛されている恋人同士と思わしき男女。私達は涙を浮かべながら助けてくれた者へ感謝を伝えた。どうしてあんな危険なことをしたのか、謝罪と共に伝えると男の人は私を諭しながらも褒めてくれた。優れた思考力と行動力、だと。

その優しさに私達は笑顔を浮かべ、お礼にと鐘の鳴らし方を伝える。

 

そして鐘は数年ぶりに鳴り響き、2人を祝福した。

 

 

 

 

その後なにやら百面相をしていたカップルだったが、実はその時まだ付き合ってすらいなかったなんて、私は知る由もない。

改めてお礼を言いたくてこの鐘へ通っている私だが日がすれ違っているのか、この近くの住人ではないのか、今まで一度も見掛けなかった。

 

2人の容姿も記憶から薄れつつある今日、どこか懐かしい雰囲気をしている男女と交差した。会話も一瞬の出来事で互いに分からなかったが、その可能性には気付いていただろう。

あの時の人達だったらいいな、そんな願望を胸に今日もあの鐘の跡地へ赴く。既に思い出の場所は無くとも、この想いは褪せないのだから。

 

 

 

 

私の住む街には展望台がある。

鳴らなかった鐘は既に無いが、月に一度程度で通い続ける。

あの2人は何処かで今も人を救ってるだろう。

もう待ち続けてはいない。ただ、あの鐘の音と共に胸に刻んでいる。

 

私のヒーロー達に貰った、この優しさを。

 




宿敵第二巻に収録されている鳴らない鐘のお話。
主人公2人の初めての共闘の裏側で、救われた少女は何を思うか。

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