気になるあの娘はエイリアン   作:裃 左右

2 / 15
第2話 その活躍は留まるところを知らない

 その後の授業でも、エリー・アンの活躍は留まることを知らなかった。英語の授業では、すらすらと返答をぜんぶ、英会話にし始めるし。

 体育のバレーボールでは、まるで未来予測でもしているかのように相手のスパイクコースを読み切り、華麗なレシーブを連発。初めて触るボールとは思えない正確さで、味方にトスを上げていた。

 

「あら加減が難しい、ですのね……一応、映像サンプルを真似たのですが」

 

 スパン、と放たれたボールは目にも止まらず。誰があんなものを受け止めれるのかという強力な打球。オリンピック選手か、お前は。

 

「ねー? あの子、おかしくない?」

 

 昼休み、俺の隣で手作り弁当を口にしながら、イチカが真剣な顔で呟いた。

 購買の焼きそばパンを頬張る拓郎が、「ほうかぁ?」とふがふがする。

 

「なんだっけ、そうあれあれ。 『アメリカの至上主義』だから、すごいんだろ」

「『アメリカの帰国子女』な?」

 

 聞いてた言葉の音の雰囲気だけで、別の用語に変換させるな。

 でも、さすがのエリー・アンも、古文は全然ダメだったので安心した。終始、不思議そうに眺めていた。

 イチカは上手く言葉にしがたいものがあるようで、悩みながらも口にする。

 

「いや、そういうことじゃなくって。なんか、変、だよね? エリーちゃん。言動とかが全体的に」

「うーん、まあ世間知らずそうではあるな」

「カリフォルニア州パサデナって言ってたけど、そんな育ち方したのかしら」

「俺も行ったことはないが、あのマサチューセッツ工科大学に並ぶ、カリフォルニア工科大学という名門があったり。NASAのジェット推進研究所とかがあるから。……最先端の学術都市ってイメージがある、な」

「ああ、だから頭良くって育ち良さそうなんだ」

 

 もしかしたら、なにか特別なカリキュラムでも受けていたのかもしれない。

 そんな話題の中心人物であるエリー・アンは、教室にいなかった。

 

「あれ、いねえぞ」

「……ん、ああ、そうだな」

「なあ、まさかあの娘……馴染めてねえんじゃね?」

 

 ポロっと拓郎がこぼす。クラスメイトが騒ぎすぎて、居心地が悪くなっているのかも知れず、自然とやるせない気分になった。イチカも、心なしかシュンとしている。

 だが、俺こそが大騒ぎしていた張本人なわけで。

 

(アレだったら。明日は、一緒にお昼を食べようって誘ってもいいのかもしれないな。環境が変わって、いろいろ大変だろうし)

 

 この芽生えた対抗心が、相手を傷つける態度になっていなかったかと、心配になってしまった。

 放課後。俺は生徒会の仕事を終え、遅くに帰路についていた。

 考えるのは、あの転入生、天上院エリー・アンのこと。

 

(俺とは対極の華やかさだが、実は俺と同じかそれ以上に、日々努力を重ねていて、その結果があの高みなのかもしれないな)

 

 ひとり納得する。皆と違った努力を続けることを、寂しく思うこともある。でも、それはいわば孤高というものであって、道を貫こうとした結果。俺にとって誇りだった。

 かといって、価値観を共有できないながらも、寄り添ってくれる友達がいる自分はかなり恵まれているとも思う。

 

「天上院のやつには、今、全く友達がいないんだもんな。きっと、同じ価値観を共有することなんて、誰にも無理だろうし」

 

 なんだかアンニュイな気分になった。

 帰ったあとは、明日の予習を完璧にし、月の学習計画の見直しだ。一日たりとも、後れを取る気はない。

 そう決意を固めた時、何やら、妙な音が聞こえてきた。

 

「ガリッ、ガリリッ!」

 

 まるで、硬いものを何かが齧っているような、不気味な音。

 

「なんだ、野良犬か? それとも誰かのイタズラ?」

 

 好奇心という厄介な感情が、俺の足をそちらへと向かわせた。そっと陰から道を覗き込む。

 

「――は?」

 

 そこにいたのは、信じられない光景だった。

 今日転校してきたばかりの美少女、天上院エリー・アンが、なんと、その電柱に――かじりついていたのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。