色は隠れど、見逃さない 作:チアイロ普及推奨委員会の平委員
初等部、中等部と私は楽しい学園生活を送れた。混沌としながらも自由な校風は私の肌に合っていたのだ。日々の中で起こる騒動を、思い出を留めたくて気づけばカメラを持ち歩くようになり、それを皆に見せて楽しんでほしくて週刊誌作りを始めた。元々人と関わるのは好きだったがそこから更に積極的に人と関わるようになり、今の私が出来上がった。
そうして高等部に入り1年目、最初に声をかけたのが彼女だった。理由は目に付いたから。赤色のモコモコとした髪の毛が私の興味を惹いたのだ。ただ、今思い返してみれば出会いの形は良くなかった。最悪とまでは言わなくても残念なものだった
「はじめまして!」
覗き込むように床に膝をつき席の正面の袖を掴み、本を読むために俯いた顔を見ながら元気いっぱいに挨拶した。いつものように張り出した声で挨拶をしても彼女は何もいわず、こちらを見ず。ただ本を読み耽っている。
「……………」
「あれ?聞こえてます?」
声が霧散した後、残ったのはパラパラと紙をめくる乾いた音だけで、思わず疑問を漏らした。その疑問への返答はけだるげに睨む目だった。自分に関わるなと言外に伝える目に思わずドキリとした。
小さく可愛らしい印象とは裏腹な大人びた表情、人と関わるのが苦手といったクチでは無く人と極力関わりたくないのだろうな。いろんな人と関わる中で磨かれた眼は彼女の目を見返しながらそんな判定を出した。
「はぁ」
暫く見つめ合う時間、先に根気負けしたのは向こうだ。軽く、しかし確かな感情を込めた溜め息を吐き本を閉じて教室か出ていった。それを追おうとはしなかった。きっと向こうは嫌な思いをしただろう、申し訳ないことをしたなと反省を込めて席を離れ、すでに混沌とし始めている教室に向き直して、また別の人に話しかけた。最初の記憶はそんな感じだ、会話も交わさない冷たいもの。その時はまたいつか仲良くなりたいな程度だった。
次に話したのは意外と早かった。週刊誌の1コーナー「あの人に会ってみた!」のネタ探しの為に、2年生のフロアにやってきた時だ。
なんでも羽沼マコトなる変わった留年生がいるらしく、その噂を聞きつけて探しているのだがなぜか見つからない。色々な人に聞き込みをしても誰も彼もが誰それ? と認知していない口ぶりで捜査は難航、諦めて頓挫しようかと考えていたとき、廊下を歩く彼女のを見つけたのだ。
「あーっ!あの時の!」
指を指しながらあげた声にブリキのように鈍った動きで赤い背中が振り返ってコチラを見た。こちらを覗く顔は驚いたような、嫌がるような顔が映る。あんな顔もできるんだ、そう思ったのも束の間、背中が焦りながら遠ざかるのに気づいた。
「待ってくださいよ!どうして逃げるんですか!」
今いる場所が廊下だということも忘れて咄嗟に足を出して追いかける。身長差か体力の差か、思った以上に簡単に追いつき彼女を捕まえることができた。
「どうして2年生のフロアに居るんですか」
「それを教える必要があります?」
私の質問に彼女は肩を激しく揺らしながらその動き反して落ち着き、冷たく言った。しかしそんなことじゃ私はめげない。その時の直感がこの先にはスクープがあると告げていたから。だから少し強引に「教えてくださいよ〜!」と彼女の小さな肩を強く握りさらに激しく揺らす。連動して頭も揺れる。
モップのような髪がゆさゆさと揺れる姿は秋風に煽られた真っ赤な紅葉に見えて少し可笑しい。そのせいでほんの少し力が緩んだときを見逃さずに彼女は肩をひねってつかんだ腕を解いた。
「あれ?あ〜……」
キッと鋭くこちらを睨む目と小さな護身用の拳銃の穴、その2つがこちらを見ている。流石に怒っただろうか手を挙げて掌をふらふらと左右に振って申し訳ない気持ちを精一杯に表現するが伝わってるかは定かではない。ゴメンサイ、と棒読みで謝るとまた溜息一つで銃を下ろした。
空気の塊を短く吐く音調はいつも変わらない。私は再び調子を取り戻してもう一度彼女の肩を、こんどは組んだ。
「答えないならついて行って直接確認します!さあ案内してください!…………えっと、名前なんだっけ?」
「はぁ。イロハです。どうせ捕まった時点で遅いでしょうし、いいですよ」
「ありがとうございます!それじゃ改めて、行きましょうイロハちゃん!」
大きく肩を落とすイロハちゃんの手を掴み走り出す。イロハちゃんはとても驚きながら足をついていかせるので精いっぱいという感じ。窓から差し込んでくる日に空気を静かに泳ぐ埃が照らされていて、その光が一気に強まった。
時計が震えている。二つのゴングを鳴らすために横振りで振動している。ジリリリリ、とそんな音を立てている。時刻は7時30分で常に動いている細い針は時計盤の太い針をを超えていた。被さっていた毛布を退ける。懐かしい夢を見ていた。懐古、なんて月日でも歳でもないのに。
夢よりも何倍も強い日光が起き抜けの私を包み込む。私が思いっきり背筋を伸ばして息を詰まらせながら声を出したタイミングでドアが乱雑に開かれた。
「チアキ。あなた何呑気に寝てるんですか。寝坊ですよ寝坊」
「そう焦らないのイロハちゃん、ゲヘナで遅刻なんて挨拶にもならないよ?」
「あなた1人ならどうぞ勝手に遅刻してください。でも私まで巻き込むなら話は違いますよ」
「ごめんって!」
イロハちゃんに謝りながら私はベットを抜けた。ゲヘナの寮はワンルームで生徒会所属だからって特別何か待遇が変わるわけではない。作業机と、資料を収める本棚がベットと接してる壁と向かいの壁にあって部屋の真ん中には小さな背の低いテーブルとクッションが丸いカーペットの上に置かれている。廊下と小さな台所は一体化していて、その奥に、外と繋がっている出口にイロハちゃんは立っている。
ベットから飛び起きてすぐにパジャマを脱ぎ捨て、洗面台に行き鏡の前で身支度を始める。イロハちゃんが洗面台を通り過ぎて私の部屋に入って行った。
それを横目で見送ってから、顔を洗って保湿して、次に髪をブラシでとき、角も磨く。メイクをする時間はないので学校ですることにして、化粧ポーチを持って洗面台を後にする。
洗面台を出るとすぐに黒い制服が私の顔面に目掛けて放り投げられた。
「ありがとね〜」
私は顔で受け取ると、彼女に感謝してすぐに制服に袖を通していく。シャツを着て、スカートを履いてネクタイも締めて準備は万端!
カバンをとって帽子を被る。
愛銃であるカメラブリッツと肩掛け用の帯を結ぶ。
オレンジ色のデジタルカメラを手に取って玄関先にかけてあるコートを羽織ればいつもの私の姿が鏡に映っていた。私は振り返ってイロハちゃんの方を見る。気怠げに、面倒くさいと顔に現れてるイロハちゃんに向かって笑って、口を開いた。
「いこっか!」
太陽は東に存在して空は青いし、白い線が空に輪っかを描いている。スマホを見ると時間はまだ10分しか立っていないが、バスの時間までもう少ししかない。バス停まで走れば間に合うのだろうか? イロハちゃんが手を差し出してる。
「もう少し早めに起きてくださいよ」
「気をつける!」
私はそれを掴んで一緒に走り出した。
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