色は隠れど、見逃さない 作:チアイロ普及推奨委員会の平委員
今回はイロハ視点となります。
チアイロtips1
2人の立ち絵を並べて見るとすごくイイ
ゲヘナ学園高等部の学食利用者は大体4000人と言われている、そして学食自体の平均利用率は15%だと言う。つまり残りの約2万2千人は学食以外の方法で食事を摂っていることになる。
その方法はお弁当であったり、ゲヘナ自治区に出店してるいろんな飲食店だったり(まぁいきなり爆発することもあるのだが)数は少ないが移動販売車が来ることもある。あとはコンビニなんかもそうだ。
選択肢は色々あるが、私は基本的に弁当だ。しかし手作りなんて面倒くさい。私の弁当は大体、冷凍食品の茶色い詰め合わせ。そもそも本当は弁当作りさえ億劫なのだが、それでもわざわざ用意するのには訳がある。それは……
「テメェそれ私が先に手つけただろ!横取りだ!」
「はぁ!?取れないやつが悪いから」
「ちょっと押さないで!」
「おいそこ万引きするなぁ!あ、お買い上げありがとうございます!」
「悪魔ぁ悪魔がいるぅ」
「ゲヘナはルール無用でしょ!」
それはゲヘナで最も混沌とするのがお昼ご飯時の購買だからだ。人が津波のように押し寄せて店員が忙しなく動き回り、そして拳、爆発、銃声、怒号、とにかくなんでもありの争いが起こる。
群生して強風に吹かれる杉の木に似ている暴れっぷりを見せる大衆を一歩、体も心も引いた私は見つめる。大衆の中でも一際目立つ、背の高いチアキはその内側でもがいていたが段々と外側に押されて、終いに弾き出されて私の目の前まで転がった。彼女はボロボロになって目を回している。私は呆れて声をかけた。
「だからやめておいた方がいいと言ったんです」
「私のお昼ご飯が〜!」
チアキは悔しそうに手足をジタバタと、ひっくり返った虫のように動かしている。そしてグゥと腹の虫が鳴るとチアキは恥ずかしがりながら立ち上がった。彼女も普段は手作りの弁当を食べているのだが、今日はそれを忘れてきたのだ。
さらに不幸なことに寝坊していたので朝ご飯も食べておらず、授業中にも結構腹を鳴らしていたのを私は知っている。彼女はバレていないと思っているが気づいてると言うのが面倒臭いだけである。そうして腹をすかしたチアキは無謀にも購買に向かい結果返り討ちにあった。
「とりあえず教室に戻りません?」
「そうしよっか……」
珍しいくらいに肩を落として歩くチアキの後ろ姿はとても寂しそうだ。朝ごはんと昼ごはんを食べ損ねたからというよりはこれから処刑台に登る罪人のような重苦しい背中を大袈裟に見せている。
落ち込まないでくださいよ。そう声をかけようかとも思ったが、どうせすぐに元気になるだろうと思っていた。
トボトボ歩くチアキの歩幅に合わせて教室に戻ると、私はすぐに自分の席から弁当箱を取り出して広げる。チアキも空いている席をくっつけて座ったがその上には何もなかった。流石に憐れみで私はおかずの一つでも分けようかと考えだした時だ。私にとっては顔見知りで、チアキにとっては友人であるクラスメートが驚いた声を出してチアキに近づいた。
「あれ、ご飯食べないの?」
「食べないと言うか食べられないっていうか〜……実はお弁当忘れちゃってさ」
「ふーん。じゃ、ウチの買った惣菜パン一つあげるよ!」
意外な方向から渡りに船、チアキはパッと笑顔を明るくして本当にいいのか何度も確認している。チアキの友人が「いいのいいの!普段から週刊
その人たちもチアキにとっては友人だ。私にとってはただの顔見知りなのだが……別に私がボッチというわけではない。ちゃんとチアキ以外にも友人はいる、ただ、チアキの交流関係があまりにも広すぎるだけなのだ。
誰に向けてるかもわからない言い訳を捏ねてると気づけばチアキの座った机には何個かの食事が載っていた。千切りキャベツとコロッケを挟んだ惣菜パンやツナサンドウィッチ、コンビニで売ってるカップサラダ、いちご味のヨーグルト、何もないところから相手の善意でこのラインナップを揃えられたチアキの人望には驚かざるを得ない。
「よかったですね。お昼ご飯にありつけて」
お昼ご飯をくれたグループが席を離れると、身を捻ってありがとうとチアキは手を振りながら言う。その光景をただ見ていた私はどこか、心のどこかに糸が引っ付いたように納得がいかない。そんな私に気づかずに彼女は自惚れた顔で笑いながら自慢を始めた。
「これも万魔殿の書記兼、週刊万魔殿の記者兼、編集長兼、発行人として日々活動してる成果の賜物かな〜!あはは!」
「だといいですね」
「イロハちゃんなんか怒ってない?」
「……はい?」
チアキが投げた言葉にあまりにも抜けた声を私は返した。怒る要素が微塵も見当たらないからだ。だってお腹が空いて困っていたチアキが友人に助けられた、と言う出来事は私の怒りを刺激するにはあまりにも平和だ。チアキがすぐに調子に乗って自画自賛をしだすのは珍しいことではないし、そこに怒りを覚えるわけがない。
私がわけもわからずに理由をじっと考えていると、チアキはひと足先に何かに気づいてニヤニヤと納得の相槌を打っている。それを少し睨んだ目で見つめるとチアキは私の弁当箱の中を見て一つのおかずに指差した。弁当のメインと言える二つしかない唐揚げの一つだ。
「イロハちゃんも分けたかったんだよね?」
そこで私は、私の知らないチアキの友人にやりたかったことを先越されて嫉妬していたことに気づいて、それがチアキに見透かされていることにも気がついた。自分の心を見透かされた驚きはあれどそれはおくびにも出さず、なんてことないように返答の言葉を作って、口を動かす。
「めざといですね」
「記者としての能力があるってことだね〜!」
「で、いります?私の大事な唐揚げ」
「イロハちゃんがいいって言うならね」
「ツナサンド一枚で手を打ちましょう」
「やりー」
「ではいただきます」
持っていた箸を置き、チアキの机に置いてあるツナサンドに手を伸ばすとチアキがそれを止めた。私が彼女の顔を見ると視線が唐揚げの方を向いていることに気がつく。
「先にイロハちゃんの唐揚げが欲しいな〜」
「自分で食べれるでしょう」
「お箸ないから!ね?」
「はぁ……はい口開けてください」
一度置いた箸をもう一度持ち直して唐揚げをつかむ。冷凍の唐揚げにしては大ぶりで、それでいてシンプルに美味しい最近のお気に入りだ。チアキは遠慮なく大口を開けて唐揚げを待っている。チアキの唇に唐揚げが触れそうな位置まで持っていくと魚がルアーにかかるように食いついた。
「おお〜!これは美味しい!冷凍これ?どこで売ってたやつ!?」
「大袈裟ですね唐揚げ1つで」
「でもこれホントに美味しいよ!」
「後で教えますから。とりあえずツナサンドください」
「しょうがないなぁ……はい!」
透明の梱包を手順通りに解いて、一つ私の前に差し出した。私はそれを手で受け取ろうとすると彼女がツナサンドを持っていた手を大きく挙げた。天井の方にツナサンドが上がっている。私の身長では彼女が手を挙げた時点で椅子にでも登らないと決して届かない。私はチアキがしたいことを察し、周りを見て誰も自分を見ていないことを確認してから口を小さく開けた。
「あ〜ん!」
小麦とツナ、マヨネーズの匂いもする。小さく開けた口を閉じてツナサンドを歯ですりつぶすように口の形を変える。噛む時にシャッキリとした食感を感じるので、きっと玉ねぎを混ぜている。パンが口内の固い部分に引っ付いたので水筒に入れたお茶でで洗い落とすように一緒に胃に流し込む。
「美味しい?」
「普通です」
そっか。と簡単に答えたチアキはニコニコと笑ってこちらを見ている。ツナサンドは小さくえぐれていて、まだ3分の1も減っていない。