色は隠れど、見逃さない 作:チアイロ普及推奨委員会の平委員
ゲヘナパーティーイベントの2話目、先生からの協力が得られた時の2人の反応が良い。
先生が手伝ってくれることが嬉しいがそれを隠すイロハとその内心を見透かしていてマコトの方ではなくイロハに向けて良かったねと声をかけるチアキ、短いながら良いシーン!
万魔殿の書記を務める私にはマコト先輩から役員室として専用の個室が与えられている。私の普段住んでいる寮の部屋よりも広く、内装は役員用執務デスク。あまり執らない議事録や普段たくさん撮る写真を保管するための棚が複数、来客対応用の良い値段のするソファとテーブルなんかもある。
ただ、保管してる議事録が必要とされることが少ないので、部屋に用を持って訪れる人はあまりおらず、イロハちゃんのサボリスペース第二拠点なのが現状だ。その証拠に彼女用のお菓子やらパックに飲み物を用意した籠と電気ケトルが置いている。
「そういえば今日から梅雨入りらしいですね」
私もイロハちゃんみたいにソファの上でゴロゴロと寝転がってると不意に彼女がそんな事を言った。レースのカーテンを閉めた大窓越しに見える空は曇りだが、雨は降っていない。役員室には言われてみれば確かに湿気た空気が入り込んでいる、気がする。珈琲豆の匂いが鼻腔をくすぐる。対面のソファに座って読書をしているイロハちゃんの方から流れてきた匂いだ。珈琲は淹れたてで、カップから湯気が昇っている。
「どうりで髪がいつも以上にモコモコしてるように見えたのかー」
そのまま視線をイロハちゃんの髪に移して、喉を素通りさせて思ったことそのまま伝える。イロハちゃんは少し不思議そうな顔をしているが顔全体を覆うように膨張した髪が半分ほどを隠している。モップみたいな髪だなと思ったことは何度もあるがここまで来るともはや新種の珍生物だ。
机に置いていたカメラを起動してササっと一枚撮る。カメラの白いフラッシュが部屋に反射する間にイロハちゃんが口を開いた。
「そんなにですか?」
「うん」
「去年はそうでもなかった気もしますけど」
膨れ上がった前髪を人差し指でくるくると回しながら、やはり納得のいかないといった表情を浮かべている。私は昨年はどうだったか思い出そうと記憶を回している。頭に浮かび上がったイロハちゃんの姿は2年生になってからより、髪のボリュームが少なかった。
「去年に比べてボリューミーになったからじゃない?」
「去年の私ってどれくらいでしたかね」
私はそう聞かれて言葉で説明しようとしたが、あまり上手に説明できそうな気がしなかったのでソファから立ち上がって万魔殿の活動記録を納めたアルバムを保管している棚に向かって歩いていく。一年時の活動記録は確か棚の一番下だったような気がする。屈んでからイロハちゃんに声をかける。
「ちょっと待ってね、今探すから!えっと〜6月分はどこ入れたかな〜……」
「見つけたら教えてください」
は〜い。返事を返して私は黒い背表紙に金文字で『万魔殿活動記録』と入れられた分厚いアルバムを1つ1つ取り出して、中身を確認する。中はプラスチックの薄いシートに均等にポケットが用意されておりその中に余すことなく写真が入れられているー
ページを捲るたび聞こえる紙の擦れ音と、ソファが軋む音、カップの音と珈琲を啜る音。私の後ろから聞こえるのはどれもイロハちゃんが立てている音だ。
アルバムを開いてものの数十秒で6月の今頃に撮った、イロハちゃんの写っている写真を発見した。裏に印刷された撮影日を見るが年月はきちんと去年の分だ。
「見つけたよ〜!」
「予想より断然速い、流石ですね」
「はいコチラ!いや〜懐かしいよね!」
少しだけビックリした声でイロハちゃんからお褒めの言葉を頂いた。私は上機嫌になって跳ねるようにイロハちゃんの隣に座って写真を見せる。マコト先輩がまだ議長じゃなかった頃に撮った写真で、この頃は議長候補として目立つために色々考えて、実行するたびに痛い目を見ていた時期だった気がする。
「こう見ると確かに一年で結構増えたような気もしますね」
「初めて会った時でも大分凄かったけどね〜」
じっくりと写真と今の髪を触りながら見比べたイロハちゃんは納得の声を打った。イロハちゃんの髪周りにはモヤっとした独特の空気が漂っており、普段香る花の匂いが薄れていた。あちこちの方向に跳ねて絡まりそうな髪を撫でると少し引っ掛かりを覚える。
まさか、そう思いながら恐る恐るイロハちゃんに確認してみることにした。
「……イロハちゃん、一応聞くけど髪に手入れとかは?」
「流石に私だって女です。必要最低限はやってますよ」
珍しく自信満々にふんすと鼻を鳴らしたイロハちゃんを見て私はため息を吐いた。普段と逆の構図だ。何溜息なんてついてるんですか? そんな声が聞こえそうなほどイロハちゃんは不思議そうにこちらを見ている。
イロハちゃんがボケに回ったらいよいよ万魔殿崩壊の危機だよ……!
マコト先輩やサツキ先輩と一緒にボケ倒すイロハちゃんを想像すると思わず寒気がした。とりあえず気を紛らわせるのと、私自身が気になったので一度髪を梳こうと決心した。
「イロハちゃん!せっかくだし髪梳こっか!」
「え〜……。いやですよ面倒臭い……」
「今回は私がするから!」
「それでもですねえ……」
尚も面倒くさがるイロハちゃん。なんだか梅雨のせいか様子がおかしい気もする。少し卑怯かもしれないがグズられるよりも先に私は切り札を切る。
「嫌がるならこの部屋出禁にしちゃうよ〜?」
「な!?それは卑怯ですよチアキ……!」
「フフフッ!嫌だったら書記による特別ヘアケアを受け入れるのだ〜!」
私を睨みつけるイロハちゃんはシワを寄せて数秒熟考した後、渋々私の提案を受け入れた。
「それじゃ早速ここに座って!」
「早く終わらせてくださいよ」
「イロハちゃん?」
「……なんでもないです」
「ヨロシイ!」
膝の上にイロハちゃんを乗せる。ちょこんと丸く乗っかる姿は例えるならよそのうちから借りてきた猫だろうか。少し余所余所しい態度で私の膝に乗っている。背中はそれはもうすごく爆発した髪の毛がチクチクと刺さっている。これは難敵だなぁ。と呑気に考えながらヘアケア用品を入れた小さな鞄とコームとを取り出した。
「あなたこれ毎日持ち歩いてるんですか?」
「え〜?そんな量多くないよ?キララちゃんのとか見たことある?すっごいんだよ!」
「ああ彼女……確かに凄そうですけど」
「それじゃまずは……ドライシャンプーから!」
「なんでもいいですよもう」
そうして始まったイロハちゃんへのヘアケア、予想通りかなり頑固な髪質に悪戦苦闘しながらもめげずに頑張った結果……
「なんでもいいとは言いましたけどねチアキ……!」
「いやっ……ごめっ……ぶふっ!いーひひひっ!ダメ!これダメなやつだ!笑い止まらない!」
私のお腹が壊れそうなほど面白いイロハちゃんが見れるに至った。どうしても傷ついた髪が気になってついつい本気で整えた結果イロハちゃんのモコモコの髪の毛がありえないレベルでストンと落ちるサラサラストレートになってしまったのだ。
イロハちゃんは私の渡した手鏡を片手に溢れる怒りをワナワナと震わせている。普段の髪から一転こんな綺麗なサラサラストレートになったイロハちゃんを私はまともに凝視できず作業が終わって確認したと同時に役員室の床で転げ回っている。
「これどうするんですか……!この後執務室に戻って報告書を提出しに行かなきゃならないんですけど……!?」
「いやっ……もうそのまま……っくふ……そのままでいいんじゃないっかなぁ……ふふ」
「笑い事じゃないんですよこっちは!ああ……もうこれどうすればいいんですかこんな見事にサラサラにしてくれちゃって……!」
笑い転げると同時にこれはとんでもないシャッターチャンスだと私の記者魂が震えている。、今一番震えているのはお腹だが。笑いすぎて力の入らない手でなんとかカメラを掴んで鏡に映る自分の姿に釘付けのイロハちゃんをカメラに納める。フラッシュでイロハちゃんが気づいた。
「ちょっとチアキ!?あなたっ今何撮りました!見せなさい!」
カメラを奪い取ろうとするイロハちゃんをひょいとかわして、笑うことを堪えながらカメラを逆向きにして撮った写真を見せつける。そこにはサラサラストレートのイロハちゃんが鏡に向かってる場面が切り取られていて、それを見たイロハちゃんは声を荒げてこちらを追いかける。
私は得意の逃げ足を使って役員室の扉を抜けて、先輩たちとイブキちゃんの居るいつもの執務室へと向かう。待ちなさいと叫んでいるイロハちゃんを置いて行かないように付かず離れずで逃げていく。腹の底から笑い声を上げた。
この後、執務室に飛び込んできたイロハちゃんはすごく恥ずかしそうにしていてすごく可愛かったので、いっぱい写真を撮ったが、全ての写真を目の前で消すまでのしばらく間イロハちゃんはまともに口を聞いてくれなかった。
サラサラストレートヘアーはお風呂に入ったらすぐにいつもの髪型に戻ったし、いつもよりいい匂いがした。