色は隠れど、見逃さない 作:チアイロ普及推奨委員会の平委員
チアイロtips8
マコトを挟んで左右から茶々入れるところが好き
このマコト様をもってしても優秀だと思う後輩が2人いる。私と言う存在が品行方正で冠前絶後の高材疾足な指導者なのだから優秀な人材が集まるのは当然だが、それでも後輩には恵まれたと思っている。
ただ最近その後輩達に対して悩み事を抱えることとなった。ごく最近の話なのだが、その……優秀な後輩がもう1人の後輩を『抱いた』らしい。詳しい話は、あまりの衝撃で気絶してしまった私にはわからないが。とんでもない事だ。
別に付き合うことを否定するわけではない。学生だし、そういったことがあってもいいだろう。後輩2人は同学年だし、性格は正反対だが意外と相性は良さそうで、距離感も近かった。だがまさか生徒会活動時間に『抱く』という行為に及ぶほど熱烈な関係だとは想像もつかなかった。
注意はすべきだろう。万魔殿には飛び級で高校生扱いとはいえ、イブキがいる。もし偶然ばったりたまたま抱いている場面に出くわしでもしたら悪影響だ。なので私は彼女達を呼び出して今から話をするつもりだ。
約400字を紙の裏に書いて愛用している万年筆をペン立てに戻した。息を吸って、吐く。
なにも緊張しているわけじゃない。呼吸を整えているだけだ。時計を見るとあと少しで指定した時間が来る。
話をするとは書いたがそれとなく聞いてみるべきなのだろうか、それとも直接聞くべきなのだろうか。いかんせん私にはそういった経験がないのであまり勝手がわからない。ただ仮に私が聞かれたと想定した時に直接聞かれたら嫌な顔をするだろう。それとなく聞くことにした。
決めたタイミングで、丁度よく扉が開いて呼び出した2人が並んで入ってきた。
「はいは〜い、到着しましたよマコト先輩!」
「それで、話ってのはなんですか?まあ、どうせまた碌でもないことを思いついたとかでしょうけど」
チアキが飛び跳ねるほど上機嫌に、対してイロハはいつもの態度と変わらずに入ってきてソファに座る。私も自分のデスクから離れて彼女達と向かい合うソファに座った。まずは軽い会話からしようと口を開く。
「いや、今日は違う。お前達の話だ」
「私たちの、ですか?」
「えー?なんでしょう」
イロハもチアキもまだこの段階では気づいていないようだ。…………まて。ここから何を言えばそれとなく気づいてもらえるのだ?『抱いた』のを聞くのだぞ?どんな話の流れで言えばいいのだ。
「…………」
「マコト先輩?」
「なんかすごい考えた顔してる」
何て言えばいい「サツキから聞いたが、場所は考えろよ」か?いやこれじゃ何も伝わらないだろ!?ダメだ!ダメだ!もっとこうオブラートに包んでだな……いや注意にオブラートもクソもないだろ!注意するなら包んじゃダメだろ!
「なんか一人百面相しだしましたけど」
「面白いし撮っておこーと」
ええいままよ!経験のない私にそれとなくなんて無理だ!ここはトップらしくいっそ堂々と聞いてやる!
「……すまないイロハ、チアキ少し嫌な気分にさせるかもしれないが……」
「はい?」
「サツキに聞いたんだ。昨日、イロハがチアキを抱いたって……その、それは本当か?」
私の言葉が途切れると、部屋がシンと静まり返った。頬に冷たいが汗が流れている。イロハもチアキも顔が変わらない。私の声が途切れてからまだ数秒しか経ってないはずなのに既に1分も経過した気がする。
「はあ?」
じっと返答を待つとイロハが呆れ果てた声が聞こえた。私は思わず安堵した。頭の中で何かが暴れていて、頭が痛かった感覚が引いていく。私はイロハのこともチアキのことも家族や、妹のような大切な存在だと思っていた。
だがその実私の知らないところでまさかあんなことやそんなことが起きていたなんて……!私はこれから2人をどんな目で見ればいいのだ!と珍しく焦っていたがどうやらサツキの勘違いだったようだ。肩肘張っていたのを解いて、ホッとした。
「サツキ先輩が何見たか分かりませんけど私は昨日……」
「どうした?」
突如イロハが言葉を詰まらせて頭を抱えた。心配になって声を掛けるとゆっくりと昨日を振り返り始めた。
「いえ……昨日……チアキのところに行ってたらサツキ先輩が来て……そこで少し話したらサツキ先輩が催眠を私にかけるって近づいてきて……そこからの記憶が、ありません……」
さっきまで戻っていた体温がまた引いていく。視線は自然にイロハから今までずっと黙っているチアキに移っていく。チアキは恥ずがってモジモジしながら顔を真っ赤にしていたが、私たちに視線を向けられてやっと声を出した。
「あ、あはは……ふ、不思議な事もあるんだね〜……イロハちゃん……ぴゃ!?」
わざとらしく明るく振る舞おうとして、できていない声が恐れていた事実を突きつけている。冷静さを失ったイロハがチアキの肩を掴んで自分の方に身体を向けさせた。チアキの顔はより真っ赤になっている。
「ねえチアキ嘘って言ってください」
「確かにいきなりソファに引き込まれた時はびっくりしたけど……あったかくて私は結構良かったんだけどな……イロハちゃんは……嘘になった方が嬉しいの……?」
「な!?え、い……」
瞳を潤わせながらしおらしい声で問いかけたチアキに普段冷静なイロハもたじろぐ。掴んでいた肩の力が緩まって、一瞬だけイロハがチアキから目線を話して、こちらもまたしおらしい声でおずおずと答えた。
「いえ、その……嬉しくはない……です……」
その瞬間イロハとチアキが私と隔絶された空間に離れていくように思えた。大人しくなっていた何かがまた頭の中で暴れ出し始めて、頭痛がひどくなっていく。
「聞くが……イロハに掛けられた催眠はどんなのだったんだ?」
「サツキ先輩曰く、その時に一番したかったことをする催眠らしいです……」
普段の騒がしさからかけ離れたしっとりとした雰囲気で見つめ合う2人と同じ空間にいると言う事実に、駆け巡ってどうしようもない感情に殺されそうに思えてきた。
もう何も考えたくなくてわたしは話を切ろうと釘だけ刺すことにした。
「一応言っておくが……活動中にそういった行為はしないようにな……?」
「なんでですか!?」
すると途端にチアキがショックを受けた顔で私に抗議した。私は思わず数秒フリーズしてから、今日一番に声を荒げてツッコミを入れた。
「なんでですか。じゃないだろ!?ここは万魔殿だぞ!もしイブキに見つかったらなんて言い訳するんだ!」
「言い訳も何も……マコト先輩だっていつもイブキちゃん抱いてるじゃないですか?」
「……………!?」
「は?まじですか先輩!?」
あまりに謂れのない発言に私は顔を驚愕のまま固定して喉を詰まらせた。イロハが私をありえないものを見る目で見ているが、これは誤解だ。断じて違う!私がイブキを抱くなんて……
……私が……いつもイブキを……?
チアキから投げられた訳のわからない言葉がゆっくりと喉を通って腹に落ちていく。そして気付く。私の今まで考えていたことは全て勘違いであったことを。
サツキの言ってた『抱く』は抱きしめることで私の考えていた『抱く』は全く関係ないらしいことに。そう理解すると途端に今まで自分の考えていたことがどうしようもなく痛々しく思えてきた。
「もしかしてなんだが……チアキ、抱くってのは抱きしめる事か?」
「当然ですよ!逆になんだとおもってたんですか先輩は!ねえ?イロハちゃん」
「……イロハちゃん?」
どうやらそれはイロハも同じようで、今まで一緒に過ごしてきてみたことない程真っ赤に顔を紅潮させて顔を掌で覆っている。
チアキだけが場の状況を理解できずに平然と頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
結局2人がそういった関係でないことは確かだったが、どう考えてもただの同僚同士でないこともまた確かになり。私は2人が付き合っているのかどうかが暫くの間ずっと頭の片隅に残り続けていた。
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