貞操逆転世界に転生した俺、魔性の男ムーブで天才の脳を焼いて、理想の野球チームを作る。   作:井出崎

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陥落、ライバルキャラ! 前編!

 

 俺は、凡人だ。

 虹ヶ原一色という、かなりイケてる名前に反して、野球の才能は皆無。

 何処にでもいる、モブそのもので。

 RPGで例えるなら、名もなき村人Aなのだ。

 だが、夜子は違う。

 俺が村人Aならば、彼女は……魔王だった。

 

 単刀直入に述べよう。

 シニアに入団してから初めて参加した県大会で、俺達は優勝を果たし、全国大会に出場した。

 この結果は、正直予想外だった。

 勿論、良い意味で想定外である。

 全国大会では残念ながら、3回戦で敗退してしまったが、十分な結果だと断言できる。

 因みに、負けてしまった理由は、夜子に投げさせなかったから。

 事前に指定した球数を超える前に交代したら、後続の投手が炎上して敗北を喫したのだ。

 こればかりは、仕方ない。

 シニアの全国大会で優勝しようが、甲子園には行けるわけではないので、負けたって問題はない。

 なんといっても、夜子はまだまだ発展途上。

 こんなところで、無駄に肩を酷使するわけにはいかないからな。

 

 そして、全国大会に行けた理由は明白。

 言わずもがな、夜子が大活躍したから。

 投げればスコアボードにゼロを並べ、打席に立てば長打を連発する。

 大会の前にモチベーションを上げるように気遣ったのが功を奏して、見事な成果を残してくれた。

 県大会の決勝なんて、ノーヒットノーランを達成した上に、2本もホームランを打っていて。

 彼女の実力を一番知っている身ながら、未だに底知れぬ才能を恐ろしく感じた。

 

 だが、同時に、物凄く興奮した。

 夜子は中学一年生でありながら、メンタル的に完成しつつある。

 打たれてもピンチを迎えても動じることなく、パフォーマンスが落ちる事はない。

 打席に立っても、ノーランナーだろうがチャンスだろうが、コンスタントに打ってくれる。

 おまけに、ポーカーフェイスで、試合中に感情を見せる事は一切ない。

 常に無表情で、淡々と打者を捩じ伏せていく様は、相手にとっては恐怖でしかないだろう。

 スポーツは、何よりもメンタルが大事。

 揺さぶれるなら、どんどん揺さぶった方がいい。

 動揺させればさせるだけ、勝率が上がるからな。

 

 と、ここまで。

 夜子を持ち上げるだけ持ち上げといて何だが……次は、こんなに上手くいかないだろう。

 今回、俺達が全国大会に行けたのは、対戦相手が夜子のデータを持っていなかったから。

 小学生時代に夜子はトレーニングに専念していたため、リトルのチームに参加する事がなかった。

 公の場で、試合に出る事が一度もなかったのだ。

 だから、今回の県大会で対戦したチームは誰一人として夜子の存在を知らなかった。

 それ故に、彗星の如く現れた圧倒的な才能と、碌な対策無しで対峙する事になって。

 純粋な力と力のぶつかり合いで、最後の最後まで夜子が勝利し続けたのだ。

 

 しかし、今回の大会の躍進によって、夜子のデータは十分に取られてしまった。

 対戦相手も馬鹿ではないので、当然ながら対策を講じてくるに違いない。

 そうなると、かなりキツい。

 はっきり言って、ウチのチームは典型的なワンマンチーム。

 夜子が居なければ全国大会なんて絶対出れない実力の選手しかいない。

 最悪の場合、長い中学生活で全国大会に出れる機会はもうないかも知れない……が。

 正直、死ぬほど、どうでも良い。

 全国大会なんて、とっくに興味ない。

 そりゃ勿論、出た方がいいのは間違い無いが、夜子に過剰な負担をかけてまで出るものでもない。

 何故なら、もう目的は果たしたのだから。

 

 俺は中学生活の中で、何としても一回は全国大会に出たかった。

 その理由は、ただ一つ。

 女性が圧倒的に強くて、男性が弱い世界。

 そんな世界の全国大会で、男性ながらにレギュラーとして出場する……俺という存在を世間に周知したかったから、である。

 全国大会終了後、将来有望な投手である夜子と、貴重な存在である俺に取材が殺到した。

 新聞、週刊誌、果てには、テレビまで。

 世間に露出するのが好きそうではない夜子には悪いが、積極的な態度を見せた。

 全ての媒体の取材を受け入れて、俺と夜子の存在をアピールできるだけアピールしたのだ。

 向こうも視聴者数稼ぎのための道具としてしか思ってないだろうが、利用させてもらっているのは、こちらも同じ。

 話すのが苦手な夜子のサポートをしながら、大衆が求めそうな明るい好青年を演じ尽くした。

 その結果、日本という国に、虹ヶ原一色という男を知らない者は居なくなった。

 要するに、俺はめちゃくちゃに有名人になったのである。

 それこそ、変装をせずに街を歩いたら、見知らぬ女性達に取り囲まれそうになるくらいに。

 ……これも、全ては計画のため。

 他力本願で甲子園優勝する計画の第二段階成就のため、なのである。

 

 ここまでヒントを出せば、計画の第二段階の内容がどのようなものか。

 大方察しがついていると思うが、敢えて言わせてもらおう。

 

 自分で言うのも何だが、そこらのアイドルよりも人気になった俺の知名度を活かし、各地に散らばる野球の天才を勧誘していく。

 

 それが、第二段階の内容である。

 我ながら、捻りの無い安直な策だが、こういうのは分かりやすくてシンプルな方がいい。

 こう言っては何だが、夜子のように一人一人に多くの時間を割くわけにはいかないからな。

 タイムリミットは、たったの三年間。

 1秒も、無駄にする事は出来ない。

 

 再三申し上げるが、野球のレベルが前世より高いこの世界で、俺は強豪校に絶対入れない。

 残念ながら、シニアの全国大会に出場した今でも、その推論は変わらなくて。

 寧ろ、確信に変わったくらいだった。

 元から、この世界のプロ野球を観戦したりしてレベルが高い事は知っていたが、実際に試合に出てみると、想定を遥かに上回っていた。

 中学生であっても、平気で140キロのストレートを投げれたり、変化球がピンポン球みたいに曲がったりする。

 スライダーがパワ◯ロみたいに真横に曲がった時は、驚きすぎて腰を抜かしそうになったくらいだ。

 案の定、県大会はともかく、全国大会で俺は一本もヒットが打てていない。

 シニアとはいえど中学でこの為体では、甲子園で活躍する事は不可能だと断言できる。

 才能は絶対だ。

 そして、甲子園という場所は、野球の天才が鎬を削る場所。

 努力しない天才に、努力する凡人が勝つ事はあっても、努力する天才に、努力する凡人は勝てない。

 野球の才能が無い俺が劇的に成長して、比類なき才能を有する天才達と肩を並べる展開なんて絶対にありえないのだ。

 どれだけ足掻こうが、俺は凡人のまま。

 転生したところで、現実は変わらない。

 

 だからこそ、俺がレギュラーを取れるレベルの弱小高に将来有望な選手を詰め込んで、クソ雑魚な俺を甲子園まで連れてってもらう必要があるのだ。

 客寄せパンダだろうと、天才達の愛玩動物だろうと、夜子の球を受け止める壁だろうと構わない。

 俺は、甲子園に出れればそれで良い。

 甲子園に出るためなら、何だってやる。

 その覚悟は、今も尚、変わっていない。

 

 ……とまぁ、そんなこんなで、俺は将来有望そうな選手のスカウトを開始した。

 理想を言えば、野球のポジション全て。

 9人揃えられるのがベストではあるが、現実的に考えて難しいだろう。

 人数を集める事に固執しすぎて、質を疎かにしたら本末転倒だ。

 そのため、妥協案として、取り敢えず4つのポジションの選手を集める事にした。

 端的に述べると、セカンド、ショート、センター、ピッチャーをスカウトすると決めたのだ。

 俗にいう、センターラインと控え投手である。

 野球というスポーツのシステム上、セカンドとショートとセンターの仕事量は、他のポジションと比べると著しく多い。

 比較的打球が多く飛んできたり、内野と外野のリーダー的役割を任されたり、などなど。

 他にも色々な役割があるが、いずれにせよ、野球脳と守備力が低い人間には任せられない。

 甲子園を目指すには、絶対に優秀な人間を見つけなければならない重要なポジションなのだ。

 

 次いで、控え投手も極めて重要。

 夜子は最高峰の才能を有する、俺が育てた最強のピッチャーである。

 それは間違いない。

 しかし、彼女一人に全て背負わせるわけにはいかない。

 甲子園、地区大会の日程スケジュールはかなり過酷だ。

 夜子がどんなに優秀な投手であっても、連投に連投を重ねれば必ず壊れてしまう。

 故に、夜子レベルとは言わずとも、十二分に信頼できる控え投手を確保せねばならんのだ。

 高望みするならば、夜子と同程度の才能を持ち、切磋琢磨する関係になってくれれば最高だな。

 夜子が鉄仮面タイプなので、感情が表に出やすいタイプだと、もっと有難い。

 相反するタイプだからこそ、互いを意識し合って、より一層練習に励む。

 そういった展開が、理想的だ。

 

 まぁ、そんな都合の良い存在が居るわけない……なんて事は無かった。

 しっかりと、存在していたのだ。

 夜子と同程度の才能を持ち、感情が表に出やすいタイプで、良いライバル関係を築きそうなピッチャーが。

 それも、俺と夜子が県大会の決勝で戦った相手に。

 

 ◇

 

 私は、野球の天才だった。

 母親は元プロ野球選手で、父親は母親の専属コーチを務めていて。

 まさに野球エリートの血統に恥じない能力を、私は有していたのだ。

 母親と父親につきっきりで指導されながら、ひたすらに練習をこなす。

 そうすると、私はめきめきと成長した。

 3年生になった途端にリトルのチームに入って、体の大きさが全然違う上級生からエースピッチャーの座を奪い取り、脱退するまで誰にも渡さなかったくらい、優れた野球選手になっていたのだ。

 

 そして、中学生の今、私はシニアのチームでエース兼4番打者を務めていた。

 まだ1年生なのに。

 マウンドに上がれば打者をきりきり舞いにして、バッターボックスに立てば長打を打つ。

 両親は私を天才だと言ってくれるし、チームメイトや監督は私を頼ってくれる。

 ありとあらゆる面で恵まれている、私の野球人生はキラキラと輝いていた。

 当然、過酷な練習が辛い事もあるけれど、母親のようなプロ野球選手になる夢を叶えるためなら、何とか乗り越えられる。

 シニアで経験と実績を積み、野球の名門校へ進学して、甲子園出場を果たした後は、プロ野球選手になって、大活躍する。

 それが、私の未来だと信じて疑わなかった。

 

 忌まわしき宿敵。

 黒峰夜子と、虹ヶ原一色と出会うまでは。

 

「……見て! 本当に男の子が野球やってる!」

 

「すごいカッコよくない!? 何だか、シュッとしてて好青年って感じ!」

 

 相手チームがシートノックをしている姿を、チームメイトは食い入るように見つめている。

 彼女達のお目当ては、相手チームのキャッチャー。

 男性ながらにレギュラーとして試合に出場している物珍しい少年であった。

 ……本当に、馬鹿馬鹿しい。

 県大会の決勝が間も無く始まるというのに、対戦相手の男を見て騒ぐだなんて。

 そういった思いを口に出してしまいたいが、試合前に揉め事は起こしたくない。

 だから、ごくりと飲み込んだ。

 

 私は、男になんて興味ない。

 興味があるのは、敵チームの投手。

 ブルペンで控え捕手相手に投球練習をしている……黒峰夜子、ただ一人であった。

 

「…………」

 

 黒峰は表情を変える事なく無表情のまま、白球を投げていく。

 中学生とは思えないほどの豪速球を事務的な作業のように、淡々と。

 その姿が、まるでロボットのようで。

 いつ見ても、不気味で仕方がない。

 だけど、彼女の才能は本物だ。

 私と同じ天才であるのは分かる。

 でも、それ以外の事は何も分からなかった。

 

 黒峰夜子と彼女の相方である虹ヶ原一色は、突然湧いて出てきた。

 まるで、異世界からやってきたかのように。

 リトルリーグの時は影も形も見せていなかったのに、シニアになって急に現れたのだ。

 それも、初めて参加した県大会で、無名の弱小チームを決勝まで導いた快挙を成し遂げながら。

 ……これまでの試合で、黒峰夜子は一点たりとも失点していない。

 おまけに、何本もホームランを打っており。

 黒峰が相手打線を完璧に抑えて、黒峰がホームランを打って、1-0で勝利する。

 なんて、漫画のような、めちゃくちゃな試合もあるくらいだった。

 

 そんな彼女とバッテリーを組んでいる虹ヶ原は、打者としてはヘボでカモで雑魚そのもの。

 だけど、捕手としては侮れない。

 中学生離れした投球をする黒峰の球を難なく捕球するキャッチングと、対戦相手を念入りに研究した上で組み立てる配球。

 一見すると、圧倒的な力で相手を捩じ伏せる黒峰の添え物のように伺えるが、断じて違う。

 黒峰は、投球中に首を一切振らない。

 虹ヶ原のリードに異議を呈する事なく、粛々とボールを投げ入れているのだ。

 要するに、黒峰の手綱を握っているのはこの男。

 女子ウケを狙っているのか知らないけど、常に人好きの良い笑顔を見せてる虹ヶ原なのだ。

 そんな彼のことを、素直に凄いと思う。

 正攻法では女子に敵わない事を理解しているからこそ、自分にできる事を精一杯やっているから。

 素敵だな、と思わなくも……。

 

「ぜ、絶対に、負けないんだから……!」

 

 ぶんぶんと頭を振る。

 チームメイトと一緒になってどうする。

 初心を忘れては、ダメだ。

 私は、二人が嫌いだ。

 黒峰と虹ヶ原の二人が気に入らないのだと、自分に言い聞かせる。

 特に、黒峰夜子が気に入らない。

 周囲の大人も、シニアのチームメイトも、私の両親でさえも。

 コイツらが出現してから、ずっと……黒峰の話ばかりしている。

 飽きずに毎日、ペラペラペラペラと。

 彼女の経歴が知りたい、だの。

 いつから野球を始めたのか、だの。

 少し前まで、私が話題の中心だったのに。

 興味関心が奪われた気がして……あと、男子とバッテリーを組んでいるのが、羨ましいと思わなくもなくて。

 ちょっとだけ、黒峰に逆恨みしていたのだ。

 

 だから、絶対に勝ちたい。

 黒峰に投げ勝って、私の才能を証明したい。

 いや、証明してみせると。

 心に誓った。

 誓った、筈なのに。

 

 私は、負けてしまった。

 

 全国大会出場を決める県大会決勝。

 こちらのチームの先発は私で、相手チームの先発は黒峰。

 待ちに待った直接対決の結果は……私のボロ負け。

 黒峰はノーヒットノーランを達成し、2本のホームランを放った。

 彼女の対策は十分にしたつもりだった。

 けど、ビデオで見る投球と、実際の投球は何もかもが違っていた。

 ストレートは浮き上がってくると錯覚するほどノビがあり、変化量の大きいカーブによってタイミングを外される。

 恥ずかしながら、バットに掠りもしなかった。

 黒峰はバッティング面も頭抜けており、私のウイニングショットであるシンカーを容易くジャストミートし、観客席へと放り込んでいく。

 

 最終的なスコアは0-4。

 この試合のMVPは間違いなく、黒峰。

 先述したような、黒峰一人が相手を抑えて、黒峰一人が点を取る。

 漫画のように現実離れしている、めちゃくちゃな試合展開。

 けれど、間違い無く現実だったのだ。

 

「…………」

 

 試合後の挨拶。

 全国大会出場を決めた相手チームのメンバーが表情を綻ばせる中で、黒峰は無表情だった。

 ハイライトの無い瞳を携えて、機械のように振る舞うばかり。

 そんな黒峰の姿を見て……無性にムカついた。

 悔しいけれど、認めたく無いけれど、私より黒峰の方が野球の才能がある。

 練習すればするだけ上手くなれる、天賦の才が備わっている。

 やりたい事が出来て、試合で大活躍が出来て。

 私なら、無表情でなんて居られない。

 もしも、私が彼女の立場だったら、もっと明るい感じで野球をプレーする。

 笑顔で、ニコニコと、楽しそうに。

 なのに、黒峰ときたら……。

 

「ダメ、もう我慢できないわっ!」

 

「ちょっと、翼ちゃん!? 何処行くの、バスが出発する時間もうすぐだよ!」

 

「秒速で戻るから、待ってて!」

 

 私は、走り出す。

 ここで行動しなかったら、次に黒峰と会える時がいつになるのか分からない。

 だから、後悔する前に、一言だけ。

 ガツンと言ってやろうと思ったのだ。

 私は、あんたのライバルになると。

 いつの日か、絶対に勝ってやると。

 必ずや、悔しがる表情を拝んでやると。

 あと、虹ヶ原の連絡先を教えて欲しいと。

 言いたい事が次々と浮かんできて、一言ではなくなってしまったが関係ない。

 とにかく、私の気持ちをぶつけてやるのだ。

 

「……見つけたっ!」

 

 心当たりがある場所を探っていると、二人きりで話している虹ヶ原と黒峰の姿を見つける。

 すると、彼らも私の存在に気がついたようで、こちらに向かって歩み寄ってきて。

 

「あ、倉咲さん。丁度良いところに……実は俺達、君のこと、探してたんだよね」

 

「ふん……奇遇ね。私も、黒峰夜子に言いたい事があってきたのよ」

 

「そっか。じゃあ、俺の方から要件を伝えさせてもらうね。倉咲さん、俺達と一緒に甲子園優勝を目指さない?」

 

 私の話を聞く事なく、虹ヶ原が口を開く。

 そして、あまりにも唐突に。

 素っ頓狂な提案を投げかけてきたのだった。

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