獣人少女転生譚 ~あるいは美しい獣に撃ち堕とされた男たちの話~   作:お肉大好き

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再会

 ベランデンブルク魔術学院と国立魔導教校が統合される当日の早朝。

 

 僕はマックスを含めた生徒会の人たちとともに、校門の前で新しく学院に訪れるはずの魔導教校の生徒たちを待っていた。

 しかし、待てども待てども彼らは来ない。

 普段から厳しい副会長が眼鏡を中指で直しながら、フェルザー会長と会話する。

 

「まったく、奴らはいったいどこで道草を食っているんだ。もう約束の時間から30分経つぞ」

「何かのトラブルで遅れているのかしら?しかしそれなら一報あってもいいはず」

 

 ゴォォォォッ!!バチバチバチィィ!!

 

 突如として大砲が鳴ったかのような轟音がした後、学院の上空に雷の網が張られる。

 

 学院に所属する生徒と教師が、窓から身を乗り出してその光景を眺めた。

 

 学園からフリードリヒ大通り挟んで建立されたベドヴィッシュ大仏道教会の裏から、空飛ぶ人影のようなものが複数出現し、その勢いのまま上空に向かって高く飛び上がる。

 その7つの動く影はしだいに隊列を組んで、整然と大空を旋回していく。

 やがて大空から高度を急に下げて校庭の地面すれすれを滑空する。その時発生した衝撃波に僕たちは顔を腕でかばった。

 

 生徒会の書記が声を上げる。

 

紛い物(Fake)どもめ、やりやがった!やつらは魔術師(俺たち)を恫喝して、心理的優位を確立するつもりだ!」

「あれが、航空魔導師……」

 

 僕は思わず小声で呟いてしまった。

 

 空を飛ぶ人の姿をしたものは、背中の左側から金属の羽のようなものを生やし、右肩につま先から肩まで届こうかという大きさの魔導小銃を専用の革製の吊り具で装着していた。

 腰にはサーベルを下げている。

 

 肩甲骨のあたりから頭の方向に反った金属柱が生えていて、その柱はさら魔水晶を中央に嵌め込んだ円盤に続く。

 さらにその円盤から長さの違う四角い棒状の金属が、羽みたいに放射状に後ろに向かって伸びていた。

 金属棒の下にはギザ歯のような三角形の板が等間隔に付いていて、そこから光の粒子があふれている。

 

「……嘘」

 

 鈍色(にびいろ)に輝く金属の片翼を生やした彼らが再び地上付近を滑るように飛ぶ姿の中に、僕は見知った顔を見つけてしまう。

 

 円盤に真っ赤な魔水晶をあしらった義装翼で、空を駆ける1人の魔導教校の男子生徒。

 4年ほど前にお別れもせずに生き別れになった、僕のもう1人の親友。

 

 アル、アルベルト・メルゲンその人だった。

 

 

 

 

 

「アル!」

「セリカ!近づくな!」

 

 僕はマックスの制止を振り切り、空中演舞を終えて、校門で空を見上げていた生徒会の面々の前に着地したアルのもとに駆け寄る。

 アルは昔みたいに人好きのする笑顔で、でもどこか荒んだ雰囲気をまとって、僕の方を見る。

 

「よっ!久しぶりだな!随分また綺麗になっ「どうして転換手術を受けたの!!」

「……そんなに怒らなくてもいいじゃないか。俺も魔法を使ってみたかったんだよ」

 

 左手で後頭部をかきながら悪びれた様子もなく笑顔のまま答えるアルを見て、目の前が真っ黒になる。

 

 

 

 魔法は通常、生まれつきマナを扱う才能が無いと使えない。

 だが、後天的に魔法を使用する方法がある。

 

 魔導転換手術。

 

 肺及び脊髄の神経と、人工のマナ吸収器官である義装翼とを繋げて、魔法を使えるようにするのだ。

 より詳しく言えば、肺から直接、肩甲骨に増設された金属の接続部まで人工管を通す。

 そして、接続部から外部からマナを取り込む吸収器官(義装翼の羽部分に等間隔に並べられた歯がそれに当たる)まで、魔力を通す金属であるミスリルを中に通して連結するのだ。

 さらに、義装翼を能動的に動かすために脊髄から神経の一部を取り出し、接続部が追加された肩甲骨まで伸ばす。

 以上によって魔術の才能の無い者が、後天的に魔法を使えるようになる。

 

 しかし、この手術が難易度が高いらしく、失敗すると良くて半身不随、最悪の場合は死亡する可能性がある。

 しかも、手術に成功したとしても、内臓を大きく劣化させるから寿命が20年ほど短くなるそうだ。

 

 転換手術を受けて魔導の力を得たエインヘリヤルは、最新の戦闘機10機分の戦闘力を誇ると言われている。

 

 以上のことから、この転換手術を受けたものは、それだけで祖国を守る英雄として崇められる。

 

 

 

「……そんな、つまらない理由で危険な手術を受けたの?」

 

 アルの肩を両腕で叩く。そのまま俯いてしまった。

 

 ……僕がアルに転換手術を受けさせたのか。

 僕がアルの前で魔術を使わなければ、アルは転換手術を受けなかったはずだ。

 

 また僕は、アルを危険な目に遭わせたのか。

 自責の念から発生した涙が、頬を流れるのを感じた。

 

「おいアルベルト!いつまで獣人女とイチャついている!横1列に並べ!!」

 

 7人のリーダー格と見られる人物が号令を発する。

 アルは少し名残惜しそうに僕の肩に手をやって僕を離したあと、列の1番端に並ぶ。

 

 マックスが僕の手を後ろから掴んで、力づくで生徒会の集団に引き戻す。

 その様子を、アルは表情を険しく変えて見ていた。

 

 やがて彼らは同時に地を踏みながら足を揃えると、みな整然と直立し、中心の人物が叫ぶ。

 

「魔導教校精鋭生徒一同!ただいまベランデンブルク魔術学院に参上した!」

 

 その威圧を伴った大声に、僕たちは一瞬硬直した。

 

「素晴らしい!素晴らしいぞ未来のエインヘリヤル諸君!!」

 

 拍手をしながら体格の良い男子生徒が、野太い声で航空魔導師たちを称賛して学校の校門から現れた。

 ブルクハルト・ゴーテングラム先輩だ。

 彼は昨日とは変わってニコニコと人の良さそうな笑顔で言葉を続ける。

 

「さあ、これから全校集会です。生徒会の方々も、共に集会場に行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 ゴーテングラム派の息のかかった教師による、全校集会を開催する旨のアナウンスが、スピーカーを通して全学校内に流れた後、生徒たちは集会場に集合した。

 

 生徒会には事前に何1つ連絡は無かった。

 

 魔術学院の在校生の使えるスペースは普段の集会のときと比べて小さく限られていて、その代わりに30名ほどの深緑の、左側の後ろ身頃に入ったスリットが特徴的な、軍服にも似た制服を着た魔導教校の生徒たちがその空いたスペースを占有している。

 アルを含めた彼らは年齢はまちまちに見えたが、みな男性だった。規律が行き届いたように黙って整列している。

 義装翼や魔導小銃、サーベルは取り外していた。

 最初の飛行デモンストレーションの後、彼らに割り当てられた寮に向かっていたから、そこで除去したのだろう。

 

 150名ほどいる魔術学院の生徒たちは、魔導教校の生徒たちを指さす者、自身の意見を言い合う者などに分かれ、普段の集会以上にざわついていた。

 

 そのざわめきの中、集会場前方の壇上にゴーテングラム先輩が昇ると、マイクの前で咳ばらいをしながら集会場が沈黙するまで待ち続けた。

 騒然としていた場がしだいに静かになっていくのを確認して、ゴーテングラム先輩が言葉を述べ始める。

 

「生徒諸君、本日は記念すべき日です。長きに渡り反目し分かたれてきた魔術と魔導が、手と手を取り合う日です。千年の古き良き伝統を維持してきた魔術学院に、魔導の新しい風が吹き込まれる日です」

 

 ゴーテングラム先輩は堂々と、朗々と言葉を紡いでいく。

 魔術学院と魔導教校の宥和を掲げた内容だった。

 

「ゴーテングラム先輩ってこんな演説できたんだ」

「多分、シェンデルに原稿を書かせたんだろう」

 

 僕が浮かんだ疑問を口にすると、マックスが今起こっていることの裏側を教えてくれた。

 

 周囲の生徒たちはゴーテングラム先輩の演説に引き込まれているようだ。

 

「友愛と協調のもと、異なった道を歩んだ両校の生徒たちは、平等な権利を所有する新たな同胞として、互いを尊重し合い、敬い合い……」

 

「まずいことになったわね」

「はい、フェルザー会長。完全に主導権を掌握されました」

 

 演説の途中、会長と副会長が小声で囁き合う。

 これからの統合された学校での、ゴーテングラム派閥の台頭を危惧しているようだった。

 

 ……横目でアルのことを見る。背筋を伸ばして黙してゴーテングラム先輩の演説を傾聴しているように見える。

 ふとアルがこちらを向き、視線が合った。二カッと笑いながら小さく手を振られる。こういう愉快なお調子者のところは変わっていなかった。

 

「互いに学び合い、同時に切磋琢磨し合っていくべきだと考えます。……以上で私のあいさつは終了させていただきます。生徒諸君のご清聴に感謝します」

 

 先輩の演説が終わった。

 事前に打ち合わせをしていたのか、魔導教校の生徒たちが一斉に大きく拍手をした。

 それを皮切りに、拍手が全集会場に広がっていく。

 

 今、誰がこの学校を支配しているかは明らかだった。

 

 

 

 

 

「以上の事から、魔導師と魔術師の連携にはいまだ課題があり……」

 

 集会が終わった後、僕やマックス、他の学院の生徒たちは、はじめて魔導教校の生徒たちと一緒に、学院の座学教室にて魔術と魔導の連携に関する授業を受けていた。

 教壇から見て右側に従来の学院生徒たちが集められ、左側の教壇に近い前の席に教校の生徒たちが集められていた。

 

 魔導教校の生徒たちの態度は、集会のときとまったく違っていた。

 雑談に興じる者、机に突っ伏して居眠りをする者、最前列の席で教師の前で鼻や耳をほじる者まであった。

 

 中には、好色な笑顔を浮かべながら僕を指さして隣の生徒に何かを言ったり、自身の胸の前に両方の手のひらを上にして持ち上げるようなジェスチャーをしたりする者もいた。

 ……顔は覚えたからな。

 

「何だよあいつら。学院を愚弄しているのか」

「あまりにもふざけ過ぎよ。集会のときの態度はなんだったの?」

 

 ゴーテングラム派を除く生徒たちは口々に彼らの態度に難を示した。

 先生も彼らの態度には少し戸惑っているようだった。

 

 

 

 

 

「よおっ!セリカ。事前に説明を受けたけどそれだけじゃ食堂の使い方がよく分からないんだ。一緒に行って実際に教えてくれねえかな?」

「アル!」

 

 授業終了後、ニコニコと明るい笑顔を浮かべたアルが4年前のように気さくに話しかけてくる。

 正直聴きたいこと、話したいことはいっぱいあった。

 僕がしようとした返事は、しかし隣にいる鞄に教科書を詰め込んでいた人物に遮られた。

 

「メルゲンくん、セリカはこれから俺と持参した昼食を一緒に食べるんだ。悪いけど、他の人に頼んでくれないかな」

「おお!これは大英雄フリードリッヒ・フォン・バーンシュタイン将軍の末裔、マクシミリアンお坊ちゃまではありませんか!()()()セリカが世話になっているようで」

「そんなたいそうな反応をしなくていいよ。俺のことは君付けでいい。……メルゲンくんのことはセリカから聞いているよ。頭脳明晰で運動神経抜群なんだってね?俺の付き人であるセリカを()()()()守ってくれていたことに、感謝の言葉を述べさせてもらうよ」

「いえいえそんな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()マクシミリアンくんのお手を煩わせる必要もなかったんですがね」

 

 僕に関わる前は友達がたくさんいたアルは、いつも通り誰からも好感を持たれるような表情をして話している。

 マックスも、普段の仏頂面からは考えられないほど口角を上げて、愛想の良い表情を浮かべてアルに応じている。

 でもなぜだろう、ぼくの親友同士が仲良く会話していることが嬉しいはずなのに、なぜか背中に怖気を覚えた。

 

「じゃあ、急いでいるから。メルゲンくん、また今度ね。ほら、行くぞ」

 

 マックスが僕の腕を強引に掴むと、無理やり僕を連れて教室を出て行く。

 ドアを通るときに、後ろ髪を引かれる思いで振り返って見たアルの目は、殺意そのものを放って僕らを刺殺していた。

 

 

 

 

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