獣人少女転生譚 ~あるいは美しい獣に撃ち堕とされた男たちの話~   作:お肉大好き

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 この物語を読んでくださる読者の中で、縁あって服役されていた方へ。

 この話は、人に迷惑をかけることでしか生きられず、なおかつそれを顧みもしないドブカスが、慈悲で与えられた仕事の合間にナラカ世界から受信した一連の出来事ですので、どうかお気を悪くされませぬよう。

 また他の読者の皆様方へ。

 これはナラカの物語ですので、良識ある方からすれば眉を顰める描写がこれからも多々見受けられると思いますが、どうか寛大な心を持ってお読みいただきたく。



 暴力描写注意


転落

 セリカが学校に来なくなった。

 

 担任の先生は「他の学校に転校した」の一言だけで、他の情報は何も話してくれなかった。

 愛おしい泣き虫の女の子がいるはずのアパートに行き、ゲラルドおじさんに彼女がどこに行ったか尋ねてみても、口をつぐむばかりだ。

 

「俺はセリカがいなくなって寂しいんです!知ってることを何でもいいので話してください!」

 

 ナジカおばさんに泣きつくと、彼女はしぶしぶといった表情をして、セリカがベランデンブルクにあるゲラルドおじさんの友達の家に移り住んでいる、ということだけをぽつぽつと語ってくれた。

 ならばせめて手紙を書こうと何度頼み込んでも、固く口を結んで所在地を教えてはくれなかった。

 たかが1都市とは言ってもニューゲンブルクでさえ広いのに、首都であるベランデンブルクは子供の俺には広すぎる。

 仮に鉄道で現地に行って探しても、見つけられるとはとても思えない。

 

 俺はもう、あの幸せの塊を抱きしめることができなくなった。

 

 

 

 

 

 セリカがいなくなってから世界から色が抜け落ちたような心境になり、そのうち学校の授業を欠席するようになった。

 今も、学校の屋上の唯一の出入り口からは陰になって見えない場所にあぐらをかいて座り、ただあの優しい女の子に生えている獣の耳と尻尾の感触を追憶するだけの時間を送っていた。

 

「セリカ……」

 

 その名を口にしても実際に会うことなどできない。

 俺は腑抜けていた。

 

 ふと、建物が古くなって建付けが悪くなったのだろう、ギギギというドアを開く音とともに、複数の足跡が聞こえた。

 その人間たちは足音から察するに4人のようだ。屋上の中央にある広場に歩いていく。

 

「あーあ、つまんねえな。セリカも転校しちゃったし」

「本当だよな。セリカを虐めていたときはとてつもなく楽しかったのに」

「服の隙間からときどき乳首が見えるのも最高だったよな。あーあ、セリカが転校するならあのときヤッておけばよかったな」

 

「お前がもっと早くセリカを見つけていれば、最後までレイプできてたのに」

「俺のせいかよ。っていうかレイプなんて警察に捕まるぞ」

「大丈夫だって。セリカは言葉が話せないから大人に自分がレイプされたなんて説明できねえよ。それに仮に捕まっても俺たち子供だから大した罰は下らないって。少年法に守られているんだから」

 

「だな!それにセリカは畜生だから、レイプしたとしても強姦罪は適用されないって!犬のケツに棒突っ込んでも牢屋に入れられるかってえの!」

「違えねえぜ!泣きながらションベン漏らしてたもんな!あれが人間なわけないもん!ギャハハハハ!!」

 

 

 

 飛び出して、殴る。

 

「おい!アルベルト!いきなりな

 

 殴る。

 

「こいつ!いつものようにリンチにし

 

 振りぬかれた拳を避けて、みぞおちに肘を当てる。殴る。

 

「ひっ!逃げ

 

 逃げるな。逃げる背中に飛び蹴りを食らわす。

 前に転がった体に付いている頭をためらいなく全力で踏み抜く。

 

「ごめんなさい!殴らな

 

 うるさい喋るな。ひざまずいた男子の、何の特徴もない恐慌した顔に蹴りを入れる。

 短躯が屋上の床を無様に転がった。

 

「この野郎!もう赦さ

 

 再び立ち上がった別の男子を殴る。

 衝撃で転がった体に付いている右下腕を左足で踏み固定すると、右足で思いっきり上腕を蹴りぬいた。

 何かが折れる音が響く。

 

「助けて!」

 

 また逃げ出そうとする奴がいる。

 屋上のドアまで逃げた何かに敏速に追いつき、頭を後ろから掴むとドアに力の限りぶつける。

 ブクリとした感触が手に伝わった後、その何かは鼻から血を噴き出した。

 そのまま仰向けに引きずり倒し、馬乗りになってその何かの顔を()()()()殴る。

 

 殴る殴る殴る。

 殴る殴る殴る殴る殴る。

 

 他の3人も同様に殴る殴る殴る。

 殴る殴る殴る殴る殴る。

 

 立ち上がろうとする物があったら、転がして体から生えた4本の手足を徹底的に踏み抜く。

 途中で自分の手が痛いことに気づいた。なんでこんな物のために痛い思いをしなきゃいけないんだ。

 

 転がった何かのみぞおちを踏み抜く。

 踏み抜く踏み抜く踏み抜く踏み抜く踏み抜く踏み抜く。

 

 それは、駆けつけた警察官に後ろから3人がかりで取り押さえられるまで続いた。

 

 

 

 

 

 頭蓋骨骨折、鼻の骨折、片目の失明、上下前歯の折損、四肢の骨折、内臓破裂……。

 

 半殺し以上殺人未満だった。

 アルベルトは留置所で1週間拘束されたのち、裁判にかけられた。

 

 しかし、本人の優れた容姿と反省の態度を明確に示したことに加え、被害者が集団強姦未遂を起こしていること、セリカの父親であるゲラルド・アーレンハイムが元政治家の弁舌能力を駆使して証言台でアルベルトの性格上の特長を論述したことが要因で、児童相談所に勤務するケースワーカーの観察付きという条件で、彼は無罪放免となった。

 

 アルベルトは再び学校で真面目に授業を受けるようになる。

 学校の生徒たちは彼を恐れ、媚びた態度で接し、しかし彼を遠ざけた。

 もはやアルベルトに憧れる女生徒も存在しなかった。

 

 彼は独りだった。

 

 放課後、学校の校門を通る際、誰かに肩を掴まれた。

 

「お前、アルベルト・メルゲンだよな?」

 

 

 

 連れられたのはニューゲンブルク市中心から外れた廃工場の、その1番奥の壊れた工作機械が多数ある、割れたガラス窓からの日光が唯一の光源になっている薄暗い部屋だった。

 黒いレザー服を着たいかつい10代後半の男が木箱の上に偉そうに座って、見定めるようにアルベルト自身についていくつか問いかけた後、1つの提案をする。

 

 ストリートギャングへの勧誘だった。

 

 アルベルトのために涙を流して、癒してくれるセリカはもういない。

 両親からは見放されている。

 

 彼の誘いに、誰かからの承認欲求に飢えていたアルベルトは2つ返事で了承した。

 

 

 

 

 

 それからは破壊と暴力の日々だった。

 ギャング同士の抗争、店舗を破壊しての強盗、大麻の売りさばき。

 

 仲間が女を強姦するのを手伝ったこともあった。泣き叫ぶ女を黙らせるために顔を何度も殴った。女の両腕を押さえつける役もやった。

 その日の夜は、セリカを犯そうとした4人と同等の存在に堕ちた気持ち悪さから吐いてしまった。

「機会」を譲ってくれたことに他の少年たちは喜んだが

 

 頭が良く、コミュニケーション能力も抜群で、何より腕っぷしが強いアルベルトは年少ながら組織の中ですぐに頭角を現した。

 仲間たちからも認められ、自分がいっぱしの人間になったようで気分が良かった。

 酒やたばこも仲間たちから教えてもらった。大人になった気分になり、セリカを連れ戻す未来図を描けた。

 

 しかし、その生活も終わるときが来る。

 

 ある日、リーダーから指定された他のギャングのアジトに、仲の良い数人の仲間とともに鉄パイプを持って乗り込むと、もぬけの殻だった。

 

 仲間の1人がぼやく。

 

「なんだよ。誰もいないじゃないか……」

「……っ!罠だ!!逃げろ!!」

 

 アルベルトが仲間に叫ぶと同時に、建物の外からいくつもの大型のフラッシュライトが焚かれる。

 完全武装した機動隊が突入してくる。

 警棒で殴られ、テーザー銃で撃たれたアルベルトは、痛みと電撃で痺れて動けなくなった。

 

 アルベルトが自分に取って代わると恐怖したリーダーが、今やアルベルト派となってしまった手下ごと警察に自分を売ったのだ。

 アルベルトは凶悪犯罪者として、今度こそベランデンブルク初等刑務所に収監されることになった。

 

 

 

 

 

 ベランデンブルク初等刑務所は、殺人、強盗、連続強姦といった凶悪犯罪を犯し、13歳未満にも関わらずに例外的に刑事罰を科せられた少年たちを、社会から隔離する施設だ。

 

 初日の朝に到着したアルベルトは身に着けていたものを没収され、刑務所から支給された部屋着に着替えさせられた後、手錠をかけられた状態で面会室に連れられ、そこで名前などの質問に答えた。

 そして共有の食堂に案内され、手錠を外されて他の受刑者に自己紹介した後、彼らの生活に合流する。

 アルベルトは彼らとの雑談のさなか、自身に好印象を持たせつつ、受刑者の1人1人を注意深く観察して、自分をどう見ているか、そして各々の力関係を見定めた。

 

 夕方になって共同浴室のシャワーを使っているとき、1人の男がにやつきながらアルベルトの肩を触れようとした。

 振り向きざまにその男の鼻っ柱を殴りつける。

 倒れた男のみぞおちを迷わず踏み抜く。

 

 その後は自分に敵意を向けた人間を先制して打ち倒していく。

 同時に2人以上を相手にしなくて済むよう、立ち上がるそばから殴っていった。

 

 やがて、やってきた複数の刑務官に警棒で殴られ、取り押さえられて懲罰牢に入れられた。

 

 1週間の懲罰牢生活を送った後、共同食堂に帰ってきたアルベルトを待っていたのは、強姦魔からの解放者、そして新しく誕生したボスに対する歓声だった。

 

 他の受刑者はどこから手に入れたのか、酒やたばこを融通するなどあらゆる場面でアルベルトに対して好意を示すようになった。

 アルベルトは彼らを決して信用しなかったが。

 

 結局のところ初等刑務所でも、アルベルトが(たの)むのは暴力だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 初等刑務所に入所してからはじめて迎える早朝の自由時間。

 

 そこでアルベルトは、刑務所の主要棟から中庭へと続く階段の上部に座り、記憶から掠れつつある幸福そのものであった少女の影を、頭の中で必死に追い求めながら煙草をくゆらせていた。

 周囲の受刑者たちは思い思いにサッカーやキャッチボールなどに興じている。

 そんな中、突如として刑務所の鉄柵の内側から歓声が沸き上がった。

 

「うおおおお!今日も可愛いねえ!獣人の彼女!」

「こっち向いて獣ちゃん!その可愛いお顔を俺に見せておくれ!」

 

 手から煙草を落とした。

 

 頭に載っている三角形の大きな耳、黄色がかった銀色の髪、端正な横顔、そして金色に輝く右目の脇にある泣きぼくろ。

 今まさに頭の中で思い浮かべていた泣き虫な女の子がいた。

 セリカは相変わらず綺麗だった。

 

 刑務所の柵越しに少年囚たちを見て怯えているセリカを、1人の少年がかばうように少年囚がいる側に移動して、足早に彼女の手を引いて歩き去っていく。

 

 2年間の間、恋焦がれていた想い人を実際に見て、そのまま呆けてしまった。

 自由時間の刻限が過ぎたことを、刑務官によって振り下ろされた警棒によって知ったくらいにアルベルトは呆けた。

 

 

 

 

 

 その日以来、朝夕の自由時間にアルベルトは、他の少年囚の後ろから鉄柵の外を眺めるようになった。

 

 漆黒の色と長い丈が特徴的な魔術学院のローブをまとった彼女は、日に日に美しくなっているように見えた。

 

 本当は今すぐにでも声をかけたかった。

 しかし、堕ちきった今の自分の姿をどうして見せられよう。

 

 また、愛しい少女を守っている隣に並ぶ少年と今の自分とを比較することを止められず、大きな劣等感となって圧し掛かってくる。

 情報通を自認する少年囚に聞いてみると、彼はミッテルラントに生まれた男子なら誰もが憧れるあの大英雄フリードリヒ・フォン・バーンシュタイン将軍の子孫らしい。

 

 アルベルトは夜共同房のベッドに横たわるたびに、セリカの隣に居座るつり目がちな少年を害する妄想を止められなかった。

 

 

 

 

 

 歩くセリカを遠くから見つめる日々を送るうち、初等刑務所の上限年齢である13歳が迫ってきた。

 

 突然、応接室に呼ばれた。

 

 2人の刑務官に手錠を掛けられ連行されて、無機質な面会室とは違い、温かみのある調度品が並べられた応接室のドアをくぐり、大きな大理石のテーブルに付随しているソファに無理やり座らさせられた。

 アルベルトの左右後ろにそれぞれ刑務官が立っている。

 

 しばらく待たされると、突然勢いよく音を立ててドアが開かれる。

 勲章を数多くぶら下げた軍服を着た初老の男性が、しっかりとした足取りで入ってきて一拍も間を置かずに喋りだした。

 

「お初にお目にかかるな。儂はミッテルラント国防軍参謀本部所属少将、アウグスティーン・フォン・マッケンバウアーだ。儂の名前は覚えなくてよいぞ。お前のようなクズが儂に会う機会など金輪際無いのだからな」

 

 お付きと思われる2人の軍服を着た男たちも応接室に入ってくる。

 

 無遠慮にこちらを侮蔑したような視線送り続け、部屋の外縁を回るようにゆっくりと歩きながらマッケンバウアー少将は続ける。

 

「お前のことは調べさせてもらったぞ、アルベルト。普通なら頭も経済環境も悪くないお前がなぜこんな場所に転落したのか聞くところだろうが、儂はお前の人生に興味はない。だから、こちらの用件だけを述べさせてもらう」

「いいか、まず大前提としてお前はカスだ!ミッテルラント社会のゴミだ!お前がいかに持ち前の社交性とやらを駆使しても、お前がやったことを知れば善良な人々はお前を拒むだろう」

「……」

 

 その通りだ。

 

 1度レールから外れたものを「お帰り」と言って受け入れてくれるほど、ミッテルラントは、ナラカ世界は優しくはない。

 それが赦されるとすれば、よほど家柄の良い家庭に生まれた者だけだろう。

 

「お前のこれからの人生は三途の黒闇(こくあん)よりも暗いだろう。お前はこれから(なじ)られ、(おとし)められ、搾り取られる人生を送るのだ。そしてそれはお前に対する正当な処遇であって、誰もお前を擁護する者はいない」

「しかし、1つだけ破滅が約束された未来を回避する道がある。お前は英雄として人々から尊敬され、畏怖されるだろう」

「その方法がこの書類にサインすることだ。3分間で決めろ。儂はお前だけにかかずらわっているほど暇ではない」

 

 マッケンバウアー少将はそういうとお付きの軍人から1枚の紙とペンを受け取り、それを乱暴にこちらに向かって投げるように渡してきた。

 1番上の表題には『魔導転換手術同意書』と書いてある。

 

 後ろの刑務官の1人が、持っていた鍵でアルベルトの手錠を外した。

 

「……」

 

 もし、あの幸せの象徴のような少女に少しでも近づけるなら。

 

 

 

 アルベルト・メルゲンは同意書に自分の名前を書き込んだ。

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