獣人少女転生譚 ~あるいは美しい獣に撃ち堕とされた男たちの話~   作:お肉大好き

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謀略

 学院と教校が統合されて、ベランデンブルク魔法学院となった日から数日経った朝、僕は学院の生徒たちで騒然とした廊下を1人歩いていた。

 

 マックスはさっきまで一緒にいたが今はいない。

 生徒会の書記が走ってきて、「口論が起こっているから仲裁を手伝ってくれ」とマックスを連れて行ってしまったのだ。

 

ドッドッドッドッドッ!

 

「隙ありっ!」

「うわぁ!」

 

 突如廊下に地響きが鳴ったと思うと、2つ影が後ろから僕をかすめるように通り抜けた。

 僕のスカートが大きくめくれあがる。左の獣耳と尻尾もすられるように撫でられた。

 前方を2人の深緑の制服を着た男子が、走り去りながら顔を僕の方に向ける。

 

「可愛いの履いているんだな!また見せてくれよ獣人ちゃん!」

「触り心地がいいですねぇ!今度はぜひゆっくりと撫でさせてください!」

 

 授業中に僕を卑猥な眼差しで見ているうちの2人だ。

 瞬く間に廊下の角を曲がり、呆然としている僕の視界から逃亡した。

 

「……水色なんだ」

 

 誰かがボソリと呟く。

 廊下にいた男子たちがみな一様に僕の下半身を凝視していた。

 ああ!もう最悪!

 

 

 

 

 

 午前の授業は旧魔術学院と旧魔導教校の生徒との合同実技訓練だった。

 

 学院と教校の生徒たちがそれぞれ校庭の別の場所に固まっている。

 

 黒いローブをはためかせ魔法杖を持つ僕たちに対して、義装翼を装着した彼らは魔導小銃とサーベルで完全武装している。

 ちなみに僕の杖はロッカーの中に置いてきた。そうしないと、ヴェッペルマン先生は僕が回復魔術しか使えないことを忘れるからね。

 

 校庭の中央には身の丈ほどの藁束が立てて置かれていた。

 

「無間の獄卒よ、極悪最下にそ「火焔弾装填!狙い!発射ぁ!」

 

 地面に立って銃を構えた教校の生徒が放った魔法弾が藁束に当たると、それは燃えながらはじけ飛んだ。

 

 連携は上手くいっていない。

 教校の生徒が魔術の詠唱が終わる前に対象を撃ってしまうのだ。

 

「お前ら!さっきからタイミングをわざとずらしているだろう!どうして合わせないんだ!」

「あんたらがちんたら詠唱してるのが悪いんじゃないか!そんなんじゃ戦場で魔法を放つ前に撃たれちまうぜ!もっと省略できないのか!?」

 

「詠唱は精神集中のために必要なんだ!1000年続く魔術の伝統を愚弄するのか!」

「本当に古臭いな、お前ら!それで特権意識だけ激しいとか手に負えねぇよ!」

 

「何をぉ!お前らは義装翼が無いと何もできないくせに!」

「今のセリフ、杖を手放してから言ってみろよ!」

 

 言い争いを続ける学院と教校の生徒に、ヴェッペルマン先生はただ当惑するばかりだ。

 

 ……学院側にいる僕の視点ではあるが、教校の生徒は座学ではふざけた態度で授業に臨み、実技の授業でもわざとその目的を失敗している。

 

 両者の仲は日を追うごとに険悪になってきていた。

 

 そんな中、真っ赤な魔水晶が特徴の義装翼を付けたアルが、僕がいる学院のグループにまで歩いて近づいてくる。

 

「よぉ!相変わらず可愛いな。セリカの番はいつなんだ?良かったら一緒に合わせようぜ」

「アル。誘ってくれてありがとう。でも私は回復魔術以外は使えないから、実技のときはいつも見学なんだ」

「へえ、意外だな。回復魔術があんだけ得意だったんだから、他の魔術もいっぱしに使えるかと思ってたぜ」

「そうだと良かったんだけどね。あはは」

 

 僕とアルが会話してると、教校の生徒が野次を飛ばしてきた。

 

「おいおいおいおい!アルベルトがセリカちゃんのこと口説いてやがる!幼馴染に会えて恋も再燃ってか」

「抜け駆けですか!アルベルト!その獣人の彼女は1番の上玉じゃないですか!」

 

 うるさいなぁ。

 

 ふと、横を見るとマックスが会話する僕ら、というか主にアルをつり気味の目で睨みつけていた。

 

「……次、マクシミリアン・フォン・バーンシュタインくん」

「はい」

 

 次はマックスの番だ。雑談を続けようとするアルに両手を合わせ「ゴメン」のジェスチャーをして会話を遮り、魔法杖を手にしたマックスの様子を見守る。付き人だからね。

 

「無間の獄卒よ、極悪最下に……

 

 マックスは歩きながら、教校の生徒には聞こえないように小声で詠唱をして、所定の位置まで移動しているようだ。

 

「火焔弾、発射ぁ!」

「その命の結末を示せ!」

 

 火焔弾が藁束に当たると同時に、マックスの魔術も発動した。藁束が4階建ての校舎の屋上ほどの高さで黒く燃え上がる。

 なんてこと!この授業ではじめて成功した!

 

「目覚ましい成果だね!バーンシュタインくん!難しいとされる魔術と魔導の連携を成し遂げるなんて、さすがは英雄の子孫だ!」

「お褒めいただきありがとうございます。ヴェッペルマン先生」

 

 マックスは先生に礼を言うと、誇った様子もなくゆっくりとこちらに戻ってくる。

 僕はマックスに駆け寄って杖を持ってない方の手を取った。

 マックスは自分を褒めないからその分僕が褒めなくちゃ。

 

「信じられないことだよ、マックス!歩いてる間に詠唱を済ませるという方法は誰も考えつかなかった!マックスはやっぱり頭がいいね!」

「やめてくれよ、セリカ。でも、褒めてくれてありがとう。セリカに言われると嬉しいよ」

 

 僕はしばらくマックスの手を握っていたが、それも変なことかと思い、彼の手を放した。

 

 ふと、後ろから視線を感じて振り返る

 アルが、4年前からの彼からは信じられないほど殺伐とした顔でこちらを睨みつけていた。

 

 腕を掴まれた。マックスだった。

 マックスは僕を引き寄せ、アルからかばうように自身の後ろに僕を移動させる。

 

「おい、アルベルト!いつまで獣人ちゃんと話しているんだ!いい加減戻ってこい!」

「ああ、わかったよ!アントン!」

 

 アルが教校の生徒の集団に戻っていく。

 

 いったい何だったんだろう。アルの機嫌を損ねることをしてしまったんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「ではこれから一般教養の授業を始める。今日はミッテルラント革命の原因についてだ。無謀な戦争継続、及びヤシマ帝国海軍とブリテリア連合王国海軍(ロイヤル・ネイビー)の海上封鎖によって疲弊した国民を救済するため、大アルバ帝国陸海軍は国防軍(ヴェーアマハト)と改称し……」

 

 お昼休みを挟んで、午後の座学の授業が始まった。

 教校の生徒たちは居眠りをするなど、学院が統合されてから数日と同じで態度が悪かった。

 

 僕は授業中の講義を聴いているうちに、ふと浮かんだ疑問を隣の席のマックスに質問した。

 

「あれ、そういえばそもそもなんで大戦って起こったんだっけ?」

「セリカ、それくらい覚えていなよ。そのときの皇帝はヴァルヘルム3世だが、帝国宰相のルドルフ・ヒスターがソルビア王国によるブルヴァツカ系住民への弾圧を口実として……っ」

 

 急に視線を僕から逸らす。

 ……はーん、さては。僕はマックスの耳に口を寄せ囁く。

 

「マックス。他の人からは嫌だけど、マックスなら私の胸をいくらでも見ていいよ」

「っ!」

「本当は恥ずかしいけど、マックスに視線を逸らされる方が私は傷つくかな」

「セリカ……」

 

 僕とマックスは至近距離で互いを見つめ合った。

 

「いい加減にしろよ!お前ら!」

 

 ビクッ!

 急いで背筋を伸ばして姿勢を正す。

 

 しかし、その声の主は僕たちを非難したわけではないようだ。

 

「ホイアーさんが嫌がっていただろう!どうして授業を真面目に受けないんだ!」

 

 イーヴォ・ギレスベルガーくん、マックスと仲の良い、真剣に魔術と向き合っている男子生徒だった。

 

 ディアナ・ホイアーさん、フェルザー生徒会長の派閥の女の子、が露骨に姿勢を傾けて教校の生徒たちから距離を取ろうとしている。

 どうやら、教校の生徒がホイアーさんにちょっかいをかけていて、それをギレスベルガーくんがかばったようだ。

 

「俺たち真面目に受講していたぜ。ただ、わからない箇所を彼女に尋ねようをしただけだぜ」

「嘘をつけ!前回の授業でもホイアーさんに絡んでいたじゃないか。ここは勉強するための場所であって、女を口説くための場所じゃない!やるなら街に出てやってくれ!」

 

「おーおー!ご立派なことで!ならその勉強とやらに励んで、せいぜい俺たち航空魔導師の足を引っ張らないようにしてくれよ!」

「何!?魔術師がいつお前たちの足を引っ張ったっていうんだ!」

 

「いつもだよ!空も飛べない、詠唱を挟まないと魔法も発動できない!それなのに口だけは達者な(フーン)ときたもんだ!ほんと手に負えねえよ!」

「貴様ぁ!」

 

 逆上したギレスベルガーくんが教校の男子の肩を手で押した。

 

 傍目にはそんな強い力で押したように見えなかった。

 しかし、押された男子は後ろに倒れると、後ろにあった学生机に頭をぶつけた。

 

「ユストゥスの奴が倒れた!」

「学院の生徒による暴力事件だ!」

 

 教校の男子たちは口々に騒ぎ立てて、医務室まで倒れたユストゥスくんを教室から運び出す。

 ギレスベルガーくんはそれをただ呆然と眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 授業が終わってすぐに、全校集会が開かれた。

 

 学院、教校の生徒たちが並び終えると、ゴーテングラム先輩が教壇への階段を昇る。

 彼は机に置かれたマイクの前に立つと、悲しそうな表情を作りながら、悲嘆を込めて言葉を紡ぎはじめた。

 

「みなさん、今日の午後の授業中、大変痛ましい出来事が起こりました。学院の生徒による教校の生徒への暴力事件です。バーンシュタインに連なる生徒が、卑劣にも義装翼を取り外して無防備な状態の航空魔導師の卵に、危害を加えたのです」

「なっ」

 

 確かにギレスベルガーくんが暴力に訴えてしまったのは事実だが、教校の生徒の態度が悪いこと、ホイアーさんをかばったこと、教校の男子の暴言、ただ肩を小突いただけなこと、といった要素を省いて一面だけを強調していた。

 

「罠だ」

 

 前の壇上を向いていたマックスが呟く。

 そうか、教校の生徒の態度の悪さは、すべてこのための布石だったのか。

 

「これは差別です。私が以前掲げた友愛と協調の精神に反するものです。2つの学校が1つになる過程で、この暴力事件が起こったことは実に悲しむべきことです」

 

 ゴーテングラム先輩が一旦言葉を切り、顔に手を当てながら嘆かわしそうに天を見上げる。

 実態を知ってしまうとすべての動作がわざとらしい。

 

 ゴーテングラム先輩が間をおいてる間を狙って、フェルザー会長が挙手とともに発言した。

 

「……発言をよろしいですか、ゴーテングラムさん」

「よろしい、許可しましょう。フェルザー生徒会長」

 

「許可をくださって感謝します。加害者とされる生徒が、教校の生徒にしつこく言い寄られていたのを助けるために口論となったという目撃情報があるのですが、ゴーテングラムさんはいかがお考えでしょう?」

「そのような事実は私は確認しておりません。また、その目撃情報とやらも、バーンシュタインやフェルザー会長に連なる者たちの言ったであろうことであり、信ぴょう性は認められません。フェルザー生徒会長は暴力事件を起こした者の肩を持つおつもりで?」

「っ!。了解いたしました。ご回答ありがとうございますわ」

 

 ゴーテングラム先輩が逆にフェルザー会長に尋ね返す。取りつく島も無かった。

 

 ゴーテングラム先輩はさらに言葉を続ける。

 

「私は、2つ学校が統合する過程で起こったこの事件を重く受け止めております。よって、事件を起こしたギレスベルガー氏に自主退学を求める!学院と教校の宥和のためには必要な処分だと考えます」

「お待ちください!ゴーテングラム先輩!」

 

 僕の隣で立っていたマックスが手を上げて発言する。

 

「1回の暴力事件を起こしたからといって、退学はやりすぎでは?それにゴーテングラム先輩は1生徒に過ぎません。他の生徒の退学を求めるのは、与えられた権利を逸脱していると考えます」

「そう、新たに統合された魔法学院の1生徒です!私はその生徒を代表して、旧来の学院を牛耳った方法で新たな学校をも支配しようとする生徒会を糾弾します!」

 

 ゴーテングラム先輩は一段と声を張り上げる。

 

「新しい学校には新しい生徒会が必要なのです!よって、私は新たな学校の、旧魔導教校の生徒を含めた、1人1人の基本的権利のために、バーンシュタインとフェルザーが不当な圧政を敷いている状態の生徒会に、退陣を求めます!それができないのなら、事態を収束させる条件として、ギレスベルガー氏の自主退学を求めます!」

 

「「「「「うおおおおおお!!」」」」」

 

 教校の生徒たちが示し合わせたかのように大歓声をあげる。

 

 ギレスベルガーくんを見ると、体が震えて顔面が蒼白していた。

 

「お待ちなさい!私たちがいつ圧政を敷いたというの!?」

 

 フェルザー会長の抗議も航空魔導師たちの大声に搔き消される。

 

 ゴーテングラム先輩は教校の男子たちに片手をあげて静かにさせると、さらに論述を続ける。

 

「しかし、それを是としないのなら、私は新たな選択肢を用意しましょう。決闘です。私が負けたら現生徒会及びギレスベルガー氏に対する要求は取り下げます。しかし、生徒会が負けたら、責任を取る形でのイリーネ・フェルザー生徒会長の辞任ならびにマクシミリアン・フォン・バーンシュタイン氏の自主退学を求めます!」

 

 マックスがなんでそこまで追及されなくちゃならないの!

 

「わかりました!このマクシミリアン・フォン・バーンシュタイン!その決闘をお受けいたします!」

「……わかりましたわ!生徒会長として、その決闘を臨ませていただきますわ!」

 

 しかし、この決闘を受けないと、マックスは派閥の長なのに仲間を見捨てたということになる。

 はじめからマックスに選択肢なんてなかったんだ。

 

 ゴーテングラム先輩は壇上で満足げにほくそ笑んでいた。

 

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