獣人少女転生譚 ~あるいは美しい獣に撃ち堕とされた男たちの話~   作:お肉大好き

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情交

 決闘は工業と農業が盛んなジュレージエン州最大都市のバロスラウの近くにある、ゴーテングラム財閥の工場のある郊外で行われることを、ゴーテングラム先輩が一方的に決めた。

 決闘宣言の翌日の早朝から、僕たちは特別にチャーターされたバスに乗って、バロスラウ付近のゴーテングラム家の別荘に向かっていた。

 途中、サービスエリアで昼食とトイレ休憩を間に入れくらいで、バスはひらすら高速道路(アウトバーン)を走る。

 

 バスに乗ってるのは、生徒会役員及び執行委員となぜか僕で12人、さらに旧教校の生徒12人だ。

 

「セリカ、バスに乗って遠出なんて小学校の遠足以来だな」

「うん、そうだね」

 

 通路を挟んで隣の席になったアルに話しかけられる。

 

 あの時は隣の席になったクラスの男子に無理やり獣耳と尻尾を触られていたから、あまり良い思い出は無いんだけどね。

 話題を変えよう。

 

「私がいなくなったあと、学校で遠足とか行った?」

「いや、俺休んでいたから行ってないんだ」

「珍しいね。アルは嬉々として行きそうなのに。病気にでもなったの?」

「いや、まあな……」

「?」

 

 いつもはハキハキと受け答えをするアルが、珍しく歯切れの悪い言い方をしていた。

 何だろう、調子が悪いんだろうか。

 そう思ってるとマックスに教校の生徒と話していることを注意された。

 

「おい、セリカ。教校の奴とあまり仲良さそうに会話するな。内通を疑われるぞ」

「アルはそんな悪い人じゃないんだよ。でも、マックスの言う通りだよね。ごめんね、アル。しばらく話さないでおこう」

「ああ」

 

 アルはこちらを恨みがましそうに見ながらも、引き下がってくれた。

 

「そろそろ着くみたいですわ」

 

 バスがトンネルを抜けたとき、フェルザー生徒会長が窓を眺めながら知らせてくれる。

 森の中に、一際大きい屋敷と、研究施設と思われる施設が視界に映る。

 その大きな屋敷が、僕たちが宿泊することになるゴーテングラム家の別荘だ。

 

 

 

 

 

 ゴーテングラム家の執事と思われる人に案内された部屋で荷造りをする。

 僕はマックスと同室だった。

 

「え、マックスと同じ部屋なんだ。いくら僕とマックスが親友だからといって、年頃の男女を同じ部屋に割り当てるなんて、少し配慮が欠けていると思わない?」

「……まあ、そうだな」

 

 今度はマックスが何とも言えない表情をして言い淀む番だった。アルといい、マックスといい、いったい2人ともどうしたんだろう。

 

 話題を変えて2人で雑談に興じていると、夕食がはじまるというアナウンスがスピーカーを通じて流れた。

 僕とマックスは他の生徒会のメンバーと合流しつつ、夕食会の会場に指定され屋敷の大広間に向かう。

 

 大広間は、ガリア式のシャンデリア、壁に取り付けられた装飾付きの電灯式ランタン、ゴーテングラム家に連なると思われる人物を描いた大きな人物画など、きらびやかな装飾の施された華美で巨大な部屋だった。

 中央には立食形式なのだろう、様々な料理が並んだテーブルが複数置かれている。

 

 壁際には椅子が何個も並んでいて、撮影機材や記事を書くためと思われるパソコンを持った報道関係者が30人ほどいて、なにやら取材の準備を進めているようだった。

 その1人が僕を見ると、こちらにカメラを向けはじめた。

 

「なんでこんなに報道関係者がいるの?」

「全国放送して、自分たちが優れていることを喧伝したいんだろう」

 

 生徒会役員と執行委員及び僕と、アルを含む旧教校の生徒たちが揃ったのを確認して、ゴーテングラム先輩が2階へと続く階段の踊り場に昇る。

 彼は先に飛行機でやって来て準備していたのだろう、黒のスーツを着て派手な印象を与える赤の蝶ネクタイをし、長い髪をバックにして整えていた。

 

 報道関係者がカメラを回す。

 ゴーテングラム先輩はしばらく沈黙したのち、重々しく口を開いた。

 

「ミッテルラントの善良なる国民の皆さん。明日は決戦の日。魔導と魔術、どちらが皆さんを守る盾としてふさわしいか、どちらが一方を優越しているかが明らかになります」

 

 ゴーテングラム先輩は扇動的な言葉を使って魔術に対する魔導の優越性を説いていく。

 フラッシュが焚かれる音や、カメラのシャッターが降りる音が鳴り響く。

 

「そして、今までの不真実と不名誉がすすがれるときです。先の大戦で真に讃えられるべきは、魔導技術を発展させ、エインヘリヤルを生み出したゴーテングラムなのです。それを使って勝利を盗んだバーンシュタインではない」

 

 それが目的か。

 ゴーテングラム先輩はバーンシュタイン家を貶めて、自分の家の格を上げたいのか。

 

「清廉で世界の中でも傑出したアルバ人の皆様、どうかご安心ください。明日の決闘の結果をもって、ゴーテングラムがミッテルラント連邦共和国の守護者にふさわしいことをご覧に入れます。以上でスピーチを終わらせていただきます」

 

 教校の生徒たちと報道陣からの万雷の拍手が沸き起こる。

 

「それでは会場にいる各位諸兄、どうかごゆるりとゴーテングラム家の食事を楽しんでくださることを」

 

 先輩のスピーチが終わる。

 

 複数のカメラが僕たち生徒会を囲んで、マイクを向けてコメントを求めてくる。

 フェルザー会長と副会長が僕とマックスをかばって対応してくれた。

 

「とりあえず、何か腹に入れよう。空腹だと明日に響く」

「うん」

 

 食欲は無かったけど選択肢は無かった。

 僕たちはバーンシュタイン家で出されるものよりも豪華な食べ物を、無理やり口の中に放り込む。

 明日の決闘への不安と、カメラを向けられていることでまるで砂を噛んでいるような感覚だった。

 

 教校の男子たちは勝利を確信しているのか、報道陣の取材にも堂々と答え、食事も堪能している様子だった。

 そんな義装翼を外した航空魔導師たちを見て、ゴーテングラム先輩が一瞬何かを閃いた表情をした後、突如声を張り上げた。

 

「おい、お前ら!お前らが勝ったらセリカ・アーレンハイムをお前らの自由にしていいぞ!!」

「「「うおおおおお!」」」「「「ヒュー!ヒュー!」」」「「「やったぜ!」」」

 

 大広間を揺るがす雄たけびが上がった。

 

 教校の男子たちが一斉に僕をギラついた目で凝視する。

 顔や胸、鼠径部に視線で穴を開けられる錯覚を覚える。

 たくさんのカメラを向けられる。何かを喋っているレポーターが僕の口元にマイクを突きつけてくる。

 

 4年前に公園で集団レイプされそうになった記憶がフラッシュバックする。

 全身に怖気が走る。手足がガクガクと震える。

 

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い!

 

 彼らはミッテルラントの英雄だ。

 僕が嬲られるのは嫌だと言ったところで、きっとこの国のすべての人が無視するだろう。

 

 ふと、手を握られた。

 マックスだ。

 

 マックスの手も少し震えていたけれど、彼の体温が僕に流れ込んできて、僕に少しだけ安心を与えてくれる。

 

 ふと、狂喜に沸いている教校の生徒の中にいるアルと目が合った。

 明らかに害意を持った視線で僕たちを射抜いていた。

 察しの悪い僕でももう理解できる。

 アル、いやアルベルト・メルゲンは、自分の人生を滅茶苦茶にした僕の事を憎悪しているんだ。

 

 きっと躊躇なく僕たち学院のチームに敗北を与えようとしてくるだろう。

 僕はマックスの手をすがるように握り直した。

 彼も強く握り返してくれた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 ブルクハルト・ゴーテングラムは、ときおり記者の質問に答えつつ、ワインの入った高級なグラスを傾けながら、勝利の美酒に酔いしれていた。

 慢心などではない。未来に確定した栄光を今少し前借りして楽しんでいるだけだ。

 

 明日こそ偽りの栄冠を頂いていたバーンシュタイン家を地の底に墜とす日、そして、本来昔日から与えられるべきだった、ゴーテングラム家の栄光が開始される記念日だった。

 

 それにしても、我ながらさっきの宣言は自分の懐を痛めずに航空魔導師の忠誠を得られる、良い思いつきだった。

 ブルクハルトは粗野で微塵も教養を感じられない教校の生徒を、内心蔑視していた。

 所詮は飢えた獣だ。獣は獣同士盛り合うのがお似合いだ。

 

 ブルクハルトはさらに嗜虐的な笑みを浮かべる。

 

 そして、バーンシュタインの小僧が浮かべる表情がどんな極上の娯楽になるか。

 自分の想い人が弄ばされて虐げられるのを指を咥えて見ていることしかできない、もはや英雄の末裔ですらない哀れな1人の寝取られ男。

 

 それを見続けられるなら、バーンシュタインの小僧を新たに自分が率いる学院に残してやってもいい。

 土下座したら赦してやろう。そうしよう。

 ブルクハルトは持っているグラスに旨そうに口をつけながら、自分の持つ寛大さを自賛するのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 何の味も感じられなかった夕食会を終え、案内された浴室でシャワーを済ませて寝巻に着替えると、僕たちは2つ並んだベッドに腰かけて互いを見つめ合っていた。

 

 言葉は無い。

 これからの不安で胸がひしゃげそうだった。今も震えが止まらない。

 

 やがてマックスが口を開く。

 

「もう寝るぞ。睡眠を取らないと明日戦えない」

「待って」

 

 僕は寝ようとするマックスを呼び止める。

 そして僕の声に振り返ったマックスの目をしっかりと見て、その言葉を紡いだ。

 

「奪って」

「何?」

「マックスが奪って。あんな奴らに嬲られるなら、せめて初めてはマックスがいい。マックスに奪われたい」

「……セリカ」

 

 僕はベッドから降りると床に両膝をつけてひざまずく。

 床に手のひらをつけると、そのまま頭を下げてベッドに座っているマックスの足の甲にキスをした。

 

「お願いします、マクシミリアン様。この哀れな畜生にお情けをください。これからたくさんの男に慰み者にされる卑しい女に、どうか憐れみを示してください」

 

 唇にキスしないのは、僕がマックスにふさわしくないから。

 これから数多くの男に穢される下劣な畜生女は、栄光あるバーンシュタインに連なるマクシミリアン様にふさわしくないから。

 

「セリカ!」

 

 しかしマックスは僕の意図に反して、僕の腕を掴んで強引に引き上げると、僕の唇にキスをした。

 そのままベッドに連れ込まれて組み敷かれる。

 着ている寝巻がはぎ取られるように脱がされていく。

 

 僕は天井を見上げながら、自分の体がマックスに蹂躙されるのを感じていた。

 

 

 

 

 

 そう大きくない部屋の窓から、陽の光が差すのを感じる。

 僕は裸のままシーツの下で横になっていた。

 

 マックスはもう起きているのか、着替えている最中だ。

 

「起きたか。朝食の時間だ。早く着替えて行くぞ」

 

 マックスは僕に背を向けたまま、ぶっきらぼうな様子でそう言った。

 

「うん。……昨晩はありがとう、マックス。惨めな私の体で少しでも楽しんでくれたなら……嬉しい」

「そういうのはもういい!ほら、早く支度をしろ!」

 

 

 

 

 

 別荘から遠く離れた場所に無い、森の中にある開けた場所。

 そこに魔法杖を持った旧学院の生徒会のメンバーと、義装翼を取り付け完全武装した旧教校の生徒たち、それと撮影器具を構えた報道陣が集合していた。

 報道機関のものだろうか、4機ものヘリコプターが森の上空を飛行して回っていた。

 

「決闘の形式は、3対3の模擬戦闘を3回行う。相手を殺害してはならないから航空魔導師は威力を劣化させた魔導弾、魔術師は効力を極限まで抑えた魔術のみを許可する」

「このままでは航空魔導師側が有利すぎるので、ハンデを与えよう。1回でも我々に勝利したら、生徒会の勝利としよう」

 

 ゴーテングラム先輩は報道陣が持っている集音マイクが拾えるよう大声でルールを説明した後、自信に満ちた表情で堂々と宣言した。

 1回でも勝てばいい。その事実に微かな希望が見えた気がした。

 

「……よお、セリカ」

 

 アル、いや、今や敵になったアルベルト・メルゲンが話しかけてくる。

 僕は返事もせずに、今も体の繋がりを感じるマックスの影に隠れた。

 正直、アルベルト・メルゲンの顔も見たくはなかった。

 

 それでもつい怖いもの見たさにマックスの後ろからアルベルト・メルゲンの顔を見ると、予想通りに憎悪の視線をこちらに向けていた。

 

 僕とアルベルト・メルゲンは、今や互いに仇敵だった。

 

 

 

 

 

 僕が抱いた一縷の望みは、しかし1戦目、2戦目を経るごとに打ち砕かれていく。

 

 1戦目は書記が率いる生徒会のメンバーが雷撃魔術を発動するところを、空中にいる教校の生徒たちに感知されて、包囲されながら逆に雷撃弾を連続して撃ちこまれてリタイアした。

 

 2戦目は、隠密魔術で各々森を駆け逃げる副会長を含めた魔術師たちを、航空魔導師が空を飛びながら火焔弾を撃ち込みまくり、たまらず森から逃げ出して来た生徒会のメンバーを1人ずつ雷撃弾で動けなくした。

 

 次は僕たちの番だ。僕とマックス、フェルザー生徒会長は輪を組んで密談し合う。

 後ろを見ると、ゴーテングラム先輩が加虐に酔いしれたかのような表情で僕たちを見ていた。

 たくさんのカメラが距離を置いて、僕たちを撮影している。

 

「いったい、どうしますの?このままでは負けてしまいますわ」

「やっぱり、もう駄目なのかな」

 

 体が再び恐怖で震えはじめる。

 

 ふと、マックスが前かがみになっている僕の肩に優しく手を回す。

 昨夜の温もりを思い出した。

 マックスは言葉を発した。

 

「俺にいい考えがあります」

 

 マックスは自身の立てた策を僕と生徒会長に説明してくれた。

 

「そんな!それじゃマックスが危険な目に遭っちゃう!やっぱりそれなら私があいつらに」

「セリカ」

 

 マックスが自身の言葉で僕を遮る。

 そして、僕の目をしっかりと見つめながら言った。

 

「俺はこれからもセリカと一緒にいたいんだ。頼む、協力してくれ。生徒会長もどうかよろしくお願いします」

「……了解しましたわ。今や貴方の策にすべてを賭けるしかありませんものね」

 

 僕らは円陣を解くと、魔法杖を手に森の中に入っていく。

 

 森が一段と深くなり日光が僅かしか届かなくなったところで、僕とマックスは、フェルザー会長と走る道を(たが)えた。

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