獣人少女転生譚 ~あるいは美しい獣に撃ち堕とされた男たちの話~   作:お肉大好き

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決着

 ゴーテングラム財閥のバロスラウ工場地下にある研究施設。

 

 そこで、眼鏡をかけた中肉中背の特徴が無い男、ヨーナス・メンゲルスはその顔に笑みの皺を浮かべながら、満足げな表情で深くうなづいた。

 目の前には施設に備え付けられた高さ15メートルを超える巨大な水槽があり、その中には彼が作り上げた最高傑作が培養液の中に浮かんでいる。

 底部分は鈍色に輝いており、そこから多数の極太のチューブが直方体の形をした機械まで伸びていた。

 ミッテルラント社会の役に立たないゴミどもを使って、よくここまでの成果物を作れたものだと、心の中で自分を褒め称える。

 

「これでこの国はさらに強くなる。ミッテルラントに、アルバ人に栄光あれ!」

 

 男の叫び声は巨大な部屋の壁に反響しながら消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

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「ほらほらほら!どうした!英雄の子孫にして天才魔術師さんよぉ!逃げてるだけじゃ俺たちに勝てねぇぜ!」

「さすがは杖要らず(役立たず)のセリカちゃん!あんよが上手ですねぇ!」

 

 模擬戦闘開始を告げるサイレンが森の中に鳴り響くとともに、空から降り注ぐ火焔が森を焼いた。

 

 僕とマックスは、後ろで木々が燃える熱を感じながら、森の中を必死で走っている。

 マックスが隠密魔術を自身と僕の2人にかけたせいで、せっかくの隠匿効果も半減していた。

 上空にいる教校の生徒たちからは、おぼろげながらだいたいの位置を特定されてしまっているだろう。

 僕は手にしていた魔法杖を捨てた。僕が持っていても逃げる邪魔にしかならないからだ。

 

 

「バーンシュタインのお坊ちゃま!さっさとリタイアしてセリカちゃんをこっちに渡せ!優しく可愛がってやるからさぁ!」

「獣人の別嬪(べっぴん)さんを1人占めなんてずるいですよぉ!綺麗な物はみんなで楽しまないと!」

「……」

 

 アントンという体格の良い男子と、長方形のグラスが嵌め込まれた眼鏡をかけたランドルフという長身の少年、それと……アルベルト・メルゲンが僕たち3人の対戦相手だった。

 

 3人は空中で配置を入れ替えながらも、僕とマックスを追いつめるように火焔弾を撒き散らしていった。

 木の根っこにつまずきそうになりながら、森の中を必死に走る。

 

 やがて走り続けた目の前に大きな土の壁が出現した。

 崖のふもとに来てしまったようだ。

 

 そこでマックスと僕は立ち止まる。

 僕は目の前の空中に向かって回復魔術を()()()()()暴走させた。

 

「反応が強まったぞ!3つだ!あいつら魔術を放つつもりだ!ランドルフ!」

「分かっています!火焔弾打ち方やめ!雷撃弾装填!!」

 

 チームリーダーなのだろう、ランドルフの号令が木々の上に響き渡る。

 

「追い詰めたぞ!ちょこまかと逃げやがって!」

「これで万事休すですねぇ!」

 

 3人は空中移動を止め、滞空しているのが木の葉の隙間からうかがえた。

 弾を詰め替えた後、一斉に僕たちに向かって魔導小銃を構える。

 

「万物を照らす無礙光(むげこう)よ」

 

 アルが杖を片手でかざし詠唱しながら、僕をどしゃぶりの雨からかばうように覆いかぶさる。

 

「雷撃弾、一斉掃射!」

十重二十重(とえはたえ)囲繞(いにょう)して我を守り給え!」

 

 瞬間、2つの轟音が響き、雷の網が僕たちを周囲から追い詰めるように爆ぜながら迫る。

 同時に、何重もの微かに青く見える膜が僕たちを囲んだ。

 

「くぅっ!」

「マックス!」

 

 衝撃が僕の体にも伝わってくる。

 爆発音が響き、雷が周囲の青い膜を次々と破っていった。

 

 バチバチと音のする雷が鳴り止む。

 倒れそうになるマックスの体を下から支える。

 マックスが本来まとっていた黒いローブと上着は完全に焼け切れて燃えカスになっており、彼の背中には黒い火傷の痕が痛々しく残っていた。

 

「よく耐えたな!だが次が最後だ!……ランドルフ!号令を!」

「雷撃弾再充填!」

 

 アントンとランドルフが僕たちに向かって小銃を構える。

 

「打ち方よーい!……待ってください!罠です!」

「もう遅いよ」

 

 ランドルフが制止の声をあげたと同時に、空から威力の落とされた雷撃が3人の中心を襲いかかる。

 

 フェルザー会長の雷撃魔術だ。

 僕が3人分の回復魔術を使ったから、ここにフェルザー会長を含めた僕たち3人が揃っていると誤認したのだろう。

 僕たちに攻撃が集中している間に、会長が魔術の詠唱を完成させたようだった。

 

 アントンとランドルフには雷撃魔術が直撃したのだろう、墜落していくところを他の航空魔導師たちが2人を掴まえて滑空しながら高度を落としていく。着陸するのだろう。

 

 アルベルトは直撃を免れたものの雷撃がかすったのだろう、フラフラと蛇行しながら高度を落とし、森の開けた場所に緩いスピードで墜ちていく。

 

 その開けた場所には上半身裸のマックスとフェルザー会長が待ち構えていて、軟着陸したアルベルトに向かって魔法杖を突きつける。チェックメイドだ。

 アルベルトはそれを見て両手をあげて”降参”のポーズを取った。

 

 僕たちの完全勝利だった。

 

 

 

 

 

 

 

 僕は最初にルール確認をした広場に戻り、マックスの丸めた背中に両手をかざし、治療をはじめていた。

 

 他の生徒会のメンバーも教校の生徒たちも、それぞれグループを作りながらここに集結している。

 そのさらに外縁にはプレス関係者たちが僕たちを囲むようにおり、カメラを回したりシャッターを切ったりしていた。

  

 やがて航空魔導師の輪の中からアントンが歩み出て来て、副会長のところまで来ると右手を縦にして差し出した。

 

「あの杖要らずのセリカちゃんには一杯食わされたよ。あんたたちもなかなかやるもんだな。今まで(フーン)と馬鹿にして悪かったよ」

「いえ、私たちこそ貴方たちを紛い物(Fake)(さげす)んできました。航空魔導師の戦闘力はすさまじかったですね」

 

 副会長もその手を右手で握り返す。

 周囲のシャッター音が一層強くなった。

 

 生徒会のメンバーたちは、ほっとした表情でその光景を見ていた。

 ランドルフも肩をすくめながらも、その光景を笑って眺めている。

 他の教校の生徒たちも一瞬僕の方を見て残念そうな顔をしたものの、諦めた様子でアントンと副会長に視線を移した。

 

 その場には穏やかな空気が満たされていた……はずだった。

 

「馬鹿野郎!!なんでお前手を抜きやがった!!」

 

 今まで、勝利宣言をするために屋敷の大広間で準備していたのかもしれない。

 報道陣の外側からスーツ姿のゴーテングラム先輩が躍り出て、その勢いのままアルベルト・メルゲン……アルを殴りつける。

 アルもろとも地面に倒れると、四つん這いで進みながら倒れたアルの上に馬乗りになり、両手に握りこぶしを作ってアルの頬を殴りまくる。

 

「お前が!手を抜いたせいで!俺の計画が!台無しになったではないか!ゴーテングラムの!あるべき栄光!いったい!どうしてくれるんだ!」

「アル!」

「待て!」

 

 先輩を止めようとした僕の腕をマックスが強い力で掴んで制止する。

 そうしてる間にも殴られるたびにアルの頬が赤く膨れ上がっていく。

 

 そして、ゴーテングラム先輩はアルの顔面に真上から渾身の一撃を食らわそうと、腕を一層高く振り上げた。

 

「お前など、こうしてくれ

 

 その刹那。

 

 ドゴォォォォン!!

 

 大きな雷の轟音が辺りの大気を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

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『アアアアアアああああああああああアアアアアアあああああああああああああああああアアあアアアア痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!!!!』

『憎い憎い憎い憎い憎いにくいにくいにくいにくいにくいにくい憎い憎いニクイニクイニクイニクイニクイニクイ憎いニクイ憎いにくいにくい憎い!!!!!』

『金持ちが憎い!容姿が良い奴が憎い!能力が高い奴が憎い!高身長の奴が憎い!高学歴が憎い!頭のいい奴が憎い!世渡りの上手い奴が憎い!健常者が憎い!両親揃った家庭に生まれた奴が憎い!』

『人間種が憎い!アルバ人が憎い!転換手術に成功した奴が憎い!ゴーテングラム家が憎い!』

 

 

 

『オレ『ワタシ『ボク『アタシをこんな体にした、魔術師が憎い!!!!!』』』』

 

 

 

 

 

 

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 突如として工場の天井を突き破って空中に現れたそれは、高さ10メートルの巨体を誇っていた。

 鈍色のオリハルコンと思われる鎧を身にまとい、その両側から細長い腕を生やしている。

 背中の部分からは義装翼を拡大したかのような大きな羽が生えており、羽に付属している三角形のギザ歯からは光の粒子が舞い散っていた。

 そしてその身体の中心には大きな一つ目が付いており、ドロドロとした赤い液体を涙のように流している。

 

 天使。

 

 前生(ぜんしょう)世界での1神教に登場する高位存在が、壊れた工場の上空に滞在していた。

 

 ()()は一際大きく両羽をはためかせると、滑空しながら僕らに近づいてくる。

 そして、再び羽を後ろに大きく退けると、一気に前方に動かした。

 衝撃波が発生し、暴風が僕たちを襲った。吹き飛ばされる。

 

「バケモノだ!」

「逃げろ!」

 

 一部の生徒会のメンバーと報道関係者は、杖や機材を放り投げて逃げはじめる。

 教校の生徒たちは半数が吹き飛ばされ、残りが空へと避難していった。

 

「いたたたた……」

 

 後方に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた僕は何とか立ち上がる。

 しかし、痛みでつむっていた目を開くと、視界に僕に向かって走ってくるゴーテングラム先輩が映る。

 

「ひぃぃぃぃ!何だあれは!俺は聞いてないぞぉ!」

 

 ドンッ!

 

 すれ違いざまにゴーテングラム先輩の肩が僕の肩に当たり、僕は再び後方に吹き飛ばされる。

 

 その後、鳥が羽ばたくような大きな音が聞こえた。

 再び目を開けると、目の前に『天使』が滑空しながら迫って来ていた。

 

 怖い!駄目だ、腰が抜けて・・・…。

 

「アアアアアアアアアアアア!!!」

 

 僕の前で滞空した『天使』が嘆き声のようなものをあげると、その大身を震わせながら少し後方の空間にその身を引いた。

 

 ズカァン!!

 

 裁きの(いかづち)が僕に降り注いだ。

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