獣人少女転生譚 ~あるいは美しい獣に撃ち堕とされた男たちの話~   作:お肉大好き

19 / 27
淫蕩

「気に入らん。まったくもって気に入らん」

 

 陸戦魔術部隊『ヘクセ(魔女)』の隊長であるホルガー・クデーリアン准将は不満げな表情で呟く。

 

 航空魔導師の連中はいつもこれだ。

 壊すだけ壊して、事後処理はすべて我々に押し付けてくる。

 そのくせ魔術師を、空も飛べない地べた、(フーン)と馬鹿にするのだ。

 

「本当に気に入らんな」

 

 彼らヘクセは命令を受けて、バロスラウ近辺のゴーテングラム直属の工場で起きた、「堕天使事件」の調査に来ていた。

 堕天使の死骸の周りには、機能停止後まだ間もないと思われる人間の臓器が散乱している。

 その臓器には千切れたチューブが繋がれており、吐き気を抑えながらよく観察すると、もともとそれらは1つに繋がれていて、「生きていた」ことがわかる。

 

 工場の地下施設跡は副隊長に調べさせているが、もうすでに胴体がペシャンコになった、幼い子供を含む人間の遺体が多数確認されているという。

 付属している巨大な義装翼も考慮に入れると、目の前に転がっている巨体がどんなモノだったか嫌でも想像がついてしまう。

 

「多数の臓器を繋げて義装翼を付ける。まさに悪魔の発想だ」

 

 この事件の主犯であるヨーナス・メンゲルス博士はすでに逃亡していて、まったく足取りを掴めていない。

 ゴーテングラム家は本当に何も知らなかったらしい。

 それはそれでどうかと思うが。

 ふと自身が年をとってから生まれた娘の姿を思い出す。今回の事件に巻き込まれていたら、という思考を無理やり振り払った。

 

 クデーリアンは1度天を仰いだ後、再び部下に指示を飛ばして調査活動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 あれから僕たちは救急車に運ばれて精密検査を受けた後、再びゴーテングラム家の別荘に戻り、そこでヘクセの隊員たちから取り調べを受けた。

 

 僕は衣服をアルの血や自身の尿で汚してしまったから、支給されたブラウスと飾り気のないスカートを着ている。

 ローブと上着を失ったマックスも、渡された肌着と男性用のカッターシャツを着ていた。

 

 当日の現場の様子や、僕自身どんな行動を取ったかを詳細に聞かれる。

 お漏らししながら腰を抜かしていた、という恥ずかしい告白もさせられた。

 

 夕方になって僕、そして夜遅くになってからようやくマックスが解放されて、割り当てられた部屋に帰ってくる。

 シャワーを浴びて、寝ようとしたところ……、僕はマックスに襲われた。

 僕は、抵抗しなかった。普段から受けている恩を少しでも返したかったから。

 僕の体は再び貪られた。

 

 

 

 

 

 

 その後、僕たちはバスに乗せられて学院まで帰って来た。

 学院に帰ると、事件の真相を尋ねようとする同級生たちに囲まれて大変だったが、それも1週間もすると落ち着いていった。

 

 それよりも、クラスの女子に言われたことが問題だった。

 

「なんか、向こうから帰ってきてから大人っぽくなったね」

「うっ!そ、そんなことないよ」

「あ。……お幸せにね」

 

 僕とマックスの肉体関係の噂は、瞬く間に堕天使事件の話題を上書きしていった。

 遠くから指差しされながら何か言われるたびに、身が縮こまる思いがする。

 うう、恥ずかしい。

 

 

 

 

 

 

 ゴーテングラム財閥は、犠牲者の中に転換手術の失敗者も含まれていたのも災いしたのだろう、社会的弱者を食い物にした実験を全方位から糾弾され、釈明会見を開くまで追い詰められた。

 しかし、その釈明会見でもすべてをメンゲルス博士に責任転嫁し、自分たちの非を一向に認めない姿勢が、さらに多方面から弾劾を呼びこんだ。

 ゴーテングラム家の中でも責任のなすりつけ合いが発生しており、中でも事件が露見するきっかけとなった決闘を主導したブルクハルト先輩が、スケープゴートの第一候補に挙がっているらしい。

 

 そのブルクハルト・ゴーテングラム先輩は退学届けを出して、1人静かにベランデンブルク魔法学院を去ったという。

 見送りは1人もいなかった。横柄な態度を取るゴーテングラム先輩は、自身の派閥内でも内心嫌われていたらしい。

 旧魔導教校の生徒たちもゴーテングラム先輩を見放した。利用価値がなくなった存在を切り捨てるのは、ナラカ世界では当たり前のことだった。

 

 先輩がやっていた研究は長耳族のシェンデルくんが引き継ぐことになった。

 ただ、長耳族をリーダーにすることに、納得しない人たちが半数以上いたので、フェルザー生徒会長が名目上の代理人になることが決定した。

 これから義装翼の技術は、フェルザー財閥のものになっていくのだろう。

 こういうところは、フェルザー会長もナラカの住民なんだな、と納得させられた。

 

 ……ゴーテングラムのことよりも、今はアルのことだ。

 僕は、マックスの許可を得て、アルのお見舞いに行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 コンコン

 

「どうぞ」

 

 僕が遠慮がちにノックをすると、アルが僕だと気づいたのか優しい声音で入室の許可をくれる。

 

 アルは両腕両足をギプスと包帯でグルグル巻きにされていたものの、人の良い元気な笑顔を見せてくれた。

 僕はベッドの横に置かれた丸椅子に座って、サイドテーブルに持ってきた皿を置いてリンゴをむきはじめる。

 

「はい、あーん」

「あーん」

 

 リンゴを食べさせながら、僕はアルと別れてからの生活について話し始めた。

 ちゃんとアルバ語を喋れる状態でアルと話せるのが嬉しくて、つい話にはずみができてしまう。

 

「でね、ベルノルトおばさんの作る料理が本当においしくて。……ごめんね、私ばかり話しちゃって。アルは私と別れてからどんな風に暮らしていたの?アルはかっこいいから、彼女とか出来たんじゃない?」

「……今は言いたくないな。いずれ話すよ」

「そう。楽しみにしてる」

 

 話している間に面会時間が過ぎてしまった。

 僕は立ち上がるとドアまで歩いていき、アルの方に振り向いた。

 

「じゃあ、また学校でね。アルがいないときの授業のノートは、私がちゃんととっておくから、安心して登校してきてね」

「ああ、頼むよ」

 

 

 

 

 

 

 それから1ヵ月してアルが怪我を全快させて登校しはじめたとき、マックスとアル、それと僕はベランデンブルクの参謀本部に呼びつけられた。

 なんでもマックスとアルが堕天使討伐に多大な功績があったとして、アウグスティーン・フォン・マッケンバウアー中将という方から表彰状を受けるらしい。

 僕は、マックスの付き添いというわけだ。

 

「マクシミリアン・フォン・バーンシュタインくん。貴殿は先の事件に際し、的確な指示で多数の一般文民と魔術師の命を救った。よってその功績を讃え、表彰する」

 

「アルベルト・メルゲン。貴殿は先の事件に際し、未確認の敵性物体に対して勇猛果敢に突撃していった。よってその敢闘精神を讃え、表彰する」

 

 フラッシュが焚かれシャッター音の鳴り響く中、2人は表彰された。

 それにしても、マッケンバウアー中将がアルに賞状を渡すとき、何やら苦虫を潰したかのような表情をしていたのは、気のせいだろうか。

 

 それからは報道陣がマックスとアルへの取材をする時間だった。

 プレス関係者は2人の判断力や勇気を大きく讃え、質問をしていた。

 その後は新聞用の撮影時間だった。

 

「美しい獣のお嬢さん(フロイライン)も、さあここへ」

 

 僕もなぜか報道関係者に手を引かれ、撮影された。アルの隣で。

 

 なんでも、僕がアルを泣きながら回復魔術で治療している様子が全世界に放送されて、それが大きな反響を呼んだらしい。

 

「まるで絵画のようだったよ。名付けるなら『傷ついたエインヘリヤルを癒す獣人の乙女』ってところかな」

 

 記者の人がおどけながら話してくれた。

 

 軍部の人も、「僕みたいな女の子に泣きながら癒してもらいたい」という意図を持った、転換手術希望者が増加したと喜び、積極的に僕とアルの間柄を宣伝するつもりのようだ。

 僕とアルとの「恋物語」は、これから全世界の新聞に記載されていくのだろう。

 

 また、取材と撮影の後に参謀本部の人が話してくれるには、軍部からも僕は注目されているらしい。

 高高度から落下したアルを治療した僕の回復魔術は、現段階で他の回復魔術師たちと比べて群を抜いているとのこと。

 軍の各部署からも、青田買いしたいという意向が参謀本部に伝えられているそうだ。

 

『癒しの獣姫(じゅうひめ)

 

 僕は八方ですでにそう呼ばれていると聞かせてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 僕とアルの脚色された恋物語は世界中に広がった。

 全世界から最上級の批判をされた、堕天使事件の幕引きを図りたい政府の意向もあって、勇猛果敢な若き戦士と『癒しの獣姫』との恋物語は、不自然なまでに新聞やテレビで取り上げられた。

 

「アーレンハイム先輩はバーンシュタイン先輩とメルゲン先輩、どっちと付き合っているんですか?」

「え、それは……うーん」

「どっちともってことですか!アーレンハイム先輩は悪女なんですね!」

 

 噂好きな後輩の女子にそんなことを聞かれてしまうほどだ。 

 僕とアルは親友だし、マックスとは体だけの関係だからどちらとも付き合っていないんだけど……。

 

 あと、そのマックスのことなんだけど。

 僕とアルの「恋物語」が全国放送されてから、マックスは暇さえあれば僕の体を求めるようになった。

 僕が抵抗しないことを良いことに、学校の空き教室、バーンシュタイン家の中庭の木の影、繁華街のホテルで僕を乱暴に組み敷いていく。

 

「セリカ!セリカ!」

「っ!マックス!」

 

 今だってそうだ。

 学校統合の件が落ち着いて生徒会室に人がいないのを良いことに、マックスは僕の頭を後ろからソファに押さえつけて、僕の体を蹂躙している。

 こんなんでこれから先大丈夫なんだろうか。

 そんな僕の危惧も、悦びはじめた体から伝わる性感の前にはどうでもよくなってしまう。

 

 僕は、1匹の雌だった。




 2025年7月1日18時ごろに、大幅な改稿をしました。
 文章の不備が多々あったためです。
「ここすき」をしてくださった方々の厚意を無に帰すこと、及び不完全な状態で公開してしまったことを深くお詫び申し上げます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。