獣人少女転生譚 ~あるいは美しい獣に撃ち堕とされた男たちの話~   作:お肉大好き

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傍観

 ホームルームが終わり、教師が退室すると複数の男子たちが1人の女の子を逃げられないように取り囲む。

 初等学校に入学してから4年間続いたであろう風景の焼き増しに私、メリーベルはため息をついた。

 

 ああ、私の名前は覚えなくていいわよ。

 どうせ今回限りの登場なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 入学初めとクラス替えのとき、男子たちは間違いなく、大きな獣耳と尻尾を生やした「風変わりで可愛い女の子」に目を引かれて夢中になる。

 人間種はみな黒髪黒目の中で、彼女の髪の色が鮮やかな金とも銀とも言えない絶妙な色をしているのも、彼女が男子の興味を集める理由でしょう。

 

 そして彼女が言葉を上手く扱えないことがわかると、競うようにそのことをあげつらって彼女をからかうのだ。

 

 え?そこまでわかっているなら、なぜ助けないのかって?

 冷たい奴だと思うだろうけど、まあひとまず想像してみて欲しいの。

 自分が「いいな」と思った男の子が、1人の女の子に夢中になって、まるで精神年齢が退行したかのように幼稚な加害行為を繰り返すのを。

 あなたが男だったとしても、女の子が面白い気がしないのはわかってくれると思うわ。

 

 あ、私もあの子の名前を呼びたくないくらい好きじゃないから、これからも「あの子」「彼女」呼ばわりするわね。

 

 だから、クラスの女子は事前に約束をしなくても示し合わせてあの子を無視する。

 これも4年間続いたであろう繰り返しね。

 

「アルバ語も話せないお前には学校じゃなくて家畜小屋がお似合いだ!!」

「お前なんかアルバの恥だ!!ミッテルラントから出ていけえぇぇぇ!!」

「お前んち毎月仏道教会に通ってるらしいな!仏教は人間に向かって説かれた教えだぜ。半畜生のお前には何の意味もなさないんじゃないの(笑)」

「死ねええぇ!!劣等種族はこのナラカ世界からいなくなれええぇぇぇぇ!!」

 

 あら、始まったみたいね。

 

 男子たちが必死に国語で学んだ語彙の限りを振り絞って、あの子を傷つけるために(振り向かせるために)言葉の雨を浴びせていく。

 

 彼女は下を向いて必死に耐えているわ。

 多分無視して男子たちが飽きるのを待つ作戦なんでしょうけど、でも残念ね。頭の上の大きなお耳が前にへたれて、尻尾も内側に丸まって毛が逆立っているわ。

 これじゃ”効いてる”って男子たちにバレバレじゃない。男子たちが自分たちに反応してもらえたと喜んでさらに調子づくに決まってるわ。

 

 獣人に生まれると「無反応」ができなくて大変なのね。まあ、助けないけど。

 

 それにそんなことしなくてもそろそろ……。

 

「やめろ!お前たち!!」

 

 ……白馬に乗った王子様の登場ね。

 

 登場と同時に5人のうち1人を殴り飛ばすと、残りの男子たちとの殴り合いに突入していく。

 

 それを見てあの子は王子様を見捨てていつも逃げる。これも女子たちのひんしゅくを買っている原因ね。

 

 まああの「無力で可哀そうな女の子(Damsel In Distress)」に何かができるとは思えないけど。でも嫉妬している女の子の糾弾要素を拾い集めてしまう生き物なのよ。女子って。

 

 そんなことを考えながら時間が経ち教室の机が乱雑に飛び散るとともに、白馬に乗った王子様(アルベルト)の形勢がだんだん悪くなっていくわ。

 ついには後ろから両腕を掴まれて残り4人の男子たちのサンドバックになって、先ほどよりもさらに痛々しいシーンが繰り広げられる。

 男子たちがかっこいい彼の顔を何度も殴る。腹にボディブローを入れる。うわぁ、とび膝蹴りまで。

 

「この野郎!」

「よくも殴ってくれたな!!」

「裏切者が!」

「セリカの前でカッコつけやがって!!」

 

 最後のは完全な嫉妬じゃない。隠す気あるの?

 

 でもこれにはさすがの女子たちもドン引きしてるし、中には怯えてしまっている子もいるわ。本当に男子って幼稚で野蛮ね。

 

「けっ、今日はこれくらいで勘弁してやるよ」

 

 やがて無抵抗の彼をいたぶるのにも飽きたのか、男子たちが勝ち誇った、だけどどこか不満がましい表情で立ち去っていく。

 

 後には体中傷だらけになったアルベルトがぐったりと倒れていた。

 けれどすぐによろよろとだけど立ち上がる。

 

「あの……大丈夫?保健室一緒に行こうか?」

 

 顔立ちはまあ整っている方だけど、そばかすと三つ編みおさげのせいで地味な印象を与えるアンナが勇気を振り絞って声をかける。

 頑張るのよアンナ!あの子なんかに負けないで!!

 

「ありがとう。でも大丈夫だから」

 

 アンナの伸ばした手を優しく、でも明確に拒絶の意をもって振りほどいたアルベルトはふらふらと足を引きずりながら自分とあの子のカバンを手に教室を出ていく。

 

 これから彼女との慰め合いってわけ?まるで小説みたいなラブロマンスね。せいぜいお幸せにね。

 

 

 

 

 

 ……ただ、私は知ってるの。

 白馬に乗った王子様(アルベルト)が、実は彼女が男子たちに追いつめられるのを待ってから助けに入っているのを。

 

 以前教室の外で出番を待っているアルベルトに後ろから問いかけたことがあるわ。

 

「早く助けに行かなくていいの?」って。

 

 出番を今かと待っている彼に私の問いは青天の霹靂(ヤシマのよじじゅくごよ。博識でしょ私)だったみたいで、彼は振り向いて驚いた表情を浮かべた後、まずいモノを見られたといった表情を浮かべながらズボンのポケットを漁ると、チョコレートを無言で差し出してきたわ。

 彼女と一緒に食べるつもりだったのかしら?ありがたく頂戴したわ。

 

 ……私は知ってるの。

 アルベルトが学校に入って1年目のときに男子たちにあの子の悪い噂を流して、男子たちを彼女にけしかけていたことを。

 

 ……まったく、王子様が裏でシンデレラを追いつめていたなんて夢が醒めてしまうわ。

 これから何を夢見ていけばいいのかしら。

 

 おっと、シンデレラを虐める継母ポジションであるこのクラスの女子が言えるセリフでもないわね。

 

 さて、そろそろあなたも私の独白に飽きてきたでしょ。

 お別れしましょ。バイバイ。

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