獣人少女転生譚 ~あるいは美しい獣に撃ち堕とされた男たちの話~ 作:お肉大好き
罪禍
それは一般教養の東エイジア史の授業中、マックスが急な生徒会の用事で席を外しているときに起こった。
ブチィ!
乳房が一気に垂れ下がる感覚に、一瞬あっけに取られて何が起きたか分からなかった。
ホックがはじけて、ブラジャーが壊れたのだ。
突然胸を押さえて前かがみに俯いた僕に、次第に周囲から視線が集まってくる。
どうしようどうしようどうしよう!
パニックになる僕の後ろから、明るい男子の声が響く。
「先生!アーレンハイムさんの調子が悪そうなので、保健室に連れて行ってもいいですか?」
「ああ、メルゲンくん。頼むよ」
僕は後ろの席から階段を下りてきたアルに付き添われて、教室を出る。
胸を押さえながら歩く僕に突き刺さる、ジロジロとした好奇と好色の視線がつらかった。
「助かったよ、アル。ありがとう」
「いいてっことよ!……大丈夫か?セリカ」
僕は廊下に出て礼を言う。
アルは僕のことを心配してくれていた。
「ブラが壊れちゃって……。どうしよう、保健室に行っても多分私に合うサイズのブラは無いと思うんだよね」
「……それなら、今から買いに行くか?付き合うよ」
日常的にマックスからいじられている僕の乳首は、刺激に対してとても敏感になっている。
おそらく今手を離したら、服の生地にこすれて勃起した乳首の形が外から丸わかりになるだろう。
そんな状態で、1人で胸を押さえながら繁華街の女性用下着店に行くのは、想像するととても心細く思える。
僕はアルの厚意に甘えることにした。
「ありがとう、アル。ついてきてくれる?何から何まで甘えてごめんね」
「気にすんなよ。さ、行こうぜ」
僕は周囲から情欲の目で見られながら、アルに付き添われて下着ショップに向かった。
「サイズが合っていませんね」
「あ、やっぱりそうですか」
繁華街にある下着店の中の試着室。
僕はそこで店員さんに自分に合うブラジャーを見繕ってもらっていた。
「お客様はただ今の適正サイズはGカップになります。……いくつかデザインの違うものを、下の方も含めて持ってまいりましょうか?」
「いえ、上だけで結構です。下は私専用のものを作らないといけないので。4つほどお願いできますか?」
「失礼しました。それではただいまお持ちいたします」
マックスに揉まれているからか、胸がサイズが大きくなっていた。
僕は店員さんが持ってきたブラをレジで買うと、店の入り口で待っているアルの元まで歩く。
アルは少し居心地が悪そうだった。わかるよ、僕も前世で女性用下着のコーナーを通るときは恐縮してたもの。
「待たせてごめんね、アル。じゃあ、帰ろうか」
「なあ、せっかく来たんだからちょっと遊ばないか?」
「うーん。わかった、いいよ」
それから僕たちはゲームセンターに行って遊びまくった。
クレーンゲームでは僕が何度も取りこぼしたぬいぐるみを、アルが1発で取って僕にプレゼントしてくれたり。
ヤシマ産のガンアクションゲームで、僕がすぐにやられてアルの足を引っ張ったり。
1人用のカラオケブースに2人で入って、デュエット曲を一緒に歌ったりした。
「アル。楽しかったね。前は公園でただずっと一緒にいただけだったから、とても新鮮な気持ちだよ」
「そうだな。考えてみればセリカとこんな風に遊ぶのははじめてだったな」
ゲーセンからの帰り道、繁華街の噴水前広場でアイスを食べながら語り合う。
……ポツ……ポツ。……ザァー。
ふと、あたりの空気が湿り気を帯びたかと思うと、急に空が暗くなり、突然の雨が降って来た。
天気雨だろう。雨の勢いは激しさを増していった。
「このままじゃまずい。いったん雨宿りしよう」
「うん」
アルが僕の手を引いてやってきた建物は、ビジネスホテルだった。
アルはずぶ濡れになった僕を連れて、ホテルのフロントで慣れた様子で一時休息の手続きをした。
「シャワー使い終わったよ。アル、待たせてごめんね」
「おう、俺も入るわ」
僕はホテルのフロントで購入した寝巻に着替えている。
着ていた服は、僕がシャワーを浴びている間に、アルが地下階にあるコインランドリーに放り込んでくれていた。
それにしても、ベッドに腰かけた僕は、自分の体を見下ろして思う。
よく育ってしまったものだ。
上の下着は着けていない。寝巻の生地が薄いから、乳首の形が浮き出てしまっている。
「さっぱりした。俺も上がったよ」
「そう。あとは洗濯物が乾くのを待つだけだね」
アルが僕の隣に座って来て、僕に肩を回す。
4年前に公園で抱きしめ合ったときに戻ったみたいで、なんだか嬉しかった。
次のアルの言葉を耳にするまでは。
「なあ……。1晩だけでいいから、セリカのこと自由にさせてくれないか?」
「え……?」
僕は混乱した。
僕は今マックスと肉体関係を結んでいる。
だけど僕とマックスは単なるセックスパートナーであって、決して恋人同士なわけではない。僕ではマックスに釣り合わない。
それに、マックスは恩人だけど、アルも自分の楽しかった時間を犠牲にしてまで僕を守ってくれた恩人だ。
この前の堕天使事件では、自分の命を危険に晒してまで、僕の命を救ってくれた。
さらに言えば、僕はアルの人生を、危険な転換手術を受けさせるまでに滅茶苦茶にしている。
そして僕には、自分の身体以外にアルに差し出せるものが無かった。
アルはじっと僕の目を見つめてくる。
僕は、いくばく逡巡したものの、覚悟を決めた。
「いいよ、アル。私の体で楽しんで。……私もアルが気持ちよくなれるように協力するよ」
「セリカ!」
そのままベッドに押し倒される。
「セリカ!セリカ!」
アルは僕の名前を何度も呼びながら、乱暴に寝巻を脱がしていく。
僕の首元を噛みながら、僕の体中をまさぐる
「アル……」
アルから性感を与えられながら、そんなに僕の体が欲しかったのかと少し驚く。
だけど、今までの襲われそうになった経験から、男性にとって自分の体は価値があるんだろうと思い直した。
その夜、僕はアルベルト・メルゲンという男の言いなりになる、従順な愛玩用ペットになった。
朝になり、僕はアルに護衛されるように付き添われながら、バーンシュタイン邸に帰った。
途中にある初等刑務所で何人かの少年が、アルに向かって「兄貴!」と叫んでいたけど、あれはなんだったんだろう。
僕とアルがバーンシュタイン邸の門前まで到着すると、アルと別れて門をくぐる。
大きな玄関で、まるで僕の帰りを待っていたかのように、マックスが腕を組みながら立っていた。
帰って来た僕を見て、マックスは口を開ける。
「今までどこをほっつき歩いていたんだ?」
「え、それは……」
言い淀む僕にマックスはずかずかと近寄ってくると、僕の首元に手を伸ばす。
ブラウスのボタンが外されていく。
やがて、僕の新しい下着とともに、昨晩アルにつけられた噛み跡が露わになった。
「お前、何やってたんだよ!」
パァンッ!
え?今僕マックスに頬をはたかれた?
遅れて痛みが僕の頬を襲ってきた。
マックスは鋭い視線で僕を睨みつける。
「お前がそんな奴だとは思わなかった!……もう2度と俺に話しかけないでくれ。お前の顔なんて見たくもない」
「……待って、マックス」
しかし、マックスは僕に背を向けると、そのまま自分の部屋に向かて歩いてしまう。
僕はその様子を立ち尽くしながら見続けることしかできなかった。
はたかれた頬よりも、心が痛かった。