獣人少女転生譚 ~あるいは美しい獣に撃ち堕とされた男たちの話~ 作:お肉大好き
ベランデンブルク魔法学院の生徒だけでなく、一般市民にも開放された学園祭の当日、学院前のバーバル広場を含めた各所は、訪れた人たちで大盛況だった。
私は、午前中は怪我人に対応するために、学院の教室に待機していた。
「はい、これで大丈夫だよ。次からは転ばないように気を付けてね」
「これ、いったい何で傷つけたんですか。転んで擦りむいた?ああ、そうですか」
たまにやってくる傷病人に対応する。
ただ、中にはわざと怪我をして私に治療されに来たと思われる男性もいた。
彼らは一様に私の顔と股、大きな胸と勃起した乳首を穴が開くほど無遠慮に見つめる。
まあ、私は男から情欲の視線で見られることに慣れてしまっているから、別にいいんだけど。
私の担当時間が終了しそうなころ、アルベルトが私を訪ねて来た。
「よお、セリカ!一緒に出店を回らないか?」
「別にいいけど。ただ、途中でレイプしないでね」
アルベルトに腕を掴まれながら、人でごった返した学園の廊下を歩く。
すれ違う男性たちが、十人が十人私を見ては振り返る。
「これ食わねえ?」
「うん、いいね。一緒に食べよう」
ローストビーフのサンドイッチとリンゴジュースを買って、中庭に向かう。
アルベルトと一緒に中庭の片隅に座り、少し遅い昼食を取った。
「幼いころ公園で一緒にチョコレート食べたよね。懐かしいなぁ」
「あのころは本当に良かったな。ずっとセリカと一緒にいられたからな」
私たちは空を眺めながら幼かったころの記憶を掘り起こしていった。
その後、集会場に行って演劇を観覧した。
「マティアス!貴方のためには、私はいない方がいい!」
「そんなことは無い!俺はこれからもザーラと一緒にいたいんだ!」
獣耳の被り物と尻尾を取り付けた、獣人の女の子を演じる女生徒が嘆く。
貴族の青年を演じる男子生徒がその悲嘆を否定した。
「考え直せ、マティアス。お前は貴族の地位を捨てるつもりか」
「獣人の貴女ではマティアス様にふさわしくないわ!もう2度と彼に近づかないで!」
2人は愛を誓い合うが、周囲の人間はそれを赦さない。
やがて周囲の反対に心が折れてしまった獣人の女の子は、他の男に身体を許してしまう。
「お前がそんな奴だとは思わなかった!……もう2度と俺に話しかけないでくれ。お前の顔なんて見たくもない」
「マティアス……。さようなら!」
最後に2人が逢ったのは、獣人のザーラが大病を患い、病の床に伏している時だった。
貴族のマティアスは自分の愚かさと、彼女への愛が足らなかったことを嘆く。
「ザーラ!俺が愚かだった!俺がもっとちゃんと君を掴まえていれば……!」
その場面を最後に、ステージとなった壇上の天井から幕が下りる。
その後、再び幕が上がり、役者の学生たちが手を繋ぎ合ってお辞儀をした。
「ううっ。ひっく」
泣いてなんかいないんだから。
ふと、横から視線を感じて隣を見ると、アルベルトが私を冷たい眼差しで眺めていた。
「あの劇の通りだ!お前にマクシミリアンと幸せになる権利なんてないんだ!」
「もうやめて、アルベルト」
私はあの後、アルべルトに腕を掴まれて、魔導寮のアルベルトの部屋に連れていかれると、犯された。
彼は私をベッドに押さえつけて責め立てながら、私がいかに下賤な存在であるかを私の魂に刻み付けていく。
「今のお前は娼婦だ!太陽の下を歩く権利さえ無いんだ!男たちがお前をどんな目で見ているか、考えたことはあるか!?」
「やだぁ。もういやぁ。聞きたくない」
やがて彼が達すると、ベッドに私を置き去りにした。
「これから舞踏会に出席するらしいな。せいぜい媚びを売りながら踊って、男たちの目を楽しませるといいぜ。恥知らずの大淫婦、セリカ・アーレンハイム」
「うぅ……」
私はしばらく涙をこらえた後、太ももにアルベルトの体液が流れるのを感じながら、衣服を整えてヴィンケルくんとの待ち合わせ場所に向かった。
魔導寮は空だった。航空魔導師たちは舞踏会の上空を警戒する命令が出されているらしい。
「やはりお似合いです。今日の舞踏会の主役は貴女ですよ」
「そうかな。ありがとう、ヴィンケルくん。褒めてくれて嬉しいよ」
「涙ぐんでいるさまも艶めかしくていい。これで周囲に自慢できます」
更衣室でドレスに着替えた私は、舞踏会場となったバーバル広場で待っていたアルフォンス・ヴィンケルくんのもとに歩み寄る。
会場の周りにはたくさんの報道関係者がいて、現場責任者と思われる人物が私を見ると、カメラマンに私を映すように指示を飛ばしていた。
会場の縁には、シャンパンやワインが置かれた、白いテーブルクロスが敷かれたテーブルが並ぶ。
そのさらに周りには、警察官や小銃を持った軍人たちが警備していた。
アルベルト達航空魔導師は上空を巡回している。
陽が落ちて夜のとばりが落ちるとともに、舞踏会は始まった。
「見ろよあの獣人の女。あんな綺麗な女は見たことが無い」
「彼女だろ。魔導寮の男たちに身体を売っている大淫婦とやらは」
「いろいろと見えそうだ。娼婦にはお似合いの格好だな」
「なんでこの場にアーレンハイムさんがいるの?ここは男漁りの場所じゃないわよ」
人々が私を見て口々に何かを囁き合う。
私は内心身が縮まる思いをしながら、ヴィンケルくんのエスコートに身を任せた。
やがて曲が始まった。
ダンスなんて初めてだ。腰を振るしか能のない私には勝手がわからない。
だけど、ヴィンケルくんは上手く私を誘導して、ダンスを見られるものに完成させてくれた。
やがて曲が終わると、舞踏会を取り囲む一般人から拍手が舞い起こった。
「誘導ありがとう。ヴィンケルくんのおかげで、私、うまく踊れたよ」
「お役に立てたようで何より……。すみません。私はこれから用があるので、他の男性の方を頼ってください」
そう言うと、ヴィンケルくんは群衆に紛れてどこかに行ってしまう。
入れ替わるように、多数の男性たちがダンスに誘おうと私を囲んだ。
「次はどうか私と踊ってくれませんか。美しい獣のお嬢さん」
「いや、彼女は俺と踊るんだ」
「えっと……」
私が困っていると、1人の男がバケツを持って走ってきて、私の身体に水を浴びせかける。
その男はすぐに走り去って行った。
「いやあぁ!」
ドレスが溶けている!
私の身を包んでいたドレスは見る見るうちにその姿を消し、私の素肌が露わになっていく。
「あの獣人女、どんどん裸になっていくぜ!最高の見世物だぜ!」
「娼婦の次は、ストリッパーにでもなるつもりかしら?」
たくさんの視線が私を射抜く。
テレビのカメラも私を映している。
「うぅっ。ひくっ」
身をよじってせめて胸だけでも両手で隠そうとするが、獣人用のパンツが丸見えだった。
そんな私のもとにカツカツと近寄る足音が聞こえた。
私を取り囲んだ男性たちが左右に割れる。
群衆の割れ目から現れたのは、マクシミリアンだった。
マクシミリアンは私の腕を掴み、強引に立たせると、持っていたテーブルクロスを巻き付けて、即席のドレスを作ってくれた。
「セリカ・アーレンハイム。俺と踊れ。お前に拒否権なんてない」
「……はい、マクシミリアン・フォン・バーンシュタイン様」
次の曲が始まる。
マクシミリアンの私への対応は、ヴィンケルくんとは全く違っていた。
力任せに私を振り回すのだ。
「もう、お前の意志は尊重しない」
「お前のことは何も信用しない」
「俺に任せろ。お前は何も考えるな」
私はダンスを通して、そう言われているように感じた。
やがてそのダンスも終わる。
再び万雷の拍手が起こった。
「これにて舞踏会は一旦休憩を挟みまして、これよりミッテルラント連邦共和国の国家元首である、フォンラート・オデナウアー首相に演説をしていただきます」
学院の生徒会長によるアナウンスが流れる。
それから、バーバル広場に設けられた壇上に、皺が深く刻まれた顔をした初老の紳士が昇った。
彼の周囲を警護隊の人たちが囲む。
初老の男性は1度お辞儀をした後、滑らかな口調で話し始めた。
「栄光あるベランデンブルク魔法学院の生徒諸君。今日という日を共に迎えられたことを私は誇りに思う。この伝統ある学院が、1000年の歳を経た記念すべきこの日を」
耳元から語りかけるような穏やかな声で、オデナウアー首相は今日という日を祝福していく。
その場にいた誰もが彼の演説に聞き入っていた。
「それでは、私のスピーチを終わりにさせていただく。皆様、ご清聴ありがとう」
パチパチパチパチ!
その場にいた誰もが、彼に拍手を送っている、その時だった。
パァン!パァン!
上空から2つの銃声が響くと同時に、オデナウアー首相の胴体から血が噴き出した。
オデナウアー首相が後ろに倒れる。
瞬間、会場が狂乱に包まれた。
どこから銃弾が発射されたのかと上空を見る。
中空に滞空する、左右の肩甲骨から2本の黒い義装翼を生やした、アルフォンス・ヴィンケルくんだった。
彼は右手にサブマシンガンを、左手にサーベルを持ち、緩やかに地上に降りてくる。
警護隊や、警備任務についていた警察官や軍人が、彼に向かって銃を構えるが、横合いから銃撃を受ける。
いつの間にか、腕に白いスカーフを巻いた警備部隊の一部が離反したのだ。
中には今まで一般人に紛れていたと思われる、武装した市民兵もいた。
白スカーフを巻いた人間の中には、獣耳を生やしたバーデンさんやケンタローさんの姿も見える。
ドドドドドッ!
ヴィンケルくんのサブマシンガンの銃撃によって、警護隊の人たちはみな倒れ伏した。
「静まれぇ!」
威厳と高貴さのあふれた声が響く。
その場にいる誰もがひれ伏したくなる声だった。
地上に降りたアルフォンス・ヴィンケルくんはテレビカメラに向き合うと、演説を開始した。
「お初にお目にかかる、このナラカ世界でもっとも優秀なアルバ人の諸君!私はラインホルト・フォン・ガイドリヒ6世!ヴァルヘルム1世の血を引く、この国の正当な統治者である!」
私はヴィンケルくん、いやラインホルト・フォン・ガイドリヒ6世が演説をしている間に、演説台の後ろに倒れたオデナウアー首相のもとに駆け寄ると、身にまとっていたテーブルクロスを脱ぎ去り、それをオデナウアー首相の胸に強く巻き付ける。
そして、パンツを履いているのを除けば裸であるのも構わずに、全身でマナを集め、オデナウアー首相の銃創に当てた両手にそれらをすべて集中させた。
私の手と身体の周りには、緑の燐光が生まれては消えていく。
「私は帝政復古を宣言する!今日この時をもって、ミッテルラント連邦共和国という簒奪政権は終わりを告げ、大アルバ帝国が復活するのだ!」
ふと、上空に巨大な羽ばたきの音が鳴り響いたかと思うと、30メートルを越す巨体が2本足でガイドリヒ6世の隣に着地する。
それは、1匹のドラゴンだった。
機械の域を出ない頭部のデザイン。両手には鋭いかぎ爪。
そして、何よりあの『堕天使』よりも巨大な義装翼……。
禍々しい雰囲気を感じる。
きっと、たくさんの人々を犠牲にして出来上がった竜なんだろう。
ガイドリヒ6世は、竜が着地したのを確認して、言葉を続ける。
「人造竜バハムート!これが量産された暁には、大アルバ帝国はエウロパのみならず、世界を手にできる!さあ、今その力の一端を見せよう!」
ガイドリヒ6世が言葉を言い切ると同時に、バハムートは脚の前後に付いた機械のかぎ爪をバタンと石畳に落とし、その巨体を固定する。
羽に付いているギザ歯のマナ吸収器官が、燐光を撒き散らしていく。
そして、ベドヴィッシュ大仏道教会に向けて、その口から極太の雷撃を吐き出した。
ゴオォォォ!
ベドヴィッシュ大仏道教会と、その延長線上の建造物の何十件もが一瞬で灰燼に帰した。
その衝撃で、私と首相、それとガイドリヒ6世を遮っていた演説台が吹き飛ぶ。
バハムートはしばらく硬直すると、その力を誇示するかのように一際大きい機械の雄たけびを上げた。
「これこそが新しい力!世界を統べる上位存在の力!」
破壊に酔いしれたかのように、ガイドリヒ6世は叫び声をあげた。
「雷撃弾装填!……打ち方よーい!一斉掃射!」
上空の航空魔導師たちが、バハムートに向かって雷撃弾を放つ。
しかし雷撃はバハムートの周囲に帯電するものの、竜本体にはダメージを与えられなかった。
「馬鹿め!弱点などもう克服しているわ!……さてと。邪魔者はそろそろ消さないとな。第一親衛隊、やれ!」
「は!」
ガイドリヒ6世がそう命令すると、白いスカーフを腕に巻いた兵士が、バーデンさんとケンタローさんに銃口を向けて弾を撃った。
バーデンさんとケンタローさんは倒れる。
「何で……。モダガスカルに俺たちの国を創ってくれると言うのは……」
「そんなもの単なる空手形だ。劣等種族が国を持てるわけがないだろうが」
ガイドリヒ6世は冷たく言い放つと、私に向き直り、ゆっくりと歩み寄って来る。
「そこをおどきなさい、セリカ・アーレンハイム。偽りの連邦共和国に幕引きをしないといけない。……愛を交わした貴女を殺したくはない」
私はオデナウアー首相をかばう様に私の身体の後ろに隠し、一層強く引き寄せる。
それを見て、ガイドリヒ6世は悲しそうな顔をした。
そして、左手に持ったサーベルを高く掲げた。
「残念です。……さようなら、愛しの獣のフロイライン」
「っ!」
サーベルが振り下ろされた。