獣人少女転生譚 ~あるいは美しい獣に撃ち堕とされた男たちの話~   作:お肉大好き

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嫉妬

 今日は本当に良い1日だった。セリカのことをまた1つ知った。

 

 まず、リゾットが大好物だということ。

 セリカは昼食に並んでいるリゾットを見た瞬間、千切れるんじゃないかという勢いで尻尾を左右に激しく振った。

 食事中も尻尾の動きを止めないまま、他の料理に目もくれずひたすらリゾットを平らげ皿を空にする。

 そしてその空になってしまった皿が悲しいのか、獣耳を前に垂れ尻尾を重力に任せて垂らし、眉を八の字に下げるのだ。

 

 無くなったのが悲しくなるほどリゾットが気に入ったのだろうか。

 僕は落ち込んでるセリカに気づかれないように手招きでベルノルトおばさんを呼び、追加のリゾットをセリカのもとに持ってくるように頼んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 今日は本当に良い1日だった。セリカのことをまた1つ知った。

 

 やっぱりというか、彼女が性に関して本当に無防備だということ。

 服が濡れるのも構わずに川遊びに興じる。

 服が体に張り付き、ふくよかな丸みを帯びた胸とお尻、長い手足のラインが明らかになっていた。

 さらに服の布地が水で透けて、獣人用のパンツに加えてピンク色の頂点の色と形も透けて見えてしまっていた。

 

 セリカが気づいた様子はまったくなかったけれども。

 

 

 

 

 

 

 今日は本当に良い1日だった。セリカのことをまた1つ知った。

 

 驚くべきことに、彼女も魔法を使えるんだ!

 もっとも、彼女が使えるのは回復魔術だけで、攻撃魔術の素養は皆無だったけれども。

 本人はそのことに落ち込んでいたけれども、実は回復魔術を使えるだけでも本当はすごいことなんだ。

 回復魔術を使える人間は、他の魔術の使い手に比べて少ない。僕も使えないし。

 

 さらに言えば、セリカの回復魔術の腕は群を抜いていると思う。

 以前父親に連れられ軍の回復魔術の訓練を見学させてもらったことがあるけど、軍に入りたての新米回復魔術師たちは擦り傷を治すのにも、セリカが僕の裂傷を治した倍の時間はかかっていた。

 

 落ち込むセリカを見ているのが面白くて黙っていたけれど。

 

 

 

 

 

 

 今日は本当に良い1日……だった。セリカのあの言葉を聴くまでは。

 

「あ~あ、こんなに、おいしいん、だったら、アルにも、食べさせて、あげた、かったなぁ」

 

 ……。

 ハンサムで成績も良くて、運動神経も抜群でセリカを虐めからいつも守っている。

 

 面白くない。

 本人の高いスペックも気に入らないが、僕の知らないセリカを独占しているという事実が僕の劣等感を刺激する。

 セリカを助けるおとぎ話のヒーロー。そのポジションに僕が就けないことがとても悔しかった。

 

 このままでは、その男子のことを熱をこめて必死に話すセリカにまで悪感情をぶつけてしまいそうだ。

 僕は自分の気持ちを整理するまで、彼女と関わらないことを決めた。

 

 

 

 

 

 

「……おは、よう。マックス」

「……おはよう、セリカ」

 

 食堂で今日はじめて邂逅し、あいさつをして朝食の席に着く。

 

「「……」」

 

 それ以降は会話もなく朝食を食べる。

 そのあいだ、セリカの獣耳と尻尾は力なくしおれていた。

 

 

 

 食事後に自室に戻ろうと廊下を歩いていると、セリカは少し遅れて遠慮がちに僕の後をついてくる。

 自室の前まで歩くと、セリカの方を向き直して僕は言った。

 

「僕はこれから自分の部屋でやることがあるんだ。セリカはこの別荘の中で1人で遊んでてくれるかな。僕は一緒に行けないから、この建物の外に出ちゃだめだよ」

 

 ぼくは要件を一方的に伝えると、悲しそうに俯く彼女に構うことなく、自室に入りドアを閉めた。

 さて、昨晩から始めた作業を進めないと。

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 できた。

 

 机は工具や失敗作でだいぶ散乱していたが、虚脱感と一仕事終えた達成感が僕の体を満たす。

 僕がその余韻にしばらく浸っていると、コンコン、と遠慮がちにノックの音がした。

 僕は急いで成果物をポケットに入れる。

 

「入っていいよ」

「うん。……これ、ベルノルトさんが」

 

 セリカだ。彼女が両手に持ったトレーにはサンドイッチと湯気が昇るココアが乗っていた。

 

 そういえばお昼も晩も、作業に集中していて食事を忘れていたことを思い出した。

 急いで物をどかして机の上にスペースを作り、「ありがとう、セリカ」と礼を言いながらトレーを受け取り、それを机に乗せた。

 そうして僕がココアに口をつけていると、セリカが意を決した様子で頭を下げた。

 

「お願い……!嫌いに、ならないで。悪い、ところは、直す。私に、できることは、何でも、するから」

 

 何でもする。

 

 少し掠れた声で発せられたその言葉と、獣の耳をヘたれさせ涙を流す姿に嗜虐心がそそられた。

 

「本当に、何でもするんだね」

「っ!うん!!」

 

 顔をあげ悲壮感に満ちた表情でうなづくセリカの頭を左手で撫でる。そして彼女の獣耳に口を添え囁いた。

 

「嫌いにならない条件は2つあるよ。まず、アルベルトくんの話を僕の前ではもうしないこと。できるかな?」

「うん、わかった」

 

 セリカは素直に頷いてくれた。

 

「そして、2つ目は……」

 

 僕はさっき右ポケットに入れた、クリップで留めるタイプのイヤーカフというアクセサリーを取り出し、セリカの左の獣耳に対して外側から垂直に装着した。

 

「このイヤーカフをずっと身に着けて。僕と別れた後も外しちゃだめだよ」

「え。そんな、ことで、いいのなら」

「これで仲直りだ。さあ、一緒にまた星を見よう」

 

 

 

 それから2人で月の表面を望遠鏡で見たり、星に関する本を参考に窓から星座を探したりしてすごした後、彼女を部屋に帰す。

 

 1人になると、ほぼ1日ぶりに味わったセリカの雰囲気を思い出しながら、さきほど渡したプレゼントについて思い返した。

 

 あのミスリルでできたイヤーカフには探知魔術がかかっていて、半径1キロメートルくらいなら僕にはそれがどこにあるのか分かるようになっている。

 セリカは見るからに危なっかしい。

 森ではぐれないように、僕が導いてあげないといけない。

 

 目的はもう1つある。

 

 まだ見ぬアルベルトという少年への、セリカを独占していたことに対する意趣返しだ。

 別の表現をするなら挑戦状なのかもしれない。

 セリカに贈答したアクセサリーはマクシミリアンが仕掛けた一石二鳥のプレゼントだった。

 

 ただ、自分の作ったものに不満が無いわけではない。セリカの銀髪とミスリルの金属の色が若干被ってしまう。

 それだけが少し心残りだが、渡すならセリカが「なんでもする」と言った、あのタイミング以外考えられなかった。

 彼女の銀髪を引き立てるために、原色に近い赤か青で着色すればよかった、というのは贅沢すぎるだろう。

 

 それにしても明日からがまた楽しみだ。

 自分の中の問題にも区切りをつけたことだし、次はセリカとどんな遊びをしようか

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「どうして!あなたは!いつもそうやって!勝手な事ばかり!!……セリカに、何かあったら……!」

「心配性だなぁナジカは。リュディガーは信頼できる奴だから大丈夫だって」

 

 いつもは拙いながらも優しいアルバ語で迎えてくれるナジカおばさんが、セリカの行方を尋ねに訪れた俺にいつもより乱暴な所作でジュースを出すと、再びゲラルドおじさんに詰め寄る。

 

 空虚だった。彼女のいない学校生活は、俺の世界から色を剥がした。

 

 ゲラルドおじさんは、ナジカおばさんを宥めるのに手いっぱいで、セリカがどこにいるかという質問には答えてくれなかった。

 

 結局、俺がアーレンハイム家を来訪して判明したのは、セリカという幸福のない明日を迎えることは確かだろう、ということだけだった。

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