フリートアート・オンライン 黒の剣士と転生者達 作:短号司令官
照和16年 ブーゲンビル島上空で戦死した連合艦隊司令長官山本五十六は後世日本に転生し紺碧会を結成、陸軍青風会大高弥三郎と共にクーデターを決行し全亜細亜解放のために戦争へと踏み切る。
米国との戦いが日本側有利なまま膠着し日本は英国と再び日英同盟を復活させナチス第三帝国へ宣戦布告し照和20年 8月15日をもって戦局は新たな方面へと向かう。
印度亜大陸を中心に繰り広げられていた戦いであったが欧州で行われているニルバーナ作戦に呼応し、旭日艦隊と行動を共にする陸軍特殊部隊の霞部隊が、ヒトラー別荘を襲撃する。
[理性の術策]と呼ばれたそれは成功を収めた。
しかし、第三帝国首脳部はそれをひた隠しにした。
成功を知った大高、高野両雄であったが戦いが未だ継続している事に懸念を持っていた。
時に、照和23年の末であった。
照和23年末
日本国 帝都 高野邸
雪の積もる帝都は静寂に包まれ、平和の様相を呈していた。
高野「今日はよく冷えるな…」
火鉢を囲んで一人暖をとっていた高野はポツリと呟く。
年齢のせいもあってか寒さにはどうも堪えるようなのか、少し厚着をしている。開戦から足掛け6年余り、流石に歳も取った。
高野「今日は早いとこ寝るとするか…」
立ち上がって布団の準備をしようとした時、外で何かが倒れるような音が聞こえた。
一瞬身構えた高野は文机の中に隠していた十四年式拳銃を素早く取り出し、懐に忍ばせる。
高野「誰だ!」
勢いよく襖を開けて大声で呼びかけるが特に不審な人影はなく、雪の積もった庭だけが広がっていた。
雪が落ちただけかと思って閉めようとしたがあるものが彼の目に止まった。
高野「っ!」
視線の先には黒髪で白いワンピースを着た10才くらいの女の子が倒れていた。庭先に降りた高野は急いでその子を抱き抱え部屋の中へと連れ込む。
かかっていた雪を払って布団に寝かせる。
気を失っているのか、起きる様子はない。それでも小さな寝息を立てて眠っているのを見て高野は安堵した。
高野「それにしても……何故こんな幼子が……一体何処から…?」
考えに耽る余り、高野もいつしかそのまま眠りについてしまった。
高野「う…ん…?」
気がつけば朝になっていた。
雀の囀りで目を覚ますと昨夜現れた少女が俯く高野の顔を覗き込んでいた。
高野「おや…目が覚めたかい」
「すいません、起こすつもりは…」
高野「大丈夫だ。色々聞きたい事があるだろうが、その前に朝ご飯にしよう」
朝食を済ませた高野は軍令部へ行く為の身支度を済ませ、迎えの日向大佐が来るまで書斎で少女と話していた。
高野「さてと…聞きたい事だらけだが、まず君の名前は?」
「私は…ユイです。もう少し詳しくお話しするとメンタルヘルスカウンセリングプログラム試作1号、人工知能です」
ハキハキと喋ってくれたのはありがたいが、後半の部分は何を言っているのか高野にはさっぱりだった。
高野「ん……?ユイ君だったか…そのメンタルなんちゃらとは一体…?」
ユイ「へ?心の悩みやストレス、人間関係の問題などを抱えている人が、専門のカウンセラーと対話を通じて、自己理解を深め、問題を解決していくための支援をする為の物ですけど…?」
高野「うん…そうか、それで人工知能とは…?」
ユイにとってもこれは意外だった。普通の人であればメンタルカウンセリングの事を話せば分かるだろうが、目の前の人物はそもそも人工知能すら知らないような口ぶりなのだ。
ユイ「知らないんですか…?」
高野「うん、聞いた事ないな」
ユイ「困りました…どうやって説明したらいいか、私にも分かりません」
高野「そうか、それは済まないね。それじゃあ次に君は何故、私の庭先で倒れていたんだい?」
ユイ「はい、パパやママがアンダーワールドからログアウトするのを補助していた時、急に目の前が真っ暗になって……気がついたらこのお部屋にいました」
高野「アンダーワールド……?ログアウト……?何を言ってるんだい…?」
ユイ「え…?」
ここまで来るとユイにも事の異常性が分かってきた。目の前人物はVRMMOも知らないのだ。
ユイ「あの…ところでここは?」
高野「うん?あぁ私の家だ。それで私は…」
そのとき戸を叩く音共に日向大佐の声が聞こえた。
高野「迎えが来たか。どれ、おいで」
高野はユイを連れて玄関へと向かった。
玄関を開けると日向大佐が既に待ち構えていた。
日向「お早う御座います。総長」
高野「毎朝すまんな、大佐」
日向「いえ、総長の身の安全もありますからこれくらいは…?」
ふと視界に見慣れない少女がいる事に日向も気づく。
日向「総長、そちらの子は…?」
高野「あぁ道中話す」
高野とユイを乗せた乗用車はそのまま走り出した。
道中、昨夜の一連の話を日向は高野から聞いていた。
日向「なるほど…つまりその子はいきなり庭先に現れたと?」
高野「うん、そうなるんだが…」
そう言いながら高野は窓からキョロキョロと辺りを見渡すユイを見ながら言う。
ユイ「……おかしいです」
高野「?」
ユイ「こんな風じゃありません。なんだか
「「ッ‼︎」」
彼女のその一言を聞き、高野の頭の中にはある仮説が浮かび上がった。
高野「…お嬢ちゃん、君は今を西暦何年だと思っている……?」
慎重な面持ちで語りかけた高野の返答にユイは口を開く。
ユイ「2025年……じゃないんですか?」
その一言を受けた高野には衝撃が走った。
人生で二度目の、自身が転生した事を理解したとの同じレベルの衝撃を…
高野「なんと……なんと言う事だ……」
日向「そ…総長……」
ユイ「どうかしましたか…?」
高野「……お嬢ちゃん、君が今いるのは2025年から80年近くも遡った1947年だ…」
ユイ「え⁉︎」
日向「それも…全く異なる歴史を歩んだ世界です……」
二人は海軍省に着くまでの間、分かる範囲で答えようとしたがユイが元々いた時間軸で歴史について勉強していたこともあって説明はスムーズにいった。
ユイ「……では私はタイムスリップどころか、別の…並行世界にやってきたんですか…?」
高野「そうなるな…」
ユイ「……」
日向「しかし、総長。そうなればその子の父親や母親、そしてその仲間達も…」
高野「何が言いたいんだ?」
日向「はッ。私の憶測に過ぎませんが、もしかしたら彼らもこの世界へと流れ着いているのではないかと……」
高野「言われてみると……」
ユイ「パパとママが来るかもしれないですか⁉︎」
興奮気味に聞いてくるユイを宥めて話す。
高野「まぁ落ち着きなさい、まだ分からんが可能性の話だ」
日向「ですが、十二分にあります」
話を聞いたユイはパパやママ、そして仲間達に会えるかもしれないという期待を胸に青く澄んだ帝都の空を見上げた。