ロクでなし魔術講師とぼっち系妹   作:ヰトセ

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第一編
一章


 突然だが、諸君らは『転生』を信じるだろうか。私は信じる。というか信じざるを得ない。何故ならこの『転生』、身を持って体験してしまったのだ。そう、この私、アーニャ=リーベルトは転生者だった……!

 

 ──なーんてかっこよく言っているが、要するに前世の記憶を持っているだけの一般人が、ファンタジー感溢れる魔術の世界でなんやかんやする話である。

 

 

 

 

 

 

 

「……遅い!」

 

 ……うるさっ。 

 眠気によって落ちかけていた意識が完全に覚醒する。

 私の安眠の邪魔をしたのは、どう見てもあの銀髪の少女、システィーナ=フィーベルだ。フィーベルさんの隣に居る金髪の少女、ルミア=ティンジェルも首を傾げていた。

 フィーベルさんは端麗な顔を歪ませ、苛立ちを隠そうともせずに何やら騒いでいる。時間がどうのこうの言っているから、おそらくは臨時の非常勤講師が遅刻している件についてだろう。マジメなフィーベルさんのことだ。この学院に勤める身でありながら講師が遅刻をするなんて、ゼッタイにあり得ないことなんだろう。

 まあ、遅刻は普通にダメなんだが。

 フィーベルさんだけではない。この学院にいる者は、教師も生徒も関係なく皆んな魔術に対する情熱が高い。ついでに言うとプライドも高い。

 そんな中で『わー皆さんいつもご苦労様ですー(棒)』なんて思っている自分は、もしかしなくても浮いているのかもしれない。実際仲良い人なんて居ないし。むしろ距離取られている気さえするし。

 別にぼっちが嫌なわけでは無い。本来学校とは学ぶ場所であって、友人と話すところでは無いし、そういうのは前世から慣れっこだ。

 それに、一人の方が色々と気が楽だしね。

 閑話休題。

 前任のルイセン氏に代わって今日から勤める非常勤講師。最高位の魔術師である第七階梯に至ったアルフォネア教授は、優秀だのなんだの言っていたはずなんだがなぁ。こうして遅刻しているのをみるに、クラスでの評判は最悪になりそうだ。

 ま、どうでもいっか。

 眠気は残念ながら吹き飛んでしまったので、暇だし絵でも描いていよう。

そう思いペンを手に取ったその時。

 

「あー、悪りぃ悪りぃ、遅れたわー」

 

 そのときの私は知る由もなかった。地獄がここから始まるだなんて……。

 

 

 

 身体中に傷や汚れを付けた、言っては失礼だが少々小汚い男、非常勤講師のグレン=レーダス。そいつが黒板に『自習』と書いたときは流石の私も目を疑った。だが、素直にハイ分かりましたと言える程ウチの生徒は従順では無い。主にフィーベルさん。教科書片手に突進してたもんな。『教師泣かせ』の異名は伊達ではなかったってことか。

 しかし、先生のロクでなしっぷりも凄かった。まず、授業が分からない。それはレベルが高すぎてとかではない。単純に声が聞き取れないだけだ。もっとハッキリと話せよ!!

 次に、生徒の質問には答えない。自分で調べた方が早いってことには同意するが、それでも曲がりなりにも教師なのだから答えてやれよ。

 とにかく、私が言いたいことは、グレン=レーダスの記念すべき最初の授業は、最悪な幕引きだったってことだ。

 

 

 

 何日経ったところで先生の授業態度が変わることはなかった。

 フィーベルさんは毎回文句を言っていたが、ついに怒りが頂点に達したらしい。

 

「貴方にそれが受けられますか?」

 

 と、先生に決闘を申し込み、先生は承諾した。

 それがここまでの流れ。生徒達は決闘を見るために中庭へ移動し始めた。

 そんな中、皆んなについて行かず教室に残る者が一人、いや二人。

 

「アーニャちゃん、よければ一緒に行かない?」

「ごめんなさい。次の授業の予習をしたいので」

「試合の結果、気にならないの?」

「特には」

「そっか……決着ついたら教えるね」

「……どうも」

 

 結果なんて、火を見るよりも明らかだと思うけれど。

 

 

 

 予想通り、試合はフィーベルさんの圧勝だったようだ。

 しかし、先生の授業態度が改善されることはなかった。むしろ悪化した。

 と、思っていたのだが……。

 

「魔術って……そんなに偉大で崇高なもんかね?」

 

 ……へえ。まさかこの学園でこんなことを疑問に思う人がいるなんて。

 

「ふん。何を言うかと思えば。偉大で崇高なものに決まっているでしょう?もっとも、貴方のような人には理解できないでしょうけど」

 

 ばっさりと切り捨てるフィーベルさん。

 だが、その日の先生はなぜか食い下がった。

 

「何が偉大でどこが崇高なんだ?」

「……え?」

 

 先生の反応にフィーベルさんも戸惑っている。

 

「魔術ってのは何が偉大でどこが崇高なんだ?それを聞いている」

「そ、それは……」

 

 フィーベルさんにとっては答えにくい問題だろうな、と思う。いや、フィーベルさんだけじゃないか。親も先生も、周りの大人はみんな魔術は偉大で崇高だと私たちに教え込んでいた。だからそういうものだと認識していたのだ。

 

「ほら。知ってるなら教えてくれ」

 

 話の主導権はレーダス先生に移っていた。しかしフィーベルさんも完全に折れたわけではなく、必死に言葉を探している。

 

「魔術はこの世界の真理を追究する学問よ」

「……ほう?」

 

 あ、この流れヤバくない?直感的にそう思ったときにはもう、レーダス先生の独壇場だった。

 魔術は役に立たない。たしかにそうかもしれない。でもだからといってただの娯楽と決め付けるのは早計な気もするけど……。

 

「悪かった、嘘だよ。魔術は立派に人の役に立っているさ」

「……え?」

 

 急な手のひら返しが逆に怖い。こういうときはきっと次に良くないことを言うと相場で決まってるのだ。

 

「あぁ、魔術は凄ぇ役に立つさ……人殺しにな」

 

 ……それはまあ、たしかに。

 心のどこかでそう思う自分がいた。だって実際、魔術のせいで何万人もの人々が亡くなっている。もちろん魔術にあるのは人殺しの道具という面だけではないから、先生が言ってるのは極論ではあるけれども。帝国宮廷魔導士団の予算の件に関しては姉も一員なので……まあ、すみませんって感じ。

 思考に耽っていると、いきなりぱぁん、と乾いた音がして肩が少し跳ねる。慌てて音がした方に目を向けると、先生を叩いたフィーベルさんの姿が。

 

「大嫌い、貴方なんか」

 

 そう言い捨てると、フィーベルさんは泣きながら出て行ってしまった。魔術の名門の出で、人一倍魔術に情熱を注いでいたフィーベルさんにとっては先生の主張は相当堪えたらしい。気まずい空気が流れ、残されたレーダス先生も一つ舌打ちをして教室を後にした。

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