ロクでなし魔術講師とぼっち系妹   作:ヰトセ

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四章

「先生どうする!?このままじゃジリ貧だ!」

「わーってるよ!」

 

 全速力で廊下を走る。

 逃げるしか選択肢はない。けど、それもそろそろ限界だ。私とフィーベルさんはさっきから足止めをするために魔術を使いまくってるし、先生なんて一体一体倒すしかないから余計に疲弊している。このままだと体力が尽きるのが先か、魔力が尽きるのが先か。

 先生の【愚者の世界】は効かず、【ディスペル・フォース】も意味がない。基本三属以外の軍用魔術をぶっ放せば少しは効果がありそうだが、この狭い廊下で使っても周りの二人ごと巻き込んで建物を崩落させる自信しかない。そしてこの先は──行き止まり。

 あれ、詰んでね。これ。

 

「俺がここで食い止める。アーニャは俺のサポート、白猫は先に奥まで行って……即興で呪文を改変しろ」

「了解」

「え!?」

「改変する魔術はお前の得意な【ゲイル・ブロウ】だ。威力を落として、広範囲に、そして持続時間を長くなるように改変しろ。節構成はなるべく三節以内だ。完成したら俺に合図しろ。後は俺がなんとかしてやる」

「で、でも……わ、私にそんな高度なことができるかどうか……」

「大丈夫だお前は生意気だが、確かに優秀だ。生意気だがな」

「生意気を強調しないでください!」

「俺がここ最近で教えたことを理解しているなら、それくらいできるはずだ。てか、できれ。できないなら単位落としてやる」

「り、理不尽だ……」

 

 職権濫用では?

 でも、おかげでフィーベルさんはいつもの調子に戻っている。狙ってやったのかは知らないけど。

 

「……わかりました。やってみます」

「よし、じゃあ、先に行け!」

「はい!」

 

 駆け出すフィーベルさんを見送り、私たちはボーン・ゴーレムたちに向き直る。

 私が範囲広めの魔術で一瞬足を止めさせ、その隙にレーダス先生がゴーレムを粉砕する。先生の死角から襲うゴーレムは、粉砕したゴーレムから奪った剣で私が対処する。

 即興にしてはなかなか息が合っているんじゃないだろうか。と、思っていると先生が話しかけてきた。

 

「悪いな。白猫だけ先に行かせて、お前は危険なここに残らせちまって」

「今更なに言ってるんですか。それに、フィーベルさんだって大事な役割があるでしょ」

「……そうだな。なあ、気になってたんだが、さっきの軍用魔術もリーベルトから教わったものなのか?」

「過保護の姉から教わりました。何かあったときに戦える術は身に付けておいた方がいいからって」

 

 バレたら絶対ヤバいし私はいらないって言ったんだけど、いつの時代も姉には逆らえないものだから。まあ、姉様なかなかの権力持ってるらしいからなんとかなるでしょ。

 

「ああ……ベランジェールさんか。あの人なら……うん、そうだろうな……」

「あれ、知ってるんですか」

 

 憐れみの目を向ける先生。これは過去に何かご迷惑をお掛けしたと見た。

「まあ昔、ちょっと……な」

「なんかすみません……」

 

 一瞬気まずい空気が流れる。

 

「先生、できた!」

 

 フィーベルさんが叫んだ瞬間、さっきの空気など関係なしと私たちは踵を返し、フィーベルさんの方に向かって駆け出した。

 当然、ボーン・ゴーレムの群れがその後を追って来る。

 

「何節詠唱だ!?」

「三節です!」

「よし!俺の合図に合わせて唱え始めろ!奴らめがけてぶちかませ!」

 

 私たちは全力で駆け、その後をゴーレムが追う。

 

「今だ、やれ!」

 

 フィーベルさんの魔術が完成する。嵐のように広範囲を埋め尽くす嵐の壁。

 しかし完全には足止めできない。即興だから威力が足りなかったのかな。いや、それにしても完成度高いけども。

 それを見た先生は立ち上がる。

 小さな結晶を弾き、左手で掴む。その拳に右掌をぱん、と合わせた。

 

「俺が今からやる魔術は何かの片手間に唱えるのは無理なんでね……しばらくそのまま耐えてろ」

 

 そして、先生は呪文を唱え始める。なんと七節もある大呪文が完成する。

 黒魔改【イクスティンクション・レイ】。昔姉様に聞いたことがある。二百年前の大戦でアルフォネア教授が邪神の眷属を殺すために編み出した、個人の魔術の中では最高峰の威力を誇る魔術。

 白い光に呑み込まれた廊下からは、ゴーレムどころか天井や壁まで全て消滅していた。

 私とフィーベルさんが呆気に取られてその光景を見つめていると、後ろからドサッと音がした。振り返るとレーダス先生が血を吐いて倒れている。

 

「先生!?」

「マナ欠乏症……?こんな魔術を使ったんだから、無理もないか」

 

 フィーベルさんは白魔【ライフ・アップ】を使うがあまり効果がない。フィーベルさんは白魔術は黒魔術や錬金術ほど得意ではなかったはずだ。かくいう私もそれほどではない。こういうのはティンジェルさんが強いんだよなあ。

 私も【ライフ・アップ】を使ったところで焼け石に水なので、代わりにポケットに入れていた魔晶石を渡す。

 

「なっ……お前、これ……」

「使ってください。私はまだ魔力に余裕がありますから」

「……助かる」

 

 先生が魔晶石を握りしめたのを見て立ち上がる。

 

「アーニャ、どうしたの?」

「少し周りを見てくる。フィーベルさんは先生をお願い」

「わ、わかったわ。気を付けて」

 

 軽く頷き歩き出す。

 

 

 

 二人から大分離れた場所まで来たところで、私は声を張り上げた。

 

「あのさあ、殺気出しすぎなんだよね。狙ってんのバレバレだっつの」

「……ほう。隠していたつもりだったが、まさか気付かれるとは」

 

 かつん、と靴音が響き、ダークコートを羽織った男が姿を表す。こいつがあの変態が言っていたレイク、か?なんか剣浮いてんだけど。ファンタジーここに極まれり、だな。知ってたけど。

 強くなった殺気に少し身体が震えそうになる。隠すように鼻で笑った。

 

「アレに気付かないのは戦闘に慣れてない素人だけでしょ」

 

 レーダス先生はマナ欠乏症が酷かったから仕方ないとして。

 

「見ない顔だな。先程の教室には居なかったはずだ。貴様、何者だ?」

 

 トイレに行っていただけのただの生徒だが。

 

「テロリストに話す義理はないね」

「それもそうだな。まあ、貴様が何者であれ関係ないか」

 

 そう、ここは戦場。互いの素性など関係ない。殺すか殺されるか、私たちの間にあるのはそれだけだ。

 五本の剣の切っ先がこちらを向く。【フィジカル・ブースト】をかけ直し、私もボーン・ゴーレムから奪った剣を構える。

 剣が飛来するのと同時に、私も男目掛けて飛び出した。

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