迫り来る剣に対応しながら分析する。おそらく五本の剣のうち、三本は自動で私を追跡し、残りの二本は男が手動で操作しているのだろう。
正直に白状すると、私は剣技があまり得意ではない。魔術ならば多少は役に立てるし、狙撃銃であればまだマシだったが、近距離攻撃、特に剣は不得手だ。今はまだ【フィジカル・ブースト】で何とかなっているが、効果が切れれば詰む。
「……ふ、先程までの威勢はどうした?防戦一方では私に勝つことは出来んぞ」
「っ!黙れ……!」
息が上がってきた。普段から運動をしてこなかったのが今になって悔やまれる。もっと体力付けておけばよかった。
「ガッ……!」
一瞬の不意を突かれ背中を斬られた。全身の力が抜けその場にへたり込む。
万事休す、か。でも、私には、まだやらなくちゃいけない事が……!
男が手を上げ、私が目を閉じようとした、その瞬間。
「《力よ無に帰せ》──ッ!」
「何──ッ!」
「フィーベルさん……?どうしてここに……」
フィーベルさんの【ディスペル・フォース】により、一瞬、男の剣は力を失った。その隙を逃さず、フィーベルさんの背後から飛び出してきたレーダス先生が男の剣を手に取り──。
「俺の生徒に手ぇ出してんじゃねぇーッ!」
男の心臓を、突き刺した。
ピシャリと血飛沫が飛び、私の頬を打つ。
「レーダス先生……」
「お前も一人で突っ走ってんじゃねえよ。いくらリーベルト家で鍛えられてようが、お前だってまだ生徒なんだからな」
「……すみません」
「そんなことよりアーニャの治療が先ですよ!……だ、大丈夫?今、【ライフ・アップ】を──」
「ありがとう。でも大丈夫、フィーベルさんも今ので魔力、結構使ったでしょ。自分の傷くらいは自分で治せるから」
自分の身体に魔力を流しながらゆっくり立ち上がる。
「……ふん、見事だ」
男は微動だにしなかった。
「リーベルト、か。どうりで学生にしてあの身のこなしだった訳だ。ならば貴様が、あの『リーベルト家の黒髪』……」
「……」
私は何も言わない。死にゆく男に何を語っても無駄だから。
「そして……愚者、か。なるほどな」
男の目線を追い床を見れば、愚者のアルカナが落ちていた。
……なるほどねぇ。どうりでうちの姉のことを知ってるわけだ。
そして男は死んでいった。それと同時にレーダス先生の身体がぐらりと崩れる。
「先生!」
「……大丈夫、息はある。とりあえず、医務室に運ぼう」
二人でなんとか医務室まで先生を運び、ベットに寝かせる。
前に使った【イクスティンクション・レイ】の影響でマナ欠乏症にはなっているが、目立った外傷はないようだった。
「先生、どう……?」
「大丈夫。マナ欠乏症の無理が祟っただけで、大きな怪我はないよ。これなら少し回復すれば目を覚ますと思う」
「よかった……って、そうだわ!アーニャ、貴女こそ背中……!」
「ん?ああ……」
背中を見ると、さっきかけた【ライフ・アップ】のおかげか血は止まっていたが、傷口がぱっくりと開いたままだった。
「こっちに来て、包帯巻くから」
礼を言って椅子に座った。棚から包帯を取り出したフィーベルさんが近づいてくる。
「……ねえ、一つ聞いてもいいかしら」
包帯を巻きながらフィーベルさんが言った。
「どうぞ。可能な範囲であれば答えるよ」
「それなら、『リーベルト家の黒髪』って……」
「ああ、やっぱりフィーベルさんも知ってたんだ。お嬢様だもんね」
「聞いたことがあるだけよ。名前が同じとはいえ、まさか貴女だったなんて」
「……別に大した話じゃない。私が黒髪なのは、リーベルトの血を引いていないから」
フィーベルさんの息を呑む音が聞こえた。
「私養子なの。それを知らない外野が勝手に言ってるだけ。だから、フィーベルさんもあんまり気にしないでくれると嬉しい」
「ごめんなさい……私、失礼なことを聞いてしまって……」
「いいよ。むしろ、フィーベルさんに知ってもらえてよかった」
手当は終わっていた。もう一度ありがとう、と告げ立ち上がる。
……そういえば。
「私、クラスがテロリストに襲われてた理由知らないんだけど、フィーベルさんは知ってる?」